政略結婚を命じられた王女は、唯一の護衛と禁断の恋に落ちる

むつらら

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婚礼の幕開け

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厳かに鳴り響く儀式の鐘が、婚礼の始まりを告げていた。
 トリカブト王国の婚礼式場は、絢爛な装飾と香の香りに包まれ、重苦しくも華やかな空気が広がっている。

「カルミヤ王国の王女、ヘヨン様がお入りになられます!」

 役員の声が響き渡ると、場内の空気が一気に引き締まった。

 重厚な扉がゆっくりと開く。
 姿を現したのは、美しく着飾ったヘヨン。そしてその隣には、凛とした表情で控える黒衣の護衛――ジェヒョンの姿があった。

「なんて綺麗な方……」
「お隣の男性は誰かしら……?」
「まるで絵のような二人だわ……」

 式場に居並ぶ侍女たちが、口々に感嘆の声を漏らした。

 しかし、その後ろでその会話を耳にした王妃は、眉をしかめた。

「何を言っているの?皇太子の方がお綺麗に決まっているではありませんか。」

「王妃様!申し訳ございません。トア様ほどの方は、他にはおられません……!」

「決まっているじゃない。」

 そんな視線を受けながらも、ヘヨンはまっすぐに歩みを進め、皇太子トアの前で優雅に頭を下げた。

「殿下。はじめてお目にかかります。カルミヤ王国より参りました、ヘヨンにございます。」

 トアはにこやかにうなずいた。

「ヘヨン、待っておったぞ。」

 しかし次の瞬間、王妃の鋭い声が割って入る。

「まぁ、これから皇太子妃になろうというのに、隣に男を侍らせているではありませんか。侍女たちまで、そなたの顔が綺麗だと騒いでいる始末……!」

「王妃、口を慎むのだ。」

 国王が声を低くして制するが、王妃は怯むことなく続ける。

「殿下、私はただ、皇太子が心配で申し上げているのです」

 それまで黙って聞いていたヘヨンが、静かに口を開いた。

「王妃様。こちらの者は、私の護衛でございます。カルミヤ王国では、王族一家に護衛をつけるのが慣わしとなっております。彼は幼少より私に仕えており、何より忠誠心が強く、王妃様がご心配なさるようなことは一切ございません。」

 場内に静寂が流れる中、重々しい声が響いた。

「その件は、すでにカルミヤ王国陛下より聞いておる。」

 トリカブト王国の王が、ゆっくりと立ち上がり、ヘヨンに向かってうなずいた。

「異国で文化も違い、戸惑うこともあろう。だが、慣れるまでどうか耐えてくれたまえ。」

「はい、陛下。」

「そして、そなたの世話を任せる女官だ。名はユナ。困ったことがあれば、すべて彼女に相談すると良い。」

「ユナでございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。」

「よろしく、ユナ。」

 式典がひと段落し、ユナが一礼して声をかける。

「では、これからお過ごしいただくお屋敷へご案内いたします。」

 ヘヨンが歩き出そうとしたその時、ジェヒョンが一歩進み出た。

「ヘヨン様。私は、宮殿内の見回りをして参ります。残りの護衛が共におりますので、ご安心ください。後ほど参ります。」

「……分かったわ。」

 ヘヨンは振り返ることなく、ユナに連れられて式場を後にした。
 ジェヒョンは静かに、逆方向へと歩き出す。

 華やかな婚礼の裏に隠された、それぞれの思い。
 そのすれ違いが、やがて大きな運命の歯車を動かし始めようとしていた――。
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