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潜入
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夜明け前の闇の中、ウヨンたちはカルミヤ王国の国境近くにある密林の中を進んでいた。空はまだ黒く、冷えた空気の中に鳥の鳴き声さえない。だが、彼らの目には揺るがぬ光が宿っていた。
「この先がカルミヤ領です」と、侍従長が低く告げた。
ウヨンは頷く。周囲を見渡すと、共に行動する刺客たち、軍事大臣、町調査大臣――皆が緊張した面持ちで、しかし一歩も引かぬ姿勢でそこにいた。
「ここからは、言葉も習慣も異なる。だが、民の中に味方となる者がいると信じよう」とウヨンは言った。
◆
カルミヤ王国の郊外――寂れた村の市場。
ウヨンは粗末な旅人の服に身を包み、顔には薄く泥を塗り、声の調子まで変えていた。身分の高い者だと気づかれぬよう、町調査大臣の案内のもと、慎重に民の中を歩く。
「税はまた上がるらしいぞ……」
「このままじゃ畑も干上がるわ。雨も来ぬのに、陛下は戦の準備ばかりだ」
市場の隅々から、民の不満が洩れていた。かつて王女の婚礼に沸いていたというこの国にも、陰は確かに広がっていた。
町調査大臣が低く囁く。「西の丘に住むレアという女性。あの者はかつて王国の軍に兄を奪われ、今は農民たちをまとめております。」
ウヨンは頷いた。「案内を頼む。」
◆
その夜、ウヨンたちは村はずれの小屋にいた。暗闇の中、灯された小さなランプのもとに、レアが姿を現した。
長い黒髪を布で束ね、鋭い目つきの女性だった。彼女は無言でウヨンを見つめ、やがて静かに言った。
「見たところ、ただの旅人ではなさそうだな。」
「……私の名はウヨン。滅びたストレリチア王国の者だ。」
レアの眉がピクリと動いた。「……噂は聞いていた。トリカブト王国に滅ぼされた小国の王子が生き延びたと。」
「あなた方が戦いたい理由を、私は問わない。ただ……私たちも、もう黙っていられない。田畑は焼かれ、男たちは徴兵され、女たちは奴隷のように働かされている。私の兄も……命を落とした。」
「共に戦っていただけるか?」
ウヨンの声はまっすぐだった。
レアは、しばし黙っていた。そして、そっと首を縦に振った。
「……ならば、今ここに、同盟を結びましょう。」
彼女が手を差し出すと、ウヨンもそれを強く握り返した。
◆
翌日、レアたちが率いる農民兵千人余りが、山間の野営地に集結した。皆、粗末な装備ではあったが、その目には「怒り」と「希望」が燃えていた。
「我らがこの地に潜り込めたのは、兄上が王女の護衛となってくださっていたからかもしれない」とウヨンは呟いた。
兄がこの国で生き、守るべきもののために剣を取っているのなら、自分もまた、立たなければならない。
「この地に火を灯す。兄上と……祖国のために。」
――戦は、静かに、しかし確実に幕を開けようとしていた。
「この先がカルミヤ領です」と、侍従長が低く告げた。
ウヨンは頷く。周囲を見渡すと、共に行動する刺客たち、軍事大臣、町調査大臣――皆が緊張した面持ちで、しかし一歩も引かぬ姿勢でそこにいた。
「ここからは、言葉も習慣も異なる。だが、民の中に味方となる者がいると信じよう」とウヨンは言った。
◆
カルミヤ王国の郊外――寂れた村の市場。
ウヨンは粗末な旅人の服に身を包み、顔には薄く泥を塗り、声の調子まで変えていた。身分の高い者だと気づかれぬよう、町調査大臣の案内のもと、慎重に民の中を歩く。
「税はまた上がるらしいぞ……」
「このままじゃ畑も干上がるわ。雨も来ぬのに、陛下は戦の準備ばかりだ」
市場の隅々から、民の不満が洩れていた。かつて王女の婚礼に沸いていたというこの国にも、陰は確かに広がっていた。
町調査大臣が低く囁く。「西の丘に住むレアという女性。あの者はかつて王国の軍に兄を奪われ、今は農民たちをまとめております。」
ウヨンは頷いた。「案内を頼む。」
◆
その夜、ウヨンたちは村はずれの小屋にいた。暗闇の中、灯された小さなランプのもとに、レアが姿を現した。
長い黒髪を布で束ね、鋭い目つきの女性だった。彼女は無言でウヨンを見つめ、やがて静かに言った。
「見たところ、ただの旅人ではなさそうだな。」
「……私の名はウヨン。滅びたストレリチア王国の者だ。」
レアの眉がピクリと動いた。「……噂は聞いていた。トリカブト王国に滅ぼされた小国の王子が生き延びたと。」
「あなた方が戦いたい理由を、私は問わない。ただ……私たちも、もう黙っていられない。田畑は焼かれ、男たちは徴兵され、女たちは奴隷のように働かされている。私の兄も……命を落とした。」
「共に戦っていただけるか?」
ウヨンの声はまっすぐだった。
レアは、しばし黙っていた。そして、そっと首を縦に振った。
「……ならば、今ここに、同盟を結びましょう。」
彼女が手を差し出すと、ウヨンもそれを強く握り返した。
◆
翌日、レアたちが率いる農民兵千人余りが、山間の野営地に集結した。皆、粗末な装備ではあったが、その目には「怒り」と「希望」が燃えていた。
「我らがこの地に潜り込めたのは、兄上が王女の護衛となってくださっていたからかもしれない」とウヨンは呟いた。
兄がこの国で生き、守るべきもののために剣を取っているのなら、自分もまた、立たなければならない。
「この地に火を灯す。兄上と……祖国のために。」
――戦は、静かに、しかし確実に幕を開けようとしていた。
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