政略結婚を命じられた王女は、唯一の護衛と禁断の恋に落ちる

むつらら

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兄のために立つ日

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ストレリチア王国の山奥にある、ひっそりとした村。夕暮れが近づく頃、ウヨンはいつものように質素な屋敷の一室で、黙して座っていた。

そこへ、長年仕えてきた侍従長が、静かに襖を開けて入ってきた。

「ウヨン様……ジェヒョン様に、お会いになったとは、誠でございますか?」

その声には驚きと、何かを恐れるような震えがあった。

ウヨンは頷いた。「ああ。兄上は……生きておられた。皇太子の婚礼式の準備で宮殿に行った際、偶然お会いしたんだ。」

侍従長は目を伏せ、言い淀むように口を閉ざした。顔には複雑な陰がさした。

「どうした、侍従長?」

「……これまで、ウヨン様には黙っておこうと決めていたことがございます。」

「なんだ……?」

侍従長は深く息を吐き、意を決したように口を開いた。

「ジェヒョン様は……カルミヤ王国の王女様の護衛として、生きておられるそうです。」

「……なに?」

ウヨンは立ち上がった。血の気が引くのを感じながら、呆然と問い返す。

「兄が……何故、父を殺した者たちに仕えているんだ?」

侍従長は、長い沈黙のあと、重く語った。

「ウヨン様がジェヒョン様とお別れになったあの日……ジェヒョン様はカルミヤ王国陛下に捕らえられたそうです。そして、ウヨン様の命を助けるために……王女様の護衛として生きる道を選ばれたのだと、聞いております。」

ウヨンは肩を震わせ、両膝をついた。

「兄上……ずっと、こんなにも長い間……父上を殺した敵に仕えてきたなんて……。どれほどお辛かっただろう……。すべて、僕のせいだ……兄が捕らえられたのも、苦しみを背負ってきたのも……。」

「ウヨン様、どうか……ご自分をお責めになりませんように。」

侍従長がそっと背に手を添えた。

「悪いのは……陛下の優しさを裏切り、ジェヒョン様を利用した者たちです。」

ウヨンは、涙を拭い、ゆっくりと顔を上げた。

「……そうだな。兄上を、こんな状況から解き放たねばならない。一刻も早く、救い出すんだ。」

その眼差しには、これまでにない決意が宿っていた。

「父の仇を討つことは、何度も考えてきた……けれど、怖かった。僕一人では、動けなかった。でも今は違う。兄上のためにも、この手で終わらせる。――今こそ、仇を討つ時だ。」

ウヨンは立ち上がり、侍従長を見つめた。

「侍従長。力を貸してくれるか?」

「もちろんでございます、ウヨン様。」

侍従長の声には、かつて王国に仕えた者の誇りがにじんでいた。

「かの日、私たちは裏口から脱出し、ウヨン様を追い、命を繋いでまいりました。今こそ、その命を懸ける時。ストレリチア王国の誇りと、亡き者たちの名誉のために……復讐を果たしましょう。」

その場に控えていた刺客の一人が、足音を忍ばせて姿を現した。

「ウヨン様、我らも共に戦わせてください。」

「……聞いていたのか。」

「はい。生き延びた者たちは、皆、ウヨン様と共に歩むと誓っております。」

「……ありがとう。」

ウヨンの心に、初めて灯った光のようなものが、そっと温かく広がった。

「宮殿で聞いた話だが、トリカブト王国がカルミヤ王国の領土を侵略しようとしているらしい。婚姻は、それを防ぐための政略結婚だと。」

「では、その隙を突くのですね?」

軍事大臣が、鋭い眼差しで問いかけた。

「はっ。カルミヤ王国の兵は、おおよそ三千。我らの兵は……五百。到底、正面からは太刀打ちできませぬ。」

「……そうか。」

ウヨンは唇を噛んだ。

すると、町調査大臣が進み出た。

「カルミヤ王国では、重税と圧政に不満を抱く農民や部族が一揆を起こそうとしております。彼らを味方につけることができれば……兵数で優位に立てるかもしれません。」

ウヨンは、深く頷いた。

「ならば、我らもカルミヤ王国へ向かい、彼らの実情を探ろう。味方となり得る者たちに会い、手を組む。」

その時、世話係がそっと口を開いた。

「ウヨン様……ジェヒョン様には、お会いにならなくても、よろしいのですか?」

ウヨンは、静かに微笑んだ。

「大丈夫だ。兄とは、勝利の後、必ず再び会える。いや……そうでなくてはならない。今度こそ、兄上を自由にする。その時こそ、本当の兄弟として――手を取り合えるはずだ。」

──夕闇の中で、ウヨンの決意は、静かに燃える狼煙のように空へと立ち上っていった。
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