政略結婚を命じられた王女は、唯一の護衛と禁断の恋に落ちる

むつらら

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王の剣となる日

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 ――十五年前。ストレリチア王国。

「兄上!」

 風のように駆けてきたのは、弟のウヨンだった。まだ年端もいかぬその顔は、不安げに歪んでいた。

「どうしたんだ、ウヨン?」

 ジェヒョンは弟の肩に手を置いて、目をのぞき込む。

「今日は、絶対に外に出てはならない。お父様がおっしゃっていた。」

「なぜですか?」

「分からないけど……お父様、すごく怖い顔をしていらっしゃった。」

 その時だった。外で――剣のぶつかるような、乾いた音が響いた。

 二人は顔を見合わせ、慌てて屋敷の外に駆け出した。

 屋敷の門を抜けた瞬間、視界に飛び込んできたのは、数人の兵に囲まれた父の姿だった。

「お父様!」
「ジェヒョン、家から出るなと――言ったはずだ……!」

 父の声が怒りと焦りに震えていた。

「どういうことだ、宰相!何を企んでいる!」

 父の視線の先にいたのは――この国の宰相、カルミヤ家の長・ソンジェだった。へヨンの父であり、今やクーデターの中心に立つ男だ。

「今日からこの国の王は私だ。……お前にはここで死んでもらう。」

「ソンジェ、俺が何をしたというのだ!国のため、民のために働いてきたはずだ!」

「優しすぎる王など、王に非ず。年貢を減らしすぎた結果、我ら家臣の給金は減り、王国の財は尽きかけている。これ以上、お前には任せておけん!」

 ソンジェが手を振ると、兵士たちが一斉に剣を抜いた。

 ジェヒョンは叫んだ。

「お父様!」

 父は最後に、鋭い目でジェヒョンを見つめた。

「ジェヒョン、ウヨンを連れて逃げろ……!私のことはいい、弟を守れ……そばにいてやれなくて、すまない。逞しく生きろ……!」

「でも……!」

「早く行くんだ!」

「……お父様ああああっ!!」

 刹那――剣閃が走り、父の身体が地に崩れ落ちた。

「追え!子どもたちを逃がすな!」
 ソンジェの声が飛ぶ。

 二人は駆け出した。兵たちの声と足音が迫ってくる。

「ウヨン、このままじゃ見つかる……僕がおとりになる。お前はこの間に逃げるんだ!」

「いやです!兄上も一緒に……!」

「これしかないんだ。きっと、また会える。だから元気でいてくれ……!」

 ジェヒョンは弟の手を振りほどき、兵たちの方へと走った。

「兄上!!」

 ウヨンの叫びが、闇夜に吸い込まれていく。

 数分後――

 ジェヒョンは捕らえられ、宰相ソンジェの前に跪かされていた。

「弟はどこへ行った?」

「お願いです……弟の命だけは……!僕を殺してください。弟には手を出さないでください!」

「ふむ……そんなに弟が大事か?」

「……はい。」

「お前の弟の命と引き換えに、私に何の得がある?」

 ジェヒョンは必死に頭を回した。そして、言った。

「……武術。……そして、教育です。僕はこの8年間、皇太子として剣術、統治、礼儀、すべてを学んできました。それらすべて、あなたのもとで使います。どうか、弟の命だけは……!」

 宰相はしばらく無言だったが――やがて声をあげて笑った。

「ハハハハハ……面白い。刺客として、わしの娘――へヨンの護衛となれ。誓え。裏切れば……お前と弟の命はないと思え。」

「はい……このご恩、決して忘れません。」

――このとき僕は、誓った。
どんなことがあっても……王に忠誠を誓い、弟を守り抜くと。
たとえそれが、自分を殺す道だったとしても。
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