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春の終わりの曲

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 卒業・入学シーズンも終わり日に日に暖かくなってきた。パスタを茹でている時、終わりかけの春が惜しくて、登録していた『春の曲』のプレイリストを流した。

♪サクラチル~

「…この曲知ってる」
「有名だもんね」
ドキドキしながらそう答えた。
「こういうの好きだったんだ?意外」
彼とはお互いに好きな音楽も知り合う仲だ。私の普段聞いているのとは違う曲調に少し引っ掛かったようだ。

 実はこの曲は、春の終わりの桜が散るこの曲は。私にとってとても思入れのある、いわばエモい曲だ。

「意外でしょ?こういうのも聞くの」
「うん、けどいいねこれ」



 彼と出会う数年も前、一緒にいたカレの話。
 
 カレはとても優しくて、欲しい時に欲しい言葉をくれる人だ。お互いの家に行く事はあまりなかったけど、一緒にお酒を飲んでほろ酔いのいい気分で寝転がりながら沢山お話しをした。
 カレは某有名3ピースバンドのファンで、よく熱く語ってくれた。あの時のライブはどうだったとかこの曲はこうだとか一途に10年も追い続けているだけあるなあと思いながら、うんうんと聞いていた。その時のカレの嬉しそうな顔とキラキラした目と楽しそうな声のトーンが凄く好きだった。体温の高い、とても温かい人だった。
 深夜にドライブをした時もカレの好きな曲をよく流していた。花火の曲、海に風が吹いた曲、赤い紅葉の曲。沢山教えて貰ったし、知っている曲は一緒に歌ったり。
 
 夏に出会って年を越しそうな時、カレから電話があった。
「今日会えるかな?」
勿論即答でyesと答えた。丁度年末の仕事にひと段落ついてロッカーを片付けて帰ろうとしていたところだったから。師が走るくらいに忙しい時期だから、私も走って彼のところに向かった。
 遅めのクリスマス、形だけでもとシャンパンと小さいケーキを2つ買って2つを半分こ。少し飲みすぎたのかいつもよりもカレは体温が高かった。
 カレの好きなクリスマスソングを流しながらいつもよりも遅い時間まで戯れあっていると、カレのスマホが鳴った。出ていいよ、と言うとカレは部屋の外に出て電話し始めた。戻ってきたカレは今まで見た中で1番気まずそうな顔だった。
「実は、付き合ってる人がいる。…今のも彼女からのなんだ」
え?どういうこと?私達は?私は?彼女?
多分その時の私はとてもマヌケ面だったと思う。フリーズしたとかよく言うけど、本当に人間もするんだ。
「ごめん。もう終わりにする?俺は私の事が好きだし一緒にいたいと思ってるけど、カノジョになってくれる?」
「うん」
きっとコンピュータが復帰していなかったんだよね。12月だし、走るように答えてしまった。
 その夜カレはいつもよりも激しく私を求めた。私も色々考えたくなくてそれに応えた。
 
 深い夜を越えて浅い朝を迎えた。まだ少し暗かった。数回だけ来たカレの部屋、所々に落ちていた。昼間のデートもしたけど家に上がるのはいつも夜、暗いのをいいことに見ないフリをしていた彼女のカケラ。カーテンの隙間の弱い朝日でさえそれを光らせていた。
 2つあったシャンパングラスとケーキ用のお洒落な小皿をそのままにして、私は部屋を出た。いつもは頬をつついたカレもそのままにして。
 
 その後はだんだんと会う回数が減っていった。元々あまり連絡の頻度も多くはなかったけど、それでも明らかにメッセージも電話も減っていった。久しぶりにきたメッセージ。やっぱり終わりにしよう、最後は3月だった。
 
 私とカレには春だけなかった。

 駅から家までの間の音楽アプリから、迎えられずに終えてしまいそうな春が耳から滑り込んできた。
♪サクラチル~
その時初めて泣いた。声も出なくて少し涙を流すくらいだったけど。終わってしまう春を嘆くのではなくて散る桜も綺麗だと受け入れる、春には珍しい明るい曲だ。というように感じた。もう一度再生すると歌詞の中にカレの名前があり私を元気付けてくれているような気がして、その曲ばかり聞いていた。
 いつまでも春に縛られてはいけないと秋の曲を聞くまで。



♪~てた××が~
「いいでしょ。エモいでしょ。春の終わりの曲って」
「そうだね。もっと教えてよ、好きな曲」
「じゃあ食べ終わったらお互いのアプリ見せ合おっか」
薄いカーテンがふわっと、麦茶の入ったグラスたちを昼に光らせた。


 彼のスマホから流れる私の好きな春夏秋冬に微笑んでいる。


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