十番目の愛

夜宮 咲

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可哀想な十一番目(4)

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姿が見当たらない十一歌を施設の者が慌てて探した。


「鈴木さん!広場にはいませんでした」

「こっちにもいないわ…あの子の部屋は見た?」

「まだです」


鈴木と昨夜、施設に泊まり込んでいた関係者が手分けして探したが十一歌はどこにもいなかった。残る個人部屋に来てみたが、そこにも姿はなかった。


「他の子も見てないそうですよ。どこに行ったのか…」


鈴木は部屋に何かメモが残されていないか確認した。そして、あることに気づく。


「……ない」

「え?」

「ないのよ」

「何がですか?」


鈴木は勉強机の前に立っていた。机の上にはそれほど大きくない箱があり、箱は開いた状態で置かれていた。中には手作りの人形やおもちゃの宝石が入っている。


「おもちゃ箱ですか?」

「ここに大事なものを閉まっていたんだと思うわ」

「あぁ、他の子たちも言ってました。自分の好きなものや大事なものを入れる宝箱があるって。あの子も持っていたんですね」

「そう……そうなのよ。でも、このなかにはあれが入っていないの」

「あれって何ですか?」

「お弁当箱」

「お弁当箱………って、昨日話してたあれですか?お母さんが持たせてくれたっていう…」

「そう、それよ。大事なものなはずなのに、それがここに入っていないのよ」

「こっちにもいくつかダンボールがありますよ」


鈴木たちは部屋にあるダンボールにお弁当箱が入っていないか確認したが、どのダンボールにもお弁当箱は入っていなかった。


「どこにもないわ…」

「もしかして、あの子が持っているのかも」

「施設内を探してもあの子はどこにもいなかったわ。きっと、誰も起きていない間に施設から出たんだわ。あぁ、どうしましょう…」

「お弁当箱を持って施設から出たかもしれないんですよね?」

「そういうことになるわね」

「そのお弁当箱は、お母さんが持たせてくれたものということは…」


鈴木たちは顔を見合わせた。


「お母さんに会いに行った…?」











晴れたいい天気。
たまに吹く風が心地よかった。

朝、まだ鈴木さんたちも起きていない時間帯に十一歌は起きた。リュックにお弁当箱を入れて部屋を出た。それから誰にも気づかれないように移動した。
いつも食事をする部屋には、全員共同のお小遣いボックスが設置されていた。鈴木さんに許可を得てから使う、がルールになっている。十一歌はボックスの中から適当にお金を取り、ポケットに入れた。

施設を出てしばらく歩くとバス停がある。一度だけ、パパと一緒にバスに乗ってデパートに行ったことがあるから乗り方は知っていた。
バス停で少し待つと、始発のバスがやって来た。バスに乗り込み、一番後ろの席に座った。

一時間ぐらいだろうか。
見覚えのある景色が広がってきた。次の停留所で十一歌はバスから降りた。お金が足りるか心配だったが、大丈夫だった。余ったお金は近くにあったパン屋さんで使うことにした。
当店一番人気と書いてあったクリームパンも気になったが、隣に並んでいた塩メロンパンを買った。店の前にあったベンチに座って口に頬張る。外側の甘いクッキー生地に後からくる塩味がくせになる。あっという間に食べ終えると、再び歩き出す。

施設を出た時はまだ少し暗いと感じた外も気づけば明るくなり、さっきよりも人の動きが見られる。

辺りはもう、十一歌が知っている場所になってきた。

もうすぐだ、そう思っていた時。


「ねぇ!何してんの?」


背後から大きな声が聞こえた。
振り向くと、十一歌から少し離れたところに女の子が三人いた。
その真ん中には階段から落ちた、いじめっ子のあの子の姿があった。


「先生から転校したって聞いたけど」


施設が楽しくて学校のことなんてすっかり忘れていた。


「しょうがないよねー。あたしに怪我させたんだし、友達もいなくなっちゃったもんね」


あの子はクスクスと笑いながらそう言ってきたが、正直どうでもよかった。十一歌は無視してまた歩き出した。


「ちょっと、無視!?」


あの子は十一歌の元まで走ってきた。それから十一歌の肩を強く掴んだ。


「無視すんなよ!そうだ、あたしにまだ謝ってないよね。ほら言えよ!あの時突き落としてすみませんでしたって!」

大きく息を吸って叫んだ。


「邪魔しないで!!」

十一歌はあの子の耳元で大きく叫び、強い力で突き飛ばした。

あの子はその場に尻もちをつき、痛そうにしているあの子に一緒にいた二人が駆け寄る。
十一歌は気にせずその場から走って逃げた。あの子に声をかけられてすごく苛立ったが、地面にしゃがみ込んだ姿を見てすごくスッキリした。

体力がもつ限り走り続けた。
施設を出てから何時間が経ったのだろう。走りすぎて足が痛い。

でも、もうすぐ。もうすぐだ。

ついに、十一歌が求めていた場所まで来た。十一歌は立ち止まった。走り続けたせいで呼吸が荒い。呼吸を整えていると、ある場所から人が出てきた。


「パパ!!」


十一歌は家から出てきたパパを見て叫んだ。パパは声に気づきこちらを見た。パパの後から出てきたママの姿も十一歌の目に映った。


「ママ!!パパ!!」


十一歌は走った。
もう足も痛くて体力もないけど、パパとママに会えた嬉しさで不思議と体力が戻ってくる。十一歌は笑顔でパパとママがいる家まで駆け寄った。


「どうしてここにいるんだ!」


突如、パパが言った。
パパの口から大きな声が出たからか、十一歌はびっくりして思わず走り止まった。もう、家は目の前なのに。


「パパ…?」

「施設に帰りなさい」


パパの口は笑っているけど、少し引きつっていて眉間には皺が寄っていた。

パパの横にいるママは顔が真っ青になっていた。


「ママ、もう落ち着いた?元気になった?あのね、これ…」


十一歌は背負ってきたリュックからお弁当箱を取り出した。


「美味しかったよ!綺麗に食べたし、お弁当もちゃんと洗って大事に持ってたの!」


久しぶりにママに会えた十一歌は、ずっと言えなかったことを全部ママに伝えたくて必死に話した。


「それでー…」

「どうやってここまで来たんだ。勝手な事をしたらダメだろう」


パパは十一歌の話を遮った。


「ごめんなさい。パパが…ママが落ち着いたら迎えに来てくれるって言ってたのに、全然来てくれなくて、ずっと待ってたけど来なくて…それで…」

「……その様子だと、施設側はまだ何も言っていないみたいだね」


パパは家の門から出て十一歌のところまで来てくれた。
そして、十一歌の手を握ってくれた。


「パパ。私、もうお家帰ってもいい?」


パパは少し黙って何かを考えているよだった。それから、俯いていた顔を上げ、真っ直ぐな目で十一歌を見ながらこう言った。


「もう、ここには帰って来ないでほしい」


すごく真っ直ぐな目で、真剣に。
すぐに言葉がでてこなかった。
だって、意味が分からなかったから。


「……なんで?」

「パパが最後に言った言葉、覚えてる?」


"やっぱり、おかしいよ"


「パパは、これ以上ママが苦しむ姿を見たくないんだ」


頭がおいつかない。


「だから、ママを苦しめないでほしい」


パパ。


「……ごめん」


パパは十一歌の頭をそっと撫で、背を向けた。
家に戻っていくパパの奥、ママの複雑そうな表情が見えた。


「……んで」


待ってたのに。ずっと、ずっと。

パパとママは車に乗ろうとしていた。

十一歌も乗せてよ。

十一歌もパパとママと一緒がいい。

ねぇ、パパ。

ねぇ、ママ。

十一歌は、そこにいたらダメなの?


「……ぅあああああ!!!」


よく晴れた日。

青い空の下、絶望にのみこまれた少女の泣き叫ぶ声が響き渡った。
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