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鏡月 十一歌ができるまで(2)
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おじさん達は数週間後に迎えに来ると言い残して帰って行った。
十一歌は迎えの日までに部屋の荷物をまとめることにした。と言っても、もともと荷物は少なかったから時間はかからなかった。ダンボールを部屋の端に寄せて一息ついた。机の上にはお弁当箱があった。
「これ、どうしよう」
このお弁当箱だけは、どうするべきか迷った。これを見ると、あの日の出来事を思い出す。でも、なかなか手放せなくてずっと机の上に置いたままにしていた。
これは迎えの日までここに置いておこう。迎えが来たら、その時にどうするか決めよう。
結局、お弁当箱はダンボールに入れず机の上に置いたままにした。
おじさんが迎えに来ると言っていた日の前日のことだった。
おじさんは一日早く施設に来た。黒島、とかいう人も一緒だった。
「鏡月さん。明日のはずじゃ…?」
突然来たおじさん達のもとへ鈴木さんが駆け寄った。
広場にいた十一歌もおじさんの姿が目に入った。
迎えは明日だったはず。もしかして、今日になったのかな?
何やらおじさん達は鈴木さんと一緒に話しをしている。鈴木さんはたまに十一歌の方を見た。
気になって十一歌は鈴木さんのところへ行った。
「鈴木さん」
「あ…」
十一歌が来ると鈴木さんは気まずそうな顔をしていた。そして、おじさんの方を見て口ごもる。
「おじさん。お迎えは明日じゃないの?今日になったの?」
十一歌がそう聞くと、おじさんの代わりに黒島が答えた。
「その事ですが、白紙になりました」
「白紙…?」
「あなたを引き取らない、ということです」
引き取らない…?
「え、え、なんで…?」
「あなたの他にふさわしい方が見つかったのです。だから、あなたは必要なくなりました」
黒島は淡々と話した。十一歌はおじさんを見た。おじさんは十一歌のことを見ず、黒島の後ろに立っていた。腕を組んで、黙ったまま。
「私は……私も、その子と一緒じゃダメなの?」
「その方は、旦那様が長い間お探ししていた方で特別なのです。あなたと同じような扱いを受ける方ではないのです」
そんなに特別なの?
十一歌の方が先におじさんと出会ったのに、その子のせいで十一歌は白紙になるの?
「それに、あなたは少々…」
「私も連れてって!」
十一歌は必死に訴えた。黒島はそんな十一歌を見て言った。
「……あなたのことをこちらで少し調べました。あなたを引き取る予定でしたから。調査によると、最近問題のある行動があったようですね。施設を抜け出したとか。本当のご両親に会いに行ったようですが、その際に近隣の方々に迷惑をかけたと聞きました」
「違う!パパ達がっ…」
「泣いて、叫んで、暴れて…その場で抵抗するから施設の方々もあなたを連れ戻すために苦労したみたいですよ」
鈴木さんは少し俯いた。
「ですから、あなたを引き取るのは良くないと思いましてね。旦那様に私がお伝えしたのです」
「私は何もしてない!!」
「…自覚がないようですね」
黒島は冷たい視線を向けた。十一歌を見下しているようで、腹が立った。
十一歌は黒島を無視し、後ろにいたおじさんにしがみついた。
「おじさん!私も連れてってよ!」
「旦那様から離れなさい!」
黒島はおじさんから私を引き剥がそうとした。十一歌はおじさんから離れまいと必死にくっつく。
「私、おじさんの言うことちゃんと聞くし、いい子でいるから…!」
「いい加減にしろ!」
黒島は激怒していた。それでも十一歌は諦めなかった。
「おじさん!ねぇ、私、おじさんのためなら何でもする!ねぇ、それならいいよね?」
捨てられたくない。
一人は嫌だ。
また、あの時みたいに捨てられたくない。
すると、おじさんは十一歌に目を向けた。
「……黒島」
「は、はい」
「この子も引き取る」
「は!?しかし…」
「また手続きをするのも面倒だ。別に一人増えたところで何も困らん」
「ですが、この子は鏡月にふさわしくありません!」
「…私がいいと言っているのだから、お前はただ従えばいい」
「……わかりました」
黒島は深く息を吐いた。
そして、十一歌を睨みながらこう呟いた。
「"おかしい"くせに…」
黒島は鈴木さんと手続きをするために別室へ行った。鈴木さんは戸惑いながらもイライラした様子の黒島の後を追いかけて行った。
おじさんは自分に引っ付いたままの十一歌を離した。
「…外に車を停めている。荷物を持って乗りなさい」
そう言って先に施設を出た。
十一歌は急いで部屋に戻り、荷物をまとめたダンボールを抱えた。
「あ!」
一旦ダンボールを床に下ろし、机の上に置いていたお弁当箱を手に持つ。
しばらくお弁当箱を見つめた。あんなに離れ難かったのに、今はそんな感情が湧いてこない。
「これはもう、いらないや」
部屋の隅にあるゴミ箱にお弁当箱を捨てた。そして、ダンボールを抱えて部屋を出た。
外に出ると黒い高級車が停まっていた。
運転席に黒島、後ろにおじさんが。
十一歌は助手席に乗った。黒島は怪訝な顔で隣に乗ってくる十一歌のことを見た。
「…お前のことは"十一歌"と呼ぶ」
後ろからおじさんがそう言った。
「私の名前?」
おじさんは何も答えなかった。
黒島も黙って車を発進した。
車内は静かで、十一歌も何も話さず外の景色を眺めた。
"十一歌"
新しい名前ということかな?
変わった名前。
でも、別人になれた気がして何だかワクワクする。
これからは十一歌。今日から十一歌。
おじさんは、新しい家族。
十一歌のパパ。
嬉しい、嬉しい。
この日、十一歌の新しい生活が始まった。
十一歌は迎えの日までに部屋の荷物をまとめることにした。と言っても、もともと荷物は少なかったから時間はかからなかった。ダンボールを部屋の端に寄せて一息ついた。机の上にはお弁当箱があった。
「これ、どうしよう」
このお弁当箱だけは、どうするべきか迷った。これを見ると、あの日の出来事を思い出す。でも、なかなか手放せなくてずっと机の上に置いたままにしていた。
これは迎えの日までここに置いておこう。迎えが来たら、その時にどうするか決めよう。
結局、お弁当箱はダンボールに入れず机の上に置いたままにした。
おじさんが迎えに来ると言っていた日の前日のことだった。
おじさんは一日早く施設に来た。黒島、とかいう人も一緒だった。
「鏡月さん。明日のはずじゃ…?」
突然来たおじさん達のもとへ鈴木さんが駆け寄った。
広場にいた十一歌もおじさんの姿が目に入った。
迎えは明日だったはず。もしかして、今日になったのかな?
何やらおじさん達は鈴木さんと一緒に話しをしている。鈴木さんはたまに十一歌の方を見た。
気になって十一歌は鈴木さんのところへ行った。
「鈴木さん」
「あ…」
十一歌が来ると鈴木さんは気まずそうな顔をしていた。そして、おじさんの方を見て口ごもる。
「おじさん。お迎えは明日じゃないの?今日になったの?」
十一歌がそう聞くと、おじさんの代わりに黒島が答えた。
「その事ですが、白紙になりました」
「白紙…?」
「あなたを引き取らない、ということです」
引き取らない…?
「え、え、なんで…?」
「あなたの他にふさわしい方が見つかったのです。だから、あなたは必要なくなりました」
黒島は淡々と話した。十一歌はおじさんを見た。おじさんは十一歌のことを見ず、黒島の後ろに立っていた。腕を組んで、黙ったまま。
「私は……私も、その子と一緒じゃダメなの?」
「その方は、旦那様が長い間お探ししていた方で特別なのです。あなたと同じような扱いを受ける方ではないのです」
そんなに特別なの?
十一歌の方が先におじさんと出会ったのに、その子のせいで十一歌は白紙になるの?
「それに、あなたは少々…」
「私も連れてって!」
十一歌は必死に訴えた。黒島はそんな十一歌を見て言った。
「……あなたのことをこちらで少し調べました。あなたを引き取る予定でしたから。調査によると、最近問題のある行動があったようですね。施設を抜け出したとか。本当のご両親に会いに行ったようですが、その際に近隣の方々に迷惑をかけたと聞きました」
「違う!パパ達がっ…」
「泣いて、叫んで、暴れて…その場で抵抗するから施設の方々もあなたを連れ戻すために苦労したみたいですよ」
鈴木さんは少し俯いた。
「ですから、あなたを引き取るのは良くないと思いましてね。旦那様に私がお伝えしたのです」
「私は何もしてない!!」
「…自覚がないようですね」
黒島は冷たい視線を向けた。十一歌を見下しているようで、腹が立った。
十一歌は黒島を無視し、後ろにいたおじさんにしがみついた。
「おじさん!私も連れてってよ!」
「旦那様から離れなさい!」
黒島はおじさんから私を引き剥がそうとした。十一歌はおじさんから離れまいと必死にくっつく。
「私、おじさんの言うことちゃんと聞くし、いい子でいるから…!」
「いい加減にしろ!」
黒島は激怒していた。それでも十一歌は諦めなかった。
「おじさん!ねぇ、私、おじさんのためなら何でもする!ねぇ、それならいいよね?」
捨てられたくない。
一人は嫌だ。
また、あの時みたいに捨てられたくない。
すると、おじさんは十一歌に目を向けた。
「……黒島」
「は、はい」
「この子も引き取る」
「は!?しかし…」
「また手続きをするのも面倒だ。別に一人増えたところで何も困らん」
「ですが、この子は鏡月にふさわしくありません!」
「…私がいいと言っているのだから、お前はただ従えばいい」
「……わかりました」
黒島は深く息を吐いた。
そして、十一歌を睨みながらこう呟いた。
「"おかしい"くせに…」
黒島は鈴木さんと手続きをするために別室へ行った。鈴木さんは戸惑いながらもイライラした様子の黒島の後を追いかけて行った。
おじさんは自分に引っ付いたままの十一歌を離した。
「…外に車を停めている。荷物を持って乗りなさい」
そう言って先に施設を出た。
十一歌は急いで部屋に戻り、荷物をまとめたダンボールを抱えた。
「あ!」
一旦ダンボールを床に下ろし、机の上に置いていたお弁当箱を手に持つ。
しばらくお弁当箱を見つめた。あんなに離れ難かったのに、今はそんな感情が湧いてこない。
「これはもう、いらないや」
部屋の隅にあるゴミ箱にお弁当箱を捨てた。そして、ダンボールを抱えて部屋を出た。
外に出ると黒い高級車が停まっていた。
運転席に黒島、後ろにおじさんが。
十一歌は助手席に乗った。黒島は怪訝な顔で隣に乗ってくる十一歌のことを見た。
「…お前のことは"十一歌"と呼ぶ」
後ろからおじさんがそう言った。
「私の名前?」
おじさんは何も答えなかった。
黒島も黙って車を発進した。
車内は静かで、十一歌も何も話さず外の景色を眺めた。
"十一歌"
新しい名前ということかな?
変わった名前。
でも、別人になれた気がして何だかワクワクする。
これからは十一歌。今日から十一歌。
おじさんは、新しい家族。
十一歌のパパ。
嬉しい、嬉しい。
この日、十一歌の新しい生活が始まった。
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