Love Potion

煉彩

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過去 1

「はぁ……」
 
 帰宅し、シャワーを浴びた後、ソファに座った。
 加賀宮さんのことが頭から離れない。
 彼が渡してくれた契約書に目を通す。

「えっと……。レシピ監修・開発料金につき……五十万……。五十万!!?」

 孝介はボランティアでも良いくらいって言ってたのに。
 それに、監修費以外にもきちんと時給も支払われるみたいだ。それも一時間二千円。
 こんな金額、バカげてる。私、プロでもないのに。

 悩んだ末、加賀宮さんに電話をすることにした。

<プルルル……プルルル……>

 数回のコールの後
<もしもし?>
 彼の声を聞くことができた。

「もしもし?あの、今日はご馳走さまでした。契約書……」

 契約書を読んだことを伝えようとしたが――。

<どうした?俺の声、聞きたくなった?>

「違うっ!そんなわけないじゃない!契約書のこと。あの金額設定は誰が決めたの?私、専門家でもないし、高額すぎて申し訳ないと思って」

 冷静に話をしたいのに、いつも彼のペースに巻き込まれる。

<ああ。なんだ、報酬のことか。あれは一般的に専門家に依頼をした時のデータを基本にして、考えたんだけど。相手は九条家のお嬢様だろ。失礼のないように、加算した。九条社長も納得してたからいいんじゃないか?>

「お義父さんが?」

<父親が納得すれば、孝介あいつも何も言えないだろ>

「それはそうだけど」

 お義父さんの力がなきゃ何もできない。
 孝介がお義父さんに反抗したところなんて見たことない。

<ただ……。キツイこと言うかもしれないけど。美月に給料を渡したって、どうせ孝介あいつが管理するんだろ。それは美月が一番よくわかってるよな?俺はあいつが自分の金として使うだけだと思っている>

 そうよね。私に支払われるお金ではない。
 振り込まれても、すぐに孝介が全て自分の口座に移すに決まっている。

<だから、美月が申し訳ないとか考えなくていいんだよ>

 何も言えない。でも、加賀宮さんの言葉に心が軽くなった。

「うん。わかった」

 電話を切る。
 私が働いても、私のお金にはならない。
 私もこうやって生活ができているのは、孝介のおかげだと考えなきゃいけないの?

 そんなのやっぱり、イヤ。
 自分の希望が何一つとして叶わない、居場所のない家。ここから抜け出したい。
 
 そう思ってしまった。

  一週間後――。
 
 初めて出勤する日を迎えた。
 少し緊張してしまう自分がいる。
 
 初日のため、時間になったら秘書の亜蘭さんがマンションの前まで迎えに来てくれるというVIP待遇だ。あれから加賀宮さんとは会っていない。
 
 今日は、孝介がたまたま休みだった。

「行ってくるね?」

 ソファでスマホを見ている孝介に声をかける。

「絶対に九条の名前を汚すなよ。ちゃんと料理の勉強はしたんだろうな?父さんも賛成だったから止められなかったけど、心配だよ。お前、鈍臭いからな。お前が失敗すると、俺のイメージまで悪くなる。何かあって謝るのは、俺と父さんなんだからな」

 はぁ。
 心の中でため息が出た。
 料理教室に通いながら、一人で料理の勉強もしたし、カフェのホームページから現在あるメニューを覚えて、私なりに何品か試作してる。
 成分表だって考えた。努力はしたつもり。

 私だって、結婚前は普通に働いてたんだもん。
 自分にできることくらいはやる。
 こんなことを孝介に言い返しても、倍になって返ってくるだけなんだろうな。

 その時、インターホンが鳴った。美和さんだ。
 エントランスの解錠ボタンを押し、挨拶をする。
 
 私が居ない時にまた、私のベッドで……。
 孝介と美和さんが浮気をしていることは、もう何も思わない。ただこの前のように、二人がいつもで身体を重ねているところを想像したら、出勤前から気分が悪くなりそうだ。

「行ってきます」

 もう一度挨拶をして、玄関から出ようとした。
 靴を履いている時に、再度インターホンが鳴った。
 
 カギを開ける。

「こんにちは」
 
 美和さんは変わらず、私に笑顔を向けてくれた。

「こんにちは。すみません。よろしくお願いします」

 彼女は、今日から私が働くことを知っている。
 私は目を背け、彼女の隣を通り過ぎようとした。

「行ってらっしゃい。美月さんが料理、そんなに得意だったなんて、知りませんでした。孝介さんからは苦手だって聞いていたから。カフェ、良いですね。私も応援してます」
 
 どうしてだろう。
 素直に彼女の言葉を受け取れない。

「ありがとうございます」
 
 私はペコっと頭を下げ、一歩外へ踏み出した。
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