Love Potion

煉彩

文字の大きさ
25 / 64

過去 1

しおりを挟む
「はぁ……」
 
 帰宅し、シャワーを浴びた後、ソファに座った。
 加賀宮さんのことが頭から離れない。
 彼が渡してくれた契約書に目を通す。

「えっと……。レシピ監修・開発料金につき……五十万……。五十万!!?」

 孝介はボランティアでも良いくらいって言ってたのに。
 それに、監修費以外にもきちんと時給も支払われるみたいだ。それも一時間二千円。
 こんな金額、バカげてる。私、プロでもないのに。

 悩んだ末、加賀宮さんに電話をすることにした。

<プルルル……プルルル……>

 数回のコールの後
<もしもし?>
 彼の声を聞くことができた。

「もしもし?あの、今日はご馳走さまでした。契約書……」

 契約書を読んだことを伝えようとしたが――。

<どうした?俺の声、聞きたくなった?>

「違うっ!そんなわけないじゃない!契約書のこと。あの金額設定は誰が決めたの?私、専門家でもないし、高額すぎて申し訳ないと思って」

 冷静に話をしたいのに、いつも彼のペースに巻き込まれる。

<ああ。なんだ、報酬のことか。あれは一般的に専門家に依頼をした時のデータを基本にして、考えたんだけど。相手は九条家のお嬢様だろ。失礼のないように、加算した。九条社長も納得してたからいいんじゃないか?>

「お義父さんが?」

<父親が納得すれば、孝介あいつも何も言えないだろ>

「それはそうだけど」

 お義父さんの力がなきゃ何もできない。
 孝介がお義父さんに反抗したところなんて見たことない。

<ただ……。キツイこと言うかもしれないけど。美月に給料を渡したって、どうせ孝介あいつが管理するんだろ。それは美月が一番よくわかってるよな?俺はあいつが自分の金として使うだけだと思っている>

 そうよね。私に支払われるお金ではない。
 振り込まれても、すぐに孝介が全て自分の口座に移すに決まっている。

<だから、美月が申し訳ないとか考えなくていいんだよ>

 何も言えない。でも、加賀宮さんの言葉に心が軽くなった。

「うん。わかった」

 電話を切る。
 私が働いても、私のお金にはならない。
 私もこうやって生活ができているのは、孝介のおかげだと考えなきゃいけないの?

 そんなのやっぱり、イヤ。
 自分の希望が何一つとして叶わない、居場所のない家。ここから抜け出したい。
 
 そう思ってしまった。

  一週間後――。
 
 初めて出勤する日を迎えた。
 少し緊張してしまう自分がいる。
 
 初日のため、時間になったら秘書の亜蘭さんがマンションの前まで迎えに来てくれるというVIP待遇だ。あれから加賀宮さんとは会っていない。
 
 今日は、孝介がたまたま休みだった。

「行ってくるね?」

 ソファでスマホを見ている孝介に声をかける。

「絶対に九条の名前を汚すなよ。ちゃんと料理の勉強はしたんだろうな?父さんも賛成だったから止められなかったけど、心配だよ。お前、鈍臭いからな。お前が失敗すると、俺のイメージまで悪くなる。何かあって謝るのは、俺と父さんなんだからな」

 はぁ。
 心の中でため息が出た。
 料理教室に通いながら、一人で料理の勉強もしたし、カフェのホームページから現在あるメニューを覚えて、私なりに何品か試作してる。
 成分表だって考えた。努力はしたつもり。

 私だって、結婚前は普通に働いてたんだもん。
 自分にできることくらいはやる。
 こんなことを孝介に言い返しても、倍になって返ってくるだけなんだろうな。

 その時、インターホンが鳴った。美和さんだ。
 エントランスの解錠ボタンを押し、挨拶をする。
 
 私が居ない時にまた、私のベッドで……。
 孝介と美和さんが浮気をしていることは、もう何も思わない。ただこの前のように、二人がいつもで身体を重ねているところを想像したら、出勤前から気分が悪くなりそうだ。

「行ってきます」

 もう一度挨拶をして、玄関から出ようとした。
 靴を履いている時に、再度インターホンが鳴った。
 
 カギを開ける。

「こんにちは」
 
 美和さんは変わらず、私に笑顔を向けてくれた。

「こんにちは。すみません。よろしくお願いします」

 彼女は、今日から私が働くことを知っている。
 私は目を背け、彼女の隣を通り過ぎようとした。

「行ってらっしゃい。美月さんが料理、そんなに得意だったなんて、知りませんでした。孝介さんからは苦手だって聞いていたから。カフェ、良いですね。私も応援してます」
 
 どうしてだろう。
 素直に彼女の言葉を受け取れない。

「ありがとうございます」
 
 私はペコっと頭を下げ、一歩外へ踏み出した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

あなたが初めて

はなおくら
恋愛
お見合いをしたマリー、出会った青年と話すうちに次第に弾かれていくのだが、突然その相手からもう会わないと言われて…。

睡蓮

樫野 珠代
恋愛
入社して3か月、いきなり異動を命じられたなぎさ。 そこにいたのは、出来れば会いたくなかった、会うなんて二度とないはずだった人。 どうしてこんな形の再会なの?

【完結】あなたに恋愛指南します

夏目若葉
恋愛
大手商社の受付で働く舞花(まいか)は、訪問客として週に一度必ず現れる和久井(わくい)という男性に恋心を寄せるようになった。 お近づきになりたいが、どうすればいいかわからない。 少しずつ距離が縮まっていくふたり。しかし和久井には忘れられない女性がいるような気配があって、それも気になり…… 純真女子の片想いストーリー 一途で素直な女 × 本気の恋を知らない男 ムズキュンです♪

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

甘い束縛

はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。 ※小説家なろうサイト様にも載せています。

お見合いから本気の恋をしてもいいですか

濘-NEI-
恋愛
元カレと破局して半年が経った頃、母から勧められたお見合いを受けることにした涼葉を待っていたのは、あの日出逢った彼でした。 高橋涼葉、28歳。 元カレとは彼の転勤を機に破局。 恋が苦手な涼葉は人恋しさから出逢いを求めてバーに来たものの、人生で初めてのナンパはやっぱり怖くて逃げ出したくなる。そんな危機から救ってくれたのはうっとりするようなイケメンだった。 優しい彼と意気投合して飲み直すことになったけれど、名前も知らない彼に惹かれてしまう気がするのにブレーキはかけられない。

フリーランスエンジニアの優しすぎる無償の愛

春咲さゆ
恋愛
26歳OLの木崎茉莉は人生のどん底にいた。上手くいかないことに慣れ、心を凍らせることで自分を守る毎日に絶望した茉莉は、雨の夜に思わず人生の終わりを願ってしまう。そんな茉莉に手を差し伸べたかっこいい彼。茉莉は、なぜか無償の愛のような優しさをくれる不思議な男性に少しずつ救われ、前を向いていく。けれど、疑ってしまうほど親切な彼には、親切であり続ける理由があって……。雨の夜の出会いがもたらした、優しくも切ない物語。

逃げる太陽【完結】

須木 水夏
恋愛
 黒田 陽日が、その人に出会ったのはまだ6歳の時だった。  近所にある湖の畔で、銀色の長い髪の男の人と出会い、ゆっくりと恋に落ちた。  湖へ近づいてはいけない、竜神に攫われてしまうよ。  そんな中、陽日に同い年の婚約者ができてしまう。   ✩°。⋆☆。.:*・゜  つたない文章です。 『身代わりの月』の姉、陽日のお話です。 ⭐️現代日本ぽいですが、似て非なるものになってます。 ⭐️16歳で成人します。 ⭐️古い伝承や言い伝えは、割と信じられている世界の設定です。

処理中です...