32 / 64
過去〜迅side〜
しおりを挟む
…・――――…・―――
「そんなところで何してるの?」
ここは……。
なんだ、過去の夢か。
幼い頃の俺は、公園の遊具として設置されているトンネルの中に入り、膝を抱えていた。
トンネルの先、明るい光が漏れているところから、声をかけてくる女の子が居た。
話す気力もない。
誰とも関わりたくなくて、その子の問いに答えなかった。
しかし――。
<ゴロゴロゴロ……>
空腹のためか、腹の音が鳴った。少し恥ずかしい。
「ねえ、お腹空いてるの?」
返事をしない俺に、その子はまだ話しかけてくる。
何も言わなかったら、どっかに行くだろう。
家に帰りたくない。
帰ったらどうせまたあんなことされる。
ここで時間を潰しているのが、一番の平和だ。
どのくらいの時間、そこに居ただろう。
考えることもなく、ただ時間が過ぎるのを待っていた。
その時、近くで人の気配がした。
チラッと相手を見る。
「はいっ!半分こしよ?私のおやつ、持ってきた!」
先程の女の子がすぐ近くに居た。
はいっと差し出されたのは、菓子パンだった。
本当は甘えたくはない。
が、空腹に耐え切れず、パッと女の子の手からパンを奪い取るようにして受け取った。
「これ、美味しいでしょ?私の好きなパンなの」
俺の態度など気にしない様子で、彼女は微笑みかけてくれた。
「おいしい」
ただ一言、返事をしただけなのに
「うん!おいしいね!」
目をまん丸くして、女の子はへへっと声を出して笑ってくれた。
それからその子と仲良くなった。
「私の名前は、美月だよ!」
自分から名前を教えてくれた。
俺は引っ越してきたばかりだったが、美月は昔からこの公園の近くに住んでいるらしい。歳は二歳ほど俺の方が上だと言っていた。
「迅くん、みーつけた」
俺がいつものトンネルの中に居ると、美月は必ず声をかけてくれる。
そして
「一緒に食べよ?」
自分の家から持ってきたであろう、食べ物を分けてくれる。
俺が無言でいても
「あのね、今日は小学校でねー?」
必ず今日の出来事を話してくれる。
最初は煩わしいと感じていたその話も、今では可愛いと思えてしまう日課になっていた。
そんな時だった。
俺はいつものように公園のトンネルの中で時間を潰していた。
外から美月ともう一人の女の子が言い争っている声が聞こえた。
「なんでそんなこと言うの!」
美月が珍しく怒っている。
「だって言ってたもん。うちのお母さんが、あの子とは話さない方が良いって。お父さんが悪いことしているから、仲良くすると危ないって!」
あの子とは俺のことだよな。
どうせみんな離れて行くんだ。
父さんが家に居る時は、お酒を飲んで怒鳴ってばかり。
本当のお母さんはそのせいか毎日泣いてた。
そして「ごめんね」ただ一言俺にそう伝え、帰って来なくなった。
母さんがいなくなって、違う女の人が家に居るようになった。
父さんから「新しいお母さんだ」紹介されたが、お母さんとは思えない。
新しいお母さんをキッカケに、この町に引っ越して来た。
「迅くんは優しいもん。私の話、いつも聞いてくれるんだよ!だから私は、これからも迅くんと遊ぶの!」
しばらくして彼女は何食わぬ顔をしていつものように
「迅くん、遊ぼ!」
トンネルの中に入り、俺の隣に座り、話しかけてきた。
「俺と遊ぶと他の子に虐められるよ。だからもうここに来るな」
美月の顔が曇った。
「なっんで……?そんなこと言うの……。私、迅くんと話すの楽しい。おやつ、半分こするのも好き……なのにっ」
彼女は俺の前で涙を流した。
「おいっ、泣くなよ」
女の子を泣かせてしまったのは、この時初めてだった。
「じゃあ、これからも遊んでくれる?」
ヒクヒクっと一生懸命涙を堪えながら、美月は目を擦っていた。
「わかった。美月の好きにしていいから。だから泣くなよ」
俺がそう声をかけると、美月はパッと表情を変え
「うん!」
そう言って、俺の腕に抱きついた。
「ちょっと!」
なぜ自分が美月からそんなに懐かれたかわからない。その時の俺にとっては、美月の存在が救いだった。
ある日、公園で二人で過ごしていると、大型犬が公園の中に走ってきた。
飼い主はいない。
首輪は付いているから、離れちゃったのか?
悲鳴をあげながら逃げ惑う子どもたち。
犬は興奮しているのか、子どもを追いかけ回している。
「美月、高いところへ逃げよう!」
俺は彼女の手を引いて、逃げようとした。
「うんっ!」
近くのジャングルジムへ登ろうとした時だった。
慌てていたため、彼女が転んでしまった。
そこへ、俺たち目掛けて犬が走ってくるのが見えた。
「そんなところで何してるの?」
ここは……。
なんだ、過去の夢か。
幼い頃の俺は、公園の遊具として設置されているトンネルの中に入り、膝を抱えていた。
トンネルの先、明るい光が漏れているところから、声をかけてくる女の子が居た。
話す気力もない。
誰とも関わりたくなくて、その子の問いに答えなかった。
しかし――。
<ゴロゴロゴロ……>
空腹のためか、腹の音が鳴った。少し恥ずかしい。
「ねえ、お腹空いてるの?」
返事をしない俺に、その子はまだ話しかけてくる。
何も言わなかったら、どっかに行くだろう。
家に帰りたくない。
帰ったらどうせまたあんなことされる。
ここで時間を潰しているのが、一番の平和だ。
どのくらいの時間、そこに居ただろう。
考えることもなく、ただ時間が過ぎるのを待っていた。
その時、近くで人の気配がした。
チラッと相手を見る。
「はいっ!半分こしよ?私のおやつ、持ってきた!」
先程の女の子がすぐ近くに居た。
はいっと差し出されたのは、菓子パンだった。
本当は甘えたくはない。
が、空腹に耐え切れず、パッと女の子の手からパンを奪い取るようにして受け取った。
「これ、美味しいでしょ?私の好きなパンなの」
俺の態度など気にしない様子で、彼女は微笑みかけてくれた。
「おいしい」
ただ一言、返事をしただけなのに
「うん!おいしいね!」
目をまん丸くして、女の子はへへっと声を出して笑ってくれた。
それからその子と仲良くなった。
「私の名前は、美月だよ!」
自分から名前を教えてくれた。
俺は引っ越してきたばかりだったが、美月は昔からこの公園の近くに住んでいるらしい。歳は二歳ほど俺の方が上だと言っていた。
「迅くん、みーつけた」
俺がいつものトンネルの中に居ると、美月は必ず声をかけてくれる。
そして
「一緒に食べよ?」
自分の家から持ってきたであろう、食べ物を分けてくれる。
俺が無言でいても
「あのね、今日は小学校でねー?」
必ず今日の出来事を話してくれる。
最初は煩わしいと感じていたその話も、今では可愛いと思えてしまう日課になっていた。
そんな時だった。
俺はいつものように公園のトンネルの中で時間を潰していた。
外から美月ともう一人の女の子が言い争っている声が聞こえた。
「なんでそんなこと言うの!」
美月が珍しく怒っている。
「だって言ってたもん。うちのお母さんが、あの子とは話さない方が良いって。お父さんが悪いことしているから、仲良くすると危ないって!」
あの子とは俺のことだよな。
どうせみんな離れて行くんだ。
父さんが家に居る時は、お酒を飲んで怒鳴ってばかり。
本当のお母さんはそのせいか毎日泣いてた。
そして「ごめんね」ただ一言俺にそう伝え、帰って来なくなった。
母さんがいなくなって、違う女の人が家に居るようになった。
父さんから「新しいお母さんだ」紹介されたが、お母さんとは思えない。
新しいお母さんをキッカケに、この町に引っ越して来た。
「迅くんは優しいもん。私の話、いつも聞いてくれるんだよ!だから私は、これからも迅くんと遊ぶの!」
しばらくして彼女は何食わぬ顔をしていつものように
「迅くん、遊ぼ!」
トンネルの中に入り、俺の隣に座り、話しかけてきた。
「俺と遊ぶと他の子に虐められるよ。だからもうここに来るな」
美月の顔が曇った。
「なっんで……?そんなこと言うの……。私、迅くんと話すの楽しい。おやつ、半分こするのも好き……なのにっ」
彼女は俺の前で涙を流した。
「おいっ、泣くなよ」
女の子を泣かせてしまったのは、この時初めてだった。
「じゃあ、これからも遊んでくれる?」
ヒクヒクっと一生懸命涙を堪えながら、美月は目を擦っていた。
「わかった。美月の好きにしていいから。だから泣くなよ」
俺がそう声をかけると、美月はパッと表情を変え
「うん!」
そう言って、俺の腕に抱きついた。
「ちょっと!」
なぜ自分が美月からそんなに懐かれたかわからない。その時の俺にとっては、美月の存在が救いだった。
ある日、公園で二人で過ごしていると、大型犬が公園の中に走ってきた。
飼い主はいない。
首輪は付いているから、離れちゃったのか?
悲鳴をあげながら逃げ惑う子どもたち。
犬は興奮しているのか、子どもを追いかけ回している。
「美月、高いところへ逃げよう!」
俺は彼女の手を引いて、逃げようとした。
「うんっ!」
近くのジャングルジムへ登ろうとした時だった。
慌てていたため、彼女が転んでしまった。
そこへ、俺たち目掛けて犬が走ってくるのが見えた。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】あなたに恋愛指南します
夏目若葉
恋愛
大手商社の受付で働く舞花(まいか)は、訪問客として週に一度必ず現れる和久井(わくい)という男性に恋心を寄せるようになった。
お近づきになりたいが、どうすればいいかわからない。
少しずつ距離が縮まっていくふたり。しかし和久井には忘れられない女性がいるような気配があって、それも気になり……
純真女子の片想いストーリー
一途で素直な女 × 本気の恋を知らない男
ムズキュンです♪
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
お見合いから本気の恋をしてもいいですか
濘-NEI-
恋愛
元カレと破局して半年が経った頃、母から勧められたお見合いを受けることにした涼葉を待っていたのは、あの日出逢った彼でした。
高橋涼葉、28歳。
元カレとは彼の転勤を機に破局。
恋が苦手な涼葉は人恋しさから出逢いを求めてバーに来たものの、人生で初めてのナンパはやっぱり怖くて逃げ出したくなる。そんな危機から救ってくれたのはうっとりするようなイケメンだった。 優しい彼と意気投合して飲み直すことになったけれど、名前も知らない彼に惹かれてしまう気がするのにブレーキはかけられない。
フリーランスエンジニアの優しすぎる無償の愛
春咲さゆ
恋愛
26歳OLの木崎茉莉は人生のどん底にいた。上手くいかないことに慣れ、心を凍らせることで自分を守る毎日に絶望した茉莉は、雨の夜に思わず人生の終わりを願ってしまう。そんな茉莉に手を差し伸べたかっこいい彼。茉莉は、なぜか無償の愛のような優しさをくれる不思議な男性に少しずつ救われ、前を向いていく。けれど、疑ってしまうほど親切な彼には、親切であり続ける理由があって……。雨の夜の出会いがもたらした、優しくも切ない物語。
逃げる太陽【完結】
須木 水夏
恋愛
黒田 陽日が、その人に出会ったのはまだ6歳の時だった。
近所にある湖の畔で、銀色の長い髪の男の人と出会い、ゆっくりと恋に落ちた。
湖へ近づいてはいけない、竜神に攫われてしまうよ。
そんな中、陽日に同い年の婚約者ができてしまう。
✩°。⋆☆。.:*・゜
つたない文章です。
『身代わりの月』の姉、陽日のお話です。
⭐️現代日本ぽいですが、似て非なるものになってます。
⭐️16歳で成人します。
⭐️古い伝承や言い伝えは、割と信じられている世界の設定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる