Love Potion

煉彩

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願い 5

「どうしたんだよ。てか、昔も泣いた後、抱きついてきたよな?」
 ハハっと彼は笑いながら、ギュッと私を抱きしめてくれた。

「ごめん!今まで忘れていて本当に、ごめんなさい!ねぇ、あの時、痛かったよね?」
 彼が抱きしめてくれて、嬉しいと感じてしまった自分がいた。

「何十年前の話してんだよ」

「だって。信じてくれないかもしれないけど、昨日思い出したの。本当にごめんなさ……」
 彼は私の頭を撫でてくれた。

「忘れたのは、美月のせいじゃないだろ?記憶がなくなったことは、当時、美月の親から聞いてるよ」
 優しかった頃の、子どもの迅くんに戻ったようだった。

 私がもう一つ聞きたかったこと――。

「BARで久し振りに会って、私にして、契約を結んだのはどうして?」
 
 やっぱり迅くんは私のこと恨んでいたの?

「昨日言っただろ。俺の愛情表現、歪んでるって。今だって、美月のことを求めたくて我慢してる。狂ってるから、俺」
 彼の言葉を聞いて、ビクっと身体が反応してしまった。

 あれが愛情表現?

「美月は俺のこと、どう思ってんの?」

 ストレートな質問だ。
 過去のことを思い出して、自分が迅くんのことを好きだったことを知った。   
 私は今も彼を……。

「理由はどうあれ、あんなことして脅すって酷いと思う」

「じゃあ、俺のこと嫌い?憎い?恨んでる?」

 私の心の中まで読まれている気がした。
 彼はわかってそんな質問をしてくる。
 やっぱり、と思った迅くんとの時間は一瞬で終わってしまった。

「嫌いじゃない」
 
 迅くんの胸の中でそう答える。
 嫌いじゃない、けれど、好きになってはいけない。私は既婚者だ。
 

 でも、彼に自分から抱きついてしまっている時点で、不倫孝介と同じ。
 この気持ちは過ち。だけど、戻れるの?
 迅くんへの気持ちを断ち切らなきゃいけない。そんなこと、できる?
 この関係も本当は終わりにさせなきゃいけないのに、拒んだのは自分の方だ。

「嫌いじゃなかったら、ってこと?」
 彼に追究されるのはなんとなくわかっていた。

 ここで本当の気持ちを伝えたら――。

「美月が……。俺を必要としてくれたら、俺はこれからどんなことがあっても美月を守るよ。あの時みたいに――?」

 子どもだった迅くんは、何の迷いもなくあの時私を助けてくれてた。

「私は昔の迅くんも……。今の迅くんも……。好きだよ」

 私が想いを伝えた時、もう一度ギュッと抱きしめてくれた。
 彼の胸の鼓動が聞こえた気がする。
 なんだ、こんなにドキドキしているのは私だけじゃない。彼だって、こんなに鼓動が速いんだ。

「俺も美月が好きだ。絶対にもう離さないから」
 
 涙が溢れる。
 嬉しい。嬉しいけれど――。

「結婚する前に、もう一度あなたと出逢いたかった」

 涙が止まらない。
 私は孝介から、九条家から逃げられない。

 この気持ちも<いつか>は、忘れなきゃいけない。

「あー、ずっとこうしてたいけど」
 そう言うと迅くんは私の手を引き、ベッドへと座らせた。

「とりあえず、服、着ようか?落ち着いて話がしたい。このままだと俺の理性がヤバい」

 あっ、そういえばキャミソールだ。

「うん」
 目を擦り、返事をする。

「美月が俺のことを必要としてくれるのなら、俺も美月にお願いがある」

「お願い?」
 なんだろう。

「美月は、孝介あいつとずっと結婚したままで良いの?」
 孝介とは何度別れたいと思ったことだろう。

「私は別れたい」
 私を取り巻く環境、全て何も考えなくて良いのであれば、離婚したい。

「美月が有利に離婚できるように、協力してほしい」
 私が有利に?

「本当だったら今すぐに美月をあいつから離したい。けど、相手は九条という名家で、金も持っている。普通に争っても、美月が不利だ。何も非がなくても、何か仕組まれて慰謝料を請求側になる」

 迅くんの言った通りだ。
 私の立場では何も言えない。例え孝介が浮気をしているとか、DVを受けたって証言しても、お金の力を使えば、向こうが優勢になるに決まっている。

「私にできることならする。迅くんが居てくれるのなら、どんなことだって頑張るよ」
 
 ずっと諦めていた。一人だと思っていたから。私一人が我慢すれば、いいことなんだって思ってた。今は私のことを想ってくれる人が近くに居る。怖くない。

 彼はフッと笑って
「わかった。じゃあ――」
 これから私のやるべきことについて教えてくれた。

「うん。やってみる」

「俺は俺で動くから」

 彼がポンっと頭を触ってくれた。
 彼が一緒なら、あの九条大企業相手でも勝てるような気がするのはなぜだろう。

 その時<ぐぅぅぅぅ>と私のお腹の音が鳴った。
 こんな大切な場面なのに!
 恥ずかしい。一気に顔が熱くなった。

「お昼、何も食べてなかったもんな。なんかすぐ食えるものあったかなー」
 彼は笑いながらキッチンへ向かった。

「ごめん。私、大丈夫だから」
 慌てて立ち上がり、彼の背中を追う。

「あっ。菓子パンなら一つあるけど。食べる?」

 あっ、それ。
 昔、子どもの頃、二人で半分こした時のパンに似てる。

「半分こ……」

「えっ?」

「迅くん、半分こしよう?」
 
 昔、私のおやつを迅くんと一緒に食べたくて、よく家から持ち出したのを思い出した。
 彼は笑ってくれた。覚えてるんだ。

「あぁ。半分こな?」
 子どもの頃の迅くんの表情と重なる。

 もし私の記憶が無くならなければ、私は迅くんとあの後どんな関係になっていたんだろう。
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