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決意 6
次の日、孝介は言葉を発することなく、仕事に行った。
朝から怒鳴られるかと思ったけど、昨日のことについては、何も言われなかった。
私もあと一時間ほどでベガに出勤予定。
出かける準備をしていると――。
<ピンポーン>
インターホンが鳴った。
<よろしくお願いします>
モニター越しに見える美和さんは、いつもと同じだ。
私は無理だ。いつもと同じに接するなんて。
「今、開けます」
エントランスの解錠ボタンを押し、玄関の鍵を開ける。
彼女は
「お邪魔します。今日もよろしくお願いします」
平然と部屋に入ってきた。
リビングで目を合わせる。
「よろしくお願いします」
昨日こと、孝介から美和さんに連絡しているのは見ていた。
私から切り出した方が良いの?
昨日の味付けは、絶対に彼女が故意にやったとしか考えられない。
「あの、美和さん。昨日のミネストローネの味付けなんですけど」
私が一言発した瞬間だった。
「あっ。昨日はすみませんでした。美月さんのアドバイス通り、お味噌を入れたんですけど。美味しくなかったらしくて。孝介さんにも心配されちゃいました」
あぁ、なんだろう。美和さんは<すみません>なんて感じていない。
嫉妬と憎しみが混じったそんな眼。
私が謝れば、彼女の気持ちは救われるの?
ううん、違う。私という邪魔な存在がここに居る限り、彼女にとっては何も変わらない。
「失礼かもしれませんが、味噌は<少し>って言いました。きちんとした分量をお伝えせず、わかりにくかったかもしれません。それは謝ります。美和さんは、最後、味見をしましたか?」
私が素直に謝ると思っていたのか、彼女は眉をひそめた。
「最後、味見はしませんでした。私が途中で味見をした時は、そんなに悪くない感じだったので。私は美月さんのアドバイスをきちんと聞いたつもりでした」
<私は悪くない>を貫き通したいの?
それとも故意にやったと思われたくない?
違う。孝介は美和さんのことを信じている。それは彼女が一番わかっていること。私のこと、ただ気に入らないだけだよね。簡単な理由だ。
だけどそんな理由で、家政婦としての仕事はしちゃいけないと思う。
「私も昨日のスープを飲みました。とてもじゃないけど、飲めるような物じゃありませんでした。美和さんがミスをして、多く調味料を入れてしまったとしか思えません。お料理を作るのは仕事で依頼をしています。その部分は、忘れないでください」
私のことが嫌いでも憎くても、与えられた仕事は責任を持つべきだと思う。
昔だったら、こんなこと言えなかった。
私はもっと強くならなきゃいけない。孝介と美和さんと闘わなきゃいけないから、こんな嫌がらせで負けてなんかいられない。
美和さんは私をキッと睨みつけると
「美月さん、わかっていると思いますけど、あなたが料理ができないから私が頼まれているんですよ?私が昨日、アドバイスをくださいって言ったのは、気を遣ったつもりなんですけど。カフェ事業だって、別にあなたの料理が認められたわけじゃない。孝介さんがシリウスの社長と良い関係を築きたくて選択したことであって、会社のためなんです。シリウスだって九条グループっていう大きな企業と関りを持ちたかったから。あなたの力じゃないんです。一人じゃ何もできないのに。孝介さんのお荷物だって、いい加減自覚したらどうですか?掃除もできない、料理もできない。孝介さんから愛されてもいないのに。痛い女すぎますよ?」
あれ?美和さんって、冷静なイメージだったけど。
彼女の本音を直接聞くことができて、怒りよりもなんだかスッキリした。
それに――。
こんなに話してくれて、かえって好都合だ。
「どうして美和さんがそんなことを言えるんですか?シリウスとか九条グループとか。それは美和さんの推測ですよね?まさか、孝介さんが会社の内情を美和さんに話したんですか?あと、なんで私が孝介さんから愛されていないなんてことを言えるんですか?」
私が孝介から愛されていないことは確か。
<愛されてもいないのに>なんて発言をしてしまったのは、美和さんが孝介と不倫関係にあるからこそ。愛し合っているのに、報われないから。そんな僻みとも取れる発言が出てしまったんだよね。
「っ……!!」
美和さんは唇を噛みしめていた。
「すみません。今日はもう帰ります。具合が悪くなってしまったので。早退したこと、孝介さんには私から直接連絡をしておきます」
彼女は、エプロンも外さずに部屋から出て行った。
これまで美和さんとは、表面上はうまくやってきたつもりだった。
それが今日、一瞬で崩れてしまったけれど、彼女の本性を実際に肌で感じることができて良かった。
彼女は孝介に今のことを都合の良いように話し、助けを求めるだろう。
悲劇のヒロインを演じるに違いない。
私は帰ってきた孝介から、どんな仕打ちをされるかわからない。
今の私には、とても心強い味方が居てくれる。
だから、きっと大丈夫。自分の未来のために頑張るって決めたんだ。
朝から怒鳴られるかと思ったけど、昨日のことについては、何も言われなかった。
私もあと一時間ほどでベガに出勤予定。
出かける準備をしていると――。
<ピンポーン>
インターホンが鳴った。
<よろしくお願いします>
モニター越しに見える美和さんは、いつもと同じだ。
私は無理だ。いつもと同じに接するなんて。
「今、開けます」
エントランスの解錠ボタンを押し、玄関の鍵を開ける。
彼女は
「お邪魔します。今日もよろしくお願いします」
平然と部屋に入ってきた。
リビングで目を合わせる。
「よろしくお願いします」
昨日こと、孝介から美和さんに連絡しているのは見ていた。
私から切り出した方が良いの?
昨日の味付けは、絶対に彼女が故意にやったとしか考えられない。
「あの、美和さん。昨日のミネストローネの味付けなんですけど」
私が一言発した瞬間だった。
「あっ。昨日はすみませんでした。美月さんのアドバイス通り、お味噌を入れたんですけど。美味しくなかったらしくて。孝介さんにも心配されちゃいました」
あぁ、なんだろう。美和さんは<すみません>なんて感じていない。
嫉妬と憎しみが混じったそんな眼。
私が謝れば、彼女の気持ちは救われるの?
ううん、違う。私という邪魔な存在がここに居る限り、彼女にとっては何も変わらない。
「失礼かもしれませんが、味噌は<少し>って言いました。きちんとした分量をお伝えせず、わかりにくかったかもしれません。それは謝ります。美和さんは、最後、味見をしましたか?」
私が素直に謝ると思っていたのか、彼女は眉をひそめた。
「最後、味見はしませんでした。私が途中で味見をした時は、そんなに悪くない感じだったので。私は美月さんのアドバイスをきちんと聞いたつもりでした」
<私は悪くない>を貫き通したいの?
それとも故意にやったと思われたくない?
違う。孝介は美和さんのことを信じている。それは彼女が一番わかっていること。私のこと、ただ気に入らないだけだよね。簡単な理由だ。
だけどそんな理由で、家政婦としての仕事はしちゃいけないと思う。
「私も昨日のスープを飲みました。とてもじゃないけど、飲めるような物じゃありませんでした。美和さんがミスをして、多く調味料を入れてしまったとしか思えません。お料理を作るのは仕事で依頼をしています。その部分は、忘れないでください」
私のことが嫌いでも憎くても、与えられた仕事は責任を持つべきだと思う。
昔だったら、こんなこと言えなかった。
私はもっと強くならなきゃいけない。孝介と美和さんと闘わなきゃいけないから、こんな嫌がらせで負けてなんかいられない。
美和さんは私をキッと睨みつけると
「美月さん、わかっていると思いますけど、あなたが料理ができないから私が頼まれているんですよ?私が昨日、アドバイスをくださいって言ったのは、気を遣ったつもりなんですけど。カフェ事業だって、別にあなたの料理が認められたわけじゃない。孝介さんがシリウスの社長と良い関係を築きたくて選択したことであって、会社のためなんです。シリウスだって九条グループっていう大きな企業と関りを持ちたかったから。あなたの力じゃないんです。一人じゃ何もできないのに。孝介さんのお荷物だって、いい加減自覚したらどうですか?掃除もできない、料理もできない。孝介さんから愛されてもいないのに。痛い女すぎますよ?」
あれ?美和さんって、冷静なイメージだったけど。
彼女の本音を直接聞くことができて、怒りよりもなんだかスッキリした。
それに――。
こんなに話してくれて、かえって好都合だ。
「どうして美和さんがそんなことを言えるんですか?シリウスとか九条グループとか。それは美和さんの推測ですよね?まさか、孝介さんが会社の内情を美和さんに話したんですか?あと、なんで私が孝介さんから愛されていないなんてことを言えるんですか?」
私が孝介から愛されていないことは確か。
<愛されてもいないのに>なんて発言をしてしまったのは、美和さんが孝介と不倫関係にあるからこそ。愛し合っているのに、報われないから。そんな僻みとも取れる発言が出てしまったんだよね。
「っ……!!」
美和さんは唇を噛みしめていた。
「すみません。今日はもう帰ります。具合が悪くなってしまったので。早退したこと、孝介さんには私から直接連絡をしておきます」
彼女は、エプロンも外さずに部屋から出て行った。
これまで美和さんとは、表面上はうまくやってきたつもりだった。
それが今日、一瞬で崩れてしまったけれど、彼女の本性を実際に肌で感じることができて良かった。
彼女は孝介に今のことを都合の良いように話し、助けを求めるだろう。
悲劇のヒロインを演じるに違いない。
私は帰ってきた孝介から、どんな仕打ちをされるかわからない。
今の私には、とても心強い味方が居てくれる。
だから、きっと大丈夫。自分の未来のために頑張るって決めたんだ。
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