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決意 8 /開始 加賀宮迅side〜
「昨日のスープの件、美和さんを問い詰めたんだって?仕事なんだから、きちんとやれって。美和さん、泣いてたぞ」
あぁ、やっぱり。
「問い詰めてはない。あなたは私より、美和さんの言ったことを信じるの?」
「はぁ?何言ってんだ、お前」
孝介は今にも手を出しそうな雰囲気だ。落ち着け、私。
孝介のバッグを拾い、リビングへ向かう。
「私は、美和さんを問い詰めたりしてない。彼女を怒ってもいない。ただ、味見はしましたか?って聞いただけよ」
孝介はハッと笑い
「そんなこと言える立場か。お前の料理なんて、クソ不味くて食べれないくせに。自分でもわかるだろ?」
「私は自分の料理が不味いだなんて思っていない。この間だって加賀宮社長に褒めていただいたわ。私の料理が不味くて食べられないなら、カフェメニューの監修なんてできるわけないじゃない?料理が不味い人間に、監修なんて依頼する?」
迅くん、ごめん。名前を使わせてもらっちゃった。
心の中で謝りながらも、孝介の発言に反論することを選択した。
「あぁ!?何度言わせるんだよ。あれは、加賀宮さんが九条グループと関りを持ちたくて、依頼してきたんだ。何をいつまでも勘違いしてるんだよ!」
孝介が数歩私に近づいたと思った瞬間
<バチンッ>
鈍い痛みが頬に走る。
一発殴られた。
痛い、けれど泣いちゃいけない。
「じゃあ、質問を変えるわ。妻である私と、家政婦の美和さん、どっちのことを信じるの?私は、美和さんを責めたりなんかしていない。逆に<孝介さんに愛されてもいない>なんてことを言われたわ。失礼な話じゃない?」
「はっ?お前、今日、本当に頭おかしいぞ。俺がお前なんか信じるわけないだろ」
孝介の本音、もっと教えてもらわなきゃ。
「じゃあ、美和さんのことを信じるの?私のことは愛していないの?」
その瞬間、孝介はリビングのソファを蹴った。
「ウザイな!お前。いい加減にしろよ!気持ち悪いんだよ。お前のことなんて愛してるわけないだろ」
怯むな。
「私はこんなにもあなたのこと、愛してるのに?」
「っ!?なんだよ!もう一回殴られないと、わからないのか?」
もう一度殴られると思い、歯を食いしばったが
「今日のお前、気持ち悪くて、ホント無理だわ。愛しているとか、愛してないとか。お前に愛情なんて最初からあるわけないだろ?今日はもう話しかけるな」
そう言って、孝介は自室に向かった。
彼が部屋に入ったのを確認すると、一気に力が抜けた。
はぁぁぁ。やっぱり怖いな。
でも、ここの角度なら絶対カメラに映っているはず。
孝介の発言も録音されている。
気を抜いた瞬間、先程殴られた頬に痛みを感じるようになった。
「痛い」
頬に触れると熱を感じた。
「冷やそう」
以前孝介に殴られた時は、迅くんがいろいろ手配してくれた。
まだそれほど前のことじゃないのに、懐かしい。
明日は仕事だから、顔腫れなきゃいいけ
ど。
・・・・・・
来客用に借りているマンションに九条孝介の浮気相手である、飯田美和という家政婦を俺は呼び出していた。
俺の家政婦として契約をするためだ。
「すみません。急にお願いすることになって。助かります」
シリウスの社長として、偽りの自分を演じる。
「いえ。でも、どうして私なんですか?」
写真や映像で見たことはあるが、実物を見たのは今日が初めてだった。
孝介は、この女に好意を抱いている。
どこが良いのか俺にはわからないけど。
容姿か?
綺麗だと言われればそうなんだろうけど、特別感は感じない。
「実は僕、家政婦さんを雇ったことがなくて。自分のプライベートな空間に、知らない人を入れるってなんとなく不安だったんですが、最近忙しくて。掃除とかできないのが現状で、信頼できる家政婦さんがいないかなって探していたら、九条社長に紹介してもらったんです。正直、こんなに綺麗な家政婦さんだなんて思いませんでした」
興信所の調査でどこのサービス事業者の家政婦かすでに把握はしていたが、怪しまれないように、九条社長にはチラッと家政婦の話をしておいた。
「そんなこと、ないです」
彼女は俺のお世辞にニコッと笑ってくれた。
家政婦に依頼したい内容を伝える。
本当に住んでいるわけではないため、掃除くらいしかすることはない。
「わかりました。基本的にお掃除をすれば良いんですね」
「はい。お願いします。あっ、あと。本当はいけないことかもしれませんが、僕も孝介さんと同じように、美和さんって呼んでも大丈夫……ですか?」
家政婦は一瞬目を見開いた。
いきなりすぎたか?
本当はもっとゆっくりこの女を落としていくつもりだったけど、時間がない。美月をこれ以上傷つけたくない。孝介も何するかわからないし。
「あっ。はい」
いいのか。
「良かった」
自然と口角が上がった。
「それで、美和さん。もし良かったらの話なんですが、このあと、何か予定とかはありますか?急な依頼を受けてくださったお礼に、食事でもご馳走できたらと思って。個人的な誘いを含んでいるので、美和さんの会社には内密にしてほしいんですが」
これも一種の賭けだな。
普通だったら断るところ、この女はどう出るだろう。
難しいと思ったが、家政婦の目が輝いていくのがわかった。
「あっ。はい。私で良かったら。お仕事だと思って来てしまったので、その……。洋服が……」
「嬉しいです!ありがとうございます。では、ご自宅の最寄り駅まで後ほど迎えに行きますので、気になるようでしたら着替えて来てもらえれば……」
「わかりました」
時間を指定すると、彼女は満面の笑みで部屋を後にした。
「亜蘭。あの女、帰った?」
ふぅと息を吐き、メガネを外し、ネクタイを緩める。
「帰りましたけど。すごい態度の変わりようですね」
「あー。マジ怠い」
自分を落ち着かせるため、目の前の珈琲を一口飲んだ。
「九条孝介、あんな女のどこが良いんだ?一回抱けば、誰でも簡単に落とせそうだけどな」
はぁと亜蘭は溜め息をつき
「汚い言葉、やめてください。それは、あなたみたいなハイスペックな人、だからこそです。いつまでも報われない不倫を続けるより、目の前に現われた容姿も良くて、お金持ちで、妻子もいない男の方に乗り換えたいって思うでしょ?普通。あ、性格は難ありですが。初対面ではわかりませんからね」
「それって、俺のこと褒めてんの?」
はい、と亜蘭は返事をした。
「すぐに終わらせてやる」
「まさか。美月さんの時みたいな強引な方法を使うんじゃないですよね。Love Potionってお酒を飲ませたから、なんたらこうたらって……」
「はっ?あれは美月だから使った方法。好きでもない女の身体なんて、興味ない。触れたくない」
あんな方法じゃなくて、普通の振る舞いだけであの女を落とせる自信がある。
「本当に美月さんに事前に言わなくていいんですか?」
「あぁ」
美月が知ったら反対しそうだから。なんだかんだで優しいし。
<そこまでしなくても……>なんて言いそうだ。
「加賀宮さんが色仕掛けで家政婦を落として、九条孝介との関係を吐かせ、その後は何事もなかったかのように捨てる作戦ですってちゃんと伝えた方が……」
今の亜蘭の言い方、なんか引っかかるな。
「美月にバレたら、俺から説明する。それより美和の情報は?調べてるんだろ。家族構成とか嗜好品とか……」
事前に情報があった方が近づきやすいからな。
「調べてますよ。これ、資料です」
さすが長年の付き合い。仕事のできる秘書がいて良かった。
「さて、どうすっかなー」
資料に目を通す。
早く終わらせて美月を解放してあげたい。
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