58 / 66
それぞれの行方 4
好きでもない女から触られたくない。
自分の虐待が関係しているかもしれないが、女性から触れられるのが嫌だった。
強引に帰そうとしているのに、美和は俺から離れず、部屋から出て行こうとしない。
本当に面倒な女。
はぁと溜め息が零れた。
「実は、この部屋には防犯カメラが設置してあります。客人を招いてパーティーなどをする時もあるので、防犯上の理由です」
「えっ?」
彼女は驚きの声を放ち、俺を掴むことを止めた。
「あなたのことが信頼できる人かどうか、初日と二日目の行動をカメラの映像で確認しました。家政婦としての仕事をしているか確認するためです。あなたはちゃんと仕事はしていました。けど、不自然な行動も映っていたんですが、覚えはありませんか?」
俺がそう問いかけると彼女は
「あっ……。えっと……」
明らかに言葉に詰まった。
「勝手に寝室に入ったり、クローゼットを開けたり。仕事として依頼をしたのは、リビングとキッチン、浴室の掃除だけだったはずですが?他の部屋には入らないようにとお願いしましたよね?」
美和のその行動が実に不快だった。
「そ……れは……。良かれと思って、いろんなところがキレイになれば喜んでもらえるかなって」
「そんなことを勝手にする人なんて、信頼できるわけがない。弁護士に相談して何かの罪に当たらないか映像を提出してもいいんですが。これ以上大事にしたくなかったら、早くこの場から消えてください」
「ッ……!!」
彼女が何をしたかったのかわからない。
金品でも探していたか?もしくは俺の女の影を探っていた?
今はもうそんなことどうでもいい。
エプロンも外さず、彼女は慌てた様子でマンションから出て行った。
…・――――…・―――
あっという間に、迅くんとデート当日になった。
男性とデートって、何年ぶりだろう。
結婚する前に孝介と何回か食事に行ったことはあるけれど。
もうこんなこと二度とないと思っていた。
あぁ、こんなに緊張したっけ?
私が泊っているホテルの前に、迅くんが迎えに来てくれる予定だ。
ソワソワしてしまい、約束の時間より前には外に出て待っていた。
すると――。
一台の見覚えのある車が目の前に止まった。
あっ、迅くんだ。
扉を開け、彼が車から降りた。
いつもと雰囲気が違う。
アイドルとか、俳優さんとか、芸能人みたい。かっこ良い。
なんて思っていると
「お待たせ!さ、どうぞ」
助手席に迅くんが案内してくれた。
「あっ、はい」
あーもう、ドキドキする。顔、赤いかな。
「美月、今日可愛い」
「えっ?」
予想もしていない言葉をかけられた。
さらに頬に熱が帯びる。
「またそんな冗談っ!」
「冗談じゃないけど。俺はいつもそう思ってる。けど、なんか今日は特別」
なによ、それ。何て返事したらいいの。
「迅くんの……。私服、初めて見たかも。いつもと雰囲気違って、カッコ良い」
ボソッと私が呟くと
「はっ?いつもカッコ良いだろ?」
何の迷いもなくそう言い切る彼。
嘘ではないから反論できない。
迅くんのその自信を私にも分けてほしいよ。
これからどこに行くんだろう。
<俺が考えるから>って言われて、彼に全部任せている。
「ここの駐車場に駐めるから」
ここって、大型ショッピングモールの駐車場だ。
車から降り、彼の後ろをついて行く。
「どこに行くの?」
「プラネタリウム。一回来てみたかったんだ」
プラネタリウムか。行ったことない。
でも、なんだかデートっぽい。
いや、デートなんだろうけど。
迅くんは事前にチケットも購入してくれていたみたい。
「ありがとう」
「いえいえ。俺が来たかったっていうのもあるし」
施設の中に入り、シートを探す。
「あっ。ここだ」
迅くんが案内してくれたところは――。
「うぁっ!広い!これってプレミアムシートとかカップルシートってやつ!?」
私が一人だったら絶対に座らないようなシートだ。ソファになってる。
「そう、そんなに驚くなよ。美月。座って?」
迅くんにクスっと笑われた。
「うん」
いざ座ってみると、迅くんとの距離が近い。
薄暗いし、天井はもちろんキレイだし、なんだか雰囲気に呑まれてしまいそう。
チラッと迅くんを見ると、彼も天井を見上げていた。
「俺の会社の名前、シリウスって言うだろ?星の名前から考えたんだ。ベガもそう」
「あっ!そうなんだ」
星の名前だったんだ。
無知で何も知らなかった。
「シリウスは太陽を除けば、地球から見える一番明るい星だって言われてる。ベガも七夕のおりひめ星って言われてて有名な星」
そんな意味があったんだ。
「星の物語は好きで。小学生の時とか、家に帰りたくない時も公園でずっと星を眺めてた。都会の星なんてあまりキレイに見えないけど。それでもずっと見てた。流れ星を見た時に願いを伝えるとそれが叶うって信じてたし。迷信だけどな」
昔を思い出したかのように彼はハハっと笑った。
話を聞いて、私も口元が緩む。
「どうした?ガキっぽいって思った?」
「ううん。私の知らなかった迅くんの話を聞くことができて嬉しくて」
空白の時間を少しずつ埋めていきたい。
今は何も捕らわれるものなどないから。
「そっか。良かった」
星の物語が始まった。
ああ、なんだろう。この非日常的な感じ。音楽も癒されるし。狭くなっていた心が開かれていくような。
一時間ほどの上映だったが、とても短く感じ、不思議と心がスッキリした。
「迅くん、ありがとう。とっても楽しかった。あっと言う間だったね」
そう言ってシートから立ち上がり移動しようとした時ーー。
「あっ!」
足元がふらついてしまい、転んでしまいそうになった。
「大丈夫か?」
迅くんが私の身体を支えてくれた。
自分の虐待が関係しているかもしれないが、女性から触れられるのが嫌だった。
強引に帰そうとしているのに、美和は俺から離れず、部屋から出て行こうとしない。
本当に面倒な女。
はぁと溜め息が零れた。
「実は、この部屋には防犯カメラが設置してあります。客人を招いてパーティーなどをする時もあるので、防犯上の理由です」
「えっ?」
彼女は驚きの声を放ち、俺を掴むことを止めた。
「あなたのことが信頼できる人かどうか、初日と二日目の行動をカメラの映像で確認しました。家政婦としての仕事をしているか確認するためです。あなたはちゃんと仕事はしていました。けど、不自然な行動も映っていたんですが、覚えはありませんか?」
俺がそう問いかけると彼女は
「あっ……。えっと……」
明らかに言葉に詰まった。
「勝手に寝室に入ったり、クローゼットを開けたり。仕事として依頼をしたのは、リビングとキッチン、浴室の掃除だけだったはずですが?他の部屋には入らないようにとお願いしましたよね?」
美和のその行動が実に不快だった。
「そ……れは……。良かれと思って、いろんなところがキレイになれば喜んでもらえるかなって」
「そんなことを勝手にする人なんて、信頼できるわけがない。弁護士に相談して何かの罪に当たらないか映像を提出してもいいんですが。これ以上大事にしたくなかったら、早くこの場から消えてください」
「ッ……!!」
彼女が何をしたかったのかわからない。
金品でも探していたか?もしくは俺の女の影を探っていた?
今はもうそんなことどうでもいい。
エプロンも外さず、彼女は慌てた様子でマンションから出て行った。
…・――――…・―――
あっという間に、迅くんとデート当日になった。
男性とデートって、何年ぶりだろう。
結婚する前に孝介と何回か食事に行ったことはあるけれど。
もうこんなこと二度とないと思っていた。
あぁ、こんなに緊張したっけ?
私が泊っているホテルの前に、迅くんが迎えに来てくれる予定だ。
ソワソワしてしまい、約束の時間より前には外に出て待っていた。
すると――。
一台の見覚えのある車が目の前に止まった。
あっ、迅くんだ。
扉を開け、彼が車から降りた。
いつもと雰囲気が違う。
アイドルとか、俳優さんとか、芸能人みたい。かっこ良い。
なんて思っていると
「お待たせ!さ、どうぞ」
助手席に迅くんが案内してくれた。
「あっ、はい」
あーもう、ドキドキする。顔、赤いかな。
「美月、今日可愛い」
「えっ?」
予想もしていない言葉をかけられた。
さらに頬に熱が帯びる。
「またそんな冗談っ!」
「冗談じゃないけど。俺はいつもそう思ってる。けど、なんか今日は特別」
なによ、それ。何て返事したらいいの。
「迅くんの……。私服、初めて見たかも。いつもと雰囲気違って、カッコ良い」
ボソッと私が呟くと
「はっ?いつもカッコ良いだろ?」
何の迷いもなくそう言い切る彼。
嘘ではないから反論できない。
迅くんのその自信を私にも分けてほしいよ。
これからどこに行くんだろう。
<俺が考えるから>って言われて、彼に全部任せている。
「ここの駐車場に駐めるから」
ここって、大型ショッピングモールの駐車場だ。
車から降り、彼の後ろをついて行く。
「どこに行くの?」
「プラネタリウム。一回来てみたかったんだ」
プラネタリウムか。行ったことない。
でも、なんだかデートっぽい。
いや、デートなんだろうけど。
迅くんは事前にチケットも購入してくれていたみたい。
「ありがとう」
「いえいえ。俺が来たかったっていうのもあるし」
施設の中に入り、シートを探す。
「あっ。ここだ」
迅くんが案内してくれたところは――。
「うぁっ!広い!これってプレミアムシートとかカップルシートってやつ!?」
私が一人だったら絶対に座らないようなシートだ。ソファになってる。
「そう、そんなに驚くなよ。美月。座って?」
迅くんにクスっと笑われた。
「うん」
いざ座ってみると、迅くんとの距離が近い。
薄暗いし、天井はもちろんキレイだし、なんだか雰囲気に呑まれてしまいそう。
チラッと迅くんを見ると、彼も天井を見上げていた。
「俺の会社の名前、シリウスって言うだろ?星の名前から考えたんだ。ベガもそう」
「あっ!そうなんだ」
星の名前だったんだ。
無知で何も知らなかった。
「シリウスは太陽を除けば、地球から見える一番明るい星だって言われてる。ベガも七夕のおりひめ星って言われてて有名な星」
そんな意味があったんだ。
「星の物語は好きで。小学生の時とか、家に帰りたくない時も公園でずっと星を眺めてた。都会の星なんてあまりキレイに見えないけど。それでもずっと見てた。流れ星を見た時に願いを伝えるとそれが叶うって信じてたし。迷信だけどな」
昔を思い出したかのように彼はハハっと笑った。
話を聞いて、私も口元が緩む。
「どうした?ガキっぽいって思った?」
「ううん。私の知らなかった迅くんの話を聞くことができて嬉しくて」
空白の時間を少しずつ埋めていきたい。
今は何も捕らわれるものなどないから。
「そっか。良かった」
星の物語が始まった。
ああ、なんだろう。この非日常的な感じ。音楽も癒されるし。狭くなっていた心が開かれていくような。
一時間ほどの上映だったが、とても短く感じ、不思議と心がスッキリした。
「迅くん、ありがとう。とっても楽しかった。あっと言う間だったね」
そう言ってシートから立ち上がり移動しようとした時ーー。
「あっ!」
足元がふらついてしまい、転んでしまいそうになった。
「大丈夫か?」
迅くんが私の身体を支えてくれた。
あなたにおすすめの小説
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す
花里 美佐
恋愛
榊原財閥に勤める香月菜々は日傘専務の秘書をしていた。
専務は御曹司の元上司。
その専務が社内政争に巻き込まれ退任。
菜々は同じ秘書の彼氏にもフラれてしまう。
居場所がなくなった彼女は退職を希望したが
支社への転勤(左遷)を命じられてしまう。
ところが、ようやく落ち着いた彼女の元に
海外にいたはずの御曹司が現れて?!
俺様上司に今宵も激しく求められる。
藤白ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?
4番目の許婚候補
富樫 聖夜
恋愛
愛美は家出をした従姉妹の舞の代わりに結婚することになるかも、と突然告げられた。どうも昔からの約束で従姉妹の中から誰かが嫁に行かないといけないらしい。順番からいえば4番目の許婚候補なので、よもや自分に回ってくることはないと安堵した愛美だったが、偶然にも就職先は例の許婚がいる会社。所属部署も同じになってしまい、何だかいろいろバレないようにヒヤヒヤする日々を送るハメになる。おまけに関わらないように距離を置いて接していたのに例の許婚――佐伯彰人――がどういうわけか愛美に大接近。4番目の許婚候補だってバレた!? それとも――? ラブコメです。――――アルファポリス様より書籍化されました。本編削除済みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン