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ヤクザ警察発足⑥

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 馬車に揺られ、私は肘掛に頬杖をつく。

 日課の見回りを終え、そろそろ街に出て見識を広めたいと思ったところ、金が欲しいとも思った次第だ。
 ATM、もといアデ先生を手紙で呼びつけ、私とアリスを連れて街の案内をするように命令をした。
 そうしたら、アデ先生は馬車に乗ってやって来たのだ。

「うひゃあ。こんな幼女の二人とデートだなんて興奮してたまりませんぞわー!」

「なんですかこの人は?」

「ああ。この人はそういう人なんだ」

 馬車の後ろでアリスと一緒に私は街の様子を眺めていた。取り乱したアデ先生の様子にアリスが驚いていたが、軽く流した。


「しっかし、二人とも可愛いね! アーシャちゃんはその黒い服似合ってるし! お姉さん今日は興奮して眠れないよー!」

「全く、ロリコンということがバレてからというもの、包み隠さなくなったな」

「当たり前でしょ! 隠しても隠さなくても同じく致命傷になるんだから!」


 アデ先生は眼鏡が曇るほど鼻息を荒くしていて、私は顔を引きつらせていた。アリスはまだロリコンというものの生態が良く分かっていないらしく、何も気にした様子は無かった。


「ちなみに、私に毒牙をかけるのはまだいいが、アリスに手を出したら腕の一本ではすまさんぞ。心臓を抉りだしてやる」

「あれれー? もしかして、アーシャちゃん。私におっぱい弄られて癖になっちゃったのー?」

「うるさいぞ! 黙れ!」

「うひゃひゃひゃひゃ!」


 私が怒鳴るたびに、アデ先生は興奮の雄たけびを上げる。この調子だと、この人が気の狂った人間として知れ渡るのは時間の問題だろう。
 ATMのこいつには長く働いてもらわないと困るのだ。こんなところで捕まってもらってはこちらが困る。


「さっそくだがアデ先生。ノートにペンを買ってもらいたい」

「了解っす。幼女のためならなんでもするっすよ! ついでに入学のための教科書や教材も買っておきましょう!」


 魔法学校指定の雑貨屋で教材を揃える。服は身長が伸びるから入学前あたりに買うことにしたが、教材だけでも大きな荷物となった。無論、私は持つ気など無い。アデ先生に持たせて、次は私とアリスの服を買わせることにした。

 重さで死にそうな顔をしているアデ先生を横目にアリスとおしゃべりをする。


「これも良いだろう。この服をベースに作り変えれば私好みになるはずだ」

「アーシャ様。よく似合っていますよ!」

「ひぃ……。ふぅ……。みぃ……」

 アデ先生は思った以上に出費が重なったらしく、財布の中身を見て悲しい顔をしていた。


「いい加減泣くのを止めろ。うっとうしい!」

「そんなこといったって……」

「はあ……。仕方ない……。今日は付き合わせたのだから褒美もくれてやらなければな。キスをしてやるから、それで元気を出せ」

「無理。おっぱいも揉ませてくれないと元気でない……」

「こんな絶壁の乳のどこが良いのか全く分からんが……、上手にしてくれよ……。それと、アリスの前では無しだ。分かったな?」


 私がそう言うと、変態教師は途端に元気を取り戻しやがった。

 私の中身が大人であるからいいものの、アリスに手を出せば完全な児童虐待だ。

 しかし、この胸を触られるのも少し癖になってきているのも確かだ。男であった私も、この年頃では既に性欲に目覚めつつあった。私の体も早くに生理がくるのかもしれないな。
 生理が辛いとはよく聞くが、ナプキンなども先に用意しておいた方が良いのだろうか? なんだか自分の体のことながら考えることが多くて嫌気がさすな。

 アリスに隠れてひとしきりアデ先生に胸を弄らせていると、とっくに昼を過ぎていた。ふくれっ面のアリスを宥めてレストランに入り、好きなだけ食事を注文させることでご機嫌をとろうとした。


「あーこんな可愛い幼女たちとデートだなんて最高っすわ! アーシャちゃんも、お姉さんのこと好きになっちゃったんじゃないのお?」

「お前が男だったら問答無用で潰していたが、生憎とお前は女だからな、そう強くは言えん。だが、少しづつ上手くなってきているではないか。私も久しぶりに満足できたよ。私に永遠の忠誠を誓うのであれば、またデートを考えてやらんこともない」

「オナシャス! 奴隷にでもなんにでもなります!」


 それはもう見事なジャンピング土下座だった。性欲に正直になると、こうも人は動きが洗礼されていくのかと、錯覚さえ覚えた。


「覚えておけ。これは取引なんだよ。児童虐待に当たるようなことをしてみろ、その腹を掻っ捌いてやるからな」

「分かっております!」

「なら、今日からお前は私の奴隷だ。私に一生の忠誠を尽くせよ」


 私が蔑んだ視線を送るほど、アデ先生が惚けた顔をする。


「あのアーシャ様」

「なんだ?」


 アリスが私の袖を引っ張っていた。


「私も学校に通いたいです」

「そうだな。そうしてあげたいが、どうやら難しいようだ」


 私がそう言ってアデ先生に目を配らせると、気まずそうに俯いた。


「そうね……。さすがに二人を学校に入れるのは、ちょっと厳しいかな……」

「そうですか……」


 アリスが寂しそうな顔をする。


「私が金を稼げるようになったら学校に通わせてやる。卒業したら同じ仕事に就こう」

「私でもアーシャ様のお役に立てますか?」

「きっと立てるさ。学校に通うまでの間、二人で教科書を読んで勉強をしよう。そしたらすぐに学校だって卒業できるさ」

「じゃあ、今日は帰ったら早速お勉強ですね!」

「ああそうだな」


 アリスが銀髪を揺らして楽しそうに笑う。私の体が男だったらどんなによかったことか。私は彼女に恋をしてしまっている。
 アリスの、この幼い女の子特有の丸々とした顔立ちには、私でさえも、息を飲んでしまう。まるで、童話の中からとびだしてきかのような、キラキラとした笑顔がいつも張り付いている。

 ぜひとも私のものしたい。

 だが、私が女である以上、結婚も子供も望めないのだ。それならばせめて、私の手もとで愛でていたい。

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