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召喚術師アレクサンダーの物語③
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彼はじっと天井を見つめる。起きた時、体中に纏わりつく汗の感覚に不快感を感じて、息を切らす。
「ハァ……。はあッ……。なにがあった……?」
「誠に申し上げにくいのですが、あなたは重度の精神病に悩ませられているようです」
彼の生徒であるアーシャが、隣に座ってメモを走らせながらそう言った。
「重度の精神病だと?」
「はい。病名は解離性健忘症。あなたの精神の状態は一般的には多重人格と言われるものです」
「多重人格? なんだそれは? そもそも私は病気なのか?」
「心の病です。そして、治すことは可能ですが、そうなれば苦しみに耐えかねてあなたは死んでしまうかもしれません」
「そんなに重度なのか? 冗談で言うものじゃないぞ」
「冗談などではありません。聞いたところ、あなたには情状酌量の余地が十分にあります。あなたは幼いころ、母親から虐待を受けていました。それが原因となって人格が分裂するようになったのです」
「馬鹿馬鹿しい。虐待など」
「あなたには現在5人の人格が存在するようです。2人までは確認ができていますが、残りが姿を現そうとはしません。そのため治療はまだ難しい状態ですが、罪を認めて出頭するのであれば、私があなたの罰を軽くしてみせましょう」
「罪だの罰だの訳のわからないことを」
「もし仮に、召喚魔術の触媒として人間を用いた場合、元に戻すことは可能ですか?」
「何を言っているかは分からないが、そんなことは不可能だ。肉体を作り変えているのだからな。しかし、さらに肉体を作り直せば可能かもしれない」
「では、まず、その方法を見つけてください。いずれ、すぐに私が警察のトップに立ちますので、あなたに対する刑を軽くしてみせます。私はあなたに同情をしているのです。虐待を受けた状態でまともな思考などできるはずもありませんし、そのような状態で責任能力などあるわけがないのです。道を踏み間違えても当然であると判断します。しかし、人の命を奪っていることは変わりはありません。これが刑罰のジレンマですね」
「話がこんがらがってきたが私はどうすれば良いんだ?」
「私があなたの人格を一つに統合します。あなたの作り上げた人格は、決して他人などではなく、自分自身のものです。そこをまず認めさせます」
「どうやって?」
「あなたの人格全てと会話をします。また横になってください。催眠も解け切らない状態で動いているのですからボーっとするでしょう? 全てが終わってから催眠を解きます」
「いや、その必要は無い。これから授業がある」
「それでも、どのみち催眠は解かなくてはなりません。横になってください。すぐに済みますから」
「分かった」
確かにアーシャに言われる通り、彼の頭はボーっとしていた。話を半信半疑で聞きながらも、妙な説得力を感じていたのはそのせいだろう。更に言えば、彼女の知識が他と群を抜いていることにもある。
しかし、アーシャは重大なミスを犯していた。全ての人格を束ねているのはオリジナルの人格ではないのだ。
そのため、五つの人格を一つに統合するなど不可能なのだ。
私が全ての人格をそそのかし、間違った方向に進ませている。
そう彼の語り手であるこの私だ。この私こそが全ての人格をそそのかせている犯人なのだ。
「ハァ……。はあッ……。なにがあった……?」
「誠に申し上げにくいのですが、あなたは重度の精神病に悩ませられているようです」
彼の生徒であるアーシャが、隣に座ってメモを走らせながらそう言った。
「重度の精神病だと?」
「はい。病名は解離性健忘症。あなたの精神の状態は一般的には多重人格と言われるものです」
「多重人格? なんだそれは? そもそも私は病気なのか?」
「心の病です。そして、治すことは可能ですが、そうなれば苦しみに耐えかねてあなたは死んでしまうかもしれません」
「そんなに重度なのか? 冗談で言うものじゃないぞ」
「冗談などではありません。聞いたところ、あなたには情状酌量の余地が十分にあります。あなたは幼いころ、母親から虐待を受けていました。それが原因となって人格が分裂するようになったのです」
「馬鹿馬鹿しい。虐待など」
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「罪だの罰だの訳のわからないことを」
「もし仮に、召喚魔術の触媒として人間を用いた場合、元に戻すことは可能ですか?」
「何を言っているかは分からないが、そんなことは不可能だ。肉体を作り変えているのだからな。しかし、さらに肉体を作り直せば可能かもしれない」
「では、まず、その方法を見つけてください。いずれ、すぐに私が警察のトップに立ちますので、あなたに対する刑を軽くしてみせます。私はあなたに同情をしているのです。虐待を受けた状態でまともな思考などできるはずもありませんし、そのような状態で責任能力などあるわけがないのです。道を踏み間違えても当然であると判断します。しかし、人の命を奪っていることは変わりはありません。これが刑罰のジレンマですね」
「話がこんがらがってきたが私はどうすれば良いんだ?」
「私があなたの人格を一つに統合します。あなたの作り上げた人格は、決して他人などではなく、自分自身のものです。そこをまず認めさせます」
「どうやって?」
「あなたの人格全てと会話をします。また横になってください。催眠も解け切らない状態で動いているのですからボーっとするでしょう? 全てが終わってから催眠を解きます」
「いや、その必要は無い。これから授業がある」
「それでも、どのみち催眠は解かなくてはなりません。横になってください。すぐに済みますから」
「分かった」
確かにアーシャに言われる通り、彼の頭はボーっとしていた。話を半信半疑で聞きながらも、妙な説得力を感じていたのはそのせいだろう。更に言えば、彼女の知識が他と群を抜いていることにもある。
しかし、アーシャは重大なミスを犯していた。全ての人格を束ねているのはオリジナルの人格ではないのだ。
そのため、五つの人格を一つに統合するなど不可能なのだ。
私が全ての人格をそそのかし、間違った方向に進ませている。
そう彼の語り手であるこの私だ。この私こそが全ての人格をそそのかせている犯人なのだ。
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