ヤクザ警察アーシャちゃん 異世界に転生したらやりたい放題

竹丈岳

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ヤクザ警察24時⑨

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 日曜日の夜の9時。下水を通り、私は見張りの前に立つ。

 腐ったような甘い臭いと体液の臭いにやられ、頭が痛みを訴えてくるが準備は万端だった。

 召喚魔法陣のスクロールを見張りに押し付けて発動し、そのまま触媒にして小鳥に変える。

 そうして現れた小鳥を下水周りに放ち、監視の役目を負ってもらうことにした。

 それから十数分は待っただろうか? 
 ようやくやって来た私の部下の一人に変身の魔法をかけ、見張りに変装させ、簡単な手はずを教える。

 私は中へ入ると、迅速にスクロールを置いていき、召喚獣を待機させた。

 そうして待っていると、一時間は経っただろうか? エイジャックスたちに連れられ、ようやくやじ馬たちが到着した。

 私も群れに混ざり、偽物の見張りから招待客リストを奪い取る。

 次に声を大きくして警察の長官が関係していると叫ぶ。

 私の言葉に群衆が騒ぎ出し、中へ入ったところで乱交の現場を目撃し、今まで騒いでいたやじ馬たちも言葉を失う。
 私らのことなんか目もくれずに行為に勤しむ肉の海を掻き分け、主催者の仮面を剥ぎ取る。

「コイツ! 警察の長官だぞ!」

 その一言で、群衆たちは私の言葉を信じ始めた。

 警察の長官は事の大きさに気付いたのか、一目散に逃げだそうとするが、逃げ場を失ってたじろいでいる。

 大砲の傍には囚われた妊婦や男女の子どもたち。妊婦たちの助けを求める声を聞いて誰もが怒りに震えた。

 たとえ、女性の地位が低くとも、さすがに殺しとなると話は別なようだ。当たり前の話だがな。

 一部のパーティー参加者は、私たちの登場に気付いて慌てているが、多くは悪魔の像の周りで未だに行為に勤しんでいる。

 私はエイジャックスの耳元に口を近付ける。
 やましい気持ちはあるのだが、相手が未成年者だから簡単に手を出すことができないのが悔しい。

「エイジャックス。私の部下を連れて先に家に帰れ、乱闘を起こす」

「分かった」

 警察の長官を組み敷いて、召喚獣の透明化を一気に解除する。

「さあ、制裁の時間だ!」

 私の召喚獣である武者たちが、次々に裸の男女を襲い始める。
 その一方で、個人的な趣味により、主催者の顔を腫れあがるまで殴りつけている私は、更にこのパーティーについて問いただす。

「さあ、観念しろ。もう逃げ場はないぞ。知っていること全部、洗いざらい話すんだな」

「何を話せと言うのだ!?」

「お前らの悪行全部だ!」

 そうして私が金玉を握りつぶそうとすると、青ざめた顔で口を開いた。

「分かったから乱暴にしないでくれ!」

 助けを求める汚い面に、嫌悪と同時に親近感も沸いてしまうが、そんなことよりも先に、手が動いてしまう。
 青ざめた長官は、金玉を潰された痛みに悶えている。

「現れよ!」

 とっさの奇襲に先制し、武者を召喚し、屈強な体つきの大男に斬りかからせる。

 が、すんでのところで避けられてしまい。傷一つ負わせられなかった。

 私は更に武者を召喚し、3体で囲む。

 いくら、屈強な体つきとはいえ、囲まれてしまえば手も足も出ないようだ。背中からの一突きにより、いとも簡単に床に沈んだ。

 回りを見回しても、招待客は、一方的に武者に殴られているだけで、大した魔法を使おうにも、避けられて、周りに被害が延びている。

 幸いにも、野次馬たちはこの惨状に手をつけようとは思っていないようで、遠目から眺めているだけで被害は被っていないようだ。


 計画は順調、私は成功を確信していた。
 だが、どこからともなく現れた暗雲が、武者を持ち上げ絞め殺した。

「契約。確かに承ったぞ。キサマの生きたいと言う望み、全て叶えてやろう」

 暗雲の中から表れたのは、髭面の人面だった。そののっぺりとした顔には立体感などがなく、照らされた光のように床や壁を這っているようだ。
 
 武者が成すすべもなく潰された。死ぬ間際の必死の叫びを上げ、召喚が解除された。

「おお! ようやく来ましたか! 悪魔ベルフェゴール様!」

 満身創痍であったはずの長官が、魔法で傷を癒して悪魔の前で跪く。

「やはり悪魔が現れたか」

 武者が手を出せないとなると、私も奥手を出すしかない。
 
 召喚のスクロールを広げ、不浄の水を巻く。

 途端に、私のありったけの魔力を抱え込んだ魔法陣が赤く光だした。

 喪服の姿をした、今にも解れそうなドレスを着た女性が、魔法陣の中から姿を現した。

 悪魔ベルフェゴールが、武者だけでなく、パーティーの参加者たちでさえも、ガスで巻き上げとって食らっている。


「頼む! あの悪魔と戦ってくれ!」


 しかし、私の言葉にため息をつく。


「魔力は立派なものではあるが、実力はないようだな。取引であれば応じよう」

「私は何を差し出せばいい!?」

 この事態においても退屈なのか、ゆっくりと喋る姿に、私は反感を抱きそうになりそうになる。

「知識をえよ。使われるものの身としては主人が愚者では示しがつかない」

「分かった! いくらでも知識を手に入れてやる! だから早くしてけれ!」

「ならば、この時だけ力を貸そう」

 紫と黒を基調とした、床に引きづるほどの長いドレスを魔力か何かで浮かせ、召喚獣である彼女は長い杖を振るう。

 すると、ベルフェーゴールという悪魔は瞬く間に光に追いやられて消えていった。

「さすがだ! 私のありったけの魔力を込めただけのことはある! ありがとう!」

「格が違いすぎたな。では、落ち着いたら私を呼べ。半人前のお前に知恵を授けねば、使役される私も恥ずかしいというもの。召喚の契約はここで終わりだ」

 そうして、彼女は消える。
 消える際の彼女の脚に、スカートの隙間から4という数字が見えた。

 残された私に向けて、今度は裸の男女たちが、一斉に私に向けて魔力を放つ。
 私は床から木々を生やし身を守ろうと壁を作るが、そうした中、上にあったシャンデリアが落ちてきて、周りの注意が逸れた。

「逃げるぞ!」

「逃げる? なぜだ?」

 上から飛び降りてきたエイジャックスが私の腕を掴んで引っ張る。

「この暴動を鎮圧しようと警察が動き出したんだ!」

「なるほどな。しかし、なぜここへきた? 自分の命を優先しろと言っただろ?」

「俺はお前のボディーガードなんだろ!? 守るために来たんだ!」

 エイジャックスが必死そうな顔をしている。そんなことで、私はつい笑ってしまった。

「ははっ。確かにボディガードとは言ったが、あれは君のことではないんだ。すまないね。召喚獣のことなんだ」

「はあ!? ふざけんな!! こっちは必死で来たって言うのに!!」

「分かった、分かった。すまないな。ところで、私のために来てくれたんだろ? また惚れてしまったよ」

「適当なことばっかり言わないでくれ!!」

「いーや。こればかりは本当だ。まだ16の少年に手を出すなんて気が引けるが、私は君のことが好きだし愛してる」

「お前! アデレードさんはどうするんだよ!?」

「そうなんだよ。残念ながら私は性欲が強くてね、一人に満足ができないんだ。だから、裏切りたくなくて実際には君にも手を出すことはない。しかし、この気持ちだけは本物だ。私は君のことが大好きだ」

「どうせ顔で選んだだけだろ!?」

「さあてね。どうだかな? すまないが、私はまだここで残って事態を大きくしなければならない。君は早く帰りなさい」

「くそっ! せっかく来たって言うのに!」

 苛立って不満をぶつけるエイジャックスに、私は思わず顔を掴んで頬にキスをする。

 すると、顔を真っ赤にして、エイジャックスは頬を拭う。

「ばっ! ばか! なにやってんだ!」

「早く行け。ここは私で十分だ」


 一帯を重力場で押しつぶし、大将の頭を掴み上げる。

「さて、尋問は続くぞ」

「さっきの話を聞いてただろ! 警察が助けにくるぞ!」

「もう終わりですよ。次の手も考えてあります。このことは世間に大きく広まるでしょう。フェイクニュースであろうとも民衆は誹謗中傷が大好きなのです。私の計画通りに警察という組織は完全に信用を無くします。警察なんて大した存在なんかじゃない」

 何も言わない肉だるまの下半身の一部を指先で押しつぶすと、青ざめた顔をしてまた転げまわった。

「わかった言うから!」

 話しながらも長官はゲーゲーと嘔吐を繰り返し、辺りに酸っぱい臭いが広がる。
 両方の玉も失って男ですらないのに、必死なものだから、私は笑って腹を蹴り上げる。

 無理やり立たせ、偽造した招待客リストを掲げると、私は声を大きくした。

 政治家たちの名前が次々に上がり、暴動はさらに加速していく。

 野次馬たちも暴力に及んでいるようだ。

 ようやく到着した警察は群衆を掻き分けて長官を助け出そうとする。そんな中、下水に放っておいた召喚獣の一羽を長官の監視に割り当てる。

「あいつを逮捕しろ……」

 長官がそう言って私を指さす。警官は何も言わずに私を拘束しようと手錠を取り出した。

「さて、私を捕まえられるかな?」

 魔法を使い、私は姿を消し、1人で家へと帰る。
 
 警察は未だ私の跡を追っているようだが、見つけられるわけがない。私の透過の魔法は完璧だ。



 帰り着くと、マーラが一目散に駆けてきた。

 私はマーラの相手をしつつ、アデ先生と話をしようとする。
 アデ先生はテーブルに向いたまま、私と向き合おうとはしない。
 しかし、一方で私に頭を撫でられながら、マーラは楽しそうに笑っている。

「ただいま」

「……」

「何か気に障ったようだな。すまない」

「ねえ、本当にそんなこと続けてて大丈夫なの?」

「大丈夫とは言えないが、やっていて楽しいな」

「死んだらそれで終わりなんだよ?」

「それでもかまわないさ。私は自分を変えたいんだ。そのためならなんだってする」

 私がそう言うと、アデ先生はおもむろに立ち上がって私の目を真剣に見た。

「わかった。応援はするから」

「ありがとうな。さて、明日も早い。朝食は私が作っておくよ。今日はもう寝る」

「分かった」




 
 
 
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