ヤクザ警察アーシャちゃん 異世界に転生したらやりたい放題

竹丈岳

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アデ先生とのデート

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 ようやく仕事を終えた次の朝。

 日差しを受け、眩しさから目を覚ます。忙しさに追われた気持ちで起きると、ふと、今日は土曜日の休日だということ気がつく。


 寝ぼけた目をこすり、顔を洗うと、朝食の準備を始める。

 椅子に立ち、フライパンの上に卵を割り、オムレツを焼いていく。

 並行して食パンも焼いていると、香ばしい匂いに連れられ、アデ先生がようやく目を覚ましてきた。

「おはよーアーシャちゃん」

「抱き着かないでくれ。危ないぞ」

「わかったあ」

 大皿にオムレツと、ついでに焼いたソーセージを盛りつけ、トースターから食パンを取り出す。

「なあ、最近、忙しくて構っていられなかったから、今日はデートでもどうかと思うんだがどうた?」

 私がそう聞くと、アデ先生の顔がみるみるうちに乙女の顔になる。

「その前にちゅーしても良い?」

「仕方ない。最近は一宿一飯の恩も返せていないしな」

「やったあ」

 アデ先生に顔を持ち上げられ、長めのキスをする。
 舌を入れられるが、随分と上手くなったものだ。

「ところで、一宿一飯の恩なんかでキスまでさせる? ふつう?」

「……」

 まあ、相手くらいは選ぶさ。

「ご飯食べたらどうする?」

「分かった。ところで本屋に寄ってもいいか? 金本もあるし、知識が欲しいんだ」

「いいけど、アーシャちゃんって本当に勉強熱心だよね」

「知識が多ければやれることも増えるからな。金は教養に使うべきだ。それと、最近、もう一つ財布を増やしたんだ。金の心配はもう必要ない」

「ああ……、アレクサンダー先生ね……」


 寝間着から着替えて外に繰り出す。
 時折、女性を物としか見ていない男が寄ってくるが、人目の付かない路地へと誘拐され逆にボコボコにすること十数回。

「全くこの手の男は本当に面倒くさいな」

「はは……、アーシャちゃんって本当に強いのね……」

 やはり、早急に女性の地位は上げねばなるまい。
 血に染まった手を、魔法で作り出した水で洗っていると、既に家を出てから2時間も過ぎていた。

 ようやく本屋に入ると、日焼けをした古本の甘い匂いを微かに感じることができた。

 どうやら、あまり売れていないようだな。

 これはまあ、個人的な好みなのだが、私は日焼けした古本の匂いが大好きで、古本屋によく通っていた。そう言っても、周りの理解はあまり得られなかったが。私には子の匂いにすごく馴染みがある。

「何を呼んでいるの?」

「悪魔に関する本だ。どれも強力な個体ばかりだ。とても興味深い」

「でも、悪魔と契約すると、一年後には魂をとられちゃうからやっちゃ駄目よ」

「一年ごときの契約とはな。それでは代償がデカすぎる」

「でも、人それぞれ契約する理由はあるからね。アーシャちゃんも何か辛いことがあったら悪魔と契約する前に私とかに相談するのよ?」

「ありがとうな。私も性欲がそこまで強くなければ誰かと、幸せになれたかもな……」

 そんな感傷にひたる私をアデ先生が包み込んでくれる。性癖が異常なのを除いて、この人は本当に優しい人なのだろう。

「うひょー! 物憂げなアーシャちゃんもかあいいですぞー!」

 前言撤回。ただの発作のようだ。

「お前は本当に残念な奴だな……」

「アーシャちゃん! 今日はホテルに泊まろうか!?」

「ええい! 離れろ! 私はそんな安い女ではないわ!」

「ちゃんとおっぱいも弄ってあげるから!」

「なっ……! こんな人前で何馬鹿なことを言っているんだ! この馬鹿!」

 アデ先生を殴り倒して地面に突っ伏させた後、私は荒れた呼吸を整えてまた本を選んでを始める。

―――――――

 “悪魔という存在は十戒を破り続ける者の前に現れる。”
 “契約者の願いを聞き届け、一年間の願いと引き換えに契約者の魂を持ち去ることになる。”
 “しかし、背徳感からただ崇拝する者も多く、この世界の神に背く最大の禁忌とされている。”

 “悪魔の力は日神級の魔術師と同等かそれ以上とされており、対峙すること自体にかなりの危険を伴う。”
 “悪魔との性行為に及ぶことにより、女性は強大な魔力を得ることができ、世界を混乱させたことがある。それが第一次魔女狩り大戦であり、今の女性の地位が低くなったことの原因だ。”

 “女性を完全な管理下に置くことは、相対的に地位を下げることになり、憎悪の対象としても見ることにもなった。これらによって女性差別が始まった。”

―――――――。
 


 なるほどな。女性に対する差別は能力の低さではなく、魔女として見られていたことが原因なのか。女性を支配下に置き続けることにより、勘違いした男どもが女性の能力を下に見るようになったと。
 差別を無くすにしても複雑なようだな。
 普通、抑圧された環境下の方が反発も大きく魔女も増えそうな気がするのだが、もしかしたら、魔女というものは実は非常に多いのだろう。


 今度は魔女狩り大戦の本を取ることにした。



―――――――


 “魔女狩り大戦とは、悪魔の魔力を持つ魔女という女性が引き起こした戦争である。その思想も目的も未だに不明であるが、多くは憎悪の対象として見られている。”
 “魔女狩り大戦により、数ある小国が地図上から姿を消し、これが第2第3の魔女狩り大戦へと続いた。”
 “魔女に対抗するために同盟国が生まれた第1次魔女狩り大戦において、小規模な戦争においても参戦する理由が各国に生まれ、大国を巻き込んだ大規模な同盟戦争へと繋がった。”
 “戦争が長期化し、総力戦に突入した各国は、安価に戦力を増強するため、国家主導の元、魔女の増産が計画が進められた。これが第二次魔女狩り大戦に続く。”

 “魔女の能力はすさまじく、敵対象に強烈な爆発を起こし、辺り一帯を死の灰というもので埋め尽くすことによって敵味方の魔力を封じる。”
 “しかし、魔女の恐ろしいところはそれだけではない。死の灰の降り注ぐ場所では全ての生き物が汚染を受け、奇怪な病気に侵されて死んでしまう。”
 “治療法は未だ確立されておらず、防御手段も判明していない。”

 “第1次魔女狩り大戦においては、魔女に対抗するために魔女を使うことで終戦を迎えることができた。
 しかし、各国で生まれた魔女達は、いずれも迫害を受けて東に流れ、国を建国し、祖国を取り戻すための戦争と称して、大規模な戦争を再度始めた。”

 “第二次魔女狩り大戦によって世界の人口は大きく減少し、一時は推定、500万人を下回った。第三次魔女狩り大戦によって世界の魔女は全て殲滅。最後の魔女が死滅したことにより、第三次魔女狩り大戦は幕を閉じた。”
 “それからの世界は二度と魔女を生み出さないという目的のため、悪魔崇拝を世界に対する最大の裏切りとし、全ての女性を制御するため、女性から人権を剥奪することを徹底した。”

―――――――。

 私は本を閉じた。まあ、事情というものもあるのだろうが、同じ女性の身としては苛立ちを抑える方が難しかった。

「アーシャちゃん。なに難しそうな顔をしているの?」

「魔女狩り大戦について調べていてな。少々苛立っていた」

「まあ、仕方ないよ。そうしないと世界が壊れちゃうからね」

「気分転換だ。次はどこへ行くつもりだ?」

「演劇でもどうかしら?」

「構わないよ」

 男性の列とは別に女性の列がある。どんなに並ぼうが、時間がギリギリだろうが、男性がくれば女性は譲らねばならない。

 そうして待っていると2回目の公演も逃してしまった。

「なあ、あいつら殺したくないか?」

「まあ、そのうち慣れるって」

「どうして慣れる必要があるのか。魔女と私たちは何も関係がないだろ」

「でも、この世界はそう言うものだからね」

「ったく、世界はどこまでも腐っているな」

 お昼ご飯を挟んで3回目の公演をようやく見ることができた。
 しかし、劇の内容は身分差から駆け落ちをした男女の話だった。アデ先生は熱心に見ていたが、私は面白くなかった。
 
 アデ先生と話を合わせるためにもところどころ見てはいたが、やはり私の年では眠気の方が勝ってしまうのか。
 アデ先生に起こされた時には既に話が終わっていた。

「アーシャちゃんよく眠ってたね」

 アデ先生がそう言ってクスクスと笑う。

「すまないな。眠ってしまった」

「アーシャちゃんの寝顔が可愛かったから全然良いよ」

 演劇の帰り道、露天を見て回っていると、銀色の髪飾りを見つけた。

「先生。これを見てどう思う?」

「うーん、アーシャちゃんなら、もっと目立つ髪飾りが良いと思うよ? アーシャちゃんの魅力に髪飾りの方が負けてると思うし」

「あっ、いや、アデ先生にどうかと思ってな」

「そうねえ。それも良いけど、私はそれよりも、蜂と蝶のどっちのペンダントが良いか迷っているんだけど、どっちがいい?」

「蜂では攻撃的な印象がある。先生なら蝶の方が似合うだろう」

「たしかにそうね」

 露天に金貨を渡し、釣りは要らないと言うが、店主は固まって何も言えていなかった。

「今日は日ごろの感謝としてそのペンダントを買ってやる」

「嬉しいけれど、本当は悪いお金は使っちゃだめよ……」

 慌てて耳打ちをしてくるアデ先生の態度を見て、私はついほくそ笑む。

「これは奴から奪い取った金ではない。ちゃんと働いて得た金だ。心配するな」

「そう……。本当に?」

「本当さ。私は今やこの国の長官みたいだからな」

 買い物を終えてもアデ先生が不安そうにしているものだから、私の普段の行いの悪さが身に染みて分かる。したくもない反省もしそうになってしまった。






 
 
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