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喧嘩大好きヤクザ警察アーシャちゃん。王様にも突っかかる。
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さて、まずはここで地政学の話をしなければならない。
現在、私の住処としているこの国は、第二次魔女狩り大戦の結果、領土の多くを維持できずに手放し、国力を大きく下げている。
次の大戦が起きた場合、蹂躙されるだけの国となってしまっているのが現状のようだ。
三つの陣営に挟まれたこの国は、資源に乏しく、貿易が止められてしまえば国営自体が立ち行かなくなる。
東には、経済と軍事を両立させた超大国、自由マクロンがあり、西の方には圧倒的な陸軍兵力と土地を持つ国粋ペイロードがある。
ちなみに、説明をしておくと、自由マクロンは魔女が立ち上げた国であるが、今は魔女はいない。
南方には国粋派と全体主義派で分裂しつつあるコロンボがあり、さらに進んだ南方には全体主義派の親玉のバロン国がある。
我が国は現在、この三つの強大な陣営に睨まれている形であり、大戦が起きれば、確実に私たちはどちらかの国の陣営に所属するようになる。でなければ、亡命先も失ってしまう。
我が国は軍事力が弱く、どちらの陣営に入ろうとも確実に防衛は不可能である。
そんな状況下で、私の政策で外貨を稼ぎ、軍事費に充てられる資金も大きく増えた。
王の話しは、私に戦争の資金を調達せよから始まった。
「失礼します。何か御用ですか?」
「そんなに堅苦しくしなくて良い。今日は君の力を見込んで頼みがある」
思いがけず、王宮へと招待された私は、いつでも何が起きても良いように、数枚のスクロールを体に張り付かせて王宮へと向かった。
私が女性であることで、門番に雑な扱いを受けるなどのことが多数あったが、どうにか無事にたどり着き、今はこうして謁見ができるている。
王は見るからに権力を誇示するような金ぴかの椅子に座って私を見下ろしてくるが、それに対して私は、膝をつくことなく、直立不動で応えることにした。
「はて? どのような? 一介の女である私に力など大してありませんよ」
「謙遜しなくても良い。君の経済の手腕は目を見張る。君には、戦争の資金を調達してもらいたい」
「ええ、構いませんが、この国は現在諸外国と比べて非常に弱い立場です。戦争をするくらいならどこかの国の陣営に入り、支援を受けた方が確実でしょう」
「いや、それでは、いずれ、この国は滅んでしまう。そうならないためには資金が必要なのだ」
「であれば、早々に軍費の調整をしましょう。具体的な金額はいくらですか?」
「あれば、あるだけだ」
「お言葉ですが国王、計画性も無しに資金を捻出することはできません。資金があったからと言って軍事力が強くなれるのですか? その具体的な計画が私には分かりません」
私がそう言うと、面を食らったのか、しばらく言葉が出てこなかった。
私が女であるからと、舐めていたのだろうか?
「現在、わが国は装備が足りない常態である。工場を建てるにも資金が足りず、資源や、装備の生産量が全く足りていない。早急に資金を用意する必要があり、国営に多少の負担があっても構わない。具体的な金額はそちらが提示するようにしてくれ」
「しかし、装備をいくら手に入れたとしてもなんの意味があるのでしょうか? 負けることが明確であれば、そのような資金は何も意味がありません」
「つまり、協力はできないと?」
「場当たり的な対処にはお金は出せませんが、投資のためであれば惜しみなく協力しましょう。装備の購入ではなく工場の建設、旧式の装備の生産よりも、最新の装備の研究。今捻出できる三百億ルクスでこれらを行ってください。その際の計画書や会計書は私に見せること。これが、できなければ協力はできません」
「どうやら人の足元を見るのが得意なようだな」
「ええ、それだけ力が無くてはここまで上り詰められませんからね」
更に二日後。王や大臣たちが顔を突き合わせる会議に呼び出され、富国強兵の計画を立てることになった。
中には将軍や元帥など、戦場のエースと言われている兵士もいる。
特に王から敵意を向けられているわけではなさそうだ。
「現在、我が国はたび重なる世界大戦の結果、人口が少なく、国防に当たれる人員も限られています。国境全体に要塞を建てるのが無難なところでしょう」
と、陸軍大将。ガンダルフ。
ガンダルフ大将は、筋肉質で体が大きく、顔は傷と皺だらけで表情もよく分からない。
私はそっと、ガンダルフから席を離す、
「しかし、航空攻撃を受け続ければ、要塞も瓦解し、敵の侵入を許すことにもなる。やはりここはテクノロジーに力を注ぐべきでは? 人口の代替となるものか、兵士を守るものを開発すべきでしょう。そこで、私の理論に目を通してください」
と、陸軍少佐。戦場のエース。コールネームは雪上の狐と呼ばれる人だ。
引き締まった体で、顔も中々男らしく、私の好みと言っても良いかもしれない人だ。
それに、勲章には詳しくないが、他と違って、それで殴ったら痛そうなくらい大きい勲章が目にはいる。
その雪上の狐とやらが提出した資料には、アダムス・ブラバティ著と書いてある。防弾や防魔に特化した装備により、兵士の死亡率の低下を抑えるための理論が記してある。
しかし、これを用意するのはかなり大変なことである。作ってみれば、相当巨大な装備となるだろう。この国の工場で、いったいどれだけ生産できるだろうか?
それに、効果のほども分からない。
障壁のようなものを発生させる程度の術式だが、これを人が着る鎧の大きさにまで縮小化させるとなると、効果も減少するし、大きさも分厚すぎる。
そうしたことを陸軍元帥ベルゲンにも指摘され、アダムスは、まずは実験をさせてくださいと言う。
が、突っぱねられてしまった。
会議も煮詰まり、ストレスのはけ口として、ベルゲン元帥が私を指差しやがる。
「アーシャ殿、普段の耳にする舌の回りの良さと比べ、今日は随分と寡黙だ。今回は分が悪いのかね?」
「だって、まるで、子供のような発想で会話しているからですよ。まあ、私は答えを知っているからそう感じるのでしょうが、革新的なものも、実のところ地道なものの積み重ねです。今、打てる手立ては革新的なテクノロジーを手に入れることでしょう? それ以外に方法はありません」
「だが、承知の通り、実用化には程遠いものだ」
「そうやってすぐに成果を求めるのは忍耐の足りない証拠です。あなたの部下である。最前線に赴く兵士の方が何倍も忍耐強いですよ」
私がそう嘲笑すると、陸軍大将は気に喰わない顔で私を睨んだ。
「では、何を研究すると言うのだ?」
「我が国は現在、大戦を経て、人的資源も殆どありません。それでは、戦いを継続させることもできないでしょう。なので、防衛に力を入れるべきかと。アダムスの提示した研究資料は、この国の人的資源の損耗を軽減する効果があります。実用化に力をいれるべきかと」
「なら、いつ実用化するんだ? 空想ごとに付き合えるほど、誰も暇ではないぞ」
これだから……。人が新しいことをしようというのに足を引っ張ってばかりいる。こんな奴がなぜ、陸軍大将なのだ?
「それは縮小化にかかる時間です。私は、そのまま使えば良いというのです」
「そんなたかが壁なんぞ、土嚢や塹壕で遮蔽物の代用にできる。なんでわざわざそんなたかが壁なんぞを使う必要があるか。口ぶりの割には中身が全く大したものじゃないな」
「簡単なことです。壁を武器にすれば良いのです。壁に強力な攻撃術式を乗せ、防御と攻撃を両立させるのです」
「戦争に出たことがあるのでかね? 頭の想像と実際では上手くいかないことの方が多いのだ」
「であれば、実証してみませんか? その方が話が早い。演習をしてどれほど役に立つかを示しましょう」
「はは、望むところだ」
その後も会議は平行線のまま終了する。喧嘩を売ってきたベルゲン元帥とも話を合わせ、演習の条件を打ち合わせることにした。
この白髭頭は、私のことが心底嫌いなみたいで、威嚇するように怒鳴る。私に泣いて欲しいのか分からないが、そんなことで、私が怯むはずもなく笑い飛ばしてやる。
理論の発案者である将軍アダムスはまだ30歳そこそこで、第二次魔女狩り大戦でも多くの戦績を上げた人だ。
そんなアダムスが私に握手を求めてきた。
握手に応じた私だが、その力強い筋肉質な手に握られ、体の火照りを感じた。
「まさか、私の理論を指示してくれる人がいるとは思わなかったよ」
「あれでは、まだ未完成ですが、私も術式には精通していますので、手助けくらいはできます。ベルゲン元帥の鼻をあかすためにも強力な兵器が必要でしょう。必要な資金を優先的に回しますので、開発の手はずを整えてください」
「その前にどう何を作るのか聞かせてもらっても良いかな?」
「自走するものを防壁で覆い、術式を込めた大砲を設置します。この兵器は秘匿情報ですので暗号で呼んでください。水槽、つまりタンクと」
学業と長官の仕事の合間を縫い、私はタンクの開発に力を入れる。この世界は未だ馬車が主流で、機関車すらも組み立てられていない。便利な魔法に頼りきりで物理理論の研究をする人間があまりにも少ないようだ。建築工学ですらも材質の強化魔法に頼った出鱈目な設計ばかりだ。そんなこともあり、諸外国の軍事演習を観察し、より実践向けにタンクを設計していくことにした。
歩兵の使う装備は、金属製のヘルメットにローブのような戦闘服。武器は爆発魔法によって金属弾を放つ鉄砲とにたライフリング銃。それと、個人の使う魔法がメインになるようだ。
戦闘の開始と共に兵士たちは地面を水魔法と土魔法の混合で液状化させ、沼の中に相手兵士を引きずり込んでいく。その対策に歩兵たちは即座に匍匐をして、体重を分散させ沈み込まないようにしている。
一斉にホースのような物を口に咥えたまま先を投げ、呼吸路を確保したようだ。
お互いに重力魔法を掛けつつ、相手を泥の中に沈み込ませようとしていく。
その後方から、敵陣地にめがけて火と土の魔法を組み合わせた焼夷魔法を使い、目標となる敵陣地を焼いていく。
相手の魔力が尽き、重力と、泥の魔法が解けると、歩兵たちは敵に向けて一斉に発砲を始めた。
発砲と言っても、演習弾でただ煙が上がるだけだが。
この戦闘にタンクが参加したとすれば、いくらタンクが強力だとはいえ、機動力を奪われ、側面や背面を狙われれば、反撃も難しく、じわじわと消耗してやられてしまうだろう。
泥沼の対策が必要だと分かった。
タンクの足である履帯面積を横に広くして、沈み込みを抑え、泥沼に足を捕えられた場合には素早く抜け出せるように強力なエンジンを用意しておくことにした。
エンジン部分はディーゼルを基にして考え、石油も無ければ製油技術もないこの国では、燃料魔力で代用するしかない。爆発魔法を連続して起こす術式を組み込むのだが、これがなんとも苦戦しそうだ。術式は完全に発動するまでに、どんなに魔力を込めようがタイムラグがあり、発生させられる爆発が一度だけで、また一度、術式を止めなければ、連続して起こすことができない。そのためにエンジンの回転率が上げられない。つまり、速度に上限があるということだ。
実験を重ね、複数の術式を作動、遅延させることで、タイムラグの間を調整して、連続して爆発が起きるように設計した。術式を自動で止める技術なのだが、これまた長い研究期間が必要だった。
魔力を散らす放射性物質を組み込み、最後の爆発の術式が起動すると、放射性物質が露出し、中の術式の魔力を強制的に散らして止める。
術式が停止すると、魔力が送られなくなり、物体浮遊の魔法が停止して、放射性物質が自動的に落ちて収納されるという仕組みだ。
ここまでなはなんとか乗り切れた。
しかし、問題は放射線だった。
現在、私の住処としているこの国は、第二次魔女狩り大戦の結果、領土の多くを維持できずに手放し、国力を大きく下げている。
次の大戦が起きた場合、蹂躙されるだけの国となってしまっているのが現状のようだ。
三つの陣営に挟まれたこの国は、資源に乏しく、貿易が止められてしまえば国営自体が立ち行かなくなる。
東には、経済と軍事を両立させた超大国、自由マクロンがあり、西の方には圧倒的な陸軍兵力と土地を持つ国粋ペイロードがある。
ちなみに、説明をしておくと、自由マクロンは魔女が立ち上げた国であるが、今は魔女はいない。
南方には国粋派と全体主義派で分裂しつつあるコロンボがあり、さらに進んだ南方には全体主義派の親玉のバロン国がある。
我が国は現在、この三つの強大な陣営に睨まれている形であり、大戦が起きれば、確実に私たちはどちらかの国の陣営に所属するようになる。でなければ、亡命先も失ってしまう。
我が国は軍事力が弱く、どちらの陣営に入ろうとも確実に防衛は不可能である。
そんな状況下で、私の政策で外貨を稼ぎ、軍事費に充てられる資金も大きく増えた。
王の話しは、私に戦争の資金を調達せよから始まった。
「失礼します。何か御用ですか?」
「そんなに堅苦しくしなくて良い。今日は君の力を見込んで頼みがある」
思いがけず、王宮へと招待された私は、いつでも何が起きても良いように、数枚のスクロールを体に張り付かせて王宮へと向かった。
私が女性であることで、門番に雑な扱いを受けるなどのことが多数あったが、どうにか無事にたどり着き、今はこうして謁見ができるている。
王は見るからに権力を誇示するような金ぴかの椅子に座って私を見下ろしてくるが、それに対して私は、膝をつくことなく、直立不動で応えることにした。
「はて? どのような? 一介の女である私に力など大してありませんよ」
「謙遜しなくても良い。君の経済の手腕は目を見張る。君には、戦争の資金を調達してもらいたい」
「ええ、構いませんが、この国は現在諸外国と比べて非常に弱い立場です。戦争をするくらいならどこかの国の陣営に入り、支援を受けた方が確実でしょう」
「いや、それでは、いずれ、この国は滅んでしまう。そうならないためには資金が必要なのだ」
「であれば、早々に軍費の調整をしましょう。具体的な金額はいくらですか?」
「あれば、あるだけだ」
「お言葉ですが国王、計画性も無しに資金を捻出することはできません。資金があったからと言って軍事力が強くなれるのですか? その具体的な計画が私には分かりません」
私がそう言うと、面を食らったのか、しばらく言葉が出てこなかった。
私が女であるからと、舐めていたのだろうか?
「現在、わが国は装備が足りない常態である。工場を建てるにも資金が足りず、資源や、装備の生産量が全く足りていない。早急に資金を用意する必要があり、国営に多少の負担があっても構わない。具体的な金額はそちらが提示するようにしてくれ」
「しかし、装備をいくら手に入れたとしてもなんの意味があるのでしょうか? 負けることが明確であれば、そのような資金は何も意味がありません」
「つまり、協力はできないと?」
「場当たり的な対処にはお金は出せませんが、投資のためであれば惜しみなく協力しましょう。装備の購入ではなく工場の建設、旧式の装備の生産よりも、最新の装備の研究。今捻出できる三百億ルクスでこれらを行ってください。その際の計画書や会計書は私に見せること。これが、できなければ協力はできません」
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ガンダルフ大将は、筋肉質で体が大きく、顔は傷と皺だらけで表情もよく分からない。
私はそっと、ガンダルフから席を離す、
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と、陸軍少佐。戦場のエース。コールネームは雪上の狐と呼ばれる人だ。
引き締まった体で、顔も中々男らしく、私の好みと言っても良いかもしれない人だ。
それに、勲章には詳しくないが、他と違って、それで殴ったら痛そうなくらい大きい勲章が目にはいる。
その雪上の狐とやらが提出した資料には、アダムス・ブラバティ著と書いてある。防弾や防魔に特化した装備により、兵士の死亡率の低下を抑えるための理論が記してある。
しかし、これを用意するのはかなり大変なことである。作ってみれば、相当巨大な装備となるだろう。この国の工場で、いったいどれだけ生産できるだろうか?
それに、効果のほども分からない。
障壁のようなものを発生させる程度の術式だが、これを人が着る鎧の大きさにまで縮小化させるとなると、効果も減少するし、大きさも分厚すぎる。
そうしたことを陸軍元帥ベルゲンにも指摘され、アダムスは、まずは実験をさせてくださいと言う。
が、突っぱねられてしまった。
会議も煮詰まり、ストレスのはけ口として、ベルゲン元帥が私を指差しやがる。
「アーシャ殿、普段の耳にする舌の回りの良さと比べ、今日は随分と寡黙だ。今回は分が悪いのかね?」
「だって、まるで、子供のような発想で会話しているからですよ。まあ、私は答えを知っているからそう感じるのでしょうが、革新的なものも、実のところ地道なものの積み重ねです。今、打てる手立ては革新的なテクノロジーを手に入れることでしょう? それ以外に方法はありません」
「だが、承知の通り、実用化には程遠いものだ」
「そうやってすぐに成果を求めるのは忍耐の足りない証拠です。あなたの部下である。最前線に赴く兵士の方が何倍も忍耐強いですよ」
私がそう嘲笑すると、陸軍大将は気に喰わない顔で私を睨んだ。
「では、何を研究すると言うのだ?」
「我が国は現在、大戦を経て、人的資源も殆どありません。それでは、戦いを継続させることもできないでしょう。なので、防衛に力を入れるべきかと。アダムスの提示した研究資料は、この国の人的資源の損耗を軽減する効果があります。実用化に力をいれるべきかと」
「なら、いつ実用化するんだ? 空想ごとに付き合えるほど、誰も暇ではないぞ」
これだから……。人が新しいことをしようというのに足を引っ張ってばかりいる。こんな奴がなぜ、陸軍大将なのだ?
「それは縮小化にかかる時間です。私は、そのまま使えば良いというのです」
「そんなたかが壁なんぞ、土嚢や塹壕で遮蔽物の代用にできる。なんでわざわざそんなたかが壁なんぞを使う必要があるか。口ぶりの割には中身が全く大したものじゃないな」
「簡単なことです。壁を武器にすれば良いのです。壁に強力な攻撃術式を乗せ、防御と攻撃を両立させるのです」
「戦争に出たことがあるのでかね? 頭の想像と実際では上手くいかないことの方が多いのだ」
「であれば、実証してみませんか? その方が話が早い。演習をしてどれほど役に立つかを示しましょう」
「はは、望むところだ」
その後も会議は平行線のまま終了する。喧嘩を売ってきたベルゲン元帥とも話を合わせ、演習の条件を打ち合わせることにした。
この白髭頭は、私のことが心底嫌いなみたいで、威嚇するように怒鳴る。私に泣いて欲しいのか分からないが、そんなことで、私が怯むはずもなく笑い飛ばしてやる。
理論の発案者である将軍アダムスはまだ30歳そこそこで、第二次魔女狩り大戦でも多くの戦績を上げた人だ。
そんなアダムスが私に握手を求めてきた。
握手に応じた私だが、その力強い筋肉質な手に握られ、体の火照りを感じた。
「まさか、私の理論を指示してくれる人がいるとは思わなかったよ」
「あれでは、まだ未完成ですが、私も術式には精通していますので、手助けくらいはできます。ベルゲン元帥の鼻をあかすためにも強力な兵器が必要でしょう。必要な資金を優先的に回しますので、開発の手はずを整えてください」
「その前にどう何を作るのか聞かせてもらっても良いかな?」
「自走するものを防壁で覆い、術式を込めた大砲を設置します。この兵器は秘匿情報ですので暗号で呼んでください。水槽、つまりタンクと」
学業と長官の仕事の合間を縫い、私はタンクの開発に力を入れる。この世界は未だ馬車が主流で、機関車すらも組み立てられていない。便利な魔法に頼りきりで物理理論の研究をする人間があまりにも少ないようだ。建築工学ですらも材質の強化魔法に頼った出鱈目な設計ばかりだ。そんなこともあり、諸外国の軍事演習を観察し、より実践向けにタンクを設計していくことにした。
歩兵の使う装備は、金属製のヘルメットにローブのような戦闘服。武器は爆発魔法によって金属弾を放つ鉄砲とにたライフリング銃。それと、個人の使う魔法がメインになるようだ。
戦闘の開始と共に兵士たちは地面を水魔法と土魔法の混合で液状化させ、沼の中に相手兵士を引きずり込んでいく。その対策に歩兵たちは即座に匍匐をして、体重を分散させ沈み込まないようにしている。
一斉にホースのような物を口に咥えたまま先を投げ、呼吸路を確保したようだ。
お互いに重力魔法を掛けつつ、相手を泥の中に沈み込ませようとしていく。
その後方から、敵陣地にめがけて火と土の魔法を組み合わせた焼夷魔法を使い、目標となる敵陣地を焼いていく。
相手の魔力が尽き、重力と、泥の魔法が解けると、歩兵たちは敵に向けて一斉に発砲を始めた。
発砲と言っても、演習弾でただ煙が上がるだけだが。
この戦闘にタンクが参加したとすれば、いくらタンクが強力だとはいえ、機動力を奪われ、側面や背面を狙われれば、反撃も難しく、じわじわと消耗してやられてしまうだろう。
泥沼の対策が必要だと分かった。
タンクの足である履帯面積を横に広くして、沈み込みを抑え、泥沼に足を捕えられた場合には素早く抜け出せるように強力なエンジンを用意しておくことにした。
エンジン部分はディーゼルを基にして考え、石油も無ければ製油技術もないこの国では、燃料魔力で代用するしかない。爆発魔法を連続して起こす術式を組み込むのだが、これがなんとも苦戦しそうだ。術式は完全に発動するまでに、どんなに魔力を込めようがタイムラグがあり、発生させられる爆発が一度だけで、また一度、術式を止めなければ、連続して起こすことができない。そのためにエンジンの回転率が上げられない。つまり、速度に上限があるということだ。
実験を重ね、複数の術式を作動、遅延させることで、タイムラグの間を調整して、連続して爆発が起きるように設計した。術式を自動で止める技術なのだが、これまた長い研究期間が必要だった。
魔力を散らす放射性物質を組み込み、最後の爆発の術式が起動すると、放射性物質が露出し、中の術式の魔力を強制的に散らして止める。
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