ヤクザ警察アーシャちゃん 異世界に転生したらやりたい放題

竹丈岳

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夢の中で

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 キャンピングカーに戻った私は、エリーチカの遺骨が、どこにもいかないように、抱きしめながら眠る。
 そんなことなんてありえはしないだろうに、それでも、不安で、私は……。


 そうして見た夢には、エリーチカがいた。

 白いテーブルを挟んでエリーチカが紅茶を飲んでいる。
 ふうーっと涼しい風が私たちの間を通り抜けて、エリーチカの紫色の髪の毛が、ふわっと浮き上がる。

 開いた窓の先には、小さな花畑が。その少し先には太陽に照らされて、キラキラと光る湖がある。

 
「いらっしゃい。アーシャ」

「これが君の望んだ場所かい?」

「そう。素敵な場所でしょ?」


 そう言うエリーチカが、幸せそうな顔をして窓の外を見た。


「これは私の願望が見せた夢なんだろうな」

「いいえ。違うの。少し特別な手続きを踏んで、今こうして会わせてもらっているの。夢だけど、アーシャの見ている夢ではないの。私の夢」

「難しいことは分からないが、守れなくて本当に申し訳なかった」

「いいの。殺されたことは、仕方のないことだから。私を殺したあの人も苦しそうだったから。私を殺したことで少しでも楽になれているなら、私はそれで良いの。だって、私はそれだけのことをしたから」

「エリーチカ。殺された君はもう十分罰を受けた。罪の意識を感じる必要なんてないよ」

「ありがとうアーシャ。大丈夫よ。ところで、こっちの暮らしは随分楽しいの。アーシャが言って冥福をくれたおかげね。時間が経ったらまた生まれ変われるそうなの。生まれ変わったら、きっとアーシャに恩返しをするね」

「恩返しなんて要らないよ。君自身が幸せになれるように生きなさい」

「いいえ。幸せっていうのは、存在意義なの。恩返しをすることは、私にとっての存在意義になりそうなの。だから、恩返しをさせて?」


 エリーチカが、紅茶のカップを傾けたまま、私の目をじっと見つめてくる。
 まるで、親愛を示すような、そんな優しい眼差しをしてくる。


「では、ありがたく受け取らせてもらうよ。そうして私もお礼を返す。素晴らしい関係だろ?」

「たぶん、きっと素晴らしいことね」


 エリーチカが、私のカップに紅茶を注ぐ。


「素晴らしいことだよ。人は一人では生きていけないからね」



──────



 目が覚めると、朝だった。アデ先生も、朝食の準備をしているし、子どもたちも起きて着替えている。随分と私は遅くに起きたようだ。


 まあ、朝食を食べたらあのバーサーカーを探すとしよう。昨日の夜は時間が時間だったから、今日もやることが多そうだ。

 エリーチカの遺骨を棚にしまい、朝食を食べて出かける。

 そうすると、すぐにあのバーサーカーと出くわして、


「もうすぐ来てしまう」

「しかし、なんでこの村なんかにわざわざ魔王様なんてものが来るのか、そこが不思議だ。もっと下が働けば良いのに、そうまでしてエリーチカを捉えに来る理由が分からない」

「とにかく魔王には近づかないでくれ。でないと、未来が決定してしまう」

「魔王に近づくなと言われても、私にとっては正直なところ、君なんかの命はどうだっていい。エリーチカを救えない君なんかにはね。それよりも魔王と会って見聞を深めた方が私にとっては得だ」

「お願いだから」


 バーサーカーが地面に両手をついて頭を下げた。それほどまでに私に魔王と会ってほしくはない様子だ。自分の命がかかっているのも、おそらく本当なのだろう。私はそこまで鬼じゃない。


「まあ、触らぬ神に祟りなしとも言うしな。一先ずは大人しくしているよ。魔王とは会わないようにする。だが、この地を発つにも色々と準備がいる。会わないとは言ったが、約束ではない。不可抗力が起きても私にはどうだっていいことだ」

「ありがとう……」

「できる話はそれだけか?」

「お礼にこれを持って行って欲しい……」


 すると、バーサーカーが自分の目玉を抉りだし、重圧のある、大きな苦痛の声を上げた。


「なんだいったい……」

「これを差し上げます。この目玉を通せば、見える未来は沢山あります。エリーチカのために動いてくれて本当にありがとうございます」

「目玉なんて要らないんだが……」

「お願いします。きっと、役に立つはずですから……」


 体液の滴る目玉を、そっと受け取り、魔法で作ったガラス瓶の中に入れる。
 見ていて気持ちの良い物ではないが、その目玉を通すと、私の体が引き裂かれる光景が見えた。


「これは……、未来予知か?」

「そうです。エリーチカの分までどうか生きてください……」

「まあ、ありがたく受け取るよ。その目も治してやろう」


 そうして、私が回復を掛けようとするが、バーサーカーはその大きな手で拒否を示した。


「良いんです。これでも足りないくらいエリーチカは苦しみましたから、これは、エリーチカを救えなかったおいらへの罰です」

「まあ、そう思うならそれも良いだろう。さて、魔王に見つからないうちに戻るとするよ」

「ありがとうございます」


─────



 キャンピングカーに戻って、久しぶりにゆっくり子供たちと遊ぶ、しかし、だんだん疲れてきたせいか、子どもたちと遊ぶのも面倒になり、ふと、あの光景が気になって目玉を覗き見ることにした。

 すると、そこには、髪の長い綺麗な顔立ちの少年が、馬車に揺られてやってくる光景が見えた。
 もう、馬車はこの村の前まで来ていた。

 おそらく、この長い髪の少年が魔王というやつだろう。髪も目も炎のように真っ赤で、強気そうな性格が顔立ちにも表れている様子だ。その綺麗な真っ赤な髪の子が……、村に着くと、顔を真っ赤にして私と話す。

 これのどこが危険を予知しているのか分からないが、他にはもう何も映らなくなってしまったので、仕方なく、元気のあまりある子供たちに弄ばれる。

 三人にのしかかられているせいで苦しいが、悪い気はしないので、こっそり、アリスのスカートを避けてパンツ越しに匂いを嗅ぐ。


 三時間も経つと、さすがに子供たちも疲れたようで、ぐっすりと昼寝を始めてしまった。

 私は、それこそ、スマホに依存するような形で、暇さえあれば目玉を覗き見ていると、また、あの真っ赤な髪の少年が見えてきた。

 その少年は、アーサーと名乗る。アーサーは私に桜の木を束ねた花束を贈ると、恥ずかしそうにどこかへ行ってしまう。

 おそらくアーサーは、私と同じか、近い存在なのだろう。


 



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