変態エルフ学園

竹丈岳

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 その夜、与一はトレンチコートに身を包み、大きな帽子とマスクを深く被り、姿を誤魔化しました。
 ここまで身を隠せば、誰も自分のことを与一だとは分からないはずです。
 でも、どこからどう見ても不審者で、先に与一の方が捕まってしまいそうです。

 与一は守衛にPCMレコーダーを使ってみますが、人間をわざと通しているというわけではありませんでした。おそらく人間は、何らかの方法で学園内に侵入しているようです。
 そもそも、与一やシーア君に銃を届けに来た時、いったいどうやってこの学園に入ってきたのでしょうか?

 与一は、シーア君が襲われたという場所で張り込みをし、奴らが来るのを待ちます。

 すると、少しも経たないうちに怪しい人影が建物の陰に隠れるように動いているのが見えました。
 大きな黒い外套で姿を隠していますし、見るからに怪しい二人です。
 少しずつ距離を詰め、与一は、後ろから声をかけました。

「そこで何をやっている?」

 与一の声に反応して、黒い人影は、びくっと肩を跳ねさせました。

「与一さん?」
「その声は……」

 よく見れば、相手はモンド君でした。
 外套から顔を出して、お互いに顔を見せ合います。
 与一も帽子を脱ぐと、モンド君も大きく張り詰めていた空気を吐き出しました。
 もう一人はアイリス君でした。

「もしかして、与一さんも暴行犯を捜しに?」
「ああそうだ」

 アイリス君は少し悲しい顔をしました。

「与一さん……。シーアさんが襲われましたもんね……」
「ああ。もし、犯人が人間なら、俺は同じ人間として許せない」

 途端に何か物音がして、みんな息を潜めて耳を澄ましました。
 夜も深くなりつつあり、そんな中を息せき切らして急いで寮に帰ろうとするエルフがいたのです。
 どうやらツインテールの可愛らしいエルフで、そして、黒づくめの不審者たちに追いかけられているようでした。
 相手は五人いるようですし、追いかけられているエルフの子も、あまりの恐怖から、鞄から物が落ちても、気にする余裕すらなく必死に逃げていました。

「誰か!! 助けて!!」

 そうした叫びに応じて、与一は帽子を深く被って真っ先に飛び出すと、不審者たちの前に立ちはだかりました。

「俺が相手だ」

 与一が出てきたことで不審者たちは立ち止まり、標的を与一に変えたようです。相手は何か棒状の物を与一に対して構えました。
 すると一緒に、モンド君とアイリス君も飛び出してきました。もちろん二人とも顔を隠して臨戦態勢をとっています。

「オレもいるぞ」
「ぼくだって!」
 
 アイリス君とモンド君がナイフと弓矢を構える中、相手の一人もスタンガンのような物を取りだしてきました。
 バチバチと音が鳴って、固唾を飲んで怯むのを堪えます。

 戦うために、与一もダークエッグを召喚します。

「ダークエッグ! 魔眼!」
「なっ!?」

 ふいうちの魔眼が強烈にヒットして、相手の一人が吹き飛びますが、それでもまだ相手は立ち上がってきました。

 モンド君も召喚獣を呼び出します。

 すると、モンド君の召喚獣である体長一メートルほどの可愛らしく押さないユニコーンが真っ白なたてがみを振るわせました。

「ユニコーン! エレキショック!」

 モンド君がそう叫ぶと、ユニコーンの角がバチバチと音を立てて、電撃を放射しました。
 相手は感電したようですが、気絶にまでは至っていません。
 相手は、状況を不利に思い、銃を取り出して与一たちを撃ってきました。
 相手の狙いは正確で、モンド君もアイリス君も足を負傷して倒れてしまいます。

 銃の恐怖は誰もが知っています。頭や心臓に当たれば死んでしまうかもしれません。

「魔眼だ!!」

 再度の与一の反撃を受け、相手の覆面が吹き飛びました。

 すると、やはり相手は人間でした。齢は40ほどでしょうか? 良い歳した大人が子供を甚振っていたのです。

「ユニコーン! エレキショック! な!?」

 エレキショックによる攻撃も虚しく、今度はなぜか、相手の前で掻き消えてしまいました。

 どうにも人間が取り出したメダルが光っていることから何かが起きているようです。
 それによって、ダークエッグの魔眼も完全に霧散してしまいました。
 与一も銃を取り出しますが、先に撃たれて倒れてしまいます。

 血だまりにうずくまる中、与一は、それでも、あらん限りの力を全身に込めました。

「俺は……! こんな理不尽許しておけねーんだ……! それに、関係ない奴まで巻き込んで……! シーアまで!」

 与一は倒れた状態にもかかわらず、マシンガンの狙いを定めて撃とうとしました。間違った箇所に当てれば確実に相手のことを殺してしまうでしょう。ですが……、

 与一の立ち向かう意思が強く現れた時、ダークエッグが甲高い奇声を上げて爆発を起こしました。

 この場の全員が爆風に気を取られます。

 そういえば、立花先生は確かに言っていましたね。心の成長が召喚獣に表われると。

 既に進化先が解放されていた与一は敵を倒すということを強く思いました。それは、シーア君や他のエルフを守るために、自分を犠牲にしてでもという強い覚悟でした。

 みんなを守ろうと、弱い自分を奮い立たせて、強く願った与一の心は、優しく、強く、確かに今、成長を見せたことでしょう。

 与一は、自分の心に気付いてはいませんが、心の底からシーア君ことが大好きなのです。それが、恋なのか、友情なのかは別として、与一もまだシーア君と一緒にいたかったのです。

 与一のダークエッグは、隠していた自分の本心を見せつけるように、理不尽に対する抵抗の意思を示すかのように、殻を破ったのです。
 そして、殻から表れたのは、なんとも可愛らしくて、不気味な赤い目をした水色のエプロンドレスを着た六歳くらいの幼女でした。

「はじめまして。みなさん。わたしはアリス。さあ、遊びましょう?」

 瀕死の与一の前にステータス画面が写ります。

 スキル
『イン・ザ・ミラーランド』消費MP50 発動中は周囲に鏡の国を生成し、敵に恐怖の伴う攻撃を行う。

「イン……! ザ……! ミラー……! ランド……!」

 与一がスキルを発動させると、周囲が赤黒く染まり、建造物が全てケーキのようなクリームとスポンジに置き換わりました。

「あなたが悪い子さん?」

 アリスが首を傾げて相手に寄って行きます。

 途端に銃を撃たれて手足や首が吹き飛びますが、それでもアリスは生きているようで、静かに笑っていました。

 アリスは血まみれの顔で薄く笑うと、飛び散った血から大きなナイフや、フォークが飛び出し、人間を強烈に突き始めました。
 服を破かれ、手足を貫かれ、人間たちは、抵抗しようと銃を乱射しますが、全て弾かれています。

「もっと遊びましょう? 楽しさも、恐怖も一緒だと、もっと楽しいのだから」

 アリスは可愛らしい幼い声でそう囁くと、目は赤く輝きだし、口は大きく裂け、大きな口のあるケーキが突如として地面から表れて、人間にかぶりつき、身動きを封じました。

 身動きの取れない人間たちを丸ごとギロチンが押さえつけ、刃が首を跳ねをようとしました。

「ダメ!! 殺しちゃダメ!!」

 アイリス君の言葉にハッとした与一は、アリスの攻撃を中止させ、ギロチンを消しました。

「良かった……。でも、与一さんすごい……。一人で全員倒しちゃうなんて……」

 モンド君が感心したように呟くと、どこからともなく叫ぶような声が聞こえてきました。立花先生のようでした。

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