奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される

葉空

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奴隷商人と皇太子

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 それから数日が経ち、平和な時間がゆっくりと過ぎていった。

 俺はこの部屋に軟禁状態なので、基本的に外に出ることはない。生活が快適すぎて、外に出たいとも思わなかった。

 時折、玲於のお目付役兼世話係の3人が訪れる。今日はあの調子者、カール・ブラウンが来ていた。

「なあ、まじで魔法とか使ってないの?」
「だから、魔法は使えないって」

 ティーカップに注がれたコーヒーを口に含む。ほのかな苦味と牛乳と砂糖の甘さが絶妙に混ざり合う。うん、美味しい。

 自然と頬が緩むと、カールは不服そうに頬杖をついた。

「くそっ。まじでその魔法があれば毎日でも掛けてやるのに」
「主人にそんなことして良いのかよ?」
「そんなん、バレないようにやるに決まってるじゃん!」

 この人、馬鹿だ。皇族相手にそんなことができると思っているのか。

「で、どうやって玲於を骨抜きにしたの?」
「してないだろ?」
「いやいや、何回も言うけど空杜君といる時はあれは別人レベルだよ」

 どうやら玲於は、俺にだけ態度が違うらしい。すごく優しくて、人間味があるのだとか。カールは大袈裟に話すことが多いため、試しにウィルとセスに確認してみた。

『はい、そうですよ。今回はカールの言ってることは正しいです』
『うん、そう』

 二人とも認めたので、確かな話だろう。

「まじで、部下の前だと全く感情読めねえからな!鉄の仮面を貼りつけてんだよ」
「カールさん」
「何?」
「知ってますか?皇族の侮辱罪という刑があることを」

 さすがに圧をかけると、カールは凍りつき、縮こまった。

 空杜はその姿にふっと笑った。玲於ならこんな罰はしないと分かっている。するならとっくにしているはずだ。

 その後もカールをからかって遊んでいると、誰かが部屋に入ってきた。

 グレイの髪には自然なウェーブがかかり、目が少し前髪で隠れるくらい伸びている。

「セス!」

 嬉しそうに微笑むと、セスも口角を微かに上げた。

「こんにちは」
「こんにちは」

 挨拶を返すと、セスはポンポンと頭を撫でてくる。最初は癖かと思ったが、カールによると、どうやら俺だけにするらしい。

「ねえ、なんで俺とそんなに態度違うの?」

 鳴き真似を始めたカールを無視して、椅子に座るよう促すが、セスは首を横に振り、そのまま部屋を出て行った。

「あいつ、いつも何しに来るんだ?」
「分かんない。頭撫でたらすぐどっか行っちゃうから」

 カールは不思議そうに言うと、こちらをじっと見つめる。

「なあ、何でセスはあんなに優しくするんだ?」
「気のせいだよ」
「そんなわけあるか!」

 騒がしい自覚はあるのか、空杜は溜息を吐き、そっぽを向いたまま答えた。

「なら、セスといると落ち着くからだよ」
「落ち着く?」
「ああ」
「まあ、確かに俺と違ってセスは物静かだからな」

 カールは背もたれに身体を預け、頭の後ろで手を重ねる。アップバングショートという髪型で、以前褒めたら何度もヘアスタイルの話をしてきたのを覚えていた。

「なあ、今更だけどカールは俺が嫌じゃないのか?」
「何で?」
「こんな奴が皇太子の騎士になるんだぞ?命任せて良いのかよ」
「良いんじゃない。あと、こんな奴って二度と使うな」

 カールは両手を上げ背筋を伸ばす。微かに骨が鳴る音が聞こえた。

「なんか、お前らって軽いよな」
「思い違いだよ。軽い奴がこの職についたら国が滅びちゃうよ」

 笑うカールに、確かにそうだなと思う。

「俺らは空杜君が信頼に値するやつだと分かったから、何も言わないだけだよ」
「そんな場面あったけ?」
「あったよ。現に君の働きで敵国の武力を弱らせられたじゃないか。まあ、俺たちも君の性格を気に入ってるんだ」

 いつものふざけた調子ではなく、真面目に言われて少しむず痒かったが、素直に嬉しかった。

「ありがとう…」

 そう伝えると、カールは歯を見せて笑った。そして髪がぐちゃぐちゃになるほど撫でられる。

「おい!」
「ははっ、ほんと可愛いやつだな!」

 手を引き剥がそうとすると、扉がトントンと叩かれた。「空杜様、失礼しても宜しいでしょうか?」

 入室を許可すると、一人のメイドが頭を下げて入ってきた。

「失礼致します。空杜様にお菓子をお持ち致しました」

 メイドが顔を上げた途端、一瞬目を見開いたが、すぐに何事もなかったかのように振る舞った。

 まあ、俺の横にいる奴は指をさして口をパクパクさせている。しかも、視線はずっと彼女から外さずに……

「失礼だぞ」

 手を叩き落とすと、カールは何か言おうと口を開いた。しかし、背後を見ると口を真一文字に結んでいた。

 訝しげに振り返ると、いつの間にかメイドさんが立っている。いつも俺のお世話をしてくれる人だ。

「ブラウン様」
「はい!」
「皇太子様がお呼びになられておりましたよ」
「分かりました!今すぐ向かいます!空杜君、またな」

 そう言うとカールはメイドにお辞儀をし、サッと部屋を出て行った。

 突然、挙動不審になったカールを少し怪しく思ったが、まあいいかと思う。今は、こっちの方が大事だ。


「メイドさん、今日は何?」

 目を輝かせると、優しい笑みを浮かべ、テーブルにお菓子を並べてくれる。見た目から美味しそうで、自然と笑顔になる。

「いつもありがとうございます」
「いえ、とんでもございません。私の方こそ、毎回お話しさせて頂けて光栄です」
「光栄って、俺、何の名誉もないよ?メイドさんの方が絶対身分も高いのに」
「関係ありませんよ。私は、空杜様とお話しすることが楽しみなのですから」

 顔が自然に綻ぶ。俺にとっても、この時間が毎日の楽しみだった。

 二人で開くお茶会は居心地が良く、時間の経過を忘れるほどだった。メイドも穏やかに微笑むと、そのまま持ち場に戻っていった。

「ちょっと休憩したら動くか」

 夕方からは、身体を鍛えるトレーニングや木製の剣での剣術練習が日課だ。1週間後には、剣の実力を測るための練習試合が控えている。

 ここに来て3日経った頃、対戦相手が決まった。帝国で2番目に強い騎士だという。帝国一の使い手であるセスが相手では話にならないため、今回はこちらになったらしい。皇太子の身を守る騎士として、実力ある相手との試合も当然だろう。

 そして、その成果を発揮する時が、ついにやってきた。
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