奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される

葉空

文字の大きさ
17 / 52
奴隷商人と皇太子

15

しおりを挟む
俺は動くことのが好きだ。だが、残念ながら体を動かすだけではなく頭も使わなければならないこともある。

「ねぇ、もうヤダ。」
「では、次は馬車で他の貴族の方も乗られている際は…」

もう、泣きたくなる。ウィルはこちらの弱音を平気で無視して授業を進めていく。

自分が何もマナーも知らないのが悪いけど、色々と細かすぎる。

何で?何で数センチや微弱の角度でダメなの…もう、頭が痛い。

俺の1日の午前はウィルに色々とマナーなどを教えて貰っている。いや、俺が頼んだ訳じゃないけど、知識がなさすぎて強制的に教えるのが上手いウィルが先生として任命された。

「お、今の仕草は良いですね。」
「本当に?!」
「ええ、ではもう30回繰り返しましょう。」
「…悪魔。」

ボソッと呟いたつもりだが、ウィルの表情が強張ったことで「ヒッ」と小さく悲鳴が上がる。俺はあの4人の中では、ウィルが断然、怒ると怖いと思っている。だから、今も大人しく彼の言うことを聞いている。

それから2時間経つとようやく今日の授業が終わった。疲れてソファーに背中を預けるとウィルが冷たいカフェオレを出してくれる。

「本日もお疲れ様です。」
「うん、ウィルも毎日ありがとう。」
「いえいえ、それはこちらのセリフです。」
「何で、ウィルがお礼を言うのさ。」

可笑しくて笑うと、ウィルは白色の瞳を細める。

「それは可愛らしい方と2人で居られるのだから、感謝しますよ。」
「可愛らしくはないな。でも、ウィルのこと結構好きだから褒められるのは嬉しい。」

隣に立つ彼は苦笑を浮かべる。

「空杜さんは本当に素直ですね。そこがまた魅力の一つなんですけど。」

彼も隣に腰をかけてくると真っ白な髪がなびく。耳まで伸びた横髪の中から右耳を隠すように、一束の髪が伸びで縛られている。そして、耳の後ろからは、首元まで伸びた髪が外に向かって跳ねている。

ウィルの髪型は独特だった。前世でもこの世界でも初めて見る。どうやら、この髪型が優れた頭脳を持つ資格、博士号の象徴らしい。この世界でも数名しかいないそうだ。だから、ウィルは身体を使うよりは頭を使う仕事の方が多いらしい。

「でもさ、俺、まだ護衛らしいこと何もやってないんだけど。」
「あと、3日すれば嫌でも疲れますよ。」
「そんなに、舞踏会って忙しいの?」
「ええ、常に警戒しないといけないので。」

自分が午前中にマナーなどの授業を叩き込まれているのは、この舞踏会があることも原因だった。貴族が大勢集まるため、自分の行動が主人である玲於の評判にも繋がってしまうのだ。

「そういえば、俺ってまた仮面するの?」

玲於は、何故か皇族やウィル達以外の前だと仮面をするように命じてくる。それが、決まりなのかと思っていたら別にそうではないらしい。外に出た時に他の貴族の専属騎士は普通に顔を出していた。

「すると思いますよ。普通は顔を隠すことは相手に失礼に値しますが、…まあリアム以外に皇帝陛下と皇后陛下も許してますからね。」
「それって、本来ならダメなやつじゃん。」
「ええ、でも皇族が言ったら許されちゃうんですよね。」

それって、変な奴が皇族になったらヤバいじゃん。下手したら簡単に独裁者にもなれるじゃん。

怖っ…思わず身震いをしてしまう。すると、ウィルは楽しそうに笑う。

「何?」
「いや、空杜さんの感情が豊かになったのが嬉しくて。」
「豊かって言うか隠してないだけだよ?」
「ええ、分かっていますよ。それだけ、心を開いてくれたんだなって思って嬉しいんです。」

それだけで嬉しくなるものなのだろうか?まあ、感情を読み取りやすくなるから、考えて見ると確かに有難いかも…

「空杜さんが考えていること違います。」
「え?」
「何を考えているのかは、さすがに分かりませんけど、違うとは言い切れます。」

やっぱり、怖い…、えっ、何が違うの…

彼に答えを聞きたかったが、もうすぐ昼食の時間になるため行かなければならなかった。訓練や授業以外は玲於の傍を離れる訳には行かないから。だから、気になりながらも彼と別れることになった。

♦︎

ウィルは頬杖をついて笑う。

空杜は自分に関することになると、驚く程鈍くなることがある。鋭い観察力を持つ癖に、自分に寄せられる好意だけは気付かないのだ。仮面をするように命令されるのは、彼の優れた顔を隠すためであるのに。

まあ、リアムが嫉妬する相手が増えるのは困るので、俺もこの案は賛成だ。何なら、彼以外と会う時は仮面をして欲しいレベルだ。きっと、それは他の者も思っているが、皆んな空杜さんの自由を奪いたくないため口にしないのだろう。

だって、彼にはいつだって笑っていて欲しいから。

平気で自分を犠牲にしないで、もっと命を大切にして欲しい。だから、俺たちは空杜さんにだけは特別優しくする。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています

七瀬
BL
あらすじ 春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。 政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。 **** 初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,8時,12時,18時,20時に2話ずつ更新

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...