奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される

葉空

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奴隷商人と皇太子

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皇帝と皇后に連れられて、空杜は部屋に戻るまでずっと兄ちゃんのことを考えていた。

はじめは兄ちゃんと出会えたことに驚きながらも嬉しさを感じでいたが、考えれば考えるほど空杜の気は重くなっていった。

どうして兄ちゃんは俺に会いにきてくれなかったのだろうか。本当は、俺に会いたくなかったんじゃないのか?

今になって兄ちゃんと再会したことに戸惑い、空杜は次第に情緒不安定になっていた。

まるで幼い子どもが泣くのを我慢するように、耳を塞いで耐えていると、こちらに気付いたグレイ色の髪を持つ彼が走り寄って来る。まだ、扉を潜ろうとしただけなのに、既に自分の様子が可笑しいことに気付いたようだった。

「ソラ!」

いつもの無表情とは違い、焦った様子を見せるセス。これほど、表情を崩すのは初めて見た。

「何があった?!」

手早くお面を取るとこちらの表情を覗き込んでくる。彼のグレイの瞳が揺れているのが目に入る。

空杜はただ首を振って、下を向くと肩に置かれた手に力が込められる。

「セス!」

皇帝陛下の言葉に彼はハッとしたように手を離すと、後ろに下がるのが見える。

「っ、すみません。」

足元にまた誰かの足が見える。その人物が今度は自分の身体を抱き締めてくれる。

ああ、この温もりは知ってる…この匂いも、知ってる…

「玲於っ…」

心地良いリズムで背中を叩かれて、空杜は自身の身体を抱き締めていた手を離す。そして、目の前にいる人物の背中にそっと手を回すとそれに答えるように優しく力が込められる。

「空杜、大丈夫だよ。」

「れ、おっ。」

宥めるように優しく声を掛けられる。

「大丈夫。自分のペースで良いから落ち着きな。」

その言葉に従うように呼吸を整える。息苦しかった息も次第に落ち着き始め、そこで視界が少し赤みを帯びていることに気付く。

…瞳が、変わってる。どうしよう、もしかして見られた?いや、皆の反応は普通だった。

空杜は瞳をスカイブルーに変えると、視線を前に向けた。

「大丈夫か?」

玲於の心配してくれる顔が近い。自分しか映し出してないこの瞳が嬉しかった。

空杜は玲於の頬に手を伸ばすと、そのまま下に下げて彼の胸に置いた。そして、顔を擦り寄せて彼の心音を聞く。動いている、生きている、そう実感することが出来て安心した。

そして、そのまま瞼を閉じると意識が途切れた。

♦︎

「空杜!」

急に力が抜けた彼を慌てて抱き止めると、どうやら眠りについたようだった。その姿にホッとしたが、先程の光景に胸が痛む。こんな姿は初めて見た。

まるで、幼い子どもに戻ったよかのように泣き出す姿は、こちらの胸まで苦しくなった。早く泣き止んで欲しいと願うほどに。

でも、もしかしたら、先程の姿が本来の空杜なのではないかとも思えて苦しかった。

俺は、ソファーに空杜をそっと寝かせると、少しばかり彼の傍を離れた。代わりに、母さんが必死に宥めているセスの元に足を進める。

「セス。」

彼の肩がピクリと震える。壁から身体を離して、こちらを見る瞳は紅く震えていた。玲於は両手を伸ばすと今度はセスを抱き締めた。

「申し訳、ありっ「セス。」…っ…」

優しく名前を呼んでやると彼は口を閉じる。

「大丈夫だ。今日もよく俺と空杜を護ってくれたな。」
「でも、ソラがっ…」

首を横に振って否定するセスの身体からは黒いオーラが滲み出ており、肌に触れるとそこがピリピリと痛む。

「今は落ち着いて寝てるよ。セスが1番に空杜の異常を察してくれたお陰だ。ありがとう。」

背中を撫でながら、頭を胸に寄せると次第に彼から出ていたオーラが消え始める。

そして、次に視線があった時にはセスの瞳はグレイへと変わっていた。

「皇太子様、「リアム。」…リアム、ありがとうございます。」

セスは罪悪感を感じるとすぐに距離を取ろうとする。本当は敬語も注意したかったが、今回ばかりは何も言わなかった。 

正直、空杜の姿を見てから、感情が大きく揺れていたので、そのことについて問いたい気持ちもあった。だけど、『ソラ』と切なそうに叫ぶ姿を思い浮かべると、何も聞けなかった。

「セス。」

彼の名前を呼んだ母さんはギュッと抱き締める。それにセスは戸惑いながらも、腕を背中に回す。そして、父さんはセスに近付くと彼の頭を2度撫でていた。

「もう、大丈夫です。……あの、俺らの関係なんですけど……」

セスは言いにくそうに口を開閉する。

「言いたくなったら話してくれれば良い。ただ、2人は昔から知り合いなのか?」
「…はい。すみません。何も話せないです。」

セスが姿勢を正すと、母さんと父さんは彼からそっと離れた。

「ソラは…クウちゃんは、俺のことを覚えていないので何も聞かないでやって下さい。お願いします。」

頭を下げたセスに顔を上げるように伝える。

「何も聞かないから安心しろ。」

俺の言葉に安心したように肩の力を抜くと、セスはじっと空杜の方に視線を見つめた。

セスがこれほど感情を揺さぶられるのは何年ぶりだろうか。彼がいつも感情を殺して生きているのは、自身の身体に残る悪魔の血を抑止するためだった。

セスは敵国であるラドリエン帝国出身だった。だが、5歳の時に実の両親が悪魔の研究をする貴族に売りつけたのだ。そして、セスの身体に悪魔の血を入れ、肉体強化や闇魔法を使えるようになるのか研究しようとした。

セスが10歳の頃、主人はどこかの誰かに殺害され、命かながらに逃げ出したそうだ。その逃げ延びた先に、たまたまた居合わせた俺がセスを見つけ、連れ帰ったのが出会いの始まりだ。

必死に生きようとする姿に感嘆し、惹かれたことを覚えている。
それは今でも変わらない。彼の生きる姿に尊敬の念を抱かずにはいられなかった。
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