奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される

葉空

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奴隷商人と皇太子

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目が覚めると目から涙が溢れていた。少しばかり痛む頭を押さえると、部屋には誰もいなかった。そのことに、胸が苦しくなって無意識にドアの方に足を進めていた。

ドアノブに手を掛けようとすると、それよりも早く扉が開く。扉の隙間からは驚いたように眼を見開く青色の瞳が見える。

「空杜?」

扉が開き切る前に名前を呼んだ人物の首に手を回す。すると、すぐに抱き止めるように手が腰に回される。

彼の肩に顔を隠すと、少ししてから頭を撫でられる。少しばかり顔を離して彼の背後を見ると、こちらを優しく見つめるカールとウィルがいた。

「おはよう、空杜君。」
「おはようございます、空杜さん。」
「…おはよう。」

挨拶を返すと笑い掛けられる。空杜はなんか気まずくて、玲於の肩に顔を戻した。

「空杜、しっかり捕まっとけよ?」

答えるように力を加えると、ふっと身体が宙に浮き横抱きに抱えられる。お姫様抱っこなんか初めてやられたっ…。

恥ずかしい気もするが、暴れることなく大人しくしているとベッドに降ろされる。背中を2度優しく叩かれ、離れるように合図されるが、嫌で玲於を更に抱き寄せた。

すると、玲於はそのまま自分もベッドに上がって抱き締めてくれた。

「うわ、ずるい。」
「ええ、羨まし過ぎますね。」

隣から2人の声が聞こえてきたが、特に気にすることなく顔を擦り寄せる。自分よりも高い体温が落ち着く。

「…ねぇ、セスは?」
「今は、自室にいる。会いたい?」
「うん。」

頭を撫でられると気持ち良くてそのまま眼を瞑る。

「セスを呼んで来て。空杜が会いたがってるって。」

どちらも動く気配がない。そのことに呆れてか上からは溜め息が吐かれた。

「なら、ウィルが呼んでこい。」
「え、私ですか。カールで良いじゃないですか?」
「はあ?!俺は空杜を見守る義務がある。」
「それなら、私もでしょう!」
「ドアに近いのがウィルだから行ってこい。」

命令する口調に反応するよう1人の気配が離れる。
パタンと扉の音が耳に届いた後にベッドが少しばかり沈み込んだ。

「空杜、どうした?」

近くに来た声の主に視線を向けると、光を受けて茶色の髪が光っているように見えた。そっと手を伸ばして弄るように触れると、彼は触りやすいように距離を縮めてくれる。

「なんか、寂しいの…」
「そっか、どんな風に寂しいのか教えてくれる?」

自分がまだ小さかった時を思い出す。俺の元気がなかった時もカールのように、兄ちゃんが自分を宥めるように話しかけきた記憶がある。

「…カール、兄ちゃんみたい。」
「兄ちゃん?」
「うん、俺のね1番の家族だった人。血の繋がりはなかったけど、大好きだった。ううん、今でも大好きなの。」

そう言うとまた泣きそうになる。

「兄ちゃんに、会いたい…早く来て欲しい。」
「何が来て欲しいの?」
「日曜日…会えるから。」

ギュッと手を握り締めると玲於が優しく背中を撫でてくれる。

「それなら、日曜日は1日お休みにしないとダメだな。」
「うん、する。」

カールは空杜の頭を撫でる。それに空杜は何か言いそうに口を開きかけたので、カールは優し声で尋ねた。

「どうした?」
「…ん、あのね。でもね、セスの方が兄ちゃんに近いの。性格は反対なのに、どこか雰囲気や頭の撫で方が似てるの。」

突然、勢い良く扉が開く。少しばかり息を乱したセスが入ってきて、彼の姿を見るとどこか安心する。

「クウちゃん、大丈夫?身体辛い?」
「辛い?」
「熱、ある。」

だからかと納得する。ずっと、頭が痛くて身体も怠いのはそのせいかと。

空杜は玲於から身体を起こすとベッドに座り込んだセスの腰に抱き付いた。

「…撫でて。」

そう願うと戸惑いながらも頭に触れてくれる。セスは体温が低いので冷たくて気持ちが良い。

「…兄ちゃん、俺のこと憎んでるのかな?」
  
顔を向けてじっとセスを見上げるとセスが優しく微笑んでくれた。

子ども返り中で突然、訳のわからないことを言う空杜相手でもセスはいつも通り落ち着いていた。

「憎んでないよ、きっと…」

セスに言われると本当にそうなんじゃないかと思える。だから、日曜日、直接聞いてみようと思った。

「セスは、兄弟いる?」
「…兄がいる。でも、弟分を守るためにどこかに消えた。」
「俺と似てるね。俺も兄ちゃんみたいな人がいたんだけど、居なくなっちゃったんだけどね……でも、…昨日、会えたんだ。」

撫でていた手が一瞬止まる。

「…そうなの?」
「うん、だからセスの兄ちゃんもきっとどこかで会えるよ。」

それを口にすると、空杜は意識の限界から眠りについた。

♦︎

兄ちゃんに会えた…?意味が分からなかった。

空杜が眠る前に溢した言葉が気になった。いや、それよりも14年前に別れた人を今でも覚えていたことに衝撃を受けた。

「セス。」
「はい。」
「日曜は空杜を休みにさせたいから、護衛頼めるか?」
「日曜ですか?」
「ああ、空杜がその日、兄ちゃんとやらに会う約束をしたらしい。」

思わず視線を下に向けると安心したように眠る空杜の姿が目に映る。

「…すみません、俺も休みにさせて頂きたいです。」
「セスもか?」
「ダメでしょうか?」
「ダメだ。」

そう言われて奥歯を噛み締めると、リアムはクスリと笑う。

「敬語で頼むなら許さん。」
「…日曜、休ませて。」
「いいぞ。かわりに敬語禁止だからな、以前のように戻せ。」
「…分かった。」

セスは空杜の身体を反転させてそっと抱き上げた。そして、布団の中に彼を寝かせると玲於達は仕事があるため部屋から出て行った。

セスは空杜の首に掛かっている紐を引っ張った。先程から膝に当たっていたものを服の中から取り出すと見覚えのあるネックレスが出てきた。

「確定か。」

これは先程、空杜との会話に出した兄ちゃんが騎士から盗んだものだ。

だから、彼が自分の記憶の中に残っているソラなんだと確信が持てた。でも、同時に彼は誰に会おうとしているのか疑問に抱いた。

それと…もう彼に全てを話してしまおうかと思った。自分の過去についても話す必要があるため、気持ちを作る時間は欲しいが空杜なら伝えても大丈夫だと思えた。

てっきり兄ちゃんの存在を忘れていると思っていたから、これまで彼のことに触れないように接してきた。もし、忘れているのならあまりにも思い出させてしまうには、辛い記憶もあったので隠そうと思ったのだ。

「今度こそ、守るから。」

空杜の頭を撫でるとそっと離した。

誰よりも愛おしい。自分の弟分でもある彼の存在が何よりも大切で幸せになって欲しかった。
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