奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される

葉空

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奴隷商人と皇太子

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「ありがとう!」

イーサンに笑いかけるとすぐさま、頭の後ろに手を回されて胸に押さえ付けられた。少しばかり息が苦しくて、玲於の肩を叩く。

「玲於苦しい!」
「あっ、ごめん。でも、これは空杜が笑いかけるのが悪い!」
「空杜?」

イーサンの言葉に玲於はしまったというように唇を噛む。

「空杜って、ソラのことですか?」
「お前はアリマって呼べ。」
「呼んで欲しければ答えて下さい。」

玲於はイヤイヤながらも首を縦に振った。

「皇帝殿は、何でソラって呼ぶんだよ。」
「ああ、それはセスが付けてくれたんだよ。」

俺が答えると、全員がセスに視線を向ける。でも、彼は首を傾げるだけだった。

「ああ、そっか。記憶消したから、正体バレてんの忘れてるな。」

イーサンはこっちに来るように片手を振る。全く動こうとしないセスにイーサンは舌打ちをしたので、玲於が来るように指示を出した。

セスが側に来るとイーサンは立ち上がり、セスの頭に手を置く。そして、手から黒いオーラを出すと一気に嫌な空気が流れる。一気に戦闘態勢に入ったこの部屋の者に、イーサンは片手を上げて害がないことを証明する。警戒しながらも、行方を見届けると黒いオーラは消えた。

その瞬間、セスは膝をついて頭を抱える。そして、冷や汗を流して視線を上げると剣に手を掛けようとする。それよりも、早くイーサンが柄頭を押さえて引き抜けないようにする。

「俺は円満に解決させようとしてるんだ、止めとけ。」

セスは奥歯を噛み締めると、悔しそうに立ち上がった。

「…記憶も弄れんのかよ。」

ずっと観客のように遠目から見ていたカールが近付き、驚いたように溢す。

「ええ、残念ながら悪魔の血が流れていない者には出来ないんですけどね。」

イーサンは再びソファーに腰を下ろす。

「それで、何の話をしてたっけ?」
「ソラという名前をセスが付けたって所までです。」

ウィルもこちらに寄ってきて皇帝と皇后の背後に立つ。

「ああ、そうだった。」

イーサンはセスに視線を向けて、顎を一瞬前に出す。セスは不服そうながら口を開く。

「そうだよ。俺がソラと出会った時に付けた。」
「うん、あ!あとね、兄ちゃんがセスだった!」
「それは、舞踏会の時に言ってた兄ちゃんのこと?」

皇后陛下に言われて首を縦に振ると、嬉しそうに微笑まれた。

「こいつが部屋から出たら過去について説明しますね。」
「俺はキミの過去に興味ないから、構わないよ。ほら、アリマ行こうか。」

立ち上がったイーサンに、空杜はギョッとして玲於の背後に回った。

「嫌だ!俺は聞きたいの!」

イーサンが一歩近付いてくる度に、空杜の目には涙が溜まり出す。彼なら無理矢理連れて行くだけの力があることは分かっていた。

「ああ、もう!アンタも残ってて下さい!」

セスが初めて声を荒げる姿を見たのでビックリして目を見開く。それは他の者も同じらしく、彼に視線が集中する。でも、周りは彼の感情が揺れていても瞳の色が変わらぬことに対しても驚いた。

感情が起伏しても首輪の力で髪色は隠せたが、瞳だけはどうしようも出来なかったからだ。

「大丈夫ですよ。今は血を抑えるネックレスをしているので。」

セスは彼らの反応から気付いたように言葉を付け加える。もちろん、悪魔の血を完全に抑制出来ていることは知らない。それを知れば彼は自分の命をかえりみずに空杜にネックレスを返そうとするのが目に見えているため、その事実を伝えようとは思わなかった。

「では、俺のことについて話しますね。」

セスは溜め息を吐くと自分の過去について話し出した。

「まず、俺はランドリエン帝国の子どもでした。でも、両親によって1人の男に売られ奴隷となりました。」

セスはどこか他人事のように語る。

「男は、前帝の部下で悪魔の血の効力について研究していました。俺達の代は他の世代よりも血を弱めて、2歳の時に投与されました。それで、どこまで力を使えるのか、生きられるのか調査を行いたかったらしいです。」

俺は玲於から離れるとセスの手を握った。彼は優しく笑いかけてくれるとそのまま、近くにあったソファーに2人で座った。他の者もソファーに座りこちらに視線を向けてくる。

「他にも同じように売られた奴隷がいましたが、血を入れられてすぐに35人が死に、俺を含めた5人だけが生き残りました。さすがに、男も子どもの時に投与するだけで、これほど拒否反応を起こして死ぬとは思わなかったらしいです。一気に子どもが死んだことに焦り、男は子どもを買うためにある所に向かいました。」

それで俺はハッとしたようにセスに視線を向けた。

「それがソラの家です。」

セスは空いた手で頭を撫でてくると、再び視線を前に向けた。

「もとから、皇族が関わりを持っていた所だったので、何も問題はありませんでした。男は子どもがすぐに手に入ることもあり、そこに住み着きました。それから、5年経った頃、ソラが生まれました。ソラの両親は既に男から惑わされており、赤子の時ならば血を与えることを承諾していました。赤子から血を投与するなら高確率で生存出来、優秀な子が生まれると唆されたからです。」

それでようやく納得した。あれほど、悪魔の血が入っていることを怖がっていたのに、何故投与したのか疑問を抱いていたのだ。両親は家業で儲けるためにも優秀な子供を欲しかったために血を投与したのだ。

そして、俺は生まれた時からセスとずっと一緒にいたことを初めて知った。物心がついた時から、兄ちゃんと一緒にいる記憶はあったがまさかそんな昔からだとは思わなかった。

「それからは、俺がソラの世話係として生活していました。男の中では俺が1番優秀な子どもらしく、恩師である相手の子どもの世話を命じたのです。同じ血が流れる者としてサポートを行うように。…俺は、こんな自分を慕ってくれるソラが可愛くて仕方がなかったです。だから、生きて欲しくて男が隠し持っていた、ネックレスを盗み、ソラにあげました。その時、丁度1人の子どもが逃げ出したのでソイツが盗んだと思ったようです。怒りに我を忘れて、男は子どもを探しに向かいました。」

セスは寂しそうに目を伏せる。

「…ソラは両親から名前を名付けられていましたが、怒る時しかその名を呼びませんでした。呼ばれる度に辛そうで、名前を嫌って行く姿を見ていられず、俺が新しく名前を付けました。壮大で自由な意味があるのでソラと名付けました。」

思わず手を握り締めると、優しく返される。

「でも、前帝が急にソラの両親に男を殺すように命じたのです。俺は夜、たまたまその話を聞いてしまいました。でも、盗み聞きしていることを知られてしまい、ナイフで腹を刺されました。恐らく、普通の子どもなら死んでいたと思います。でも、男が入れた血によって命かながらも逃げ出せました。追ってを少しでも家から引き剥がそうと森に行きました。丁度、家に戻ろうとする男と奇跡的に出会えて、追ってはそちらに獲物を変えました。自分はもう出血多量で死ぬだろうと思ったのでしょう。」

セスは一つ溜め息を吐くと玲於を見た。

「それで、リアムに拾われ生きながらえました。でも、多量に出血したことで悪魔の力が少し暴走しました。高熱も出て、次に目を覚ました時には自分がどこから来たのか、なぜ怪我をしていたのか分からなくなりました。…ですが、記憶は2年前に突然戻りました。すぐに、ソラの元に行こうとしましたが、ラドリエン帝国と戦争をしており自分が離れたらそれこそ、ソラのいる地域に被害が及びそうだったので諦めました。」

ふと、セスと兄弟の話をしたことを思い出す。

『セスは兄弟いる?』
『…兄がいる。でも、弟分を守るためにどこかに消えた。』

これは自分のことを言っていたのだと今では分かる。兄はセスで、弟分は自分のことだろう。消えたのではない、ずっと守ってくれていたのだ。

セスがこれまでも自分のために犠牲にしてきたことを知ると、勝手に涙が溢れてくる。苦しかったのも辛かったのも、全部セスで俺じゃないのに…

「ごめんなさい…」
「何でソラが謝るの?俺は自分のやりたいように生きてるのに。」

大好きな温もりが頭に感じる。彼はいつだって、自分に優しかった。

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