奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される

葉空

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奴隷商人と皇太子

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ラドリエン帝国で目覚めた日はリアムと1日中過ごした。リアムから皆んなが心配していることを知らされたので、目覚めたことをすぐに伝えようとした。でも、今日1日は最低でも俺のことを独占したいからと言って離してくれなかった。結局、2日間、2人で過ごすことになった。

3日目にしてようやく部屋から出られたので、皆んなが揃った部屋に駆け寄ったら、入った瞬間痛いほど抱き締められた。リアムに関しては独り占めをした罰として、暫くの間部屋から追い出されていた。

「このバカ息子!」

いつも何かと上品さを金揃えた皇后陛下までもが、リアムを叩きながらそんなことを言うものだから俺は口を開けて固まってしまった。

「もう、本当にリアムがごめんなさいね。空杜ちゃん、大丈夫?本当に嫌なことされなかった?」
「本当に大丈夫です。」
「そうよね、…言いにくいわよね。」
「え?」
「リアム、あなた私が良いって言うまでここに残りなさい!」
「はあ?!」

リアムが声を荒げて皇后を睨むと、今度は皇帝陛下が妻を庇うようにリアムを睨みつける。

「おい、息子であろうとマイラを睨むのは許さんぞ。」
「なら、ここに残ることを撤回させろよ?」
「するはずがないだろう。大人しく反省していろ。これは命令だ。」

リアムの悔しそうな顔を見た瞬間、心が騒ついた。2人からの命令では、皇太子である彼は反抗できないのだろう。

俺は皇帝陛下、皇后陛下の後ろに隠されるように立っていたが、俺は2人を避けるようにリアムの元に駆け寄った。

そして、両手を伸ばして彼の腰に抱き付くと、引き剥がされないように力を込める。

「空杜ちゃん?!」

驚く声が背後から聞こえるが聞こえないフリをする。

辺りがシーンと静まり返ると、すぐ側まで歩み寄ってきた人達が溜め息を吐く。

「空杜ちゃん、リアムと離れたくない?」

チラリと視線だけ横に向けると、柔らかな笑みを浮かべる皇后陛下がいた。首を縦に振ると、彼女は顎に手を置いて、うーんと眉間に皺を寄せて考え出す。でも、考えが纏まったのか手を離すと、少し項垂れて目を細める。

「なら、命令撤回よ。このまま行くと空杜ちゃんまで残るって言い出しそうだし…」

まさにその通りだった。皇后の言葉にホッとしたのは束の間で、キリッと皇族らしい目つきに切り替わる。

「でも、条件があるわ。」
「…何でしょうか?」

そっと、リアムから身体を離して身体を向けて真剣な眼差しを向ける。緊張しながらも視線を外さずに見つめていると、何とも拍子抜けする回答が来た。

「私のことをお母さんって呼んで。」
「は?」
「俺のことはお父さんだな。」
「え?」

冗談ですよねという意味で視線をそれぞれ向けたが、彼らは決して笑わなかった。

「…本気ですか?」
「これを本気じゃないって思うの?」
「お、もわないです…」

助けを求めるようにリアムの顔を覗くと、両親の後押しをするように背中を優しく叩かれる。

周囲に視線を向けると苦笑いを浮かべるばかりで、俺を助けようとする者は誰もいなかった。

「ほら、早く呼んでみて!」

掌を揃えて楽しそうにこちらに詰め寄ってくるので、顔が引き攣ってしまう。

いや…いや、いや、突然可笑しなことをぶっ込んでくるのは皇族の特徴なのか…?

「命令撤回をやめるか?」
「ええ、やっぱりその方が良いかもしれないわ。」
「お父様、お母様!」

命令撤回をされるのは嫌なため、反射的に言葉にしていた。でも、言い終わって2人のニヤニヤした笑みを見た瞬間、恥ずかしくて仕方がなかった。

首に腕が回ってきたと思った瞬間、身体は背後にいる男に抱き寄せられて上を見るとどこか不服そうな顔をしていた。

「何?」
「俺は?」
「リアム?」
「違う。」

意味が分からなくて眉を寄せると、彼は溜め息を吐く。

「旦那様だろ?」
「っ?!」

その瞬間、恥ずかしさの頂点に到達したように何も考えなれなくなった。リアムの腕を外そうとしても上手くいかなくて、彼の腕からは逃れられなかった。

「呼んでくれないの?」
「何でだよ?!結婚してないだろうが!」
「それを言ったら、2人もまだ親じゃないじゃん。」

痛いところをつかれる。でも、彼が言わそうとしていることは、ここ最近でダントツに恥ずかしい言葉No. 1だった。

「ルーカス。」
「「「ルーカス?」」」

一度に名前が呼ばれる。

あっ、そっか。名前、内緒にしてたんだった。

「俺の本当の名前です。それが親がつけた名前でこれからは、皆んなルーカスって呼んで下さい。」
「良い名前ね。」

褒められて嬉しくなった。これまでは自分らしくない名前が嫌で嫌で仕方がなかったが、今は素直に喜べた。

「で?もう良い加減いいか?イチャイチャすんなら帰ってやれ。」

どこか呆れた声を含んだ声色の主を見る。赤紫の瞳は紺色に変わっており、見た目から普通の人間に戻ったことを物語らせている。

「イーサン…」

名前を呼ぶと彼は目尻を緩ませた表情で近付いてくる。そして、目の前まで来ると地面に膝をついて頭を下げてくる。

「何してるの?!」

皇帝である彼が自分に向かって頭を下げている。下級である自分にそんなことをするので、驚きと焦りが入り混じる。

立たせようとしてもその腕を振り払われて真剣な面差しでこちらを見るので何も言えなくなってしまう。

「ルーカス殿、この度は我々ログナート帝国のために力を尽くして頂きありがとうございます。この御恩は一生忘れません。そして、今回の行いは生涯語り続けられるものでしょう。」

まるで英雄になった気分だ。いや、英雄としての行いは確かにやったのだろうが、居た堪れなくて逃げ出したくなる。

「いえ、こちらこそ私達を受け入れて助けて頂いてありがとうございます。」
「普通は俺だけやるんだが…」
「そうなの?俺にはまだ今の立場での振る舞いは分からないからね。」

俺もイーサンに習うように膝を付けたので、彼は目を見開いて笑って見せた。一向に立ち上がろうとしないからか、イーサンは手を差し出してきたので一緒に立ち上がった。

「あの男が嫌になったら、いつでも来い。妻として迎え入れてやる。」
「うぇ…それは遠慮しとくよ。それに、俺が嫌になることはないよ。」

チラリとリアムに視線を向ける。

「俺の旦那になる人は生涯1人だからね。」
「ルーカス!」

抱きついてこようとしたので、ひらりと横にずれてかわす。彼は不服そうだが、あまり人前でイチャイチャしたくはないので、許して欲しい。

そうして、俺たちはログナート帝国から離れたのだった。
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