奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される

葉空

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厭人の王と人間の僕

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「ぴゃってなんだよ」

 全身黒ずくめの青年はクスクスとおかしそうに笑うと、目の前でしゃがみ込んだ。
 青年は紫色の瞳を細めながら、首を傾げるとただじっと僕を見てきた。それはそれはこちらが恥ずかしくなるレベルにじーっとだ。

 だから耐えられなくなった僕が先にこの空間を打破するべく言葉を発した。

「お兄さんっ!」

「お兄さん?」

 青年は自分を指したので僕はコクコクと頷いた。
 すると、彼が無表情になってしまったので、僕はまたひっ…と情けない声をあげることになった。

 お兄さんと呼ばれるのがそんなに嫌だったのだろうか……

「な、名前を教えて下さい!」

 青年は僕の言葉を聞くと今度は考え込むように視線を逸らしてしまった。

 …僕はまた何かやらかしてしまったのだろうか。

 もう何も話したくないと思い彼の視線を追うように背後を見ると、僕はハッとして思わず青年の裾を掴んだ。

「逃げなきゃっ!」

 突然声を上げた僕に驚くように青年は肩をビクつかせると、何事かと目を瞬かせる。

「逃げる?」

「うん!逃げないと危ないから!ほらっ」

 僕が森林火災の方を指さすと彼はなんの反応も示さずに再び僕を見た。

 何だろう…この人、さっきから僕の言うことに疑問で返してる気がする。そんなにおかしなことは言ってないはずなのに…。
 
「ああ、そっか。そうだった」

 青年は燃える森林を見ると1人で何やら納得したように頷く。
 その横で僕は困惑して彼を見つめるばかり。

 いや、何がそうなのか教えて欲しい。
 そんな願いがマイペースな彼に通じるはずもない。

「まあ、もういっか」

 そう言って青年が森の方に手を広げると、森を燃やしていた炎が消えてなくなった。

 一瞬の出来事に呆然とする僕を青年は抱えると立ち上がった。

 …あれっ?

 僕の読んでいた小説物語ならきっと主人公をお姫様抱っこをする場面として描かれるだろう。だが、あいにく僕はお米様抱っこによって担ぎ上げられた。

 まあ、男だからお姫様抱っこに憧れることはないけど、せめておんぶにして欲しかった。お米様抱っこはなんか雑な運び方がしてなんか嫌だ。
 とはいえ、動けない僕が助けてくれる彼に注文などできるはずもなく黙って受け入れる。

 というか、先ほどの光景が衝撃的すぎて何かを発する気力が起きなかったという方が正しい。
 だって、瞬きしている間に鎮火したのだ。

 上下逆さになった世界で再び視線を向けてみると、やはり視界の先にあるのは黒く染まった一面だけだった。
 やはり見間違いなんかじゃないらしい。

 これが魔法というものだろうか。1人で悶々と考え込んでいると青年が腰をポンと叩いた。
 何事かと彼を見るとまた訳のわからないことを言う。

「じゃ、帰るか」

「帰る?」

 帰るってどこに?と疑問に抱くと同時に今度は周囲の景色がガラリと変わった。
 
 今度は魔法を使ってどこか部屋の一室に移動したみたいだ。青年は戸惑う僕をベッドの上に座らせるとあぐらをかいて目の前に座ったのだ。
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