動物アレルギーのSS級治療師は、竜神と恋をする

拍羅

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「ごめん。」


誰かが苦しむ姿を見て、苦しくなるのは久しぶりだった。小さな身体を丸め、自分を守るように抱きしめる姿に胸が痛む。


「ルカ。」


自分の声が聞こえていないようにルカは、荒い息を繰り返していた。彼の身体を早く回復させたくて、ヒスイは再び自分の腕に爪を立てた。赤い血が浮かび上がると、ルカの頭を支えようと触れた瞬間、彼は顔の前に両腕を持ってきた。


「っ、ごめんなさい!」


「ルカ?」


「ごめんなさい…俺が悪いから…許して…っ…もう、引っ張らないで…」


突然謝り出し、身体を震わせ始めた彼に戸惑う。これはどう見ても恐怖から沸き起こる仕草だった。

…引っ張らないでと言うことは髪の毛を無理矢理掴まれでもしたのだろうか。ルカの頭から手を離すと、どこかホッとしたように力を緩めたので多分、合っているのだろう。


「ルカ、俺の血飲めそう?」


腕を口元に持っていこうとすると、また恐怖を浮かべた表情を向けてくるので、どうしたら良いのか悩ませる。本来の彼ならば、このような姿を見せず、すんなりと口を開けてくれるはずだった。どうやら、今は視界が定かではないようで俺を誰かと間違えている様子だ。


…いや、違うか。きっと、これが本来のルカなのかも知れない。不安を表に出して、自分を守ろうとする今の姿は俺が知るルカとは似つかない。日常的に暴力を受けていたのなら、傷付けられることも軽蔑した眼差しを向けられることも過去を思い出させて尚更しんどかったはずだ。


「…気付けなくてごめん、…我慢させてごめん。」
 

ルカの上で腰を浮かせたまま、片手で顔を隠す。


俺はいつも無力だ。大切な人をいつも、辛い目に合わせてしまう。なんで、今更、周囲との壁を壊そうとしてしまったのだろう…

ルカとはもっと早く別れられたはずだった。本来なら、1日で終えられるこの世界の説明を、様々な事柄に分けてずるずると引き伸ばしていた。こんな自分を綺麗だと言ってくれた彼と、もう少しだけ傍に居たいと思ってしまったのだ。


「ヒ、スイさん‥っ…スイさ…」


か細い声に反応するように手を退けると、ルカがベッドに手を付いて起き上がろうとしていた。


「起きるな!」


身体を寝かせようと、手を差し出したが宙で止まる。

‥これでまた、ルカを傷付けることになったら?また、恐怖に満ちた視線で向けられたら…そう思うと、彼の肩に触れられなかった。俺は何百年経っても自分が傷付くのが怖いのだ。


俺は心を落ち着かせるように深く呼吸をした。ルカを寝かせないといけないと思い直し、彼の肩に触れて仰向けにさせた。そして、身体を起こそうとすると、首に熱いほどの体温を感じた。身体が前に倒れ、慌ててルカを潰さないように力を込めると、それに抵抗するように弱々しい力が込められる。


「泣かないで。」


「…泣いてないよ。」


突然のことで一瞬、言葉が出てこなかった。でも、ルカが手を離そうとする意思がないことが分かると、そっと身体を前に屈めた。それを嬉しそうにルカは微笑む。


「へへ、ヒスイさんだ。ヒスイさんがいる~!」


更に引き寄せられて、ルカの肩に顔を埋める。


「うん、ここにいるよ。--ねえ、ルカ。」


「ん?」


「俺の血飲んでくれる?」


「いや。」


まさか断られると思ってなかったので顔を上げると、ルカは不服そうに口を尖らせていた。


「何で?すぐに身体が良くなるよ。」


「…いやだ、ヒスイさんまた、自分傷付けるもん。」


「痛くないから大丈夫だよ。それに、あれくらいなら数十秒で治るし。」


ルカを宥めるように頭を撫でようとするとぷいと視線を外される。


「俺、見たくないもん…ヒスイさんがケガするの…」


…かわいい。思わず柄にもない言葉を口にしそうになったので、それを押し込めるように大きな息を吐く。


「ヒスイ、さん?」


苦しそうに咳を始めたルカの背中を優しくさすってやる。でも、反対の手では爪を立てて手のひらから血を出す。


「実は左手怪我してて、ちょっと痛いんだ。ルカが舐めてくれたら治るんだけど…」


「なめる?」


「うん。今は、しんどくて魔法が使えないでしょ?ルカの唾液にも治癒効果が含まれてるはずだから、舐めて欲しいなって思って。」


もちろん、ルカに血を飲ませるためのハッタリだ。無理矢理飲ませることも出来るが、ルカが嫌がることはもうやりたくなかった。だから、自発的にやってもらうしかない。


「いいよ。」


「ありがとう、ルカ。」


本人の了承も受けたので、血が流れる片手を差し出す。ルカは両手で掴むと口元に引き寄せてきた。そして、垂れた血を舐めとるように舌を動かし、傷口を中心に舐め始めた。少しくすぐったいがこれで一安心だ。


「ん…、おいしぃ…」


「好きなだけ飲んで良いよ。」


ルカの頭を撫でてやると、熱ぽい瞳と目が合う。だが、首は横に振られる。


俺の血はどうやら甘いらしい。基本的に、意識が混濁している者や気絶している者しか助けてこなかったため、知らなかった。1度、ルカのアレルギーを治そうと飲ませた時に初めて知った。でも、ルカのアレルギーは神が与えた罰みたいなもののため、症状を和らげる程度しか回復出来なかった。


次第にルカの瞼が重そうに下がっていく。俺の血が働いて、身体を回復させようとしているのだろう。ルカを安心させるために身体を抱き締めてやると縋るように身体がくっついてくる。


「かわいい。」


今度はすんなりと口にしていた。でも、当の本人は既に夢の中である。


「早く良くなって。」


そう願いながら、俺も目を閉じた。
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