動物アレルギーのSS級治療師は、竜神と恋をする

1１

朝起きたら、隣にヒスイさんがいなかった。どこにいるのだろうと思って、気配を探して見ると外にいた。何で外にいるのか疑問に抱いたが、今日は久しぶりに俺がご飯を作ろうと思って、朝食を用意した。


「喜んでくれるかな？」


ドキドキしながら、席に座って待ってみるが帰ってくる気配がない。何してるんだろうと思ったが、少しぼーっとして時間をつぶしてみた。でも、やっぱり一向に動く気配がない。だから、俺は心配になって迎えに行くことにした。


気配を頼りにヒスイさんの元に行くと、昨日出会った狐の獣人がいた。そして、それに仕えるように2人の従者もつれている。


ヒスイさんも彼女も従者も聴覚と嗅覚がいいため、俺が来たことには気付いていた。ヒスイさんは柔らかな笑みを浮かべてくれるが、女性はキツイ目つきで睨んできた。従者に関してはどこか頬が赤くなっているように見える。


「ルカ、おはよう。」　


「おはよう。」


戸惑いながらも近付くとヒスイさんに腕を引かれて抱き締められる。人前で甘えてくるとは思っていなかったので、思わず変な声が出てしまう。自分の視線が彼女達の方ではなく森の方に向いてて良かった。それでないと、俺の赤く染まった顔がバレてしまう。


「ヒスイ様、さすがに酷いですわ。男といえど、婚約しようとしている者の前で無礼ではありませんか？」


婚約…。思わず顔を横に向けると、ヒスイさんは首を傾げて俺の頭を撫でてくる。


狐人はその姿に顔を歪めると、従者に指示を出す。1人が俺の肩を掴もうとした瞬間、従者の1人は手を押さえて倒れ込む。


「え？」


反射的にその従者に近寄ろうとしたら、腰を掴む力が強くなり行動を抑制させられる。


「ヒスイさん？」


「ん？お腹が空いたか？」


「いや、違う。あの人の手を見たいから離して。」


微かに嫌な感覚がしたので手当てをしようと思ったのだが、俺の言葉を聞いていない様子で頬を触ってくる。


「ヒスイ様！」


金切声のような煩い声に思わず耳を塞ぐと、ヒスイさんは俺の頭を肩に抱き寄せた。


「お前、煩い。」


狐人はヒスイに威圧されて、後ろにたじろぐ。でも、理解が出来ないというように首を横に振る。


「何でですか？そんな訳の分からない者ではなく、私を選んで下さい。私はこの隣の国を治める王の唯一の娘ですよ？ヒスイさんが望むものを何でも与えられます。」


頭上からは不機嫌そうな溜め息が聞こえる。俺はどうしたら良いのか分からなくて、また森の景色を眺めていた。背後に聞く耳を持って。


「うざいな。」


これまで言われたことのない容赦ない言葉に狐人は涙をためる。その姿にヒスイは更に嫌そうな顔を向ける。


「俺にとって、この子以外は全て同じ価値だ。」


「っ、そんなはずありません！」


ヒスイさんはまた溜め息を吐く。


「めんどくさいな。お前は必要ない。俺に何を与えるのだ？そんなもの、俺が欲しいと願えばどれでも手に入るものだ。」


狐人は涙を流している。従者もヒスイの雰囲気に圧倒されてピクリとも動かない。


「次、何か言葉を発したらお前の国を滅ぼす。」


その言葉にゾッとした。彼なら本当にやると瞬時に悟ったからだ。それはここにいる者、全員感じたらしく口を閉ざした。


「うわっ？！」


身体が浮いてすぐ側にあったヒスイさんの首に両手を回すと、彼は満足そうに微笑んだ。そして、俺の頭にキスをしてくる。俺は慌てて頭を押さえて、背後を見ると驚いたように固まる3人と視線があった。


気まずくて視線を外すと、ヒスイさんの服をギュッと握り締めた。その様子にヒスイさんはクスクスと意地悪な笑みを溢す。


「…ひどい。」


「何が？」


「俺を揶揄って遊ぶから…」


「揶揄ってないよ。アイツらのせいで気分が悪くなったから、ルカで癒されてたの。」


「何それ？俺でなるの？」


「当たり前でしょ。」


きっぱりと言い切られたがよく分からない。でも、俺でヒスイさんの気分が良くなるなら嬉しいと思った。


「ならいいや。」


はにかんで笑うとヒスイさんも目尻を下げる。


「ちょっと待ってね。すぐにご飯作るから。」


「あっ！俺作ったよ！」


その言葉にヒスイさんは驚いたように口を開く。


「本当に？」


「うん！不味くても美味しいって言ってね。大丈夫だと思うけど…」


これでも1人でご飯を作ってきた歴は長い。だから、味に関しては大丈夫だと思うが、ヒスイさんの料理は格別のため保険をかけたくなった。


「楽しみだな。それなら、早く帰らないと。」


そう言うとヒスイさんは足早に歩き出す。俺はヒスイさんが既に喜んでくれて嬉しかった。


家に帰ると俺の手料理もおいしいと言って、おかわりもしてくれた。誰かに食べてもらうのって胸が温かくなって、心地が良かった。だから、また作ってみようと心に決めた。