どこまでも続く執着 〜私を愛してくれたのは誰?〜

あさひれい

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かわいいあなた※

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私の新しい義妹のアマリアは、ここへやってきた疲れで、湯浴みの後ぐっすりと寝込んでしまったらしく、晩餐は中止になった。

弟のヘンドリックはアマリアの寝顔を見ながら至福の時を過ごしていることだろう。



夜も更け、動かない脚を侍女に念入りにマッサージされながら椅子に腰掛け、あどけないアマリアを思い出す。



可憐で美しい子だった。ヘンドリックもさぞかし満足だろう。

やっと、あの子をここまで囲い込み、今はもう自分のものになるのをただ待っていればいいだけなのだから。



大切な弟。ヘンドリックが生まれた時、私は7歳だった。記憶にもはっきり残っている。真っ赤な赤ちゃんが大きな大きな声で泣いていた。

その下の弟のロビンが生まれた時、私は12歳だった。

ロビンの泣き声より、出血が止まらなくなって、意識が遠のく母を必死に呼び続ける父の声が響き渡っていた。





私が12歳のとき、こうして、公爵家の夫人はいなくなった。

美しい母は、いつでも柔らかく笑っていた。

16歳で嫁いできて、17歳で私を産み、30歳になる前に死んだ。あまりに儚い人生だった。



母の後釜にと、虎視眈々と狙う輩はいくらでもいた。

私は幼いながらも、必死に公爵夫人の代理が務められるように日々奮闘していた。







何者かに毒を盛られたのは14歳の時だった。

命は助かったが、脚の感覚は永遠に失われた。

隣国の第二王子の元に嫁ぐ話は一瞬にして消えた。後遺症なのか、妊娠も望めないと医者から宣告された。

私は生き延びたのではない。生きながら、死ぬことを課せられただけなのだ。





激怒した父が公爵家の影を使って、私を殺そうとした者と実行に移した鼠は簡単に捕らえられた。

しばらく箱で飼っていたけれど、何匹かはすぐに死んでしまったし、飽きたので処分してもらった。

つまらない動物だった。

もう、何も私の心を満たすものなどないと思っていた。





父はもうどこにも嫁がなくていいと言った。修道院も行く必要はない、ここで自由に、与えうる限りの贅を享受して生きていいと言ってくれた。

母に生写しの私が手元にいることは、父にも嬉しかったのかもしれない。



しかし、私は影の存在を知り、深く学んでいくうちに目覚めたのだ。

子女の教育に。

たとえ、脚が動かなくとも、子女の教育はできた。そして、私にはその素質がとてもあった。

私の元で学べば、それはそれは従順な淑女になり、家門のために身を尽くすよい娘になると言われた。

しかし、私の元で学べるに値すると、選ばれるためには狭き門だと言われていた。私は敢えて誰を教育するか選んでいた。





私のかわいい生徒たちは、乾いた土が水を吸い込むように多くを学び、次々に私の元を卒業し、嫁いでいった。

その一人一人を思い出しているときだった





「あああっ」





喘ぐ声でふと、現実に戻った。

私の目の前では、一糸纏わぬ男女がベッドの上で絡み合っている。

接合はしていない。貴族の子女がそれを越えてしまったら、私の教えは完璧にならない。





ベッドの上で喘いでいるのは、公爵家に行儀見習いで出仕しているマリーだ。

彼女は今度、公爵家の家門の伯爵家に嫁ぐことが決まっている。

伯爵はマリーよりも30も年上で、他界した前妻との間に子供はなく、愛人にばかりに子供が3人もいるとか。

しかし、立場上、釣り合いの取れる爵位のある妻を持つ必要があった。

伯爵は女癖が悪いが、領地の生産性もよく、税金もきちんと納めている。しかし、領地としてもっと改善するべきところは多いのだが、その愛人のせいで浪費が収まらず、領民からの不満もあると、潜入させた者たちからは報告が上がっていた。



マリーは私の『教え』を熱心に学ぶ、良き生徒の一人。





「マリー?今、あなたは誰に触れられているの?」



「ご主人様に…」



「マリー、あなたが嫁ぐまでの間は、私のことをクリスティと呼ぶことを許します」



「ああっ、なんてこと…クリスティさまぁっ」



「ふふっ。名前を呼ぶだけで達してしまうなんてね。あなたは本当に可愛らしいわ」



まだ体をぴくぴくとさせ、目は虚にどこかを見つめている。

その体の上で、男は胸をついばみ、花弁の奥へと指を沈めて、くちゅくちゅと淫靡な音を立てていた。



「私のベッドで、私の香りがするでしょう?あなたに、触れているのは私なの。そう思うことを許します。あなたに触れているのは私、クリスティよ。マリー、私のことだけを思って、全てのことを受け入れてご覧なさい」





マリーは再び快楽の中に意識を戻していく。



「ああっ、クリスティさま、クリスティさま、お慕いしております…どうか、どうか、私に…」



「マリー、いい子ね。こんなに淫らに美しくなって。きっと、嫁いでもあなたは大丈夫。そして、公爵家の家門に嫁ぐのだから、もうあなたは私の一部になるの。しっかりお役目を果たしたら、私の『お茶会』に招待してあげるわ。あなたが伯爵夫人として参加した暁には、私の手で、あなたのティーカップを満たしてあげる」



マリーはいとも簡単に絶頂を迎える。

そう教え込んだのだ。私の声だけで、香りだけで、想像だけで。幾度となくその無垢な体にひとつひとつ快楽を教え込んでいった成果。

17歳のうら若きマリーは、昼間は楚々として清純で、こうして夜になるとまるで変わる。

かわいらしい。ほんとうに。



「あなたはとても魅力的よ。新しい若い正妻に愛が移って、愛人が捨て置かれ、やがていなくなるなんてよくある話。私たちの家門にハエはいらないの。綺麗に始末してあげるわ、わたしのかわいいマリー」



マリーは陶然と私の目を見つめ、男の愛撫に身を任せている。



「ねぇ、エヴァ?」



私の脚をマッサージしていた侍女の手がぴくりと止まる。

その顎に指先をかけ、ゆっくりと持ち上げる。



「あなたの淫らな香りがここまで漂ってくるようだわ?もう、溢れてしまっているの?」



エヴァは、とろんとした目で私を見つめ、体を震わせた。



「いけない子。まだ達していいなんて、言っていなくてよ?」



エヴァの顎から指を外すと、エヴァはその場にへなへなと座り込んでしまう。



「アンドリュー、今夜はこの子も」



ベッドでマリーを組み敷いていた男は何も言わずに立ち上がり、エヴァを抱えてベッドに寝かせ、服を剥ぎ取っていく。

そこにはなんの表情もない。





動かない脚、つまらない人生。

私の手足となるかわいいあなたたち。私を満たしてくれるかわいいあなたたち。



私はあの毒で一度死んだ。無垢で、健気な私は消えた。

そして、何年も何年もかけて、一人ずつ送り出していった美しいあなたたち。

私たちの手の及ばない家門など、もうありはしない。





平民の娘ですら、可能性を見出した娘達はよく学び、私の、公爵家の手足になってくれている。





そう、ここには、公爵家に、ヘンドリックに、そして、私に育てられた使用人以外必要ない。

たとえ、それが、大切な義妹の侍女だとしても。





ヘンドリックに選ばれた、特別な存在。可憐なアマリア。

あなたはヘンドリックのために笑ってさえいればいい。

何も思い悩むこともなく、憂うこともなく、その無垢なまま、ひたむきにヘンドリックを愛するようになるといい。

あなたの目には、耳には、煩わしいものは一切触れないように、羽虫は私たちが払ってあげる。



私たちはあなたの味方。あなたの幸せだけを考えているわ。

どうかいい夢を見て。

アマリア、ようこそ、私たちのもとへ。
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