どこまでも続く執着 〜私を愛してくれたのは誰?〜

あさひれい

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閨の教育

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けだるいような体の重みを感じながら、うっすら目を開けると、自分のものではない黒髪が目に入って思わず息をのんだ。

ぱちっと目を開ききると、目の前にはヘンドリック様の美しいお顔があり、もう一度びっくりして体を起こそうとしたら、私の体はしっかりとヘンドリック様の腕に抱え込まれていて身動きがとれなかった。しかも、ヘンドリック様は、上半身の健康的な肌をおしげもなくさらしてお休みになっていて、そのあまりの色香にくらくらと再び倒れ込んでしまいそうになった。



「起きた?アマリア」



「ヘンドリック様!あの、私、昨夜は、あの、これは一体…あっ」



混乱しすぎて言葉がうまく出てこないうえに、ヘンドリック様にぐいっと引き寄せられて、そのたくましい胸元に顔をうずめるように抱きしめられて、もう何も言えなくなってしまった。



「朝目を覚まして、アマリアが腕の中にいることがこんなに幸せだとは想像以上だったよ」





私が腕の中にいることを想像したことがあるのですか…と、ヘンドリック様の私への関心を少し垣間見た気がした。でも、それ以上に今の自分の状況が全く受け入れられない。一体、何が起きているのか。

私は昨日、公爵家にやってきて、ご挨拶をして、湯あみをして、気持ちのいいマッサージを受けて…



はっとそこで、気づいて顔を上げ、ヘンドリック様を見る。ヘンドリック様はまだ気持ちよさげに目をつぶったままだ。



「ヘンドリック様、私、昨日、あのまま寝てしまったのですね?!どうしましょう。クリスティ様との晩餐にご招待されていたのに」



眠たげに目を開けたヘンドリック様が、ぽんぽんと背中を優しく叩いた。



「落ち着いて、アマリア。疲れていたんだから、仕方ないよ。姉上も全く気にしておられなかった。むしろ、嬉しすぎてこんなに詰めた予定を組んで申し訳ないと言っていたよ。もう一緒に住んでいるんだから、晩餐はいつでもできるしね」



微笑みながら、ヘンドリック様は体を起こし、ベッドボードにクッションをいくつか置き直し、そこに寄りかかると私をまた引き寄せた。流れるような仕草で、私の頭をヘンドリック様の胸に押しつけ、私の頭にキスをした。

し、知らない。こんな甘い雰囲気を私は知らない。私が読んだ小説でもこんなことが書いてあったかしら、書いてあったかもしれないけれど、いざ自分の身に起きると、それは全く別物だわ、と心臓をばくばくさせながら、ヘンドリック様の腕の中で固まり続けていた。



色気が…ヘンドリック様の色気が…これを大人の妖艶さというのかしら。

頭は固定されているけれど、手をどこに置いていいのか、うかつに動くとヘンドリック様のむき出しの肌に触れてしまいそうで、恥ずかしくてとても動けない。

両腕が変に体の脇に固定されている私に気づいたのか、ヘンドリック様がふっと笑って、私の両脇に手を差し込んで、持ち上げ、なんとヘンドリック様の上にひょいと乗せてしまわれた。



「ひゃああ」



情けないほど変な声が出てしまった。



「はい、アマリアの頭はここ。体は楽にもたれて。手は背中にでもまわしていたら?」



がっちり腰に両腕を回されて、完全に固定されてしまった。

手を背中…?この状況で背中に手を回したら、ただでさえ隔てるものもないのに、体がさらにに密着してしまう…



これまでドレス姿では抱きしめられたことはあるけれど、今は寝間着だけ。コルセットもしていないし、厚いドレスで体を覆っているわけでもない。つまり、お互いの体がひっついているようなもので…

私の貧相なあれこれをヘンドリック様に押しつけるなんて、とてもできない。



「アマリアは寝顔もかわいかったけれど、やっぱりこうしてくるくる表情が変わるのを見るのが楽しいね」



「寝顔をご覧になったのですか?!」



「まぁ、アマリアをここへ運んだのは私だからね」



そう言われてはっと辺りを見回す。私のために準備された部屋ではない。天蓋付きのベッドに代わりはないが、私のお部屋にあったのは淡いクリーム色で、レースのドレープがいくつも重なっていた。

でも、ここは黒檀のベッド。天蓋は深紅だ。お部屋も落ち着いたダークブラウンの壁紙だし、随分と広い。



「ここは私の部屋だよ。初めてアマリアが来てくれた日に一人で寝るなんて嫌だったから、こちらに運んだだけ。アマリアを抱いて寝るのはとても心地が良かった」



ちゅっと音を立てて額にキスをされ、顔が真っ赤になるのが自分でもわかった。

私の頬にかかる髪を美しい指で耳にかけてくださりながら、ヘンドリック様はにこりと微笑んだ。



「アマリア?公爵夫人になったら、一番大切なことはなんだと思う?」



「一番大切なことですか…?」



唐突にされた質問に、ふと考え込む。スタンリール家の後継者として教育を受けていた時は確か…



「家門を繁栄させ、守ることです!」



「はははっ。それは後継者としての大切なことだね。さすがだよ、アマリア」



言ってしまってから、確かにこれは後継者としての心構えだったと思い、夫人として大切なこと…と考えてみるもすぐには浮かんでこない。



「それはね、跡継ぎを産むことだよ。私とアマリアの子供をね」



そう言うと、私の頬にキスをして、瞳をしっかりと見つめられてしまった。

そう。そうだ、夫人になるなら、跡継ぎを産むのは義務だ。必ず果たさなければならない。しかも公爵家の跡継ぎならば、その抱える家臣や領民の数を考えても、決して途絶えさせてはならない。



「は、はい。わかっております。私、一生懸命お努めします!」



意気込みを力強く宣言したのに、ヘンドリック様は声をあげて笑って、私をぎゅうぎゅうと抱きしめた。



「頑張るのは私のほうなんだけれど、そうだね、アマリアにはまず私に触れられることに慣れてもらわないといけない。そして、私にも遠慮なく触れられるようにならないといけない」



簡単に頑張る!と宣言したものの、頬や額のキスだけでぽーっとなってしまうし、ヘンドリック様の美しい肌にこうして触れているだけでも心臓の鼓動が激しくなるのに、これにどうやって慣れるというのだろう。



「アマリアは閨の教育を受けたのかな?」



「閨…ですか?」



意味することは、わかる。つまり、夫婦としての、男女の触れ合いのことだ。

恥ずかしくて、両手で顔を覆ってしまう。



「あ、あの、家庭教師の方には教えていただいてないのですけど、その本で…少し」



「本?どんな本を読んだの?」



「あの…えっと…『木漏れ日の中で』とか『薔薇の花束』など…です」



スタンリール家の侍女たちが教えてくれて読んだ恋愛小説を挙げる。なんだか、とても恥ずかしい。



「あぁ、なるほど。ははっ。アマリアは騎士に憧れていたの?それとも王子様に薔薇の花束を贈られたかった?」



「いえっ、ちがいますっ。私の侍女たちが、好きで、よく話していて、それで、少し…」



「いいんだよ、かわいいアマリア。君が読んで楽しむにはちょうどいい本だと思う。アマリアの教育は姉上が担当するけれど、閨の教育だけは私が直接する」



「えっ?」



「私以外の男と触れ合うことはないのだから、私以外のことなんて知る必要はないだろう?」



そ…そういうものなのだろうか。そもそも閨の教育が何をするのかもよくわかっていないので、なんとも言えないのだけれど、ヘンドリック様がそうおっしゃるのなら、そうなのだろう。



「はい、わかりました。その、閨の教育では、私は何をすればいいのでしょうか」



「私に触れられることに慣れること、私に触れることに慣れること。そして、これを受け入れられるようになることだよ」



低い声でささやき、私の手にそっとその大きな手を添えて、ヘンドリック様のお腹の少しした辺りへと誘導された。

私の下腹部にずっと当たっていた温かいものにトラウザーズ越しに触れた。



「…?これは…?」



温かいと思っていたが、触ってみると熱いほどの、何か固くて大きいものがそこにはあった。

ヘンドリック様の手がそれを握りこむように私の手を包んだ。私の手にはようやく収まる大きさのものだ。



「これをアマリアの中にいれて、子種を中で受け入れてもらわないと子供はできないんだよ」



「ええっ。こ、こんな大きなもの、どこに入れるというのですか?」



「女性が子供を産む場所だよ。アマリアも月の障りのときに出血するところがあるだろう?あそこだよ」



絶句。本当に衝撃を受けたときは、声も出ないのだと実感した。

月の障りの時、いったいどこからこんなに血が出るのだろうかとは常々思っていたが、ヘンドリック様のこれを入れられるほどのものだっただろうか。自分の体なのに、全然わからない。



「大丈夫。これから毎日、解すから。少しも怖いことはないよ」



解す?昨夜受けたような心地よいマッサージのことだろうか。それを直接ヘンドリック様から受けるのだろうか。もうわからないことばかりで頭が追いつかない。



まだ、ヘンドリック様の熱いものを握りしめたままの姿勢で固まっていると、ノックの音が聞こえた。



「なんだ」



短くヘンドリック様が応えると、扉の向こうから返事がきた。



「旦那様、お目覚めでいらっしゃいますでしょうか。お食事のご用意できております。奥様の身支度は奥様のお部屋にて侍女が控えております」



「ああ、すぐ行く」



ヘンドリック様はすっと体を起こすと私をもう一度ぎゅっと抱きしめ、ベッドから下ろしてくださった。



「ゆっくり準備するといい。私は今日は王宮に行かなければならないから、戻るのは夜になるよ。姉上と楽しく過ごすといい」



「はい、ありがとうございます」



礼をして、私の部屋につながる扉を開けると、エルザと数人の侍女がカートに朝の支度の洗面器や水差しを準備して待っていた。

数人がかりで朝の支度をされ、公爵家で準備してくださっていた淡いブルーのドレスを着た。裾にいくにつれて色が濃くなる美しいグラデーションだった。胸元には大きなオニキスのブローチがアクセントでついている。

ふと、左手の指輪に触れる。まるで、この指輪のようなドレス…と一人で感動していた。



支度が終わったとき、既に食事を終えていたヘンドリック様がお出かけになるところだった。

急いでお見送りに行くと、嬉しそうに微笑んで、私をぎゅっと抱きしめて、額にキスをしてくださった。

にこっと微笑み返し、ふとヘンドリック様のトラウザーズに目をやり、思い浮かんだことをそのまま口にした。



「ヘンドリック様、あれはどこにしまわれたのですか?お着替えなさるときに窮屈かもしれないと思ってはいたのですけれど、こうして見ると全然窮屈ではなさそうですのね?」



一瞬、美しい黒い目が大きく開かれて、すぐに優しげに細められた。

そして、私の耳元に口を寄せて、そっとささやかれた。



「どこにしまったのかは、また今夜、ゆっくり教えてあげるからね、アマリア」



それがとても色っぽく感じて、体がぞわぞわとしてしまった。



「は、はい、お待ちしております。お気をつけていってらっしゃいませ」



それだけをようやく口にすると、赤くなってしまったであろう頬をおさえて、ヘンドリック様の馬車が走り去るのを見届けた。



エルザに声をかけられ、中へと戻る。

公爵家にやってきて、初めての朝は、既に初めてのことがたくさんあり過ぎて、このまま公爵家で1日を過ごすうちに私は知恵熱で倒れてしまうのではないか、そしてヘンドリック様が戻られた夜はどのようなことになるのか、心配でならなかった。

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