王太子は幼馴染み従者に恋をする∼薄幸男装少女は一途に溺愛される∼

四つ葉菫

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19、乗馬

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 クリスティーナがアレクシスの従者となってから、2年が過ぎ去った。

 クリスティーナの少年の格好は板について、ややもすると女口調になってしまいそうになる語尾も、もうほとんど口にすることはない。

 けれど、体の成長だけはどうやってもとめることはできなかった。少し膨らみかけた胸を隠すため晒しを巻き、その上から羽織る厚手のベストも最近は欠かすことがない。

 宮殿に着くと、アレクシスが外で待っていた。

 いつもは内廷の一室で、クリスティーナを待っている。

 アレクシスはクリスティーナに気付くと、駆け寄ってきた。



「アレク、どうしたの?」



「クリス! 今日から俺たち、馬に乗れるんだ!」



 アレクシスの顔は嬉しげに輝いている。クリスもアレクシスの言葉を聞いて、驚いた。



「馬に乗るの?」



「そうだ。――行こう。こっちだ」



 アレクシスが馬房まで案内してくれるのを、クリスもあとに続いた。

 馬場では既に二頭の馬が準備されており、クリスティーナ達を待っていた。一頭は黒鹿毛、もう一頭は栗毛の馬だった。



「近衛騎士のイラリオ・デオグルフと申します。こちらはバート・グレーン。今日はよろしくお願いします」



 馬の傍らに立った男が名乗ると、隣に立つもうひとりも頭を下げる。イラリオは黒髪で、バートは栗色の髪をしている。どちらも二十代と思しく、バートのほうがやや年若に見えた。近衛騎士の隊服をきっちりと着こなし、背筋も伸びて姿勢の良い姿が、いかにも騎士然としていた。



「アレクシスだ。よろしく」



「クリス・エメットです。よろしくお願いします」



 イラリオが口を開く。



「殿下はわたしとともに、あちらの馬場ヘ。クリス殿はこちらでバートに教わってください」



「はい。わかりました」



「行きましょう、殿下」



 イラリオは黒鹿毛の馬の手綱を引っ張ると、アレクシスとともに、隣の柵へと移動していった。

 クリスティーナは残された栗毛の馬を見上げた。大きい瞳が優しそうに潤み、毛並みが美しく輝いている。



「馬に乗るのは初めてかな」



 バートが、馬に見惚れて動かないクリスティーナに声をかけた。クリスティーナは慌てて振り返った。最初の堅い印象とは違い、バートの言葉遣いは気安く、親しみやすいものだった。クリスティーナとは十歳近く年が離れ、今は二人っきりだから、緊張しないように配慮してくれているのかもしれない。クリスティーナもほっと息を吐いた。



「はい、初めてです」



「なら、最初は乗る練習からだね」



 バートが乗りやすいように踏み台の横まで馬を移動してくれる。



「こいつの名前はアイナ。気性は大人しくて、初心者でも安心だよ」



「女の子なんですね。よろしくね、アイナ」



 自分と同じ性別にクリスティーナは親しみを感じた。



「台に乗ったら、左足を鐙にかけて――そうそう、そしたら鞍を持って、右足を向こうに」



 バートの補助を受けながら、何とか鞍にまたがると、クリスティーナは歓声をあげた。



「わあ、すごい高いっ!」



 初めて見る視界の高さに、クリスティーナは目を丸くした。目線が高くなると、周りの景色もいつもと違って見える。空まで近くなった気がした。

 隣の柵では、黒鹿毛にまたがったアレクシスも同じく驚いたようで、ちょうど視線が合い、笑いあった。 



「手綱はこの辺で持って。じゃあ初めはゆっくり常歩で行こうか」



 バートがアイナを先導して、柵の中を移動する。



「まずは姿勢だね。頭と肩、腰、踵が一直線になるように意識して」



 バートが歩きながら、支持する。クリスティーナは初めて感じる馬の振動にどきどきしながら、背筋を保つ。

 柵の中をぐるりと一周し終わる頃には、座っていることにも慣れ、クリスティーナは目の前にあるアイナの首筋を触ってみたくてたまらなくなった。天鵞絨のように滑らかな皮膚に、そっと手を伸ばした。毛並は想像以上に柔らかく滑らかだった。短毛の肌触りの良さに感動し、指先から熱が伝わる。首筋を通る血管がくっきりと浮き出ており、それさえ愛おしく感じた。

 アイナがほんの少し首を傾げて、クリスティーナを見るのがわかった。馬の視界は広いのだ。自分の背に乗せている人物に興味が出て、クリスティーナを見たのかもしれない。クリスティーナは、この瞬間、優しい眼差しのこの馬が大好きになった。

 クリスティーナが夢のような時間を送れば、アレクシスも同様だったようで、その頬は紅潮していた。



「今日は常歩だけでしたが、慣れてくれば、速歩、駈歩、最終的には襲歩まで乗りこなせるでしょう。次回は手綱と脚の使い方を教えます」



 イラリオはそう言って、乗馬の訓練を締めくくった。バートと共に、馬を連れ厩舎に向けて、馬場をあとにする。

 残されたクリスティーナとアレクシスは、お互いの顔を見つめあった。興奮が冷めやらず、お互いの手を取ると、跳び上がって笑いあった。

 瞬く間に馬の虜となった二人は、内股の筋肉痛と闘いながら、この日より乗馬が一番好きな授業となったのだった。

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