王太子は幼馴染み従者に恋をする∼薄幸男装少女は一途に溺愛される∼

四つ葉菫

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20、剣術

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 乗馬のほかにも、始まったことがもうひとつあった。それは剣術の稽古だった。

 王宮には近衛騎士団が常在する一画があり、訓練場も設けられている。近衛騎士はその名の通り、王族の警護や王宮の警備を任されている。これを別名、第一騎士団と呼ぶ。

 ほかにも第二騎士団から第五騎士団までがあり、第二騎士団は王都の警備や警邏、犯罪者を取り締まったり、日々起こる都の人々の小事を治めたりと、都のなかに常在している。第三騎士団は王族が治める直轄地の警備や取締り、第四、第五騎士団は国境の警備や、地方の有事のときに出動するなど、役割が分かれている。

 そしてその中でも一番格式が高いのは前述の近衛騎士たちである。才能が認められた者、第五騎士団から実績を積み上げてきた者、果ては有力貴族の子息など、エリート中のエリートがそろった集団なのだ。

 その騎士たちが在住する騎士舎に向かいながら、クリスティーナは授業で習ったその内容を思い返し、どんな強面の集団が待ち構えてるかと思い、緊張した。 



 アレクシスとともに騎士舎にたどり着いた。

 入り口では既に人が待っていた。青味がかった黒髪の二十代後半と思しき男性と、もうひとりは既に面識のあるバート・グレーンだった。

 青髪の青年が進み出る。



「殿下、お待ち申しあげておりました。わたしは近衛騎士団、第一隊所属のマティアス・ノルダールと申します。そして、こちらが――」



 バートが横に並んだ。



「もう既にお見知りおきかとは思いますが、改めて。第四隊所属のバート・グレーンです。この度、マティアスと共にお二人の剣の指南役を賜りました」



「よろしく頼む」



「よろしくお願いします。クリス・エメットです」



 柔和なバートが相手とわかり、クリスティーナはほっとした。マティアスも背筋がぴしりと伸びて、真面目な印象を受ける。思ったよりも怖そうではなく、クリスティーナは安堵した。

 紹介が済むと、武器庫へと案内される。中には、大小の剣、弓、槍、鎚矛、盾などの武具が区分けされ置いてあった。沢山の武器が揃っている様は圧巻だ。



「入り口近くに置いてあるのが、練習用の剣になります。刃を潰してあるので、万一あたっても血が流れることはありません」



 練習用と一口に言っても、長さや幅が様々な種類が置いてあった。マティアスはその中から、比較的刀身が短めの幅の狭い剣を選んだ。



「お二人の体格ではこのあたりがよろしいでしょう」



 ふたつを手に取ると、アレクシスとクリスティーナに手渡す。初めて握る剣に、クリスティーナの胸はどきどきした。それほど重くなく、自分でも持てることにほっとした。

 続いて、砂地が広がる練習場へと移動し、クリスティーナとアレクシスはそれぞれバートとマティアスに教わることになった。

 アレクシスと少し離れたところで、バートがクリスティーナに向き合う。



「まずは剣を持つことに慣れてもらうよ。構えの練習から入って、まずは突くところから始めよう」



「はいっ!」



 クリスティーナは様々な方向や角度からマティアスに向かって突き出すも、5分もいかないうちに腕が痺れ、力が入らなくなってしまった。ただ持つだけなのと、ずっと振り続けるのとでは、全く別物なのだ。クリスティーナはこの短い時間で思い知った。

 今や全く速さにかけ、弱々しいクリスティーナの繰り出す剣先を軽くあしらっていたバートが口を開く。



「どうやらクリス殿は同じ年頃の子に比べて、筋肉が少ないみたいだね」



 クリスティーナは顔色を変えた。



(おかしいって思われた? 女だと疑われたら、どうしよう)



 しかし、顔色を変えたクリスティーナに、バートはただ傷ついただけだと思ったようだ。



「大丈夫だよ。これから鍛えていけば。とりあえず、腕立て伏せを毎日の日課にしようか」



「は、はい!」



 クリスティーナは懸念が杞憂に終わったことにほっとして頷いた。



(そうだわ。これから鍛えて、剣もちゃんと持てるようになればいいんだから)



 少し離れた場所では、マティアスに向かって果敢に挑むアレクシスの姿を目にはいった。



(アレクの隣に立つからには、もっと頑張らなくちゃ)



 クリスティーナはアレクシスを眩しげに見つめ、静かに心に誓った。この日より、クリスティーナの日課に腕立て伏せが加わった。



 稽古が終わり、マティアスが口を開く。



「これから剣術の稽古は一定時間設けられておりますが、その時間以外で、もし技を磨きたくなったり、気分転換したい折りにはこちらに来てください。演習中以外は、可能な限り付き合いますから」



「本当か? じゃあ遠慮なく来るからな」



 アレクシスの口調が大分砕けたものになっていた。この短い時間で、剣を通してマティアスと気が通じ合うようになったようだ。

 その言葉通りそれから何年も、クリスティーナはアレクシスに付き従い、何度もここを訪れるようになるのだった。



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