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21、婚約話
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ある日の午後、アレクシスはひとり玉座の間に向かって、内廷から外廷へと向かっていた。
(一体、何の用だろう)
朝、アルバートから午後、会いに来るようにと言われたのだ。
用があるのなら、その時に伝えても良さそうなものだ。そうでなくとも、度々顔を合わせる晩餐の折など、機会はいくらでもあった。わざわざ、外廷まで呼び寄せるからには重大なことか、王から王太子へ伝える公式的なものなのだろう。
予想がつかない呼び出しに内心首を傾げながらも、玉座の間の扉の前に着くと、騎士に扉を開けてもらい、中に入った。
部屋の奥では、一段高い場所に置かれた玉座にアルバートが座っていた。隣には王妃のヘロイーズが座っている。それ以外は人影は見当たらないので、内々のものだとアレクシスは察した。
「ただいま参りました」
アレクシスは二人に向けて、頭を下げた。
アルバートが鷹揚に口を開く。
「ああ。今日、呼び出したのは他でもない。お前の婚約の件でだ」
「婚約、ですか」
アレクシスは首をひねりながら、答えた。
(まさか、婚約者が決まったのか。そんな話、今まで一度も話にのぼらなかったのに)
「お前も知っての通り、我がアルホロンは代々周りの五カ国から王太子妃を迎えてきた。その取り決めも、ちょうどわたしで最後となる」
「存知ています」
「無事、協定を果たした今、次の王太子妃は未定だ。そこで、王妃と相談した結果、お前に一任しようということに決めた」
「わたしにですか?」
アレクシスは驚いて、アルバートを見上げた。
「そうだ。今まで通り五カ国のうちのどれかから姫を迎えてもいいし、我が国の令嬢から選んでも良い」
「わたしが決めて良いと?」
「今まで、五代前よりずっと、婚約者は幼い時より決められてきた。そして五代ぶりに枷が外された今、お前に選ばせるのもひとつの手だと思ってな」
「これは陛下とわたくしからの温情でもあるし、お前が王太子妃に相応しい者を見極める目を養うためでもあります。その覚悟を持って、選ぶように――」
王妃が顎をあげて、我が子を戒める。アルバートがヘロイーズを横目で見て、苦笑する。
「まあ、王妃はこう言うが、これはという令嬢がいたら、わたしかヘロイーズに相談しなさい。できるだけ、取り計らうようにしよう。幸い、諸外国を含め世情は保たれ、我が国の貴族たちの均衡も安定している。一定の貴族たちの目をおもんばかる必要もないからな」
「まあ、あなたは相変わらず甘いんだから。この子が変な子を選んだらどうするのです」
ヘロイーズが目線だけを寄越して、アルバートを睨む。アルバートが肩を竦めた。
「よっぽどの変わり者じゃなかったら、応援するさ。――ただし、相手は貴族であることが絶対条件だが」
最後はアレクシスに向けて言う。急に夫婦の会話を始めた二人に置いてけぼりをくらっていたアレクシスは、視線を向けられ姿勢を正した。
「かしこまりました」
一礼して部屋を出ると、もと来た道をたどる。
(婚約者か――。今まで一度も考えたことなんてなかったが)
今までの王太子は皆、自分の意志など問われることもなく、最初から決まっていた。おそらく自分もそうなるだろうと思っていたから、意識の端にのぼることさえなかった。それが急に、自分で決めることになろうとは――。
(早く決めたほうがいいのか? だとしても、一体誰を選んだら)
まったく検討のつかない相手に思い悩んでいると、内廷へと続く道の先に、立っている人影が見えた。
その人物が顔をあげてこちらに気付く。その顔が途端にほころんだ。
その笑顔を見た瞬間、アレクシスの思考が一気に霧散した。
(まあ、ゆっくり決めればいいか――。今はクリスといたほうが、何よりも楽しいし)
駆け寄ってくる親友を、アレクシスは笑顔で迎えた。
(一体、何の用だろう)
朝、アルバートから午後、会いに来るようにと言われたのだ。
用があるのなら、その時に伝えても良さそうなものだ。そうでなくとも、度々顔を合わせる晩餐の折など、機会はいくらでもあった。わざわざ、外廷まで呼び寄せるからには重大なことか、王から王太子へ伝える公式的なものなのだろう。
予想がつかない呼び出しに内心首を傾げながらも、玉座の間の扉の前に着くと、騎士に扉を開けてもらい、中に入った。
部屋の奥では、一段高い場所に置かれた玉座にアルバートが座っていた。隣には王妃のヘロイーズが座っている。それ以外は人影は見当たらないので、内々のものだとアレクシスは察した。
「ただいま参りました」
アレクシスは二人に向けて、頭を下げた。
アルバートが鷹揚に口を開く。
「ああ。今日、呼び出したのは他でもない。お前の婚約の件でだ」
「婚約、ですか」
アレクシスは首をひねりながら、答えた。
(まさか、婚約者が決まったのか。そんな話、今まで一度も話にのぼらなかったのに)
「お前も知っての通り、我がアルホロンは代々周りの五カ国から王太子妃を迎えてきた。その取り決めも、ちょうどわたしで最後となる」
「存知ています」
「無事、協定を果たした今、次の王太子妃は未定だ。そこで、王妃と相談した結果、お前に一任しようということに決めた」
「わたしにですか?」
アレクシスは驚いて、アルバートを見上げた。
「そうだ。今まで通り五カ国のうちのどれかから姫を迎えてもいいし、我が国の令嬢から選んでも良い」
「わたしが決めて良いと?」
「今まで、五代前よりずっと、婚約者は幼い時より決められてきた。そして五代ぶりに枷が外された今、お前に選ばせるのもひとつの手だと思ってな」
「これは陛下とわたくしからの温情でもあるし、お前が王太子妃に相応しい者を見極める目を養うためでもあります。その覚悟を持って、選ぶように――」
王妃が顎をあげて、我が子を戒める。アルバートがヘロイーズを横目で見て、苦笑する。
「まあ、王妃はこう言うが、これはという令嬢がいたら、わたしかヘロイーズに相談しなさい。できるだけ、取り計らうようにしよう。幸い、諸外国を含め世情は保たれ、我が国の貴族たちの均衡も安定している。一定の貴族たちの目をおもんばかる必要もないからな」
「まあ、あなたは相変わらず甘いんだから。この子が変な子を選んだらどうするのです」
ヘロイーズが目線だけを寄越して、アルバートを睨む。アルバートが肩を竦めた。
「よっぽどの変わり者じゃなかったら、応援するさ。――ただし、相手は貴族であることが絶対条件だが」
最後はアレクシスに向けて言う。急に夫婦の会話を始めた二人に置いてけぼりをくらっていたアレクシスは、視線を向けられ姿勢を正した。
「かしこまりました」
一礼して部屋を出ると、もと来た道をたどる。
(婚約者か――。今まで一度も考えたことなんてなかったが)
今までの王太子は皆、自分の意志など問われることもなく、最初から決まっていた。おそらく自分もそうなるだろうと思っていたから、意識の端にのぼることさえなかった。それが急に、自分で決めることになろうとは――。
(早く決めたほうがいいのか? だとしても、一体誰を選んだら)
まったく検討のつかない相手に思い悩んでいると、内廷へと続く道の先に、立っている人影が見えた。
その人物が顔をあげてこちらに気付く。その顔が途端にほころんだ。
その笑顔を見た瞬間、アレクシスの思考が一気に霧散した。
(まあ、ゆっくり決めればいいか――。今はクリスといたほうが、何よりも楽しいし)
駆け寄ってくる親友を、アレクシスは笑顔で迎えた。
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