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55、晩餐

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 旅の埃を落としたシルヴェストはその後、アルバートとヘロイーズに挨拶に伺い、晩餐はアレクシスとともに過ごすこととなった。

 その豪華な席で、シルヴェストが舌鼓を打ちながら、口を開く。



「王太子として旅をするのも、今回が最後になるでしょう」



「それはまた何故?」



 アレクシスが優雅な手つきでフォークを置き、尋ねる。



「父が高齢でしてね、いつ王位を譲ってもおかしくない状況なのです。今回はわたしの最後のわがままに、この国を見てみたかったのです。まあ、父としては、わたしの顔見せの意味も込めて、送り出してくれたのでしょうが」



「そうですか。あなたが旅する最後の国に選んでいただけて、光栄です」



「まあ、最後と言っても、実際旅したのは三回ほどしかありませんが」



「ほかにどのような国をご覧に?」



「ミアスとエリルバとブラリスですね。ミアスで初めて海を見た時は感動しました」



 シルヴェストが訪れた国の旅の思い出を語っていく。

 晩餐も終盤に差し掛かり、ワインを置いたアレクシスが給仕に合図を送る。

 指示を受けた給仕が晩餐の席を外し、再び戻ってきた時はカートに紅茶の一式を載せていた。

 シルヴェストが顔をほころばせた。



「これは嬉しい。我が国の風習をよくご存知で」



「ええ。ザヴィヤは食後の終わりは必ず、紅茶を飲むと聞き及んでおりましたから、ご用意致しました」



「そうなんです。夕食にワインを飲んでも、最後は紅茶なんです。我が国は紅茶で始まり、紅茶で終わりますから」



 シルヴェストが紅茶を一口すすり、眉間を広げた。



「これは最近、出た新しい品種のものですね」



「わかりますか」



「ええ。今までのナット産のものより、味に深みが出て、何より花のような香りが口に含むと感じるんです。最近はもっぱらこればかり飲んでいます」



「気に入って頂けて、何よりです」



「こちらこそ。深く感激しました。アレクシス殿下は我が国の輸出状況をよく把握しておられる。とても優秀な方だとお見受け致しました」



「仕事ですから」



 クリスティーナはこの間、黙って後ろに控えていたが――普段はもう宿舎に引き下がっているのだが、シルヴェストを歓待するための王太子の仕事があったため、残っていた――シルヴェストがアレクシスを褒めるのを聞いて、満足げな笑みをそっと浮かべたのだった。
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