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「あのクソ野郎!! ぶっ殺してやる!!」

 私は仮の邸宅で、ものに当たり散らしていた。

「で、殿下っ。だんだん言葉が汚くなってますよっ。ひとまず落ち着いてください!」

「これが落ち着いていられるか! ジャスミンがまたも公衆の面前で、侮辱されたんだぞ!」 

 イグナシオは想像を超える行動をしてきた。
 なんとジャスミンをありもしない罪で責め立てたのだ。それも何度も何度も。
 証拠も証人もいないお粗末な罪だが、なぜだかイグナシオは自信満々で。
 初めてそのことを聞かされた時は、怒りを抑え込むのに必死だった。
 やめてほしいと何度も懇願したけれど、こいつ好みの楚々とした演技では「レヒーナはなんて優しいんだ! 君の分まで俺は頑張るよ」と、逆効果になってしまった。
 意気揚々と「俺に全部任せて、君は安心して待っててくれ」と言い渡して去っていく。
 未だにキスのひとつも許さないことに、余計拍車をかけるのか、止めようがない。
 
「殿下がほしくてほしくて堪らないんでしょうね。まあ、俺だって殿下が男だとわかってなかったら、ぜひお相手を――」 

「あ”あ”?」 

「……その格好で低い声だすのやめてください……」

 汗を一筋たらりと垂らしたシーグルドが、話題を変えるためにぽんと手をうつ。

「とにかく、作戦は大成功ってことじゃないですか。状況はどうあれ、イグナシオ殿下は婚約破棄するために奔走してるわけですから」

「まあな。でも、ジャスミンに対する生徒の視線が最近変わってきてるのが気がかりだ」
 
 イグナシオの言葉を信じた生徒たちがあからさまにジャスミンに冷たい目線を送っている。
 ジャスミンから何もされていないと私が言ったところで、庇っているとしか捉えられない。
 やけに私に心酔してる者たちは、私が『悪』というものさえ、許してしまう高尚な人物に見えるようだ。

「やりすぎたかな」

 イグナシオを引っ掛けるためとはいえ、出来過ぎた人間を演出し過ぎたようだ。

「いーえ。殿下は黙って立っているだけで、ご令嬢方をぽーっとさせて引き寄せる効果がありますから、多少手加減したところで変わらないと思いますよ」

 私の考えを読んだのか、シーグルドが言ってくる。
 
「そうか? でも、もしジャスミンに手を出すような輩が現れたら、その時は――」

 私の据わった目を見て、シーグルドがぶるっと震えた。

「今の顔、殿下の顔を見ていつもキャーキャー騒いでる国の令嬢たちにお見せしたいですね」

「美しいものには棘があるのに」と嘆息して愚痴を零された。





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