❲完結❳傷物の私は高貴な公爵子息の婚約者になりました

四つ葉菫

文字の大きさ
17 / 75

17

しおりを挟む
 手芸屋に入ると、フェリシアン様はもの珍しいのか、店内を見回した。
 私はその間に自分が持っていない色の刺繍糸と、いくつかのボビンレース、それから青のリボンを選ぶ。

「決まりました」

「では、私が支払おう」

「お願いします」

 フェリシアン様が支払いを済ませたあと、品物を私に手渡してくれた。

「ありがとうございます」

 頭を下げて笑顔で受け取った私と違って、フェリシアン様はなんだか奇妙な顔をされていた。

「……君はそれで満足だろうか。もっとほかのものを贈ってもよいのだが……」

「こんなに買ってもらえたんですから、これだけで充分です」

「……そうか」

 まだ何か言いたそうなフェリシアン様を連れて、私は店を出た。

 店を出ると、露店が目に入った。そこに売られているものに思わず惹かれ、私はフェリシアン様を振り返った。

「少し見ていってもかまいませんか」 

「ああ」

 露店には手作りの髪飾りやネックレス、イヤリング、腕輪など売られていた。
 手作りといってもよくできていて、模造宝石や布花、ガラス玉、ビーズなどが使われ、どれも綺麗な仕上がりだった。台座などに使われている金属も綺麗に磨かれている。
 いかにも若い女性が好みそうな装飾品だった。
 この露店がたっている場所からして、客層は裕福でない貴族の令嬢やお金に余裕がある平民の娘といったところかもしれない。
 本物の宝石や金や銀には遠く及ばないかもしれないが、私にはどれも可愛く写った。
 熱心に見ているうちに、あるものが目に止まり、私の中で淡い思いが過ぎった。
 もう少しわがままを言っても大丈夫だろうか。
 最初の通りで見たものよりは遥かに値段も安いはず。
 これならフェリシアン様もそんなに困らないはず――。

「あの――」

 フェリシアン様に声をかければ、フェリシアン様が私の手の内にあるものに気づいた。

「ほしいのか」

「はい……」

「……わかった。――店主、これをひとつ貰おう」

 フェリシアン様が懐から財布を出して、お金を渡す。

「ありがとうございます……」

――私が生まれて初めて持つイヤリングをフェリシアン様に買ってもらった。

 熱いものが込み上げて、喉に引っかかりそうになったけれど、なんとかお礼を口にすることができた。
 手のなかにある、ピンクの貝殻がついた小さなイヤリング。

 いくつかの髪飾りは持っているし、ネックレスも母から借りて身につけたことはある。
 けれど、イヤリングはまだ一度としてなかった。
 私の中でイヤリングは特別なもので、大人の女性の象徴だった。
 実際、イヤリングを身につける多くの女性が成人を迎えていた。
 彼女たちはみんな堂々として立派に見える。
 自分にはない何かを彼女たちが持っているようで羨ましかった。
 何の取り柄もない私でも彼女たちと同じようにイヤリングをつければ、少しはましに見えるだろうか。
 そんな思いに駆られたことが何度もあった。
 そして、アデラ含め成人していない令嬢がイヤリングをすでに身につけているのをお茶会の席で見かける度、置いてけぼりをくらったような寂しい気持ちを味わった。
 かと言って、我が家の懐事情を考えると欲しがることもできなかった。

 フェリシアン様は私より六つも離れた年上の方。子供に見られても仕方ない。 
 けれど、イヤリングをつけたら、少しは印象が変わってみえるかしら。
 期待がほんの少し膨らんだ。

――少しは大人っぽく見てもらえたら嬉しい。

 イヤリングを早速つけてみたくなって、私はピンクの貝殻がついたイヤリングを耳にやった。

「……似合いますか」

 目を見て問うには恥ずかしく、視線を外してしまった。
 フェリシアン様からの返事はなかった。
 不思議に思って顔をあげれば、何故か微動だにせずこちらをじっと見つめるフェリシアン様の姿が――

「……フェリシアン様……?」

 似合わなかっただろうか。不安に思って、首を傾げると、はっと正気に戻るように硬直を解かれた。

「――ああ。……君によく似合っている」

――嬉しい

 私はぱっと笑顔になり、喜びが波紋のように胸に広がった。
 そうしてフェリシアン様との初めてのお出掛けはとても嬉しい思い出として心に残った。



 
しおりを挟む
感想 36

あなたにおすすめの小説

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました

春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。 名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。 姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。 ――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。 相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。 40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。 (……なぜ私が?) けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

処理中です...