63 / 75
63
しおりを挟むその後、他の話へと会話が流れ、足も充分休めたため立ち上がろうとした所で、エレン嬢が小さな声をあげた。
「――あ」
「どうした?」
「……いえ、何でもありません」
見ていた方角から視線を外し首を振るものの、私はエレン嬢が気を取られていた方向に顔を向けた。
そこには――
「的にあててぬいぐるみをとる遊戯だな。ほしいのか」
「――いえ、ただちょっと気になっただけで……」
彼女の関心を引いたなら、それで充分だった。
「的あてか。実は少し得意なんだ。とってみせようか?」
剣術、弓術、馬術。武芸と名がつくものはどれも昔から、見るだけでこつを掴むのが早かった。
玩具の得物なら、尚更だろう。もっとも、的あてが武芸の中に入るかは怪しいが、体を使ってやるのは共通している。
「え?」
戸惑うエレン嬢をよそに、私は屋台へと向かった。
「店主、一回頼む」
お金を渡して、得物を構える。
いぬのぬいぐるみ、きつねのぬいぐるみ、とりのぬいぐるみ。どれにしようか迷っていると、白いうさぎのぬいぐるみが目に入った。
白いふわふわの毛。可愛らしいつぶらな瞳とちょこんとのった鼻。
純真無垢で、可愛い顔立ちのエレン嬢。
不思議と白いうさぎとエレン嬢が私の頭の中で結びついた。
たまにみせる仕草にも、小動物を見ているような愛らしさがある。
――あれにしよう。
それにどうせあげるならエレン嬢に似合うものが良い。
的を絞り手を放せば、見事うさぎに当たった。
「はい。君にやろう」
思わず笑顔になって渡せば、エレン嬢が今まで見たことのない表情をした。
「……フェリシアン様は昔、迷子の女の子にくまのぬいぐるみをあげたのを覚えていますか?」
エレン嬢がぬいぐるみをぎゅっと胸に抱いて下を向く。
警備団に入団してからこれまで毎年、たくさんの迷子を保護してきた。だが、ひとりひとりを正解に覚えているわけではない。
何故エレン嬢がそんな質問をするのかわからず、特に深く思い出しもせず答えた。
「……いや、覚えていないな」
それきり、エレン嬢からの返事はない。
まだ顔を伏せたままのエレン嬢にどうしたのだろうと思っていたら――
「……あなたが好きです」
一瞬空耳かと思った。
けれど、目をぎゅっと瞑り、頬を赤くさせたエレン嬢を見て、空耳でないことを悟る。
それから徐々に言葉を呑み込んでいく。
――エレン嬢が私を好き…………。
告白されるのは慣れているのに、どうしたことだろう。
実感した途端、煩いほど鼓動が激しくなっていく。
こんなことは初めてで、私は戸惑った。
何か言わなければ――
けれど何も言葉が見つからず。
こちらを見上げてくるエレン嬢を見て、余計に焦りが生まれる。
『ありがとう。……だが、すまない』
いつも告白される時に返す言葉が咄嗟に頭に浮かんだ。
「……ありがとう……」
返事を考えるゆとりがなかった私は、図らずもそう口にしていた。
エレン嬢に突然告白された混乱と、いつも何事も冷静に対処してきた自分が今の状況に対応できていないことに戸惑い、その時の私はエレン嬢の表情の変化に気を止める余裕はなかった。
その後祭りを見て回るも、混乱と戸惑いを引きずって、まともに振る舞えたかどうかは怪しいものだった。
20
あなたにおすすめの小説
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました
春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。
名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。
姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。
――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。
相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。
40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。
(……なぜ私が?)
けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。
【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです
大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。
「俺は子どもみたいな女は好きではない」
ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。
ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。
ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。
何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!?
貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる