❲完結❳傷物の私は高貴な公爵子息の婚約者になりました

四つ葉菫

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 どの修道院も、基本その門徒は平等に開かれている。
 持参金あるなしに関わらず。
 しかし、その額によって、その後に課せられる日常的な労働に差が生まれる。額が多ければ多いほど、待遇が良くなっていくというわけだ。

 ただひとつの修道院を除いて。

――『カトレ修道院』。

 そこに入る者は持参金の額に関わらず、その待遇は皆一様だと聞く。加え、規律も厳しいことから、いつからか持参金を多く持つ人間はそこに行かなくなり、持参金を持たない貧しい人間だけが集まるようになった。今では入院者のほとんどが、持参金を持たない人間で構成されていると聞く。
 カトレ修道院の規律のひとつに、外の者との面会は決められた日のみと定められている。しかも、相手は親族のみに限られる。それはほんの一例でほかにも厳しい規律があるだろう。
 それらの特徴が相まって、カトレ修道院の名が広まり、修道院をよく知らない者は、持参金がないと受け入れてくれる場所はそこしかないと思いこむ人間もいるほどだ。
 
――エレン嬢がそこを選んでなければ良いのだが。

 私は一路、カトレ修道院に向かって、馬を走らせる。
 部下たちは今頃、ほかの修道院に向かっていることだろう。
 副団長に渡した指令書には、エレン嬢の名前、年齢、外見的な特徴を記し、昨日目星をつけた五つの修道院の方面に向かう全ての駅馬車、宿駅周辺の宿屋をあらため、修道院に向かっているはずであろうエレン嬢の身柄の確保及び保護するよう指示してある。

 今まで警備団の団長の職を私的に濫用したことなどなかったし、決して自分がそんなことをする人間ではないと思っていたのに。
 だが、そのように思うことはこれまでもいくつもあった。

――エレン嬢に関することになると、形無しだ。

 内心自嘲気味に思いながら、けれどそれだけ自分にとってはエレン嬢が大切な女性ということだ。
 あとで、お咎めはいくらでも受けよう。

 もしエレン嬢がカトレ修道院ではなく、ほかの修道院に向かったとしたら、今頃、無事に保護されているだろうか。途中乗り換えをしながらの駅馬車のゆっくりした足取りと単騎の早馬の足では歴然とした差があるため、その可能性はある。
 いや、もし間に合わなくても、場所さえわかれば、あとからいくらでも修道院に赴き説得できる。
 だが、カトレ修道院だけは――。
 一度入ったら、もう二度と会えないかもしれない。
 もしほかの修道院の方面を自分が選び、カトレ修道院方面を部下に任し、エレン嬢がそちらを選んでいた場合、間に合わなかった時は悔やんでも悔やみきれない。
 故に私はほかの四つよりカトレ修道院を選んだのだ。それに、ほかのどの馬より私の愛馬が一番速い。それも部下に託せられない理由のひとつだった。
 途中、休憩を少し挟みながらも、カトレ修道院に続く一本道に入った。
 もう道はここしかない。
 祈る思いで、懸命にひた走る。
 そうして、道の向こうからカトレ修道院へと向かう一台の馬車が姿を表した。


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