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チャプター3
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翌朝、バーキンたち三人は電車に乗って<巨域>まで行く。巨域はガロンガラージュ経済の中心地で、ブレード・ディフェンドのみならずさまざまな企業が本社を構える域でもあった。巨域はバーキンらの住む<宮域>と隣り合っていて、休日でも平日でも、いつだってすこし待てば電車に乗れる。
バーキンは、アリシア、ルカと共に臙脂色の座席へ腰を落とし、横一列に座る。足元から温風が出ていた。
まもなく電車は駅を発ち、一時間ほど費やして巨域十番街へと至る。
そこは繁華街であった。日中なのにあちこちでネオンサインで飾られた看板がぴかぴかと輝き、歩道では法被を着たひょうきんな男性が声高に客を呼び込んでいる。
道行く人々も、あつらえたスーツの紳士や、いかにも上流階級といった所作の淑女がいるかと思えば、どぎつい香水のにおいを漂わせる男女や、寝起きでそのまま外に繰り出したのかと勘違いしてしまいそうな、毛玉だらけのセーターとぼさぼさ髪の年寄りまで多種多様だ。
そのためか、宮域南部の片田舎ほど、ルカの白い肌と髪は通行人の目を引きはしなかった。
本通りを離れて、街路樹が列を成す幹線道路沿いのビルが、待ち合わせ地点である。
「たしかこの辺り……」
バーキンが呟くと、車道脇に停まっているセダン――そのボンネットに腰かける男が手を振った。
「ここだ、カラドボルグ」
そう言って彼は背筋を伸ばした。黒いスーツにグレーのハイネックを着た、すらりと背の高い美男子――。
「久しぶりだな、ベルフェン。フライトジャケットじゃないから気づかなかった」
「会社がでかくなって、俺も出世したんでな。――ラムダのやつは相変わらずだが」
「……あの人は?」
「髪を伸ばした。本社の移転記念だとさ……まあ中身はお察しのとおりさ」
ベルフェンは言ってから、アリシアとルカを見る。
「そのコたちが?」
バーキンは頷いて答えた。
ベルフェンは二人の前に立つ。
「はじめまして。きみらのことは聴いてる。俺はベルフェン・ガウス。ブレード・ディフェンドのハイランダー……つまりは幹部で、フラガラッハとも呼ばれてる」
彼はバーキンの方を向いて、
「あいつにも現役時代はカラドボルグという二つ名があった」
懐かしい響きだ。バーキンはそう思った。
「さて、本心で言えばカフェでコーヒーを、といきたいところだが……」
ベルフェンは言いながらセダンの後部扉を開ける。
「尾行がいないとも限らない。乗って」
「あ――、はい」
アリシアとルカは、車へ近づき、バーキンは二人を見ながら一歩後ろに下がった。
すると、乗車前に二人がバーキンに向き直る。
「バーキンさん、ほんとうにありがとうございました」
「あなたがいなかったら、ぼくたち……きっと――」
ルカは言葉に詰まり、すこし俯く。
そんな彼女に、バーキンは微笑んだ。
「正しいと思ったことを……できる限りでしただけさ」
彼はかつての戦友に顔を向ける。
「ありがとうな。どのツラ下げてって拒めたろうに……」
「ラムダならそう言ってただろうな」ベルフェンが笑う。「だがおまえ個人の問題じゃない。任せてくれ」
「……ラムダに、ごめんよって伝えておいてくれないか?」
「――わかったよ。だけど、機会があったら自分でも詫びを入れろよ」
「そのつもりさ……」
「じゃあ、行くか」
ベルフェンは運転席側に回り、
「後のことは車内で」
と、一緒に乗り込むアリシアたちに言った。
セダンのハザードランプが消え、エンジンがかかる。
車の流れが途切れたのを見計らって、ベルフェンのセダンは発車した。
窓越しに、アリシアとルカが手を振り、お辞儀してくれる。
バーキンも手を振り返し、セダンの姿が消えるまで見送った。
一陣の風が吹き、バーキンの心に爽やかな気持ちを芽生えさせる。
こんな気分になったのはいつぶりだろう。
彼はそう思った。
パーフェクトな言動ができたとも、理想的な立ち回りができたとも思わない。が、それでも、あの二人の幸せを護ることができた。奪われるところだったのを、寸でのところで止められたのだ。
その事実が、ただ嬉しかった。
もちろん懸念はある。敵に関しては謎が多い。けれどブレード・ディフェンドの皆なら、きっと大丈夫だろう。
彼はアリシアとルカの未来が明るいことを願った。自分は手に入れられなかった、愛に満ちた明日を神に祈って、天を仰ぐ。
空は依然曇っていたが、すこし白く光って見えた。
次の日。
「おはようございます」
バーキンは言いながら事務所の扉を開ける。
「おはよう、バーキン」
デスクにつくコガワが、顔を上げて笑う。
「……何か良いことが? 目に輝きを感じますよ?」
「良いこと……まあ……良いか悪いかで言えば最悪の事態に巻き込まれはしたんですけど……」
「そういえば土曜、殺人があったと……」
まさか現場に居合わせたとは言えまい。
バーキンは答えずにしまりのない笑いではぐらかした。
コガワはすこしだけ首を傾げ、また笑顔でバーキンの顔を覗き込む。
「いずれにせよ、あなたの気分が良いなら私にとっても良いことだ。今日もお気をつけて」
「はい」
バーキンは仕事着にしているソフトシェルジャケットの前を首まで閉めた。
しばらくは心穏やかに過ごせそうだ。
そう思った。
◇
宮域南第三高等学校。
アリシアは駐輪場と隣接するバイク置き場に愛車<ネロ>を停めると、右脚で宙に弧を描き降車した。ヘルメットやモトクロスグローブ、ライディングジャケットを脱ぎ、髪に手ぐしを入れると、昇降口に向かう。途中、セーラー服の襟とスラックスの裾が不格好にめくれているのに気づいて整えた。
登校して、クラスメイトらと交わす挨拶もそこそこに自分の席へ着く。
先の休日のことが、夢のようだった。
あれから二人は、当面の間ブレード・ディフェンドのオペレーターに陰から護衛してもらうことになったのである。
アリシアはルカよりは軽微なガードだったが、敵の狙いはルカなのだ。それで充分だ。
それにしても、と彼女は思う。
あの連中はどうしてルカを狙ったのだろう?
ルカは他の人に比べて色素が非常に少なく、紫外線や強い光には対策が必要なこと以外は、まったく普通の女の子だ。繊細そうな見た目の割に体力があり、筋肉もそこそこ鍛えられているが、それくらいしか思いつかない。家庭的にも、ことさら特殊なものは無い。普通の三人家族で、善良な父と愛情深い母……。
やはり、ルカがアルビノだから……それ以外の理由は無いのだろうか? 昔からアルビノには神聖な力が宿ると言われ、それを求めて凄惨な悲劇が繰り返されたというが――。
考えていると、担任の先生が朝の挨拶と共に入ってきた。
クラスメートたちは自分の席につき、教室は静まり返る。
先生は出席簿を開きながら言った。
「ご家族の方から連絡があって、ルカさん今日は欠席です。ああ、風邪を引いてしまっただけらしいので、まあ明日か明後日にはいつもどおりでしょう。最近寒いし」
その言葉に、アリシアは違和感を覚えた。
確かにあんなことがあったのだ。気疲れから風邪菌につけ入られたというのは納得できる。
が、それならなぜ自分に連絡が来ないのか。
彼女はホームルームや授業の合間の休憩時間、昼休み、教室移動の隙を見繕って、何度も端末をチェックした。
結局下校時間になってもルカからのメッセージは無かった。
家に帰って、ルカ宛にメッセージを送る。
――今日学校休むって聞いてなかったからびっくりしたよ。風邪大丈夫?
すこし時間が空いてから既読表示がついて、まもなく返信が来た。
――ごめんね。頭が痛くて忘れちゃった。
――そっか。なら仕方ないね。お大事に
ひとまず安心した。
だが次の日も、ルカは来なかった。
まあ昨日の今日で回復はしないか、と自分に言い聞かせ、アリシアは一人授業を受ける。
ふと、教師の話が耳に入らなくなって、己の手元に目が行った。
彼女は、ほとんどいつも両手にハーフフィンガーグローブを着けている。小学生のころからの習慣で、中学に上がって一旦やめて、高校に上がってルカと知り合ったころに再度つけ始めたファッションだ。
アリシアは鉛筆を置き、グローブを外すとスラックスのポケットに仕舞った。
そして休憩時間、彼女は隣の席の女子に話しかけられる。
「あれ? 今日はユビヌキどうしたの?」
「ああ……ルカがいないと、なんというか、つけてる甲斐が無いなと思ってさ」
「ふーん……あ、でも気持ちわかるカモ。あたしも彼氏と会えない日とかすんごい雑なカッコしてるし」
「でしょ?」
「でもさ、なんでユビヌキ手袋なの? ルカが浮かないように?」
「いや……どっちかっていうと逆かな」
アリシアは廊下側の、誰もいないルカの席を見る。
「昔からつけてたんだけどさ、一時期我慢してて……言い方悪いけど、ルカに便乗したんだ」
「そっか……。早く良くなるといいね」
女子もルカの席を見た。それからまたこちらに顔を向けて、
「お見舞い行ったげたら?」
と言う。
「……そうだね。そうするよ」
アリシアは微笑んだ。
ルカを狙う敵の件もある。ブレード・ディフェンドが護ってくれているとはいえ、やはり自分の目で安否を確かめたい気持ちが無いわけではない。
下校時、アリシアはネロに乗る準備を済ませると、エンジン始動前にバッグを開いた。
奥に手を突っ込み、護身用に持ってきた物を取り出す。
それは一対の双剣で、ナックルガードと、鈎状に湾曲した鍔を持つ刀――詠春刀だった。
詠春刀はひとつのカイデックス製の鞘に納まり、法に触れぬようグリップカバーで柄を覆っている。
彼女はそれを腰に帯びると、バイクを発進させた。
アリシアは住宅街を走る。ルカの家はその一角にあるのだ。付き合い始めの頃は、似通ったデザインの真新しい家屋が整列している光景に困惑し、幾度となく目的地を通り過ぎたものだが、今となっては画一的な家々のわずかな違いがはっきりわかる。ルカ宅はとくにだ。
彼女の家に着いたアリシアは、ヘルメットを脱ぎながら家を見上げる。
静まり返っているが、外からは争った形跡は見られない。しかしどこか違和感があった。
ネロを降りると、違和感の正体とおぼしき物を見つける。それは塀に貼ってあった反・動力教団のポスターだ。色あせていて、波打った紙面には「ガロンガラージュのすべての発電所に予算を!」と書いてある。それが道端に落ち、靴跡がくっきりと残っていた。
古いポスターだし、自然に落ちたのだろう。
と思い、玄関の呼び鈴を鳴らす。返事は無かった。
ルカに直接電話をかけても、出ない。むなしくコール音が続くばかりだった。
だが諦めて電話を切ろうとしたその時、
「アリシア……?」
ルカの声がした。その声はすこし鼻声に聞こえる。
「ああ、ルカ……大丈夫? ――声、聞きたくなって」
「……ありがとう……ぼくは平気」
「いま家にいる……よね? お見舞いに――」
来た、と言いかけて、彼女は留まる。それからこう言った。
「……お見舞いに行こうと思ってるんだけど、いいかな?」
「……ごめん、ちょっとタチの悪い風邪っぽくて……アリシアにうつしたくない」
「そっか……」
アリシアが言うと、背後で車が一台、通り過ぎた。
「今、帰り道なんだけど、せっかくだからお母さんかお父さんにお見舞いの品渡しとこうか?」
「お母さんもお父さんも、昨日から仕事で家にいてないから……また今度でいいよ」
「オッケー。じゃあ、元気になったら学校で」
「待っててね……大好き」
電話が切れた。
端末を納め、駐車場を見る。
駐車場にはルカの母の愛車である、マルーンのミニバンが停まったままだった。ダッシュボードの上には、会社の駐車許可証が置きっぱなしだ。
アリシアは眉間にしわを寄せ、周囲を警戒しながらネロに跨った。
◇
鉄面宰カルバリは通話の切れたルカの端末を、彼女の耳元から遠ざけた。
涙で頬と両腿を濡らしたルカは、顔を両手で覆う。
「ご協力に感謝する……ミス・ルカ」
言いながらカルバリはもう片方の手に持ったリボルバーをホルスターに納めた。
嗚咽交じりに、ルカが言う。
「どうして……なんでぼくを――! お父さんやお母さんまで――!」
「確かに強引だったのは謝罪します……しかし、ご両親は我が教団を快く思われていない。世間でまことしやかに流される大嘘を鵜呑みにして、我々の幾度とない交渉を蹴り続けた」
「大嘘? ふざけないでよ! 悪い噂は本当でしょ!」
「今はそう思われるのも無理はない。しかし、あなたは教団の<巫女>に選ばれた……。祝祭で神楽を舞っていただければ、謝礼と共に全員解放します。それまではどうかご容赦を」
ルカの睨視がカルバリを射抜く。
内心ではカルバリ自身も不本意だった。が、これは司教が決めた方針であり、彼や、他の宰たちにはそれを覆す権限は無い。
「これはビジネスでもあるんだ」
言ったのは、入口付近に控えていたブレード・ディフェンドの傭兵だった。フラガラッハというコードネームを持つ男。ベルフェン・ガウス――。
ベルフェンはルカに近づき、続ける。
「動力教団がガロンガラージュ全域の電気を握っているのはきみも知っているだろう? これはただの宗教的行事だけではない。きみが祝祭を成功させることで、金の流れも活発になり、それがひいては――」
彼が最後まで言わないうちに、ルカはベルフェンの胸ぐらを掴む。
「あなたはみんなを騙した! ぼくだけじゃなく、アリシアも! バーキンさんまで!」
「ミス・ルカ、落ち着いて……」
カルバリは彼女をなだめようとしたが、ルカには届かなかった。
「バーキンさんはあなたを信頼してたのに……それを踏みにじった……! 信頼を裏切った!」
その時、もう一人の傭兵が動いた。
彼はルカの背後をとり、ナイフの刃を首元に当てる。
傭兵がくぐもった声で言った。
「先に信頼を裏切ったのは……バーキンのほうだ」
刃にルカの皮膚が切られ、一筋の血が流れる。
それを見てカルバリはうろたえたが、ベルフェンは言った。
「よせ、カルンウェナン」
カルンウェナンと呼ばれた傭兵は、すこしだけ間を置いて、ナイフを退ける。
ルカは力なくベッドに座り込み、目を逸らした。
ベルフェンとカルンウェナン――ラムダは互いに目を合わせ、出てゆく。
カルバリも後に続いた。
扉を閉ざす前に、彼はルカの方へ振り返り、鍵をかける。
鉄面の裏で自分がどんな表情をしているのか、カルバリ自身にもわからなかった。
◇
アリシアは通学路の途中にあるコンビニエンスストアで停まると、ベルフェンに電話する。
しかし、電波の届かないところにいるというアナウンスが聞こえてきて、
「くそ!」
思わず毒づいた。
嫌な気分だった。
悪い予感がする。
ルカの安否は不明。警察は頼れない。ベルフェンとも連絡が取れない。
ならば――。
◇
――バーキンは今日もひと仕事終えて、自室に戻ってきた。いつもの疲れと共に扉を開け、夕食のうどんを楽しみながらゆっくりする。
今夜のうどんはすこし贅沢に、海老天をトッピングしていた。仕事帰りに寄ったスーパーマーケットで、割引価格だったのだ。
思い切って四つトッピングし、慣れ親しんだ味に生じた変化を楽しみながら食べ進んでゆく。
すると、外でバイクの音が聞こえた。郵便配達員やピザのデリバリーではない。もっと大型だ。おそらくクォータークラスのマシンだろう。
続いて階段を急ぎ足で昇る音。それを聞きながら、
他の入居者の友人かな?
と思った。
そのため、まさか自分の部屋の呼び鈴が鳴るとは予想もしていなかった。
うどんを置き、ドアスコープを覗いて、扉を開けた。
「アリシア――」
「ルカが……行方不明なんです」
翌朝、バーキンたち三人は電車に乗って<巨域>まで行く。巨域はガロンガラージュ経済の中心地で、ブレード・ディフェンドのみならずさまざまな企業が本社を構える域でもあった。巨域はバーキンらの住む<宮域>と隣り合っていて、休日でも平日でも、いつだってすこし待てば電車に乗れる。
バーキンは、アリシア、ルカと共に臙脂色の座席へ腰を落とし、横一列に座る。足元から温風が出ていた。
まもなく電車は駅を発ち、一時間ほど費やして巨域十番街へと至る。
そこは繁華街であった。日中なのにあちこちでネオンサインで飾られた看板がぴかぴかと輝き、歩道では法被を着たひょうきんな男性が声高に客を呼び込んでいる。
道行く人々も、あつらえたスーツの紳士や、いかにも上流階級といった所作の淑女がいるかと思えば、どぎつい香水のにおいを漂わせる男女や、寝起きでそのまま外に繰り出したのかと勘違いしてしまいそうな、毛玉だらけのセーターとぼさぼさ髪の年寄りまで多種多様だ。
そのためか、宮域南部の片田舎ほど、ルカの白い肌と髪は通行人の目を引きはしなかった。
本通りを離れて、街路樹が列を成す幹線道路沿いのビルが、待ち合わせ地点である。
「たしかこの辺り……」
バーキンが呟くと、車道脇に停まっているセダン――そのボンネットに腰かける男が手を振った。
「ここだ、カラドボルグ」
そう言って彼は背筋を伸ばした。黒いスーツにグレーのハイネックを着た、すらりと背の高い美男子――。
「久しぶりだな、ベルフェン。フライトジャケットじゃないから気づかなかった」
「会社がでかくなって、俺も出世したんでな。――ラムダのやつは相変わらずだが」
「……あの人は?」
「髪を伸ばした。本社の移転記念だとさ……まあ中身はお察しのとおりさ」
ベルフェンは言ってから、アリシアとルカを見る。
「そのコたちが?」
バーキンは頷いて答えた。
ベルフェンは二人の前に立つ。
「はじめまして。きみらのことは聴いてる。俺はベルフェン・ガウス。ブレード・ディフェンドのハイランダー……つまりは幹部で、フラガラッハとも呼ばれてる」
彼はバーキンの方を向いて、
「あいつにも現役時代はカラドボルグという二つ名があった」
懐かしい響きだ。バーキンはそう思った。
「さて、本心で言えばカフェでコーヒーを、といきたいところだが……」
ベルフェンは言いながらセダンの後部扉を開ける。
「尾行がいないとも限らない。乗って」
「あ――、はい」
アリシアとルカは、車へ近づき、バーキンは二人を見ながら一歩後ろに下がった。
すると、乗車前に二人がバーキンに向き直る。
「バーキンさん、ほんとうにありがとうございました」
「あなたがいなかったら、ぼくたち……きっと――」
ルカは言葉に詰まり、すこし俯く。
そんな彼女に、バーキンは微笑んだ。
「正しいと思ったことを……できる限りでしただけさ」
彼はかつての戦友に顔を向ける。
「ありがとうな。どのツラ下げてって拒めたろうに……」
「ラムダならそう言ってただろうな」ベルフェンが笑う。「だがおまえ個人の問題じゃない。任せてくれ」
「……ラムダに、ごめんよって伝えておいてくれないか?」
「――わかったよ。だけど、機会があったら自分でも詫びを入れろよ」
「そのつもりさ……」
「じゃあ、行くか」
ベルフェンは運転席側に回り、
「後のことは車内で」
と、一緒に乗り込むアリシアたちに言った。
セダンのハザードランプが消え、エンジンがかかる。
車の流れが途切れたのを見計らって、ベルフェンのセダンは発車した。
窓越しに、アリシアとルカが手を振り、お辞儀してくれる。
バーキンも手を振り返し、セダンの姿が消えるまで見送った。
一陣の風が吹き、バーキンの心に爽やかな気持ちを芽生えさせる。
こんな気分になったのはいつぶりだろう。
彼はそう思った。
パーフェクトな言動ができたとも、理想的な立ち回りができたとも思わない。が、それでも、あの二人の幸せを護ることができた。奪われるところだったのを、寸でのところで止められたのだ。
その事実が、ただ嬉しかった。
もちろん懸念はある。敵に関しては謎が多い。けれどブレード・ディフェンドの皆なら、きっと大丈夫だろう。
彼はアリシアとルカの未来が明るいことを願った。自分は手に入れられなかった、愛に満ちた明日を神に祈って、天を仰ぐ。
空は依然曇っていたが、すこし白く光って見えた。
次の日。
「おはようございます」
バーキンは言いながら事務所の扉を開ける。
「おはよう、バーキン」
デスクにつくコガワが、顔を上げて笑う。
「……何か良いことが? 目に輝きを感じますよ?」
「良いこと……まあ……良いか悪いかで言えば最悪の事態に巻き込まれはしたんですけど……」
「そういえば土曜、殺人があったと……」
まさか現場に居合わせたとは言えまい。
バーキンは答えずにしまりのない笑いではぐらかした。
コガワはすこしだけ首を傾げ、また笑顔でバーキンの顔を覗き込む。
「いずれにせよ、あなたの気分が良いなら私にとっても良いことだ。今日もお気をつけて」
「はい」
バーキンは仕事着にしているソフトシェルジャケットの前を首まで閉めた。
しばらくは心穏やかに過ごせそうだ。
そう思った。
◇
宮域南第三高等学校。
アリシアは駐輪場と隣接するバイク置き場に愛車<ネロ>を停めると、右脚で宙に弧を描き降車した。ヘルメットやモトクロスグローブ、ライディングジャケットを脱ぎ、髪に手ぐしを入れると、昇降口に向かう。途中、セーラー服の襟とスラックスの裾が不格好にめくれているのに気づいて整えた。
登校して、クラスメイトらと交わす挨拶もそこそこに自分の席へ着く。
先の休日のことが、夢のようだった。
あれから二人は、当面の間ブレード・ディフェンドのオペレーターに陰から護衛してもらうことになったのである。
アリシアはルカよりは軽微なガードだったが、敵の狙いはルカなのだ。それで充分だ。
それにしても、と彼女は思う。
あの連中はどうしてルカを狙ったのだろう?
ルカは他の人に比べて色素が非常に少なく、紫外線や強い光には対策が必要なこと以外は、まったく普通の女の子だ。繊細そうな見た目の割に体力があり、筋肉もそこそこ鍛えられているが、それくらいしか思いつかない。家庭的にも、ことさら特殊なものは無い。普通の三人家族で、善良な父と愛情深い母……。
やはり、ルカがアルビノだから……それ以外の理由は無いのだろうか? 昔からアルビノには神聖な力が宿ると言われ、それを求めて凄惨な悲劇が繰り返されたというが――。
考えていると、担任の先生が朝の挨拶と共に入ってきた。
クラスメートたちは自分の席につき、教室は静まり返る。
先生は出席簿を開きながら言った。
「ご家族の方から連絡があって、ルカさん今日は欠席です。ああ、風邪を引いてしまっただけらしいので、まあ明日か明後日にはいつもどおりでしょう。最近寒いし」
その言葉に、アリシアは違和感を覚えた。
確かにあんなことがあったのだ。気疲れから風邪菌につけ入られたというのは納得できる。
が、それならなぜ自分に連絡が来ないのか。
彼女はホームルームや授業の合間の休憩時間、昼休み、教室移動の隙を見繕って、何度も端末をチェックした。
結局下校時間になってもルカからのメッセージは無かった。
家に帰って、ルカ宛にメッセージを送る。
――今日学校休むって聞いてなかったからびっくりしたよ。風邪大丈夫?
すこし時間が空いてから既読表示がついて、まもなく返信が来た。
――ごめんね。頭が痛くて忘れちゃった。
――そっか。なら仕方ないね。お大事に
ひとまず安心した。
だが次の日も、ルカは来なかった。
まあ昨日の今日で回復はしないか、と自分に言い聞かせ、アリシアは一人授業を受ける。
ふと、教師の話が耳に入らなくなって、己の手元に目が行った。
彼女は、ほとんどいつも両手にハーフフィンガーグローブを着けている。小学生のころからの習慣で、中学に上がって一旦やめて、高校に上がってルカと知り合ったころに再度つけ始めたファッションだ。
アリシアは鉛筆を置き、グローブを外すとスラックスのポケットに仕舞った。
そして休憩時間、彼女は隣の席の女子に話しかけられる。
「あれ? 今日はユビヌキどうしたの?」
「ああ……ルカがいないと、なんというか、つけてる甲斐が無いなと思ってさ」
「ふーん……あ、でも気持ちわかるカモ。あたしも彼氏と会えない日とかすんごい雑なカッコしてるし」
「でしょ?」
「でもさ、なんでユビヌキ手袋なの? ルカが浮かないように?」
「いや……どっちかっていうと逆かな」
アリシアは廊下側の、誰もいないルカの席を見る。
「昔からつけてたんだけどさ、一時期我慢してて……言い方悪いけど、ルカに便乗したんだ」
「そっか……。早く良くなるといいね」
女子もルカの席を見た。それからまたこちらに顔を向けて、
「お見舞い行ったげたら?」
と言う。
「……そうだね。そうするよ」
アリシアは微笑んだ。
ルカを狙う敵の件もある。ブレード・ディフェンドが護ってくれているとはいえ、やはり自分の目で安否を確かめたい気持ちが無いわけではない。
下校時、アリシアはネロに乗る準備を済ませると、エンジン始動前にバッグを開いた。
奥に手を突っ込み、護身用に持ってきた物を取り出す。
それは一対の双剣で、ナックルガードと、鈎状に湾曲した鍔を持つ刀――詠春刀だった。
詠春刀はひとつのカイデックス製の鞘に納まり、法に触れぬようグリップカバーで柄を覆っている。
彼女はそれを腰に帯びると、バイクを発進させた。
アリシアは住宅街を走る。ルカの家はその一角にあるのだ。付き合い始めの頃は、似通ったデザインの真新しい家屋が整列している光景に困惑し、幾度となく目的地を通り過ぎたものだが、今となっては画一的な家々のわずかな違いがはっきりわかる。ルカ宅はとくにだ。
彼女の家に着いたアリシアは、ヘルメットを脱ぎながら家を見上げる。
静まり返っているが、外からは争った形跡は見られない。しかしどこか違和感があった。
ネロを降りると、違和感の正体とおぼしき物を見つける。それは塀に貼ってあった反・動力教団のポスターだ。色あせていて、波打った紙面には「ガロンガラージュのすべての発電所に予算を!」と書いてある。それが道端に落ち、靴跡がくっきりと残っていた。
古いポスターだし、自然に落ちたのだろう。
と思い、玄関の呼び鈴を鳴らす。返事は無かった。
ルカに直接電話をかけても、出ない。むなしくコール音が続くばかりだった。
だが諦めて電話を切ろうとしたその時、
「アリシア……?」
ルカの声がした。その声はすこし鼻声に聞こえる。
「ああ、ルカ……大丈夫? ――声、聞きたくなって」
「……ありがとう……ぼくは平気」
「いま家にいる……よね? お見舞いに――」
来た、と言いかけて、彼女は留まる。それからこう言った。
「……お見舞いに行こうと思ってるんだけど、いいかな?」
「……ごめん、ちょっとタチの悪い風邪っぽくて……アリシアにうつしたくない」
「そっか……」
アリシアが言うと、背後で車が一台、通り過ぎた。
「今、帰り道なんだけど、せっかくだからお母さんかお父さんにお見舞いの品渡しとこうか?」
「お母さんもお父さんも、昨日から仕事で家にいてないから……また今度でいいよ」
「オッケー。じゃあ、元気になったら学校で」
「待っててね……大好き」
電話が切れた。
端末を納め、駐車場を見る。
駐車場にはルカの母の愛車である、マルーンのミニバンが停まったままだった。ダッシュボードの上には、会社の駐車許可証が置きっぱなしだ。
アリシアは眉間にしわを寄せ、周囲を警戒しながらネロに跨った。
◇
鉄面宰カルバリは通話の切れたルカの端末を、彼女の耳元から遠ざけた。
涙で頬と両腿を濡らしたルカは、顔を両手で覆う。
「ご協力に感謝する……ミス・ルカ」
言いながらカルバリはもう片方の手に持ったリボルバーをホルスターに納めた。
嗚咽交じりに、ルカが言う。
「どうして……なんでぼくを――! お父さんやお母さんまで――!」
「確かに強引だったのは謝罪します……しかし、ご両親は我が教団を快く思われていない。世間でまことしやかに流される大嘘を鵜呑みにして、我々の幾度とない交渉を蹴り続けた」
「大嘘? ふざけないでよ! 悪い噂は本当でしょ!」
「今はそう思われるのも無理はない。しかし、あなたは教団の<巫女>に選ばれた……。祝祭で神楽を舞っていただければ、謝礼と共に全員解放します。それまではどうかご容赦を」
ルカの睨視がカルバリを射抜く。
内心ではカルバリ自身も不本意だった。が、これは司教が決めた方針であり、彼や、他の宰たちにはそれを覆す権限は無い。
「これはビジネスでもあるんだ」
言ったのは、入口付近に控えていたブレード・ディフェンドの傭兵だった。フラガラッハというコードネームを持つ男。ベルフェン・ガウス――。
ベルフェンはルカに近づき、続ける。
「動力教団がガロンガラージュ全域の電気を握っているのはきみも知っているだろう? これはただの宗教的行事だけではない。きみが祝祭を成功させることで、金の流れも活発になり、それがひいては――」
彼が最後まで言わないうちに、ルカはベルフェンの胸ぐらを掴む。
「あなたはみんなを騙した! ぼくだけじゃなく、アリシアも! バーキンさんまで!」
「ミス・ルカ、落ち着いて……」
カルバリは彼女をなだめようとしたが、ルカには届かなかった。
「バーキンさんはあなたを信頼してたのに……それを踏みにじった……! 信頼を裏切った!」
その時、もう一人の傭兵が動いた。
彼はルカの背後をとり、ナイフの刃を首元に当てる。
傭兵がくぐもった声で言った。
「先に信頼を裏切ったのは……バーキンのほうだ」
刃にルカの皮膚が切られ、一筋の血が流れる。
それを見てカルバリはうろたえたが、ベルフェンは言った。
「よせ、カルンウェナン」
カルンウェナンと呼ばれた傭兵は、すこしだけ間を置いて、ナイフを退ける。
ルカは力なくベッドに座り込み、目を逸らした。
ベルフェンとカルンウェナン――ラムダは互いに目を合わせ、出てゆく。
カルバリも後に続いた。
扉を閉ざす前に、彼はルカの方へ振り返り、鍵をかける。
鉄面の裏で自分がどんな表情をしているのか、カルバリ自身にもわからなかった。
◇
アリシアは通学路の途中にあるコンビニエンスストアで停まると、ベルフェンに電話する。
しかし、電波の届かないところにいるというアナウンスが聞こえてきて、
「くそ!」
思わず毒づいた。
嫌な気分だった。
悪い予感がする。
ルカの安否は不明。警察は頼れない。ベルフェンとも連絡が取れない。
ならば――。
◇
――バーキンは今日もひと仕事終えて、自室に戻ってきた。いつもの疲れと共に扉を開け、夕食のうどんを楽しみながらゆっくりする。
今夜のうどんはすこし贅沢に、海老天をトッピングしていた。仕事帰りに寄ったスーパーマーケットで、割引価格だったのだ。
思い切って四つトッピングし、慣れ親しんだ味に生じた変化を楽しみながら食べ進んでゆく。
すると、外でバイクの音が聞こえた。郵便配達員やピザのデリバリーではない。もっと大型だ。おそらくクォータークラスのマシンだろう。
続いて階段を急ぎ足で昇る音。それを聞きながら、
他の入居者の友人かな?
と思った。
そのため、まさか自分の部屋の呼び鈴が鳴るとは予想もしていなかった。
うどんを置き、ドアスコープを覗いて、扉を開けた。
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「ルカが……行方不明なんです」
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