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チャプター4
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4
バーキンはアリシアを部屋に招き入れ、訊ねる。
「行方不明って、どういうことさ?」
「……ほとんど、アタシの推測なんですけど……」
という前置きをして、アリシアは何があったのかを語り始めた。
――おおかた聴き終えて、バーキンは腕を組み、小さく唸った。
アリシアが言う。
「ベルフェンさんを疑ってるわけじゃないんです。だけど――」
「いや、いいんだ」バーキンは微笑んでみせる。「確かにおかしい。ベルフェン……いや、ブレード・ディフェンドがそう簡単にやられるとは考えにくい。なんなら疑念はおれのほうが強いかもしれない」
となると、とバーキンは呟いて、言った。
「こじつけもいいところなんだけど、動力教団が怪しいな」
「どうして? 確かによからぬ噂を聞きはするけど……」
「最近になって、ブレード・ディフェンドのオペレーターを神殿で見るようになった」
「なんで知ってるんです?」
「……神殿に酒や食糧を運ぶのがおれの仕事だからさ」
アリシアの息が詰まる音が聞こえた。
「だけど誓って言う。おれは神殿に入ったことすら無い。外の荷捌き場で事務的な会話をするだけだ。たまに雑談が入る程度で」
バーキンはアリシアの目を見つめて言った。
「ただ……今回は祝祭とやらが近いって言ってた」
「いやいやいや、ちょっと待って」
と、アリシアがかぶりを振る。
「なに? つまりルカは生贄かなにか? いくらなんでもカルトが過ぎるでしょ」
「ああ。自分でもそう思う。けどね」
バーキンは卓上のトレー内に転がっている、金属製のピルボトルを拾い上げて言った。
「そういうのは確かにあるんだ」
彼女は戸惑いこそしていたが、眼差しはこちらを見据えていた。
「……そっちはなにか心当たりはある?」バーキンは訊いた。
アリシアはすこし俯いて、答える。
「ルカのご両親は……あまり動力教団を好きじゃないというのは聞いたことが」
「なるほど……カルトとかオカルトとか抜きに、そのへんから話がこじれて……っていうのは有り得そうだ」
ふと、外から車の音がした。重厚な音だ。
バーキンは立ち上がった。コートを着て、手袋をはめた後、刀を手に取る。
それを見て、アリシアも察したようだ。
「――詠春刀だね?」
バーキンはアリシアの携える双剣を見て言った。
「ええ。万一に備えて」彼女は柄のカバーを取り払う。「こんなことなら銃の所持免許取っとけばよかった」
「大丈夫だよ」バーキンは言って、ピルボトルを開けた。「銃よりも強力な武器がある」
バーキンの予想通り、アパートの外で聞こえた車の音は<兵員輸送車>のものだった。ピストルキャリバーカービンで武装した五人組が敷地内に入ってくるのが見える。
傭兵たちは音も無く階段を上ってきて、バーキンの部屋の前で突入体勢に入った。
そこでバーキンは声をかける。
「珍しいな。ウチはめったに来客が無いのに」
傭兵らが顔を上げた。
月光を背に、バーキンは屋根から敵を見下ろしていた。
利き手の長刀が光を反射させ、静かに傭兵を威嚇する。
次の瞬間、傭兵たちの銃口がバーキンに向いた。
火を噴く前に、バーキンは屋根から跳び、いちばん近い敵の背後を取る。
敵が対処する前に、プレートキャリアを斬り裂いた。
無防備となった背を拳で突く。まず一人ダウンさせた。
続けざまに二人目へ柄頭での打突を試みる。
が、二人目は後ろに飛び退いて、銃撃と共に階段を駆け下りた。
バーキンは廊下の奥に移動して、弾を避ける。
傭兵たちが広い場所で隊形を整えようとしている。
そこに、アリシアが飛びかかった。彼女もまた屋根にいて、身を隠していたのだ。
彼女は四人の立つ真ん中に着地する。
敵がそれに気を取られた隙に、バーキンも飛び降りて追撃した。
傭兵の一人が振り返り、銃を構える。
バーキンのほうが速かった。
刀を振り上げ、相手の武器を破壊した。
ピストルキャリバーカービンの銃身を斬り裂く。
傭兵はバーキンに蹴りを喰らわせて時間を稼ぎ、カービンのコンバーションキットからハンドガンを引き抜いた。
敵の銃撃。
それをバーキンは回避し、流れ弾が背後の金属製ダストボックスを穿つ音を聞く。
急接近して、敵の拳銃を掴むと、力任せに引っ張った。
傭兵の身が海老反りになって宙を舞い、柱にぶつかって沈む。
その間アリシアは、詠春刀の鍔で相手の武器を絡め取っていた。
ズレた射線が別の傭兵の脚を射抜く。
短い悲鳴と共に傭兵が膝をついた。
バーキンはその傭兵に、仲間を蹴飛ばしてぶつけ、二人一度に倒した。
これであと一人。
アリシアが動きを封じていた傭兵から武器を引き剥がす。
彼女は回し蹴りで敵の姿勢を崩し、こちらに向けて倒れ込ませた。
最後の傭兵は毒づきながら起き上がろうとしたが、バーキンは彼の眼前に切っ先を向ける。
もう勝負はついた。
傭兵もそれを察したようで、力なくうなだれる。
と、ここで周囲がざわついていることに気づいた。
バーキンとアリシアが顔を上げると、他の入居者らが不安と驚きの入り混じったような顔で、こちらを見ていた。
「……急に襲ってきたんだ。正当防衛です」
とバーキン。
すると、アリシアが叫ぶ。
「危ない!」
隙を突いて、傭兵が拳銃でバーキンを撃ったのだ。
弾はバーキンの額へ飛び――、
「……マジかよ……」
はじかれて地面に転がる。
傭兵は青ざめていた。
バーキンは刀を持ったままの拳で彼の顔面を殴り、今度こそノックアウトする。
これで意識がある敵はフレンドリーファイアを喰らった一人だけだ。
バーキンとアリシアは彼に詰め寄る。
「誰の命令だ? 雇い主は?」
「喋ると思うか……?!」
「こっちは恋人が心配で気が立ってんだ」
アリシアが詠春刀の刃を突きつける。
「じゃ拷問でもなんでもやりな……!」
傭兵は汗の滲む顔に、笑みを貼り付けた。
アリシアが凄んでいる一方で、バーキンは傭兵の首にかかったボールチェーンを引っ張る。
認識票を見つけた。そこには<ハイルダイン・セキュリティサービス>の名と社章がある。
「なるほど、動力教団か」
と言って、傭兵がぎくりとなるのを確かめた。
バーキンとアリシアは、互いに顔を見合わせる。
「やっぱりな」
「急ぎましょう、バーキンさん」
アリシアは傭兵を殴って気絶させ、バイクに跨る。
「ああ。気をつけて。それから――」
バーキンは自前のピックアップトラックに乗って言う。
「おれのことは呼び捨てでいい。敬語もナシだ。……そのほうが早い」
「……わかった、バーキン。じゃあ行くよ」
「おうよ。今くらいの交通量なら二時間ほどで着くはずだ」
二人は夜の道をかっ飛ばした。
◇
ルカはベッドシーツを引き裂き、端を結び、自らを日光から守るためのマントを作った。だが窓には強固な格子がはめこんであり、ここを壊して脱出するのは事実上不可能だ。
つまり、唯一の出入り口である扉から逃げる以外に道はない。
彼女は扉に耳をつけて外の音を聴く。
離れたところから、カラカラと車輪の回るような音がした。おそらく手押しワゴンだ。食事が運ばれてきたのだろう。
ルカは床に膝をついて、ベッドに顔をうずめた。
扉を解錠する音がして、看守役の信徒が夕食と共に入ってくる。
「お食事です」
いつもなら一応の返事をするところだが、彼女はあえて無視した。誘拐されたショックで動揺し、気力を失っているように見せかけるために。
その試みは成功したようだ。
信徒は何も言わずテーブルに食事を置き、背を向けた。
ルカは横目で彼を注視する。紺色の二つボタンのジャケット――その脇下が、やや不自然にふくらんでいた。
アリシアが前に言っていた<豆知識>通りなら――。
「では、また片付けに参ります」
信徒が立ち去ろうとする。
そこで、
「待って!」
ルカは立ち上がり、彼の背にぴとりと身をつけた。
「待ってください……」
「ルカさん……」
彼女は信徒の胸元に腕を回す。
「……淋しいんです……すごく……」
「大丈夫です……。すぐ帰れますから……」
「そういう意味じゃなくって……」
その言葉に、信徒がにわかにうろたえたのがわかった。
懐に指を入れて、彼の生唾を飲む音を聞く。
今だ!
一気に手を押し込み、ショルダーホルスターから自動拳銃を引き抜く。
後ろに跳んで銃を構えた。
信徒は目を見開き、ホールドアップする。
ルカはスライドを引き、銃口を彼の胸に向けて言った。
「お父さんとお母さんはどこ?」
ルカは信徒の背に銃を突きつけ、両親が囚われている部屋へと案内させる。
鍵を開けさせ、ドアノブに手をかける前に覗き窓から中の様子を見た。
両親と目が合い、にこりと微笑む。
二人は声を出すのを我慢して、喜びの表情を浮かべていた。
部屋に入ると、彼女は言う。
「なにか縛るものを」
「ベルトがある」
父はウエストベルトを引き抜き、信徒の両手をベッドの脚と共に縛った。
その間ルカは信徒のボディーチェックを行い、くるぶしからバックアップガンのリボルバーと携帯端末、そして車のキーを見つけた。
母はハンカチを使って、信徒に猿ぐつわをかませる。
そして、再会の抱擁を交わした。
「無事でよかった……」
ルカは両親の胸に顔をうずめて言う。
「それは私たちも同じだ」と父。
母も、
「来てくれてありがとう、ルカ……」
と涙声だ。
三人は身を離し、頷き合う。
ルカは自動拳銃を父に差し出した。
だが父は、
「自動拳銃はルカが持っていなさい」
とリボルバーを受け取った。
三人が部屋を出ようとすると、外が急に騒がしくなり、慌ててルカたちは息をひそめた。
母は信徒を抑え込み、父が銃を突き付ける。
ルカは扉に耳を当てた。
廊下の向こうから、大勢の足音が近づいてきて、部屋の前を過ぎていく。
礼拝……供物……司教、五行宰……。
ごちゃついた声の砂嵐から、そういった名詞を聴き取り、彼女は礼拝時刻なのかと推察した。
好都合だ。とルカは思う。これで人の目はぐっと減る。
すると唐突に、ある二つの言葉が耳に入った。
テヤンの日。
ヴェラボの姪。
どちらも初めて聞く言葉だった。前後の文脈から察するに、テヤンの日とやらは不成就日や赤口でなければ前倒しも検討されていたらしい。
そしてヴェラボの姪とは――ほぼ間違いなく自分のことだ。
信徒たちの足音が遠ざかり、やがて気配と共に消えた。
ルカは振り向く。
「行こう。お父さん、お母さん」
ルカ一家は監視カメラと、警備の傭兵を警戒しながら外に出た。
そこは信徒たちと、一部の傭兵のための宿舎で、九階建ての棟がいくつも並んでいる。神殿はやや離れたところにあり、冷たい夜風に乗って読経のような、しかしおどろおどろしい声がかすかに聞こえてくる。
駐車スペースは棟のすぐ近くだった。だが、空間は夜間作業灯ばりの強烈な光を放つ街路灯で照らされていて、ルカは目の痛みに思わず顔を覆った。
「ルカ――!」両親が前に出て光から庇ってくれる。
「大丈夫……急ごう」
彼女は手で陰を作り、ギリギリまで瞼を下ろし、改めて駐車場を見る。海外産の高級車からリーズナブルな軽自動車まで、あらゆる色と種類の車が停まっていた。
ルカの横で父が信徒から拝借したキーをかざし、解錠ボタンを繰り返し押す。
キーに入ってあるメーカーと同じ車を、家族全員で探しまくって、電波を飛ばしまくった。
父の指がそろそろ攣るんじゃないかとルカが思ったその時、すこし離れた場所に停まったステーションワゴンが左右の方向指示器を光らせた。
ルカは両親と駆け出した。棟と車を隔てる道路は広く、大きめの車が余裕を持ってすれ違えるだけの幅を持っている。
そんな道路の中ほどまで来た次の瞬間。
銃声と共にルカの足元で銃弾がはじけた。
三人は足を止め、銃声の方へ向き直る。
傭兵が――傭兵の部隊が影の中から姿を現した。
かれらは家族をあっという間に取り囲み、逃げ場を奪う。
銃剣のぎらついた光が、三人を威嚇する。
「無許可の外出は……禁じられています」
そんな言葉と共に現れたのは、あの鉄仮面だった。
黒いロングコートに黒いスーツ、腰には二挺のリボルバーを納めたガンベルトが巻いてあり、革手袋をした両手はクイックドロウができる位置に定まっていた。
無機質な仮面の奥から覗く目はわずかに光るばかりで、異様な圧を帯びている。その圧が、身長およそ百八十センチの細身に二メートル超えの巨漢のような気迫をまとわせていた。
ルカと父は母を背に隠し、鉄面へ銃口を向ける。
「抵抗はおやめなさい。わたしに銃は役に立たぬ」
「役に立たぬだと?」父が言った。「フン、神のご加護で弾は逸れるとでも言いたいのか?」
「……皮肉をおっしゃっているのでしょうが、似たようなものです」
鉄面は顔をやや上に向け、首元の肌を目立たせる。
「試していただいてもいいですよ」
「……このカルトどもめ!」
父の銃撃。
だが、銃弾は鉄面の喉笛を穿つことなく粉々に砕けた。
「うそでしょ……!?」
ルカも、父も母も唖然としていた。
鉄面は弾の破片を払い、再びこちらを見据える。
「さあ、部屋にお戻りを――」
と、その時であった。
彼方から車両のエンジン音が轟き、暗黒の中に輝きを見つけたと思うと、バイクとピックアップトラックが飛び込んできた。
ピックアップは横滑りして傭兵を数人撥ね飛ばし、バイクはルカ一家の眼前で停まった。
ライダーがバイクから降り、光を背にヘルメットを脱ぐ。
「――アリシア!」
ルカの目から、歓喜の涙がひとすじ流れた。
◇
バーキンはピックアップトラックから降り、刀を肩に担ぐ。
残った傭兵と、体当たりを躱した鉄仮面を見回すと、彼は言った。
「一般人にずいぶんな戦力じゃないか」
「……きみを知っている」鉄面が言う。「カラドボルグ……バーキンだな」
「ああ。あのコたちを危険に晒したアホだよ」
その言葉に、鉄面は小さな笑い声を上げた。
傭兵の小銃がバーキンに向く。アリシアにも照準が合わさっていた。
ルカの震えた声がする。
「アリシア……バーキンさん……」
アリシアが答えた。
「心配しないでルカ。お父さん、お母さんも。――こいつらには負けない」
「ああ。ハイルダインの傭兵なら、正直素手でも片付けられる」
「しかし……」と口を開いたのはルカの父親だ。「信じてもらえないだろうが……その鉄仮面には銃が効かない」
「……おれたちもです」
バーキンはにこりと笑い、敵を睨んだ。
そして、鉄面がリボルバーを抜き放つ。
開戦のゴングだった。
バーキンは鉄面の銃撃を腕でガードしながら駆け寄り、刀を振った。
斬撃は避けられたが、即座に空振りのリカバリーを試みる。
銃把での薙ぎ払いを受け流し、飛び退いた。
バーキンは地に足がつくと同時に、近くにいた傭兵を斬る。
また鉄面が攻めてきた。掌底が迫る。
バーキンはしゃがんで回避し、タックルを喰らわせて姿勢を崩すが、追撃はしない。
鉄面を仕留めるのも大事だが、それ以上に――。
バーキンはアリシアの援護に向かう。彼女はルカたちの逃げ道を拓かんと奮闘していた。
詠春刀と銃剣の斬り結ぶ音が絶えない。
敵にもルカらを傷つけてはならないという制約があるようだ。
バーキンとアリシアは二人で傭兵たちを片付ける。
剛刀の一撃で銃ごと傭兵を斬り捨てる傍で、アリシアは蹴撃と詠春刀による攻防一体の身のこなしで敵を翻弄していた。
傭兵の銃口がアリシアの額に向く。が、アリシアは紙一重で銃撃を避け、詠春刀の鍔で小銃を押し上げると、隙のできた胴に膝蹴りを一発。体が折れたところで後頭部に踵落としを当てて沈めた。
彼女の体捌きに、バーキンは美しささえ感じる。
そこに鉄面の攻撃。二挺のリボルバーが交互に火を噴いた。
バーキンは防御姿勢をとり、アリシアは跳んで避ける。が、一発腹に受けてしまった。
空中でバランスを崩し、アリシアは地に伏せる。
「アリシア!」
叫んだのはルカだった。
傭兵がアリシアに銃剣を突き立てようと迫る。
が、アリシアは何事も無かったように、傭兵を蹴飛ばしつつ立ち上がった。
そんな彼女を見てバーキンは笑みを浮かべ、鉄面が唸る。
「なるほど……きみらも例の薬を」
「それはこっちのセリフだ」
バーキンは鉄面を見た。
「ブレード・ディフェンドから提供されたのか?」
「お察しの通り」と鉄面。「そちらは飲まなかった分を残しておいた?」
「ああ。二錠だけな……。残しといて正解だった!」
バーキンは攻めてきた傭兵を斬り、鉄面の左手のリボルバーを弾き飛ばす。
アリシアも傭兵の懐に潜り、詠春刀のナックルガードで相手の銃と顎を打ち上げたところだった。
ここでルカたちの逃げ道が確保される。
バーキンは鉄面に密着し、動きを封じた。
「今だ!」
「急いで!」アリシアが言った。
ルカらは車めがけて走る。
「させぬ!」
鉄面がバーキンの肩越しに銃撃した。破れかぶれの発砲だった。
弾はアリシアのバイクのドライブチェーンを射抜く。
「このやろう! アタシのネロを!」
アリシアが詠春刀の一振りを投げた。
それは鉄面の右手からリボルバーを撥ね飛ばす。
バーキンはその好機を逃さず、脇腹に拳を当てた後、ソバットを放った。
蹴りは胸にクリーンヒットし、残った傭兵をはじき倒して鉄面を地に伏せさせる。
ルカ親子も車に乗り込もうとして、バーキンはこれで一段落かと思った。
次の瞬間、ひとつの影がアリシアとルカらのところに現れた。
直後アリシアは吹き飛ばされる。
その流れで、影はルカの母を気絶させた。
バーキンたちが困惑している隙に、ルカの父も銃を奪い取られ、腹への一撃で落とされた。
「お父さん! お母さん!」
ルカが慄いた直後、その影は彼女の首に腕を巻きつけた。
「やめろ!」アリシアが叫ぶ。「ルカを離せ!」
直後、ルカは気を失い、突如現れた影は彼女の身を横たえた。
そして、顔をこちらに向ける。
美しいが、冷ややかな眼差しの男だった。
バーキンは彼が他の傭兵とは違うことを察する。
彼は鉄面に近づき、起き上がるのを手伝った。
「大丈夫か? 鉄面宰よ。……なかなかの強敵ではないか」
「ええ、もとブレード・ディフェンドのハイランダーです」
「……不足なしだ」
男はバーキンとアリシアに向き直ると、こう言った。
「オレは動力教団の五行宰、岩拳宰のフレーシ」
「同じく」と、鉄面がフレーシの横に立つ。「鉄面宰、カルバリ」
フレーシは続ける。
「我が教団が執り行おうとしている祝祭――テヤンの日はこのガロンガラージュにとっても重要な祭事だ。そしてそのためには、どうしてもあの少女……ヴェラボの姪が必要なんだ。わかってくれないか」
「わかってどうする」バーキンは言った。「オマエらこそ、もっと穏健なやり方を模索するべきじゃないのか?」
「これは、神の思し召しだ。我が街のためにも……ヴェラボの姪は渡しはしない」
フレーシが拳を構え、鉄面――カルバリもその横でナイフを抜く。サブヒルトファイターだ。
バーキンとアリシアも、剣を構え直した。
バーキンはアリシアを部屋に招き入れ、訊ねる。
「行方不明って、どういうことさ?」
「……ほとんど、アタシの推測なんですけど……」
という前置きをして、アリシアは何があったのかを語り始めた。
――おおかた聴き終えて、バーキンは腕を組み、小さく唸った。
アリシアが言う。
「ベルフェンさんを疑ってるわけじゃないんです。だけど――」
「いや、いいんだ」バーキンは微笑んでみせる。「確かにおかしい。ベルフェン……いや、ブレード・ディフェンドがそう簡単にやられるとは考えにくい。なんなら疑念はおれのほうが強いかもしれない」
となると、とバーキンは呟いて、言った。
「こじつけもいいところなんだけど、動力教団が怪しいな」
「どうして? 確かによからぬ噂を聞きはするけど……」
「最近になって、ブレード・ディフェンドのオペレーターを神殿で見るようになった」
「なんで知ってるんです?」
「……神殿に酒や食糧を運ぶのがおれの仕事だからさ」
アリシアの息が詰まる音が聞こえた。
「だけど誓って言う。おれは神殿に入ったことすら無い。外の荷捌き場で事務的な会話をするだけだ。たまに雑談が入る程度で」
バーキンはアリシアの目を見つめて言った。
「ただ……今回は祝祭とやらが近いって言ってた」
「いやいやいや、ちょっと待って」
と、アリシアがかぶりを振る。
「なに? つまりルカは生贄かなにか? いくらなんでもカルトが過ぎるでしょ」
「ああ。自分でもそう思う。けどね」
バーキンは卓上のトレー内に転がっている、金属製のピルボトルを拾い上げて言った。
「そういうのは確かにあるんだ」
彼女は戸惑いこそしていたが、眼差しはこちらを見据えていた。
「……そっちはなにか心当たりはある?」バーキンは訊いた。
アリシアはすこし俯いて、答える。
「ルカのご両親は……あまり動力教団を好きじゃないというのは聞いたことが」
「なるほど……カルトとかオカルトとか抜きに、そのへんから話がこじれて……っていうのは有り得そうだ」
ふと、外から車の音がした。重厚な音だ。
バーキンは立ち上がった。コートを着て、手袋をはめた後、刀を手に取る。
それを見て、アリシアも察したようだ。
「――詠春刀だね?」
バーキンはアリシアの携える双剣を見て言った。
「ええ。万一に備えて」彼女は柄のカバーを取り払う。「こんなことなら銃の所持免許取っとけばよかった」
「大丈夫だよ」バーキンは言って、ピルボトルを開けた。「銃よりも強力な武器がある」
バーキンの予想通り、アパートの外で聞こえた車の音は<兵員輸送車>のものだった。ピストルキャリバーカービンで武装した五人組が敷地内に入ってくるのが見える。
傭兵たちは音も無く階段を上ってきて、バーキンの部屋の前で突入体勢に入った。
そこでバーキンは声をかける。
「珍しいな。ウチはめったに来客が無いのに」
傭兵らが顔を上げた。
月光を背に、バーキンは屋根から敵を見下ろしていた。
利き手の長刀が光を反射させ、静かに傭兵を威嚇する。
次の瞬間、傭兵たちの銃口がバーキンに向いた。
火を噴く前に、バーキンは屋根から跳び、いちばん近い敵の背後を取る。
敵が対処する前に、プレートキャリアを斬り裂いた。
無防備となった背を拳で突く。まず一人ダウンさせた。
続けざまに二人目へ柄頭での打突を試みる。
が、二人目は後ろに飛び退いて、銃撃と共に階段を駆け下りた。
バーキンは廊下の奥に移動して、弾を避ける。
傭兵たちが広い場所で隊形を整えようとしている。
そこに、アリシアが飛びかかった。彼女もまた屋根にいて、身を隠していたのだ。
彼女は四人の立つ真ん中に着地する。
敵がそれに気を取られた隙に、バーキンも飛び降りて追撃した。
傭兵の一人が振り返り、銃を構える。
バーキンのほうが速かった。
刀を振り上げ、相手の武器を破壊した。
ピストルキャリバーカービンの銃身を斬り裂く。
傭兵はバーキンに蹴りを喰らわせて時間を稼ぎ、カービンのコンバーションキットからハンドガンを引き抜いた。
敵の銃撃。
それをバーキンは回避し、流れ弾が背後の金属製ダストボックスを穿つ音を聞く。
急接近して、敵の拳銃を掴むと、力任せに引っ張った。
傭兵の身が海老反りになって宙を舞い、柱にぶつかって沈む。
その間アリシアは、詠春刀の鍔で相手の武器を絡め取っていた。
ズレた射線が別の傭兵の脚を射抜く。
短い悲鳴と共に傭兵が膝をついた。
バーキンはその傭兵に、仲間を蹴飛ばしてぶつけ、二人一度に倒した。
これであと一人。
アリシアが動きを封じていた傭兵から武器を引き剥がす。
彼女は回し蹴りで敵の姿勢を崩し、こちらに向けて倒れ込ませた。
最後の傭兵は毒づきながら起き上がろうとしたが、バーキンは彼の眼前に切っ先を向ける。
もう勝負はついた。
傭兵もそれを察したようで、力なくうなだれる。
と、ここで周囲がざわついていることに気づいた。
バーキンとアリシアが顔を上げると、他の入居者らが不安と驚きの入り混じったような顔で、こちらを見ていた。
「……急に襲ってきたんだ。正当防衛です」
とバーキン。
すると、アリシアが叫ぶ。
「危ない!」
隙を突いて、傭兵が拳銃でバーキンを撃ったのだ。
弾はバーキンの額へ飛び――、
「……マジかよ……」
はじかれて地面に転がる。
傭兵は青ざめていた。
バーキンは刀を持ったままの拳で彼の顔面を殴り、今度こそノックアウトする。
これで意識がある敵はフレンドリーファイアを喰らった一人だけだ。
バーキンとアリシアは彼に詰め寄る。
「誰の命令だ? 雇い主は?」
「喋ると思うか……?!」
「こっちは恋人が心配で気が立ってんだ」
アリシアが詠春刀の刃を突きつける。
「じゃ拷問でもなんでもやりな……!」
傭兵は汗の滲む顔に、笑みを貼り付けた。
アリシアが凄んでいる一方で、バーキンは傭兵の首にかかったボールチェーンを引っ張る。
認識票を見つけた。そこには<ハイルダイン・セキュリティサービス>の名と社章がある。
「なるほど、動力教団か」
と言って、傭兵がぎくりとなるのを確かめた。
バーキンとアリシアは、互いに顔を見合わせる。
「やっぱりな」
「急ぎましょう、バーキンさん」
アリシアは傭兵を殴って気絶させ、バイクに跨る。
「ああ。気をつけて。それから――」
バーキンは自前のピックアップトラックに乗って言う。
「おれのことは呼び捨てでいい。敬語もナシだ。……そのほうが早い」
「……わかった、バーキン。じゃあ行くよ」
「おうよ。今くらいの交通量なら二時間ほどで着くはずだ」
二人は夜の道をかっ飛ばした。
◇
ルカはベッドシーツを引き裂き、端を結び、自らを日光から守るためのマントを作った。だが窓には強固な格子がはめこんであり、ここを壊して脱出するのは事実上不可能だ。
つまり、唯一の出入り口である扉から逃げる以外に道はない。
彼女は扉に耳をつけて外の音を聴く。
離れたところから、カラカラと車輪の回るような音がした。おそらく手押しワゴンだ。食事が運ばれてきたのだろう。
ルカは床に膝をついて、ベッドに顔をうずめた。
扉を解錠する音がして、看守役の信徒が夕食と共に入ってくる。
「お食事です」
いつもなら一応の返事をするところだが、彼女はあえて無視した。誘拐されたショックで動揺し、気力を失っているように見せかけるために。
その試みは成功したようだ。
信徒は何も言わずテーブルに食事を置き、背を向けた。
ルカは横目で彼を注視する。紺色の二つボタンのジャケット――その脇下が、やや不自然にふくらんでいた。
アリシアが前に言っていた<豆知識>通りなら――。
「では、また片付けに参ります」
信徒が立ち去ろうとする。
そこで、
「待って!」
ルカは立ち上がり、彼の背にぴとりと身をつけた。
「待ってください……」
「ルカさん……」
彼女は信徒の胸元に腕を回す。
「……淋しいんです……すごく……」
「大丈夫です……。すぐ帰れますから……」
「そういう意味じゃなくって……」
その言葉に、信徒がにわかにうろたえたのがわかった。
懐に指を入れて、彼の生唾を飲む音を聞く。
今だ!
一気に手を押し込み、ショルダーホルスターから自動拳銃を引き抜く。
後ろに跳んで銃を構えた。
信徒は目を見開き、ホールドアップする。
ルカはスライドを引き、銃口を彼の胸に向けて言った。
「お父さんとお母さんはどこ?」
ルカは信徒の背に銃を突きつけ、両親が囚われている部屋へと案内させる。
鍵を開けさせ、ドアノブに手をかける前に覗き窓から中の様子を見た。
両親と目が合い、にこりと微笑む。
二人は声を出すのを我慢して、喜びの表情を浮かべていた。
部屋に入ると、彼女は言う。
「なにか縛るものを」
「ベルトがある」
父はウエストベルトを引き抜き、信徒の両手をベッドの脚と共に縛った。
その間ルカは信徒のボディーチェックを行い、くるぶしからバックアップガンのリボルバーと携帯端末、そして車のキーを見つけた。
母はハンカチを使って、信徒に猿ぐつわをかませる。
そして、再会の抱擁を交わした。
「無事でよかった……」
ルカは両親の胸に顔をうずめて言う。
「それは私たちも同じだ」と父。
母も、
「来てくれてありがとう、ルカ……」
と涙声だ。
三人は身を離し、頷き合う。
ルカは自動拳銃を父に差し出した。
だが父は、
「自動拳銃はルカが持っていなさい」
とリボルバーを受け取った。
三人が部屋を出ようとすると、外が急に騒がしくなり、慌ててルカたちは息をひそめた。
母は信徒を抑え込み、父が銃を突き付ける。
ルカは扉に耳を当てた。
廊下の向こうから、大勢の足音が近づいてきて、部屋の前を過ぎていく。
礼拝……供物……司教、五行宰……。
ごちゃついた声の砂嵐から、そういった名詞を聴き取り、彼女は礼拝時刻なのかと推察した。
好都合だ。とルカは思う。これで人の目はぐっと減る。
すると唐突に、ある二つの言葉が耳に入った。
テヤンの日。
ヴェラボの姪。
どちらも初めて聞く言葉だった。前後の文脈から察するに、テヤンの日とやらは不成就日や赤口でなければ前倒しも検討されていたらしい。
そしてヴェラボの姪とは――ほぼ間違いなく自分のことだ。
信徒たちの足音が遠ざかり、やがて気配と共に消えた。
ルカは振り向く。
「行こう。お父さん、お母さん」
ルカ一家は監視カメラと、警備の傭兵を警戒しながら外に出た。
そこは信徒たちと、一部の傭兵のための宿舎で、九階建ての棟がいくつも並んでいる。神殿はやや離れたところにあり、冷たい夜風に乗って読経のような、しかしおどろおどろしい声がかすかに聞こえてくる。
駐車スペースは棟のすぐ近くだった。だが、空間は夜間作業灯ばりの強烈な光を放つ街路灯で照らされていて、ルカは目の痛みに思わず顔を覆った。
「ルカ――!」両親が前に出て光から庇ってくれる。
「大丈夫……急ごう」
彼女は手で陰を作り、ギリギリまで瞼を下ろし、改めて駐車場を見る。海外産の高級車からリーズナブルな軽自動車まで、あらゆる色と種類の車が停まっていた。
ルカの横で父が信徒から拝借したキーをかざし、解錠ボタンを繰り返し押す。
キーに入ってあるメーカーと同じ車を、家族全員で探しまくって、電波を飛ばしまくった。
父の指がそろそろ攣るんじゃないかとルカが思ったその時、すこし離れた場所に停まったステーションワゴンが左右の方向指示器を光らせた。
ルカは両親と駆け出した。棟と車を隔てる道路は広く、大きめの車が余裕を持ってすれ違えるだけの幅を持っている。
そんな道路の中ほどまで来た次の瞬間。
銃声と共にルカの足元で銃弾がはじけた。
三人は足を止め、銃声の方へ向き直る。
傭兵が――傭兵の部隊が影の中から姿を現した。
かれらは家族をあっという間に取り囲み、逃げ場を奪う。
銃剣のぎらついた光が、三人を威嚇する。
「無許可の外出は……禁じられています」
そんな言葉と共に現れたのは、あの鉄仮面だった。
黒いロングコートに黒いスーツ、腰には二挺のリボルバーを納めたガンベルトが巻いてあり、革手袋をした両手はクイックドロウができる位置に定まっていた。
無機質な仮面の奥から覗く目はわずかに光るばかりで、異様な圧を帯びている。その圧が、身長およそ百八十センチの細身に二メートル超えの巨漢のような気迫をまとわせていた。
ルカと父は母を背に隠し、鉄面へ銃口を向ける。
「抵抗はおやめなさい。わたしに銃は役に立たぬ」
「役に立たぬだと?」父が言った。「フン、神のご加護で弾は逸れるとでも言いたいのか?」
「……皮肉をおっしゃっているのでしょうが、似たようなものです」
鉄面は顔をやや上に向け、首元の肌を目立たせる。
「試していただいてもいいですよ」
「……このカルトどもめ!」
父の銃撃。
だが、銃弾は鉄面の喉笛を穿つことなく粉々に砕けた。
「うそでしょ……!?」
ルカも、父も母も唖然としていた。
鉄面は弾の破片を払い、再びこちらを見据える。
「さあ、部屋にお戻りを――」
と、その時であった。
彼方から車両のエンジン音が轟き、暗黒の中に輝きを見つけたと思うと、バイクとピックアップトラックが飛び込んできた。
ピックアップは横滑りして傭兵を数人撥ね飛ばし、バイクはルカ一家の眼前で停まった。
ライダーがバイクから降り、光を背にヘルメットを脱ぐ。
「――アリシア!」
ルカの目から、歓喜の涙がひとすじ流れた。
◇
バーキンはピックアップトラックから降り、刀を肩に担ぐ。
残った傭兵と、体当たりを躱した鉄仮面を見回すと、彼は言った。
「一般人にずいぶんな戦力じゃないか」
「……きみを知っている」鉄面が言う。「カラドボルグ……バーキンだな」
「ああ。あのコたちを危険に晒したアホだよ」
その言葉に、鉄面は小さな笑い声を上げた。
傭兵の小銃がバーキンに向く。アリシアにも照準が合わさっていた。
ルカの震えた声がする。
「アリシア……バーキンさん……」
アリシアが答えた。
「心配しないでルカ。お父さん、お母さんも。――こいつらには負けない」
「ああ。ハイルダインの傭兵なら、正直素手でも片付けられる」
「しかし……」と口を開いたのはルカの父親だ。「信じてもらえないだろうが……その鉄仮面には銃が効かない」
「……おれたちもです」
バーキンはにこりと笑い、敵を睨んだ。
そして、鉄面がリボルバーを抜き放つ。
開戦のゴングだった。
バーキンは鉄面の銃撃を腕でガードしながら駆け寄り、刀を振った。
斬撃は避けられたが、即座に空振りのリカバリーを試みる。
銃把での薙ぎ払いを受け流し、飛び退いた。
バーキンは地に足がつくと同時に、近くにいた傭兵を斬る。
また鉄面が攻めてきた。掌底が迫る。
バーキンはしゃがんで回避し、タックルを喰らわせて姿勢を崩すが、追撃はしない。
鉄面を仕留めるのも大事だが、それ以上に――。
バーキンはアリシアの援護に向かう。彼女はルカたちの逃げ道を拓かんと奮闘していた。
詠春刀と銃剣の斬り結ぶ音が絶えない。
敵にもルカらを傷つけてはならないという制約があるようだ。
バーキンとアリシアは二人で傭兵たちを片付ける。
剛刀の一撃で銃ごと傭兵を斬り捨てる傍で、アリシアは蹴撃と詠春刀による攻防一体の身のこなしで敵を翻弄していた。
傭兵の銃口がアリシアの額に向く。が、アリシアは紙一重で銃撃を避け、詠春刀の鍔で小銃を押し上げると、隙のできた胴に膝蹴りを一発。体が折れたところで後頭部に踵落としを当てて沈めた。
彼女の体捌きに、バーキンは美しささえ感じる。
そこに鉄面の攻撃。二挺のリボルバーが交互に火を噴いた。
バーキンは防御姿勢をとり、アリシアは跳んで避ける。が、一発腹に受けてしまった。
空中でバランスを崩し、アリシアは地に伏せる。
「アリシア!」
叫んだのはルカだった。
傭兵がアリシアに銃剣を突き立てようと迫る。
が、アリシアは何事も無かったように、傭兵を蹴飛ばしつつ立ち上がった。
そんな彼女を見てバーキンは笑みを浮かべ、鉄面が唸る。
「なるほど……きみらも例の薬を」
「それはこっちのセリフだ」
バーキンは鉄面を見た。
「ブレード・ディフェンドから提供されたのか?」
「お察しの通り」と鉄面。「そちらは飲まなかった分を残しておいた?」
「ああ。二錠だけな……。残しといて正解だった!」
バーキンは攻めてきた傭兵を斬り、鉄面の左手のリボルバーを弾き飛ばす。
アリシアも傭兵の懐に潜り、詠春刀のナックルガードで相手の銃と顎を打ち上げたところだった。
ここでルカたちの逃げ道が確保される。
バーキンは鉄面に密着し、動きを封じた。
「今だ!」
「急いで!」アリシアが言った。
ルカらは車めがけて走る。
「させぬ!」
鉄面がバーキンの肩越しに銃撃した。破れかぶれの発砲だった。
弾はアリシアのバイクのドライブチェーンを射抜く。
「このやろう! アタシのネロを!」
アリシアが詠春刀の一振りを投げた。
それは鉄面の右手からリボルバーを撥ね飛ばす。
バーキンはその好機を逃さず、脇腹に拳を当てた後、ソバットを放った。
蹴りは胸にクリーンヒットし、残った傭兵をはじき倒して鉄面を地に伏せさせる。
ルカ親子も車に乗り込もうとして、バーキンはこれで一段落かと思った。
次の瞬間、ひとつの影がアリシアとルカらのところに現れた。
直後アリシアは吹き飛ばされる。
その流れで、影はルカの母を気絶させた。
バーキンたちが困惑している隙に、ルカの父も銃を奪い取られ、腹への一撃で落とされた。
「お父さん! お母さん!」
ルカが慄いた直後、その影は彼女の首に腕を巻きつけた。
「やめろ!」アリシアが叫ぶ。「ルカを離せ!」
直後、ルカは気を失い、突如現れた影は彼女の身を横たえた。
そして、顔をこちらに向ける。
美しいが、冷ややかな眼差しの男だった。
バーキンは彼が他の傭兵とは違うことを察する。
彼は鉄面に近づき、起き上がるのを手伝った。
「大丈夫か? 鉄面宰よ。……なかなかの強敵ではないか」
「ええ、もとブレード・ディフェンドのハイランダーです」
「……不足なしだ」
男はバーキンとアリシアに向き直ると、こう言った。
「オレは動力教団の五行宰、岩拳宰のフレーシ」
「同じく」と、鉄面がフレーシの横に立つ。「鉄面宰、カルバリ」
フレーシは続ける。
「我が教団が執り行おうとしている祝祭――テヤンの日はこのガロンガラージュにとっても重要な祭事だ。そしてそのためには、どうしてもあの少女……ヴェラボの姪が必要なんだ。わかってくれないか」
「わかってどうする」バーキンは言った。「オマエらこそ、もっと穏健なやり方を模索するべきじゃないのか?」
「これは、神の思し召しだ。我が街のためにも……ヴェラボの姪は渡しはしない」
フレーシが拳を構え、鉄面――カルバリもその横でナイフを抜く。サブヒルトファイターだ。
バーキンとアリシアも、剣を構え直した。
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