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第003話 クーナの戦闘
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村の外には森や草原がある。
スライムが棲息しているのは森の中だ。
だから、俺達は森に足を踏み入れた。
「ルンルンルーン♪」
やはり遠足だ、コレ。
クーナは上機嫌で鼻歌を歌っている。
敵の奇襲を警戒する様子は欠片も感じられない。
俺の期待値は35%から15%に下がった。
「クーナって、どうやって戦うの?」
「どうやってってー?」
「口から火を吐くとか、爪で引っ掻くとか」
「クーナは爪! シュシュッと寄って、ギャンッ!」
そんな説明で伝わるはずもない。
しかし、接近して爪で引っ掻くということは分かった。
それだけ分かれば十分なので「なるほどな」と答えておく。
「だいじょーぶ! クーナはSランクだから安心して!」
そのSランクがコレだから不安なのだが……。
そう言うわけにもいかないので、俺は苦笑いで流した。
カサカサ、カサカサ。
「「――!」」
俺達の動きが止まる。
前方斜め右の草が不自然に動いたからだ。
クーナの耳もピクッと反応した。
「おとーさん、敵がいるなの!」
クーナが繋いでいた手を離す。
それから俺の前に立ち、両手を地面に置いた。戦闘態勢に入ると二足立ちから四足に切り替えるようだ。腰をこちらに突き上げ、前傾姿勢で構えるその姿はまさに狼であった。
しかし、腰回りだけを凝視していると、ただのセクシーショットに見えなくもない。丈が短いこともあり、ぷりっとした太ももがマジマジと見えるのもその一因だろう。
「ぴゅるるーん♪」
草むらから敵が飛び出してきた。
Fランクモンスターのスライムだ。
強酸の液をピュッピュッと飛ばしてきたり、ピョンピョン跳ねてタックルしてきたりする雑魚の代名詞。液ピュッピュッはわりと強烈なのだけど、いかんせん動きが遅いので避けやすい。
「クーナ、出番だぞ」
「うん! クーナがあいつ、やっつけるなの!」
そう言うと、クーナは四肢を使って駆け出した。
流石はダイヤモンドウルフの獣人、かなりの速さだ。
ジグザグと左右にステップを刻みながら、スライムに詰め寄る。
「ぴゅるん? ぴゅるる!?」
複雑な軌道で迫り来るクーナに、スライムは混乱した。
「シュシュッと寄ってぇ……」
完全に距離を詰め切ったクーナが右手を掲げる。
そうしたら、「ジャキン!」と一瞬にして鉤爪が生えた。
「ギャンだーっ!」
クーナが右手を振り下ろす。
鉤爪はスライムに深々とヒットした。
「ぴゅるーん……!」
スライムが吹っ飛んでいく。
そのまま絶命し、灰と――。
「あれ?」
化さなかった。
モンスターは死ぬと灰になる。
しかし、目の前のスライムは灰にならなかった。
それはつまり、一撃で倒せていないことを意味する。
「このぉー! やるなぁー!」
クーナが不敵な笑みを浮かべる。
一方、俺は「マジかよ……」と絶句していた。
スライムは最弱の代名詞だ。
俺みたいな新米冒険者でさえ、一撃で倒せる。
適当な武器で「えいっ」と突けば、それだけで灰になるのだ。
ところが、クーナの攻撃ではスライムが即死しなかった。
「(スライムが一撃じゃないとか……やばくない!?)」
ウキウキで戦うクーナの後ろで、俺の顔面は青ざめるのであった。
◇
一撃ではなかったが、クーナはスライムを軽やかに屠った。
それがまた俺を微妙な気持ちにさせてしまう。「外れスキルじゃねーか」と絶望するほどの弱さではない。しかし、「当たりスキルだひゃっほぉぉぉぉぅ」と興奮するほどの強さもない。つまりはどっちつかずの中途半端な状態なのだ。だから、俺はぼんやりとすることしか出来なかった。
「おとーさん、クーナ頑張ったなの!」
「お、おう、そうだな」
「おとーさん! ちゃんと見ていたなの!?」
生返事をしたせいでクーナが怒る。
小さくてプニプニの頬を膨らまして、ぷいっと顔を背けた。
その姿を見ていて、申し訳ない気持ちになる。
クーナはキッチリ頑張っていたのだ。俺がイメージしていたような敵を瞬殺させる強さではなかっただけのこと。「おとーさん」と呼ばれている以上、娘の頑張りはきちんと褒めなければならない。
「悪かったよ、クーナ。ちゃんと見ていたよ」
俺は「すまんな」と謝ってから、クーナの頭を右手で撫でた。
クーナは小さな両手を俺の右手に乗せて、「えへへ」と微笑んだ。頭を撫でられることが嬉しいらしい。俺の撫で撫でに合わせて尻尾を揺らしている。俺が右に撫でたら、彼女の尻尾も右へヒョイ。左に撫でたら左にヒョイ。クシャクシャと撫でたら「もっともっと!」とクーナが飛び跳ねた。
「もっとたくさん倒したら、もっともっと撫でてあげるよ」
「ほんと!?」
「本当だよ。嘘をついてどうするんだ」
「わかった! クーナ、もっとたくさん倒す! だからおとーさん、もっともっと、クーナを撫で撫でしてなの!」
無邪気な笑みを見せてくるクーナ。
ドブのように汚れている俺の心が一瞬にして浄化された。
「おう。もっと撫で撫でしてやるから頑張れよ」
たしかに、クーナの攻撃力は思っていたよりも低い。
しかしたったそれだけのこと。この可愛さを考慮すれば許せる範疇。
「(やっぱり神スキルだわ、コレ)」
地面に這いつくばり鼻をクンクンさせて敵を探すクーナを見ながら、俺はひそかにニヤけるのであった。
スライムが棲息しているのは森の中だ。
だから、俺達は森に足を踏み入れた。
「ルンルンルーン♪」
やはり遠足だ、コレ。
クーナは上機嫌で鼻歌を歌っている。
敵の奇襲を警戒する様子は欠片も感じられない。
俺の期待値は35%から15%に下がった。
「クーナって、どうやって戦うの?」
「どうやってってー?」
「口から火を吐くとか、爪で引っ掻くとか」
「クーナは爪! シュシュッと寄って、ギャンッ!」
そんな説明で伝わるはずもない。
しかし、接近して爪で引っ掻くということは分かった。
それだけ分かれば十分なので「なるほどな」と答えておく。
「だいじょーぶ! クーナはSランクだから安心して!」
そのSランクがコレだから不安なのだが……。
そう言うわけにもいかないので、俺は苦笑いで流した。
カサカサ、カサカサ。
「「――!」」
俺達の動きが止まる。
前方斜め右の草が不自然に動いたからだ。
クーナの耳もピクッと反応した。
「おとーさん、敵がいるなの!」
クーナが繋いでいた手を離す。
それから俺の前に立ち、両手を地面に置いた。戦闘態勢に入ると二足立ちから四足に切り替えるようだ。腰をこちらに突き上げ、前傾姿勢で構えるその姿はまさに狼であった。
しかし、腰回りだけを凝視していると、ただのセクシーショットに見えなくもない。丈が短いこともあり、ぷりっとした太ももがマジマジと見えるのもその一因だろう。
「ぴゅるるーん♪」
草むらから敵が飛び出してきた。
Fランクモンスターのスライムだ。
強酸の液をピュッピュッと飛ばしてきたり、ピョンピョン跳ねてタックルしてきたりする雑魚の代名詞。液ピュッピュッはわりと強烈なのだけど、いかんせん動きが遅いので避けやすい。
「クーナ、出番だぞ」
「うん! クーナがあいつ、やっつけるなの!」
そう言うと、クーナは四肢を使って駆け出した。
流石はダイヤモンドウルフの獣人、かなりの速さだ。
ジグザグと左右にステップを刻みながら、スライムに詰め寄る。
「ぴゅるん? ぴゅるる!?」
複雑な軌道で迫り来るクーナに、スライムは混乱した。
「シュシュッと寄ってぇ……」
完全に距離を詰め切ったクーナが右手を掲げる。
そうしたら、「ジャキン!」と一瞬にして鉤爪が生えた。
「ギャンだーっ!」
クーナが右手を振り下ろす。
鉤爪はスライムに深々とヒットした。
「ぴゅるーん……!」
スライムが吹っ飛んでいく。
そのまま絶命し、灰と――。
「あれ?」
化さなかった。
モンスターは死ぬと灰になる。
しかし、目の前のスライムは灰にならなかった。
それはつまり、一撃で倒せていないことを意味する。
「このぉー! やるなぁー!」
クーナが不敵な笑みを浮かべる。
一方、俺は「マジかよ……」と絶句していた。
スライムは最弱の代名詞だ。
俺みたいな新米冒険者でさえ、一撃で倒せる。
適当な武器で「えいっ」と突けば、それだけで灰になるのだ。
ところが、クーナの攻撃ではスライムが即死しなかった。
「(スライムが一撃じゃないとか……やばくない!?)」
ウキウキで戦うクーナの後ろで、俺の顔面は青ざめるのであった。
◇
一撃ではなかったが、クーナはスライムを軽やかに屠った。
それがまた俺を微妙な気持ちにさせてしまう。「外れスキルじゃねーか」と絶望するほどの弱さではない。しかし、「当たりスキルだひゃっほぉぉぉぉぅ」と興奮するほどの強さもない。つまりはどっちつかずの中途半端な状態なのだ。だから、俺はぼんやりとすることしか出来なかった。
「おとーさん、クーナ頑張ったなの!」
「お、おう、そうだな」
「おとーさん! ちゃんと見ていたなの!?」
生返事をしたせいでクーナが怒る。
小さくてプニプニの頬を膨らまして、ぷいっと顔を背けた。
その姿を見ていて、申し訳ない気持ちになる。
クーナはキッチリ頑張っていたのだ。俺がイメージしていたような敵を瞬殺させる強さではなかっただけのこと。「おとーさん」と呼ばれている以上、娘の頑張りはきちんと褒めなければならない。
「悪かったよ、クーナ。ちゃんと見ていたよ」
俺は「すまんな」と謝ってから、クーナの頭を右手で撫でた。
クーナは小さな両手を俺の右手に乗せて、「えへへ」と微笑んだ。頭を撫でられることが嬉しいらしい。俺の撫で撫でに合わせて尻尾を揺らしている。俺が右に撫でたら、彼女の尻尾も右へヒョイ。左に撫でたら左にヒョイ。クシャクシャと撫でたら「もっともっと!」とクーナが飛び跳ねた。
「もっとたくさん倒したら、もっともっと撫でてあげるよ」
「ほんと!?」
「本当だよ。嘘をついてどうするんだ」
「わかった! クーナ、もっとたくさん倒す! だからおとーさん、もっともっと、クーナを撫で撫でしてなの!」
無邪気な笑みを見せてくるクーナ。
ドブのように汚れている俺の心が一瞬にして浄化された。
「おう。もっと撫で撫でしてやるから頑張れよ」
たしかに、クーナの攻撃力は思っていたよりも低い。
しかしたったそれだけのこと。この可愛さを考慮すれば許せる範疇。
「(やっぱり神スキルだわ、コレ)」
地面に這いつくばり鼻をクンクンさせて敵を探すクーナを見ながら、俺はひそかにニヤけるのであった。
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