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第011話 新たな従者を目指して②

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 PTエリアにやってきた。
 キャンプセットを詰め込んだリュックを背負って。

 ダンジョンの名は<深淵なる蒼き宝石獣の楽園>。
 無駄に長くて、無駄に強そうで、無駄にカッコイイ。
 しかし、とどのつまりはお花畑である。それに、<深淵なる>と付いているが場所は地上だ。もっといえば、敵はDランクのカーバンクルのみ。完全に名前負けのダンジョンである。

「キュルー♪」「キュルルーン♪」
「キュッルーン♪」キュールルーン♪」

 辺り一面に広がる広大なお花畑。
 そこに、額に青色の宝石を付けた猫がウジャウジャ。
 こいつがDランクモンスターのカーバンクルだ。

「可愛いなのー♪」

 クーナがカーバンクルを見てはしゃぐ。
 普段なら「敵だぞ、気を抜くな」と言う場面だ。
 しかし、今回は俺も「だなぁ」とまったりしている。

 カーバンクルはこちらが手を出さない限り攻撃してこない。
 その代わり、攻撃すると寄って集って襲ってくる。
 一度の戦闘で、約30体近い数を捌くことになるから要注意だ。

「準備を始めるから、それまではカーバンクルと戯れときな」
「はーい!」
「でも、後で皆殺しにする相手だから、変に情を抱くなよ」

 クーナが「むぅー」と唇を尖らせる。
 カーバンクルはとても可愛らしいモンスターだ。しかもこちらが仕掛けなければ襲ってこないときた。だから、こいつとの戦闘に抵抗を持つ者も少なくない。他人様はどうでもいいが、クーナにそうなられると困る。彼女がへたれるとおしまいだから。

「えーっと、まずは……」

 クーナがカーバンクルとじゃれあっている間に、俺は準備に取りかかる。
 リュックを地面に置き、冒険者ギルドよりレンタルしてきたキャンプセットを取り出した。それを不慣れな手つきでチビチビと組み立て、敵地のど真ん中にテントを張る。

「わぁー! すごいなの! 中に入ってもいいなの?」

 クーナがテントを見て大興奮。
 困ったことに、彼女はカーバンクルを抱っこしていた。
 本当にぶっ殺せるのだろうか……。不安になってくる。

「今は駄目。まだ準備が終わっていないからね」
「じゃあ、後ならいいなの?」
「おうよ。今日はこの中で寝泊まりするんだからな」
「わぁーい! クーナすごく楽しみ!」

 クーナはカーバンクルを「高い高い」しながら喜ぶ。
 ぐぬぬ……ダイヤモンドウルフの狩猟本能に一縷の望みをかけるか。

 さて、俺の作業はまだまだ続く。
 テントを組み立てると、今度はテントの四方に小さな壺を設置した。
 魔除けの壺と呼ばれる物だ。壺に囲まれた空間は、モンスターの侵入を拒絶してくれる。壺で拒絶出来る範囲それほど広くない上に、効果は1日しかもたない。また、高ランクのモンスターには効き目がない。

「あとは壺の蓋を開けてっと」

 説明しながら、俺は壺の蓋を開けていく。
 すると、中からモクモクと半透明の煙が噴き上がった。
 煙が半円状のドームを形成し、テントの周囲を覆う。
 この煙がモンスターを拒絶する聖域だ。

「これでよし。クーナ、後は疲れ果てるまで敵をぶっ殺せ!」

 俺は煙の中に足を踏み入れ、テントの中に入る。
 そこから、外でカーバンクルをギュッとするクーナに言った。
 さて、クーナはどのように対処するか。
 不安の色がかなり強かったのだが――。

「わかったなの!」

 クーナはあっさりと承諾した。
 抱いていたカーバンクルを地面に起き、お尻を指でペチッと叩く。
 その程度ならば、カーバンクルは攻撃と見なさない。

「キュルッ!?」

 しかし、驚きはする。
 びっくりしたカーバンクルは、スタスタとクーナから離れていった。

「さっきのカー君は戦いたくなかったなの」
「なるほどな。他の奴なら大丈夫なのか?」
「だいじょーぶなの!」

 そう言うと、クーナは違うカーバンクルに攻撃を仕掛けた。
 それを合図に、付近のカーバンクルが戦闘モードに切り替わる。

「「「キュルルッ!」」」
「「「キュールッ!」」」

 瞬く間に、クーナを数十体のカーバンクルが包囲する。
 しかし、俺は何も心配していなかった。
 クーナのステータスならば、カーバンクルの攻撃など余裕だからだ。
 その為、俺が注意深く見ていたのは――。

「キュルー♪」
「よしよし、あいつは逃げたな」

 クーナが気に入っていたカーバンクルのカー君だ。
 カー君は包囲網には加わらず、遠くに走って行った。

「カー君、バイバイなのー♪」

 クーナもカー君を見ていたようだ。
 包囲されているのに余裕である。
 当然ながら、敵はそんなクーナを見逃さない。

「キュルッ!」
「キューッ!」

 寄って集ってクーナを攻め立てた。
 タックルしたり、噛みついたり、キックしたり。
 俺はテントの中からクーナのHPを確認する。

===============
【名 前】クーナ
【H P】1092/1,134
===============

 たこ殴りにされても40程度しか減っていなかった。
 しかも、HPは戦闘していない間にチビチビと自動回復する。
 この様子ならば、クーナのHPが半分をきることもないだろう。

「次はクーナの番!」

 王者の貫禄で攻撃を受けきったクーナが反撃に出る。
 ギャン、ギャン、ギャン、ギャン、ギャン。
 カーバンクルの数が見る見るうちに減っていく。
 そして――。

「キュルーン……」

 あっという間に全滅するのであった。

「お見事!」

 俺は拍手を送ると共にSPを確認した。

===============
【名 前】タケル
【S P】86,317
===============

 良い感じに増えている。
 2体目の召喚に必要なSPは25万。
 この調子ならば、特に問題なく貯まりそうだ。

「おとーさん! 撫で撫で!」

 クーナがテントの中に飛び込んできた。
 あぐらをかく俺にタックルして、頬ずりをしてくる。
 ここまでくっつかれると、撫で撫でするのも一苦労だ。

「よしよし、よく頑張った。その調子で残り数百体を倒すんだぞ」
「はいなのー♪ クーナ頑張る!」

 クーナは俺の頬をチロリと舐めた後、戦闘態勢で飛び出す。
 そして、付近のカーバンクルを手当たり次第に蹴散らすのであった。
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