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第010話 新たな従者を目指して①

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 クーナを召喚してから1ヶ月が経過した。
 初めて本屋に通って以降、俺の狩り頻度が急増している。
 その理由は、クーナが俺の読み聞かせを大いに気に入ったからだ。

 いやはや、実に金のかかる趣味である。
 娯楽本は安くても金貨数十枚を要する高価な商品だ。それを日に1冊のペースで購入している。当然ながら金は右から左に消えていく。割と怠け者の冒険者である俺のスタイルではまかない切れない。よって、おのずと狩りに出る頻度が上がったのだ。

 しかも、狩る対象はFやEランクではない。
 DランクやCランクといったそこそこの強敵である。
 そうでなければ報酬がしょぼすぎてやってられないからだ。

 最初の頃は割と金の工面に苦労していた。
 しかし、最近ではクーナのレベルが上がったので快適だ。

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【名 前】クーナ
【年 齢】6
【種 族】獣人:ダイヤモンドウルフ
【ランク】S
【レベル】8
【H P】1,134
【攻撃力】953
【防御力】493
【敏 捷】1,039
===============

 クーナのレベルは8だ。
 倒した敵の数を考慮すればかなり低い。
 もしも彼女がFランクなら、今頃は50レベルはある。
 ――と、ベテランの冒険者が言っていた。

 今のクーナはかなり強い。
 攻撃力もさることながら、敏捷能力の高さが凄まじいのだ。
 俺の目で捕捉できる速度は、とうの昔に凌駕している。

 ここまで育てて分かったが、クーナは攻撃特化の召喚獣だ。
 HPや防御といったステータスの伸びはそれほどよろしくない。
 その一方で、攻撃や敏捷といったステータスはグングン伸びる。
 攻撃こそ最大の防御。まさに狼の王“ダイヤモンドウルフ”だ。

「おとーさん、クーナのお友達はあとどのくらいなの?」

 いつものように狩りを終えて帰る道中。
 クーナが尋ねてきた。

「ちょっと待ってね」

 俺はステータスを確認する。

===============
【名 前】タケル
【種 族】人間
【ランク】D
【S P】73,317
===============

 SPはそこそこ貯まっていた。
 やはりDランクやCランクを狩っていることが大きい。
 Dは1体につき300、Cは1体につき1,000ポイントも入るのだ。

 俺達はDを約100体に、Cを約40体狩っている。
 EやFに関してはカウント不可能な多さを駆逐した。
 それでもクーナのレベルは8である。
 体感だとそろそろ9レベルになるかな、といった感じ。

「うーん、もうしばらくかかりそうかな」
「クーナたくさんたくさん頑張ったよ!?」
「分かってるよ。でも俺が呼ぶのはSランクだからな」

 俺のスキル【超級召喚】で召喚されるのはSランク。
 FやEといった雑魚ではなく、最上級の最強タイプばかり。
 だから、必要SPが狂気染みた高さでも納得できた。
 クーナの強さを考慮すれば、25万でも少ないくらいだ。

「おとーさんと2人きりもいいけど、お友達も欲しいなの!」
「俺も新しい召喚獣が欲しいさ。クーナのサポートになるからな」

 クーナは1人でも狂気染みた強さを誇っている。
 Dまでの敵は瞬殺だし、Cも数体規模なら同時戦闘で問題ない。
 それでも、いや、それだけにリスクも大きいのだ。
 予期せぬ奇襲などでクーナが負傷すると、途端にまずくなる。
 ワンマンのリスクは、俺としても回避しておきたいところ。

「クーナ、ゴブリンアーチャーは分かるか?」
「弓を使うゴブちゃんなの!」
「そうそう、Dランクで3体1組となって動くあいつらだ」

 俺は「じゃあ」と人差し指を立てる。

「サイクロプスは分かる?」
「んー……」

 クーナが頭を抱える。
 俺と繋いでいた手を離し、両手を自分の頭にのせた。
 左右の手で左右の耳をペタリと押さえ、険しい表情で考え込む。
 しばらく考えた後、クーナの表情がニパッと明るくなった。
 それから、キッパリとした口調で断言する。

「わからないなの!」
「分からないんかい!」
「うへへぇ♪」
「ちなみに、サイクロプスは一つ目巨人だ」
「あぁー! 分かったなの! 今日倒した大きいの!」
「そ。あいつがサイクロプスな」

 Cランクモンスター、一つ目巨人のサイクロプス。
 大味な攻撃で、当たると即死しそうな破壊力を誇る。
 巨体の割に動きが速く、圧倒していても気が抜けない。
 ただ、基本的に単体で行動しているのが良い点だ。

「クーナは3体のゴブリンアーチャーと1体のサイクロプスなら、どちらが戦いやすい?」

 クーナは「ゴブちゃん!」と断言した。
 俺もそう思っていたので、「だよな」と頷く。

「じゃあ、明日はSPをガッツリ貯める為に、Dランクの敵がウジャウジャ沸くダンジョンに行ってみるか。単純計算で600匹倒せば、新しい従者を召喚できるぞ」

 PTで臨むことが推奨されているエリアがある。
 その名の通り『PTエリア』と呼ばれるダンジョンだ。
 特徴は、とにもかくにも敵の数が多いこと。
 俺みたいなソロには向いていない。
 しかし、数をこなしたいのであれば最高の狩場だ。

「うん! 行くー! クーナたくさん倒す! たくさんたくさん倒して、たくさんたくさん撫で撫でしてもらって、それで、おとーさんにお友達を呼んでもらうなの!」

 クーナが気合い十分といった様子で意気込んだ。

「オーケー、なら明日も狩りだな」
「うん! がんばろーね、おとーさん!」

 よもや俺がここまで頑張る日が来るとは思いもしなかった。
 いつの間にか冒険者ランクも上がっているし、いずれ本当にSランクまで上がれるのではなかろうか。そうなったら、多くの冒険者から崇拝されて、国王陛下から直接お会いしたいと招待されて、宮殿で美女に囲まれてご馳走を……イカンイカン、娯楽本の読み過ぎで変に妄想してしまったぜ。

 そんなこんなで、俺達は明日も頑張ることを決めるのであった。
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