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012 アジトの特定
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人質を救出し、賊徒を成敗する。
それがベルクード子爵からの正式な依頼内容だ。
子爵邸を出ると、直ちに任務へ取りかかった。
「まずはアジトの特定からだな」
「何か方法があるの?」
「まぁね」
召喚魔法を発動する。
現れたのは深い紫色の中型犬だ。
「その犬は?」
「魔犬ハウンドドッグさ」
「初めて見る! 強いの?」
「ケルベロスの3倍くらい強い」
「そんなの最強じゃん!」
「でもこいつの役目は戦闘じゃない」
「というと?」
左の脇に抱えていた枕を魔犬に嗅がせる。
子爵の娘“アテンザ”の枕だ。子爵から借りてきた。
「こいつの嗅覚は別次元レベルなんだ。A級以上の敵が蔓延る迷宮を攻略する時などにその真価を発揮する。それを利用すれば、アジトの場所も嗅ぎつけることが出来るってわけだ」
「なんですとー!?」
ルイゼが仰け反る。
「っていうか! ロイド、なにさらっとA級以上のダンジョンを攻略してるって話しているの!? 冒険者の中でも数えられる程度しか攻略出来ないレベルなんですけど!?」
俺は「ふっ」と軽く笑う。
「子爵の反応からも既に察しているとは思うけど、元勇者なんだよね、俺」
丁度いい機会なのでカミングアウト。
「うっそーん!?」
「うっそー」
「えええええ!?」
「いや、嘘じゃないよ、マジで」
「かぁー! でも、たしかに勇者なら納得かも!」
「ま、勇者の中じゃ落ちこぼれだったんだけどな」
「ロイドで落ちこぼれって、勇者ってそんなにヤバイの!?」
「そういうことだ」
魔犬ハウンドドッグが嗅ぎ終えた。
「大丈夫そうか?」
「ワンッ」
余裕だ、と言いたげな表情で頷く魔犬。
「なら案内してくれ」
「ワォーン」
魔犬がテクテクと歩き出す。
「何かあったら守ってね、ロイド」
「断る。自分の身は自分で守れよ」
「えー! 私だって女の子なんだけど!?」
「俺と同い年ってことは24だろ? ババア間近じゃん」
真顔のルイゼにボコられてしまった。
「私だって女の子なんだけど?」
「はい、ルイゼさんは立派な女の子です」
「何かあったら守ってね、ロイド!」
「はい、守ります」
「よろしい! ではしゅっぱーつ!」
魔犬に続いて歩き出す。
俺の顔面は蜂に刺された以上に腫れていた。
A級の敵よりも、ルイゼのほうがよほど怖いと学んだ。
(それと……)
静かに魔法を発動しておく。
子爵邸を監視していた怪しげな連中を殺しておいた。
(これでこちらの情報が知られることはない)
安心しながら目的地に向かった。
◇
ゴンゾールの隠れ家は、町を出てしばらくの森にあった。
屋根が倒壊して骨組みだけが残るボロボロの廃墟だ。
その中を根城にしていて、周辺にはペットのゴブリンが野営している。
「ペットの数が多いな」
「ここからでも見えるの? 私には何も見えないけど」
「魔法を使っているからな」
「ずるいぞー、ロイド!」
「戦闘にずるもクソもないさ」
目の前には木々が生い茂っている。
根城の廃墟はおろか、焚き火の明かりすら目視出来ない。
「ルイゼも覚えたらいいじゃん。便利だよ、〈ホークアイ〉」
〈ホークアイ〉は周囲を俯瞰する魔法だ。
洞窟内だと使えないのが難点だが、使い勝手は素晴らしい。
「敵の数が思ったより多いな」
「ゴンゾールは畜生だったけど、強いからカリスマ性もあったのよね。そこに惹かれる人も多かった。だから、彼が冒険者資格を剥奪されて町を出る時に、そこそこの人数が付き従ったものよ」
ルイゼの言葉を裏付けるような数だ。
ゴンゾールを含めて人間の数が12人に、ゴブリンは8体。
合わせると20名に及ぶ。
「人質のアテンザは……居た」
「イタズラとかされていない?」
「大丈夫、丁重に扱われているようだ」
アテンザと思しき少女はベッドに横たわっていた。
後ろ手に縛られ、口には布が詰め込まれている。
「アテンザって赤髪だよな?」
念のために確認する。
「そうそう、綺麗な赤色の髪」
「なら間違いないな」
状況の把握は終了だ。
「ご苦労だったな」
「ワゥーン」
ハウンドドッグの召喚を解除する。
召喚魔法の難点は、魔力の消費量だ。
召喚中は、持続的に魔力を消費してしまう。
だから、必要な時以外は解除しておくのがセオリーだ。
「ここからどうするの? ロイド」
「俺が敵を壊滅させる」
「ほうほう、私の出番は?」
「討ち漏らした奴がいたら狩ってくれ」
「りょーかい!」
作戦は純粋なる奇襲だ。
相手に人質がいようと知ったことではない。
それほどの実力差を感じ取れた。
「いくぜ」
飛行魔法〈フライ〉で空を飛ぶ。
「えー! ロイド、空も飛べるの!?」
「驚いている場合じゃないぞ」
「そ、そうだね! 分かってるよ!」
「では、またあとで」
「うん!」
上空から廃墟に近づく。
「人間相手に使う魔法ではないが……」
今回の戦いは数が多い上に精度が問われる。
少しばかし攻撃力が過剰になってしまうが仕方ない。
「滅せ」
賊徒共に右手を向け、魔法を発動した。
それがベルクード子爵からの正式な依頼内容だ。
子爵邸を出ると、直ちに任務へ取りかかった。
「まずはアジトの特定からだな」
「何か方法があるの?」
「まぁね」
召喚魔法を発動する。
現れたのは深い紫色の中型犬だ。
「その犬は?」
「魔犬ハウンドドッグさ」
「初めて見る! 強いの?」
「ケルベロスの3倍くらい強い」
「そんなの最強じゃん!」
「でもこいつの役目は戦闘じゃない」
「というと?」
左の脇に抱えていた枕を魔犬に嗅がせる。
子爵の娘“アテンザ”の枕だ。子爵から借りてきた。
「こいつの嗅覚は別次元レベルなんだ。A級以上の敵が蔓延る迷宮を攻略する時などにその真価を発揮する。それを利用すれば、アジトの場所も嗅ぎつけることが出来るってわけだ」
「なんですとー!?」
ルイゼが仰け反る。
「っていうか! ロイド、なにさらっとA級以上のダンジョンを攻略してるって話しているの!? 冒険者の中でも数えられる程度しか攻略出来ないレベルなんですけど!?」
俺は「ふっ」と軽く笑う。
「子爵の反応からも既に察しているとは思うけど、元勇者なんだよね、俺」
丁度いい機会なのでカミングアウト。
「うっそーん!?」
「うっそー」
「えええええ!?」
「いや、嘘じゃないよ、マジで」
「かぁー! でも、たしかに勇者なら納得かも!」
「ま、勇者の中じゃ落ちこぼれだったんだけどな」
「ロイドで落ちこぼれって、勇者ってそんなにヤバイの!?」
「そういうことだ」
魔犬ハウンドドッグが嗅ぎ終えた。
「大丈夫そうか?」
「ワンッ」
余裕だ、と言いたげな表情で頷く魔犬。
「なら案内してくれ」
「ワォーン」
魔犬がテクテクと歩き出す。
「何かあったら守ってね、ロイド」
「断る。自分の身は自分で守れよ」
「えー! 私だって女の子なんだけど!?」
「俺と同い年ってことは24だろ? ババア間近じゃん」
真顔のルイゼにボコられてしまった。
「私だって女の子なんだけど?」
「はい、ルイゼさんは立派な女の子です」
「何かあったら守ってね、ロイド!」
「はい、守ります」
「よろしい! ではしゅっぱーつ!」
魔犬に続いて歩き出す。
俺の顔面は蜂に刺された以上に腫れていた。
A級の敵よりも、ルイゼのほうがよほど怖いと学んだ。
(それと……)
静かに魔法を発動しておく。
子爵邸を監視していた怪しげな連中を殺しておいた。
(これでこちらの情報が知られることはない)
安心しながら目的地に向かった。
◇
ゴンゾールの隠れ家は、町を出てしばらくの森にあった。
屋根が倒壊して骨組みだけが残るボロボロの廃墟だ。
その中を根城にしていて、周辺にはペットのゴブリンが野営している。
「ペットの数が多いな」
「ここからでも見えるの? 私には何も見えないけど」
「魔法を使っているからな」
「ずるいぞー、ロイド!」
「戦闘にずるもクソもないさ」
目の前には木々が生い茂っている。
根城の廃墟はおろか、焚き火の明かりすら目視出来ない。
「ルイゼも覚えたらいいじゃん。便利だよ、〈ホークアイ〉」
〈ホークアイ〉は周囲を俯瞰する魔法だ。
洞窟内だと使えないのが難点だが、使い勝手は素晴らしい。
「敵の数が思ったより多いな」
「ゴンゾールは畜生だったけど、強いからカリスマ性もあったのよね。そこに惹かれる人も多かった。だから、彼が冒険者資格を剥奪されて町を出る時に、そこそこの人数が付き従ったものよ」
ルイゼの言葉を裏付けるような数だ。
ゴンゾールを含めて人間の数が12人に、ゴブリンは8体。
合わせると20名に及ぶ。
「人質のアテンザは……居た」
「イタズラとかされていない?」
「大丈夫、丁重に扱われているようだ」
アテンザと思しき少女はベッドに横たわっていた。
後ろ手に縛られ、口には布が詰め込まれている。
「アテンザって赤髪だよな?」
念のために確認する。
「そうそう、綺麗な赤色の髪」
「なら間違いないな」
状況の把握は終了だ。
「ご苦労だったな」
「ワゥーン」
ハウンドドッグの召喚を解除する。
召喚魔法の難点は、魔力の消費量だ。
召喚中は、持続的に魔力を消費してしまう。
だから、必要な時以外は解除しておくのがセオリーだ。
「ここからどうするの? ロイド」
「俺が敵を壊滅させる」
「ほうほう、私の出番は?」
「討ち漏らした奴がいたら狩ってくれ」
「りょーかい!」
作戦は純粋なる奇襲だ。
相手に人質がいようと知ったことではない。
それほどの実力差を感じ取れた。
「いくぜ」
飛行魔法〈フライ〉で空を飛ぶ。
「えー! ロイド、空も飛べるの!?」
「驚いている場合じゃないぞ」
「そ、そうだね! 分かってるよ!」
「では、またあとで」
「うん!」
上空から廃墟に近づく。
「人間相手に使う魔法ではないが……」
今回の戦いは数が多い上に精度が問われる。
少しばかし攻撃力が過剰になってしまうが仕方ない。
「滅せ」
賊徒共に右手を向け、魔法を発動した。
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