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第011話 SSS級の銭闘力

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 酒場で食事を終えた俺達は宿屋にやってきた。
 宿屋に向かう道中の俺と来たら「今日は任せろ」と意気込んだものだ。ルナは「ありがとうございます! お言葉に甘えさせて頂きますね!」と空気を読み、ハクは「Zzz……」と寝息を立てている。

 ――そして、俺は宿屋で絶望した。

 受付カウンターの前で膝から崩落する俺。
 慌てて飛び起き、翼をパタパタさせて避難するハク。
 そんなハクを両手でキャッチするルナ。

「そ、そそ、そこをどうにかなりませんか?」
「ならないよ。どこでもそう。無理なものは無理。駄目だよ」

 とりつく島もなく拒否される。
 俺達は宿屋を利用できないときたのだ。
 その理由は――。

「ペット連れは宿屋を利用できないって、それ常識だよ?」

 ――ということだ。
 たしかに言われてみると思い当たる節がある。
 宿屋の中では1度もテイマーを見かけたことがないのだ。

「じゃあ、テイマーってどうやって寝泊まりしているの?」

 俺が尋ねると、宿屋の店主は「知らんがな」と答える。
 しかし、その後に優しく補足説明をしてくれるのであった。

「宿屋を利用出来ないなら家を買うしかないだろう。もしも活動拠点を変えることになったら、その時は家を売ればいいだけだしな。それか、ペットを売るなり、家を持っている奴に預けるなりしてから、宿屋に泊まるとかな」

 なかなかのツンデレ店主である。
 これが可愛い女の子なら、俺は喜んだだろう。
 しかし、この店主は初老のハゲオヤジである。残念だ。

「それにしても宿屋が利用できないとは困ったな」
「ですね……」「キュゥン」

 俺達は宿屋を出て、路頭を彷徨っていた。
 宿代を軽やかに奢るはずが、またしても失敗である。

「どうしたものかなぁ」

 既に夕暮れが過ぎようとしている。
 出来る限り速やかに決めておきたいところだ。
 さもなければ酒場のテーブルで突っ伏して寝ることになる。
 または冒険者ギルドのテーブルで。

「ユウタさん、1つ提案があるのですがよろしいでしょうか」

 ルナが言った。
 俺は「もちろん!」と快諾。
 ハクは俺の肩で眠りはじめていた。

「家を買う……というのはいかがでしょうか?」

 ルナは言いにくそうに提案してきた。
 どうしてなのか、その理由は分かっている。

 家を買う場合、彼女がお金を出すからだ。
 今の俺に家の購入資金を支払うだけの金がない。
 当然ながらハクもお金を持っていないから、出すのはルナだ。
 名目が宿代から家代に変わっただけで、本質的には変わりない。
 俺がルナに奢って貰うということに、何の変わりもないのだ。
 しかし、この期に及んでそのことを拘る余裕はない。
 代案がない以上、プライドを捨てて採用するのみだ。

「まぁ、それしか道はないよな」

 俺は頭をポリポリ掻きながら承諾。
 それからルナに「奢ってもらってばかりで悪いな」と謝る。
 ルナは笑顔で「気にしないでください!」と答えた。

「私達は仲間なんですよ、ユウタさん。宿代や食費、それに家代は必要経費です。浪費するわけではありませんし、仲間なら協力しあうものですよ。だからユウタさんは何も悪くないですし、変に恩を感じたりもしないでください」

 ルナが「いいですね?」と鋭い目つきで俺を見てくる。
 俺は「お、おう」と声を詰まらせてしまうのであった。

 ルナは本当によく出来た女だ。
 顔、強さ、性格、どれをとっても申し分ない。
 それに不慮の事故で見てしまった裸体も美しかった。

 優秀な仲間を得られて、俺は本当に幸運である。

 ◇

 そんなこんなで不動産屋に来た。
 家を買うには不動産屋と相場が決まっている。
 ところが、ここで予想外の事態が起きた。

「すみません、ただいまお売り出来る物件が1つしかなくて……」

 業者の男が申し訳なさそうに言う。
 通常ならば無数にある物件から最適な物を選ぶ。
 1軒しかないのであれば、もはや買うのはその家しかない。

「なんでその1軒は残っているんですか? 売れないのにはなにか怪しげな理由があるのでは?」

 勘ぐる俺。
 業者は「違います!」と慌てて否定した。

「その1軒は先日完成したばかりなんです。新築ですし、何かしらの問題があるわけではありません。建築に関わった職人は有名所の実力派ですし、建材も一級品を使っております。この町にある家なので決して広くはありませんが、家具も一式揃えておりますからきっと気に入られますよ」

 業者がドヤ顔で胸を張る。
 ルナは「家具が揃っているのはいいですね」と声を弾ませた。
 それから、「ではそのお家を買わせていただきます」と即答する。

「ありがとうございます。金貨2,850枚となります」

 ぶっ飛んだ価格だ。
 家を買うのだから当然といえば当然か。
 数千枚の金貨など、俺には到底出せない。
 しかしルナは――。

「わかりました」

 即決して、カード決済を済ませる。

「ル、ルナって、カード残高いくらあるんだ?」

 気になったので尋ねてみた。
 ルナは「えっと……」とカードを確認する。
 カードには残高が表示されているからだ。

「87,039,721枚のようです」
「は、はっせんななひゃくまん!?」

 俺は腰を抜かした。
 分かっているのに、つい「金貨で?」と確認する。
 当然ながら、ルナの返答は「はい」であった。

 金貨8700万枚。
 人生を100周しても余りそうな額だ。
 ちなみに、俺の所持金は金貨3枚である。

「流石は<魔王城>で狩りをするだけのことはあるな……」

 戦闘力に加え、銭闘力せんとうりょくの差も絶望的だった。
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