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第010話 白竜の食事

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 ハクを育てる為、俺達は拠点を変更することにした。
 これまで拠点の周囲には凶悪な敵しかいないからだ。ルナがどれだけ強かろうと所詮は1人であり、仲間を守りながら戦うというのは難しい。だから、最下級のFランクやEランクの敵が蠢く雑魚エリアに向かった。

 馬車で3時間移動した後、船で1時間移動する。
 そうして到着したのが港町<ファラリス>だ。
 かなり大きな所である。周辺の敵が弱いからだ。
 平和だから老若男女問わずに人が住み着いている。

「日も暮れているし、サクッとメシを済ませて宿屋に泊まろう」

 ルナが元気よく「わかりました!」と返事する。
 一方、ハクは「クゥゥ……」と寝息を立てていた。
 我が右肩の上で丸まって眠っている。器用な奴だ。

 通りを歩き、近くの酒場に入った。
 案内に従って進み、丸いテーブルの席に座る。
 給仕担当の女が注文を伺いに来た時、ふと気づく。

「そういえばハクって何を食べるんだ?」

 名前を呼ばれたからか、ハクが「キュ?」と起きた。
 寝ぼけまなこで周囲を眺めた後、必死に翼をパタパタさせる。
 ふわっと浮くも緩やかに高度が下がっていき、テーブルにちょこん。
 本人は空を飛びたかったようで、悔しそうに鳴いていた。

「おそらくですが、生肉で良いのではないでしょうか?」

 ルナが言う。
 俺は「ほう?」と詳細を促した。

「スノードラゴンは分かりませんが、ドラゴン系のモンスターは基本的に生肉を主食としています。牛などの動物からモンスターの肉まで、肉であれば割となんでも良いように思われます。ですので――」
「ハクも生肉を食べるのではないか、ということか」

 ルナが「はい」と頷いた。
 彼女はあらゆるダンジョンに精通している。
 それはつまり、あらゆるモンスターを知っているということ。
 そんな彼女が言うのだから、情報の確度はかなり高いはず。
 仮に違っていたとしても、それほど的外れでもないだろうし。

「ではペットには生肉を。俺はハンバーグ定食で……ルナは何にする?」
「私はビーフストロガノフでお願いします」

 給仕が「かしこまりました」と了承して厨房に向かう。
 その姿を見送った後、俺はルナに言った。

「悪いが今日のメシ代も世話になっていいかい?」

 俺には金貨3枚しか金がない。
 金策の為に向かったダンジョンでハクを拾ったからだ。

「もちろんです! 宿代も任せてください!」
「いやいや、宿代は俺が出すよ。その為にここを頼むんだ」

 この町の宿代は知っている。
 <魔王城>に向かう際、この町で一泊したからだ。
 店や時季によって価格が微妙に変動するが、問題はない。
 金貨が3枚あれば、絶対に2部屋を借りることができる。
 これで昨日のクソダサ所持金不足による汚名をそそげるぞ。

「ふふ、わかりました。では宿代はお願いしますね?」

 ルナが微笑んでくる。
 俺の真意を察してくれたのだろう。
 本当に素晴らしい女だ。

「おまちどー!」

 俺達の頼んでいた物がやってきた。
 まずは俺とルナの料理がテーブルに置かれる。

「ペット用の生肉はどちらに置きましょうか?」

 給仕の女が尋ねてきた。
 俺は即答を控えて周辺を眺める。
 ちらほらとペット連れの客が見受けられた。
 大半が地面に置いているが、中にはテーブルに置いている者も。

「じゃあ、テーブルの上で!」

 給仕が「かしこまりました!」と元気よく答える。

「さすがはユウタさん。お優しいです」
「どうせなら近い目線で食べたいからな」

 ハクが俺とルナの顔を交互に見る。
 それから顔を天井に向け、嬉しそうに「キュー♪」と鳴いた。

「「かわえぇー♪」」

 俺とルナ、2人揃ってハクにメロメロである。
 そんな時、給仕がハクの隣に生肉を置いた。
 生肉を見たハクの反応は――。

「キュイイイン♪」

 翼をパタパタさせて大喜びだった。
 それから、目をキラキラと輝かせて俺を見てくる。
 ハクが俺に何を訴えているのか、容易に理解できた。

「食べていいよ」
「キュイイイイイイイン♪ キュイイイイイ♪」

 ハクは大喜びで生肉に顔を突っ込む。
 山盛りの生肉を美味しそうにムシャムシャ。

「さすがはルナだ。ハクの好物を当てるなんてな」
「ありがとうございます。お役に立てて嬉しいです」

 ルナの頬が薄らと赤くなる。
 出会って間もないが少し分かってきた。
 彼女は褒められると照れるのだ。
 その姿が尚更に可愛らしい。

「なんにしても、無事に食べてくれてよかったですね!」
「だなー! 本当、美味そうに食ってらぁ」

 凄まじい勢いでがっつくハクを見て、俺達は頬を緩めるのであった。
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