アイテム使いの最強山賊

たまゆら

文字の大きさ
上 下
1 / 14

001 思わぬ貢ぎ物

しおりを挟む
 険しい二〇の山々からなる通称『デビル山脈』。
 俺がこの山脈を根城にしてから、早五年が経過した。

 当初こそカモがわんさかと通っていたけど、今ではからっきしだ。
 きっと、付近の街で「デビル山脈は危険だ」と噂されているのだろう。
 おかげで、カモが通るのは数か月に一度あるかないかだ。

「そろそろ違う山脈に拠点を移そうか」

 山の中腹にある洞穴から空を眺め、ぼんやりと考える。
 山賊稼業は、有名になると儲からなくなるのが難点だ。
 だから、稼ぐには、定期的に引越しをする必要がある。

「――!」

 そんなことを思っていた時だ。
 久しぶりに、カモの気配がした。

「よりによって七番を通るとか、舐めてやがるな」

 七番というのは、山の番号だ。
 二〇ある山に対して、俺は番号をつけている。
 七番は、俺が今居る山のことだ。
 東にある首都へ行くのに、最も近いルートである。
 その分、このルートが最も危険なのは、誰の目にも明らかだ。
 それなのにここを通るのは、突破できる自信があるからだろう。

「試してやるぜ、その自信」

 久々のカモに胸を躍らせ、気配を潜める。
 カモとの距離は、二〇〇メートル弱。
 まだ、俺の間合いではない。

「そろそろだな」

 俺は、地面に置いてある黒いリュックに、右手を突っ込んだ。
 このリュックは、S級アイテムの『マジックバッグ』。
 一見するとただのリュックだが、実は、無限の収容量を誇る凄い物だ。
 リュックの中が別の次元に通じており、いくらでも荷物をぶち込める。

「装置はどこだ」

 ゴソゴソとリュックを漁る。
 そして、白色の壺を取り出した。
 これも、S級アイテムの一つだ。

 その名は『魔力妨害装置』。
 発動させると、周囲一〇〇メートル以内で魔法を使えなくする。
 壺の蓋を開けることで、発動する仕組みだ。

「落ち着け、まだだ、まだだぞ……」

 久々のカモに、興奮が冷めやらない。
 はやる気持ちを必死に抑え、カモが近づくのを待つ。
 残り一五〇……一〇〇……七五……。
 そして、ついに残り五〇メートルまで縮まる。

「時は来た!」

 確実な距離に捉えたことを確認すると、装置を発動した。
 視界を妨げない程度の薄い煙が、もくもくと立ち込める。
 それと同時に、一切の魔法が使えなくなった。

「もう気づいたか」

 装置の発動から数秒後、カモに変化があった。
 敵意をむき出しにして、その場に留まったのだ。
 一瞬にして、こちらの動きを察知しやがった。
 この山に挑むだけあり、なかなかの猛者達だ。

 カモの人数は三人。
 気配からすると、一人は非戦闘員だ。
 一人だけ馬に乗っているし、商人だろう。
 こいつはザコなので、問題ない。
 残りの二人が猛者だ。
 おそらく、商人に雇われた用心棒だろう。
 そうはいっても、俺の相手ではない。

「さて、どうするか」

 アイテムでいじめるか、直接殴り込むか。
 数秒悩んだ末に、後者を選択することにした。
 久々だから、カモの顔を拝みたくなったのだ。

「いくぜ!」

 俺は地面を蹴りつけ、一気に駆け出した。
 中腹の洞穴から飛び出て、山道を下っていく。
 思った通りの場所に、三人のカモが居た。

 馬車に乗った男と、戦士二人の組み合わせ。
 戦士はどちらも、甲冑を身に纏い、剣を持っている。
 彼らは馬に乗っていないし、逃げる恐れはなさそうだ。

「となれば、まずは唯一の足を潰すか」
「ヒィィィィ!」

 商人が悲鳴を上げる。
 すぐさま、二人の戦士がカバーに入った。
 剣を構え、商人の前を塞ごうとする。
 だが、その動きはあまりにも遅かった。

「まずは馬だ! オラァ!」
「なっ! 速ッ――」

 俺は二人の戦士をするりとかわし、商人の馬を潰した。
 顔面に一発、右ストレートをぶち込んだのだ。
 この攻撃で馬は即死し、その場に崩れる。
 乗っていた商人は、派手に転んだ。

「この野郎ぉ!」
「死ねぃ!」

 戦士達が剣を振るう。
 うんざりするくらいに遅い攻撃だ。
 そこらのモンスターは倒せても、俺には効かない。
 攻撃速度を高める為に、纏っている甲冑を捨てるべきだ。

「ここを通るには、力不足だったな」

 俺は攻撃を回避した後、地面に転がっている石を拾った。
 すぐさまそれを投げつけ、戦士の剣に命中させる。
 凄まじい石の威力に、剣はあっけなく折れた。
 続けざまにもう一投して、二人目の剣も折る。

「クソ、ここまでか……」
「実力が違い過ぎる……」

 戦士達がその場に膝をつく。
 俺との間にある力の差を悟ったようだ。
 それを見て、商人も「アワワワ」と恐怖する。
 ズボンの股間はビショビショに濡れ、小便が漏れていた。

「荷を置いて去るなら、殺しはしない」

 項垂れるカモ共に声をかける。
 こいつらを殺したところで、俺に何の得もない。
 それどころか、ただ手が汚れて臭くなるだけだ。
 だから、俺としては、こいつらに退いてほしかった。

「こ、ここ、この荷物を易々と渡しては……」

 商人がたじろぐ。
 この反応は、想定外だった。
 普通なら、悲鳴をあげて一目散に逃げている。
 どれだけ荷物が高価でも、命の心配をするものだ。
 それがこいつは、荷物のことを心配しているときた。

「それほど大事な物が入っているのか?」

 馬車の荷台に目を移す。
 一メートル四方の荷箱が、十二個積まれている。
 横に二個、縦に三個の二段重ねだ。

「わ、ワシも依頼されただけなので、中は分からぬ……」

 商人が首を横に振った。

「依頼主の名は?」
「オシアナスの領主バッテロ様だ」

 オシアナスといえば、ここの北西にある都市だ。
 この辺りでは、首都に次いで大きな街である。
 そこの領主となれば、相手にすると面倒そうだ。
 だからといって、俺の判断は変わらない。

「相手が誰であれ、荷は頂く。それに、お前達ではもはや、これを運搬することなど不可能だろう。馬が死んでいるからな。分かったら、さっさと消え失せろ」

 俺はシッシッと手で払った。
 それに応じて、カモ共が走り去っていく。

「さて、戦利品を運ぶか」

 そうは言いつつ、俺は中腹まで戻った。
 戦利品を運ぶのは、俺の仕事ではない。

「働いてもらうぜ」

 マジックバッグを漁り、道具を取り出す。
 取り出したのは、二つの笛だ。
 どちらも、見た目はホラ貝に近い。
 色は片方が金色で、もう一方が灰色だ。

 二つの内、まずは灰色の笛を吹いた。
 重低音が「ぶおおおーん♪」と響く。
 その後、五〇体のモンスターが現れた。

 灰色の肌をした、人型のモンスターだ。
 背丈が一メートルしかない、小柄な奴ら。
 その名は『ゴブリン』。
 この世界において、最も弱いモンスターだ。
 遠目には、人の子供に見えなくもない。

「下に転がっている荷を運んで来い」
「「「キェェェェェ!」」」

 俺が命令すると、ゴブリン達は荷箱に向かって駆け出した。
 この笛は、B級アイテム『ゴブリンの笛』だ。
 吹くと、五〇体のゴブリンを召喚する。
 最大で一〇〇〇体まで、追加召喚が可能だ。
 召喚したゴブリンは、召喚者の言いなりとなって動く。

 数は多いが、所詮はゴブリンだ。
 弱すぎて、戦闘面では役に立たない。
 雑魚が群れたところで雑魚だってこと。
 だから、今回みたいな荷物運搬が主な仕事だ。

「さて、今度はこっちだ」

 ゴブリン達が働いている間に、金色の笛を吹く。
 こちらは、S級アイテム『キングゴブリンの笛』だ。
 先程よりも高い「ピロロローン♪」という音が響く。
 そして、金の王冠をかぶった白色のゴブリンが現れる。
 背丈は、通常のゴブリンと大差ない。

「お久しぶりゴブ、リュート!」
「ゴブちゃん、元気にしていたか?」
「ゴブはいつでも元気ゴブ!」

 このゴブリンは『キングゴブリン』。
 親しみを込めて、「ゴブちゃん」と呼んでいる。

 ゴブちゃんの数は一体だ。
 しかし、通常のゴブリンよりも遥かに強い。
 もっといえば、さっき倒したカモ戦士五〇〇人分の強さだ。
 ついでにいうと、人の言葉を話すことが出来る。

「久しぶりの戦闘ゴブか?」

 ゴブちゃんがファイティングポーズをとった。
 鼻息を荒くして、嬉しそうにピョンピョン跳ねている。

「いや、戦闘はもう終わった」
「な、なんですとゴブ!」

 ゴブちゃんの様子が一変する。
 今度は、地面に両手と膝をついた。
 その姿から察せられる通り、彼は戦闘狂だ。

「じゃあ、今回はどうして召喚したゴブ?」
「面白いカモを襲ったからだ。近く報復があるかもしれん」
「詳しく教えてほしいゴブ!」

 俺は、先程あったことを説明した。
 オシアナスの領主から、荷物を奪い取った話だ。

「それは面白そうだゴブ!」

 ゴブちゃんは、ガッツポーズで立ち上がった。
 相変わらず、喜怒哀楽の激しい愉快な奴だ。

「そんなわけで、有事の際は共闘してくれよな」
「任せろゴブ!」

 俺とゴブちゃんが、ガッチリと握手する。
 そんな時、ゴブリン達が荷箱を運び終えた。

「「「キェェェェェ!」」」
「おうおう、お疲れ様」

 十二個の荷箱が、一列にずらりと並べられている。
 ゴブリン達に労いの言葉を掛けた後、端の箱から順に開けていく。
 まずは二箱。

「絵画か……くだらんな」

 最初の二箱には、絵画が入っていた。
 どこぞの画家に描かせた名画なのだろう。
 だが、俺にはまるで興味のないものだ。

「こんなもの、せいや!」

 俺は、絵画の一つを外に放り投げた。
 絵画は横に回転しながら、明後日の方向に飛んでいく。
 それを見て、ゴブちゃんが腹を抱えて笑った。

「ゴブもしたいゴブ!」
「いいよ、好きにしろ」
「ありがとゴブ!」

 ゴブちゃんは大喜びで、残りの絵画を投げる。
 あっという間に、荷箱の中が空になった。
 これで、残る荷箱は十箱だ。

「一つ一つ開けるのは面倒だし、一緒に開けていくか」
「分かったゴブ!」

 俺とゴブちゃんは、別々の荷箱に手をかけた。
 そして、「せーの」の合図で、同時に開く。
 次に入っていたのは、大量のリンゴだ。
 定番の一品だが、面白味に欠ける。

「これはお前らで食っていいぞ」
「「「キェェェェェ!」」」

 大量のリンゴは、ゴブリンズにプレゼントした。
 ゴブリンズとは、笛で召喚したゴブリン達のことだ。
 もちろん、これも俺が勝手につけた名称である。

「さて次は――」
「開けるゴブ!」

 続いて、五箱目と六箱目を同時に開く。
 またしても、中には大量のリンゴが入っていた。

「つまんねー」
「リンゴばっかりゴブ!」

 ゴブちゃんと二人して、ため息をつく。
 俺が求めているのは、珍しいアイテムだ。
 リンゴなんて欲しくない。
 もっと面白い代物はないものか。
 そう思いながら、次々と開けていく。

「怒涛のリンゴ攻めとか冗談だろ」

 思わず苦笑いを浮かべる。
 なんてこった、十箱目までリンゴが続いたのだ。
 残るは二箱しかない。
 こうなると、もはや期待は出来なかった。

 どうせリンゴでしょ?
 口には出さないが、そんな思いを抱いていた。
 それは、ゴブちゃんも同じだろう。
 最初に比べて、楽しそうな表情をしていない。

「最後の確認をするか」
「分かったゴブ」
「いくぜ、せーのっ」
「ゴブーッ!」

 二人で同時に箱を開く。
 そして、二人して驚き、飛び跳ねた。

「おいおい、なんでこんなものが入っているんだ?」
「わ、分からないゴブ……!」

 俺達は、恐る恐ると中を再確認する。
 そして、見間違いじゃないと確信した。

 ラストの二箱には、生きた人間が入っていたのだ。
しおりを挟む

処理中です...