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015 採掘クエスト②

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 アーシャの使ったスキルは〈ライト〉だった。

 典型的な照明スキルの一つだ。

 指先より召喚された光の玉が、温かみのある光を放つ。

 そうして、周辺を優しく照らしてくれた。

 その光をメタリックの岩肌が反射する。

 まるで外に居るかのような、十二分の明るさが手に入った。

 それでも眩しくない。

 明るいが眩しくは感じない、というのが〈ライト〉の特徴だ。

「これでだいじょーぶなの!」

 満足気に微笑むアーシャ。

 床に置いたピッケルを拾うと、鉱山の中に足を踏み入れた。

「クサイクサイなの……」

 アーシャの表情が険しくなる。

 洞窟内に満ちた硫黄のような臭いが辛いようだ。

 それでも、アーシャは奥へ進んでいく。

 すると――。

「シュパァ!」

「わわわっ、蜘蛛さん!」

 ――モンスターが現れた。

 全身に紫の斑模様が入った黒色の蜘蛛だ。

 名はデビルスパイダー。Dランク相当の魔物だ。

「シロ君!」

「ギャオー!(待っていたぜ! この時をよぉ!)」

 ようやく俺の出番だ。

 ここで活躍するために、俺は存在している。

 直ちにアーシャの頭から離陸した。

 そのまま彼女の前で陣取り、前方に漆黒の炎を放つ。

「シュパ……!」

 デビルスパイダー、あっけなく焼死。

 その後も、炎は洞窟の奥に向かって進んでいく。

 普通の炎と違い、俺の吐く炎はなかなか消えない。

「シュパァ!」

「パァ!」

「パ……」

 洞窟の奥からも複数の悲鳴が聞こえてくる。

 待ち構えていたデビルスパイダーが焼けているようだ。

「シロ君、ありがとぉ♪」

 一仕事終えた俺を、アーシャがギュッと抱きしめた。

 更に、すりすり、すりすりと、頬ずりをたくさんしてくれる。

 嗚呼……なんという極上の喜び……。

 アーシャにこうして褒められると、本当に嬉しくてたまらない。

「やっぱりアーシャのシロ君が1番!」

「ギャオー♪(オウイエー!)」

 ひとしきり俺を愛でた後、アーシャは移動を再開した。

 バケツとピッケルを手に持ち、テクテクと歩いて行く。

 俺は次の戦いに備えて、アーシャの頭上で身体を休める。

 たまに思うのだが、彼女は肩がこらないのだろうか。

 俺は小さくて軽いが、それでも多少の重さがある。

 大人からすれば微々たる重さでも、幼女にはそれなりだろう。

 そんな俺を、アーシャはいつも頭の上に置いている。

 普通に考えたら、首や肩がこってもおかしくない。

 しかし、アーシャは一度もそのようなことを言っていないのだ。

 かれこれ1ヶ月の付き合いで、その間、毎日欠かさず頭の上で休んでいる。

 いつかアーシャが肩こりを訴えたら、俺が揉んであげよう。

 肉球のぷにぷに感が、ちょうどよいアクセントになって気持ちいいはず。

「とうちゃくっ!」

 いよいよ最奥部に到着した。

 そこは円形の空間になっていて、これまでよりも遙かに天井が高い。

 アーシャの〈ライト〉では、ある程度の高さまでしか照らせなかった。

 左右を確認し、敵影が居ないことを確かめると、

「掘り掘りするの!」

 アーシャは奥まで進んで、採掘を開始した。

 バケツを足下に置き、両手でピッケルを振るう。

 甲高い音と共に、壁の石がポロポロとこぼれ落ちた。

 それが鉄鉱石だ。

 床に落ちた鉄鉱石の石コロを拾い、バケツに入れる。

 マジックバケツが石を感知して、異次元に吸い込んだ。

「うんしょ! うんしょ!」

 その後も、アーシャは作業を続ける。

 石を掘っては、身体を屈めて拾い上げ、バケツに入れる。

 なんとも非効率的な作業だ。

 大量に掘りまくってから、まとめてバケツに入れる方がよほど賢い。

 そこに考えが至らないあたりが幼女というもの。

「うんしょ! うんしょ!」

 ふと気づいたのだが、俺は移動したほうが良さそうだ。

 頭の上で休んでいると、アーシャが全力で身体を揺らせない。

 どうせだし石拾いでもしよう。

「ギューン♪」

 一声掛けてから、アーシャの頭上を離れる。

 足下に着陸して、床の石をバケツに入れていく。

「手伝ってくれるの? ありがとぉ♪」

 これでアーシャの作業効率が格段にアップする。

 遠慮がなくなり、先ほどよりも激しく採掘していく。

 更に、石を俺が拾うので、採掘をチマチマ中断する必要もない。

「うんしょ! うんしょ!」

 必死に掘り掘りするアーシャ。

 既に結構な量を採掘したように感じる。

 普通のバケツなら、既に溢れ出ているくらいだ。

 もういいんじゃなかろうか、そう思ってアーシャの顔を見る。

 その時、視界に映った。

「「「シュパァ!」」」

 大量のデビルスパイダーだ。

 暗くて見えない天井部に潜んでいやがった!
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