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038 新生ゴブリンズ

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 翌日。
 いつも通りに商品をエストラへ運んだ後のこと。
 エストラ自宅の三階に、俺達は居た。
 ソファにはネネイ以外の四人が座っている。
 俺の横がアンズで、対面にはリーネとマリカ。
 ネネイは、俺の膝の上にちょこんと座っていた。

「あれだけの数を揃えるのには苦労したというのに……!」
「いや、明らかに自業自得だろ」
「元気を出してなの、アンズお姉ちゃん!」
「戦いに出る以上、死は覚悟しなければならない」
「お気持ちはお察しできませんが、頑張って下さい、アンズさん」

 二十九体のゴブリンズが、ミノタウロスの一振りで全滅。
 アンズは、そのことを嘆いていた。
 ゴブちゃんが、横から頭を撫で撫でする。
 その瞬間、アンズはガタッと勢いよく立ち上がった。
 急な動きに、ゴブちゃんが驚いて仰け反る。
 同様に、ネネイも肩をビクッとさせた。

「決めた! 新たなゴブリンズを結成する!」
「ゴブリンズ再び、なの!」

 ネネイが拍手する。
 それに続く形で、リーネも拍手した。
 マリカの表情はそれほど明るくない。
 そして、俺も。

「もう一度テイムするのはいいけど、前回の二の舞になるだけだぞ」
「マスターの言う通りだ。ゴブリンズは弱すぎて、戦闘の役に立たない」

 アンズは「ふっふっふ」と笑う。

「ゴブリンズに戦闘はさせない!」
「じゃあ、ゴブリンズは何をするんだ?」
「荷物持ちとか、お店の手伝いとか、街の掃除とか!」
「掃除以外は初代ゴブリンズと同じだな」
「だから掃除を付け足してみた!」

 どうだとばかりに、ドヤ顔を浮かべるアンズ。
 そこに、「掃除は無理だぞ」とマリカが突っ込む。

「掃除はスイーパーが行うから、ゴブリンズの出番はない」
「スイーパー?」
「なんだそれ?」

 俺とアンズが首を傾げる。
 すると、ネネイがニヤケ顔を上げて、俺を見た。
 そして、俺の頬を両手の人差し指でむにむにと突いてくる。
 その様子から察するに、ネネイはスイーパーを知っているようだ。

「スイーパーは清掃を生業としている連中だ。掃除屋とも呼ばれている」
「そのスイーパーとやらも冒険者なのか?」
「うむ。冒険者の中では稀少な『販売や戦闘をせずに稼ぐ』存在だぞ」

 アンズが「色々あるんだねぇ」と感心する。
 俺も同様の感想を抱いていた。

「でも、街で清掃をしている人間など見たことがないぞ」
「たしかに! 箒を掃いている人なんて一人もいないよね!」

 マリカが「何を言っているのだ?」と首を傾げる。
 どうやら、エストラとリアルでは清掃の概念が違うようだ。

「えっと、リアルの清掃はね――」

 アンズが丁寧に説明する。
 マリカはそれを興味深そうに聴いていた。

「リアルではそのような方法で清掃を行うのか。面倒だな」
「じゃあ、エストラのスイーパーはどうやって清掃するんだ?」

 俺の質問に対し、マリカは「固有スキルだぞ」と即答。
 固有スキルだぞと言われても、今一つイメージできない。

「実際に試そう。剃刀セットを一つ貰うぞ」
「おう、好きなだけ使ってくれ」

 マリカは骸骨戦士を召喚し、剃刀セットを取ってこさせた。
 骨をカタカタさせながら、骸骨が剃刀セットをテーブルに置く。
 セットの内、マリカはシェービングクリームを手に取った。

「いくぞ」

 マリカがクリームの蓋を開ける。
 そして、床に向かってクリームをぶちまけだした。

「おい!」

 慌てる俺。
 しかし、マリカは無表情。
 気にする素振りも見せず、床にクリームを撒き続ける。

「たとえばこんな感じに、汚れていたとする」

 床に撒いたクリームを指し、マリカが語り出す。

「スイーパーがそれを探知すると――」

 床を汚す大量のクリームが、スッと姿を消した。
 一瞬にして、元の綺麗な床へと早変わりだ。

「このように、固有スキルで清掃する仕組みだ」

 俺は「おお!」と感嘆し、拍手する。
 一方、アンズは「通販番組みたい!」と笑っていた。
 そう言われると、たしかに通販番組の商品紹介にも見える。

「ちなみにゴミも認識されるぞ」

 マリカは剃刀の箱を開封し、空箱を床に投げ捨てる。
 すると、空箱がどこか彼方へと消えた。
 さらに、骸骨に命じて剃刀を破壊させる。
 粉々になった剃刀を床に捨てると、今度はそれも消えた。

「凄すぎだろ、スイーパー!」
「アンズはともかく、マスターは知っていると思ったぞ」
「え、なんで?」
「以前、マスターは剃刀を開封して売っていただろ」
「おう、売っていたな」

 今でこそ箱のまま売っているが、以前は違った。
 丁寧に一つずつ開封して売っていたのだ。

「二階に積んだ空箱が消えている時点で、普通は気付くだろう」

 思い返すと、たしかに空箱は消えていた。
 なんで気づかなかったのだろう。
 そう思ったが、すぐに理由が判明した。
 開封作業の大半を、骸骨達がしていたからだ。

「いやぁ、てっきりマリカが処分していてくれたのかと」
「私が処分するなら、ファイアストームで家ごと燃やしているぞ」

 それもそうか、と笑う。
 説明を終えたところで、マリカは話を戻した。

「だからゴブリンズが清掃をすることは不可能だ」
「二代目も初代とまるで同じってことだな」
「あれま! 残念だけど仕方ない!」

 アンズが、まるで残念そうな雰囲気を漂わせずに言う。
 その後、「よし、テイムしてくる!」と階段へ走っていった。

「キェェェェ!」

 アンズの後ろを、ノロノロした動きでゴブちゃんが追う。

「遅すぎて見てられんな」

 見かねたマリカが、ゴブちゃんに『ヘイスト』をかける。
 ゴブちゃんは振り返ると「キェェ!」と鳴いた。
 おそらく感謝の意を示しているのだろう。

「私も、夕方まで外します」

 アンズの次はリーネだ。
 静かにソファから腰を上げる。
 俺は目を見開き、リーネを見た。

「珍しいな、どこへ行くんだ?」
「どこだと思いますか?」

 まさかの質問返し。
 分かるかよ、と俺は苦笑い。

「正解はCMの後です」

 口をポカンとする俺。
 ネネイは「あははなの」とウケている。

「リーネお姉ちゃん、上手なの! 上手なの!」
「なんだ、何かの真似なのか?」
「そーなの! テレビの真似なの!」

 テレビでそんなシーンがあったらしい。
 何かのクイズ番組だな、と当たりをつける。

「それで、正解はどこなんだ?」
「いえ、本当はどこにも行きません」
「テレビの真似をしたくて言っただけか」
「そういうことです」

 リーネは何食わぬ顔で、ソファの横へ移動する。
 そこにあるのは、マッサージチェアだ。

「では、私はしばらくここで――」
「逃げるぞ、ネネイ!」
「わわわっ、なのー」

 俺はネネイを抱っこし、大慌てで階段へ走った。
 階段を下りる俺の耳に、喘ぎ声がガシガシ飛んでくる。

「神よ、リーネに喘ぐのを止めさせてくれたまえ」

 心の底から神に祈る。
 その祈りが届くことは、残念ながらなかった。

「仕方ない、夕飯まで外で過ごすか」
「はいなの」

 家を出ると、ネネイを地面に降ろした。
 そして、街の中心地に向かって歩こうとする。
 しかし、一歩目を踏み出そうと足を上げたところで止まった。
 ネネイが服を引っ張ってきたからだ。
 上げた足を元の位置に戻し、振り返る。

「おとーさん、お手々なの!」

 ネネイは笑みを浮かべ、俺に手を差し伸べてきた。
 どうやら手を繋いでほしいらしい。

「どうしよっかなぁ」

 わざと焦らしてみる。
 すると、ネネイの頬がぷくぅと膨らんだ。
 しかし、こちらへ伸ばした手は引っ込めない。

「仕方ないなぁ」

 ネネイの手に向かって、俺も手を伸ばす。
 そーっと、ゆっくり、近づけていく。
 俺の手が近づくにつれ、ネネイの頬がしぼむ。
 さらに、表情からは険しさが薄れ、笑顔が広がっていく。
 変化の模様が面白くて、更に近づけるスピードを落とす。
 そんな密かな楽しみが、ゴールの直前でネネイにバレた。

「むぅーなの!」
「ごめんごめん、ネネイが可愛くて、つい」

 謝りながら、ネネイと手を繋ぐ。
 そして、活気溢れる街の中心地へ向けて歩き出した。

 ◇

 いつものように街を散策する。
 二人仲良く、横に並んで通りを歩く。
 手は繋いでいない。
 ネネイがイカの串焼きを食べているからだ。

「いつ食べても美味しいなの♪」

 一口食べる度に、頬がとろけていた。
 いつ食べても美味しいという言葉に偽りはない。
 いつ見ても美味しそうに食べている。

「いいことを閃いたぞ」

 幸せそうなネネイを見て、ポンッと名案が浮かぶ。
 ネネイは串焼きを頬張りながら、ほんわかした目を俺に向ける。

「イカの専門店に行こう」
「やったぁ! 行くなのー!」

 ラングローザにある酒場の大半にイカを卸していると豪語する店。
 以前、一度だけネネイと行ったことがある。
 その時は、エストラ異世界ならではの漁法について教わった。
 店主は不景気を訴えていたが、店は潰れていないだろうか
 俺のあげた一〇〇〇万が役に立っていればいいが……。

「お、ちゃんと営業しているな」

 しばらく歩き、目的地であるイカの専門店に到着する。
 その頃になると、ネネイは串焼きを食べて終えていた。

「らっしゃい! おっ、ユートさんとネネイちゃんじゃないですかい!」

 店に入った俺達に、店主であるオヤジさんが声をかけてくる。
 ネネイが「こんにちはなの」と頭をペコリ。

「久しぶりだな、儲かっているかい?」
「いやぁ、最近はぼちぼちといったところですわ」
「そうか。ところでなんだが――」

 挨拶はそこそこに、俺は用件を話した。

「イカを釣りたいのだけど、どうすればいいか教えてくれないか?」

 そう、俺はイカを釣ろうと思ったのだ。
 釣ったイカは、酒場で串焼きにしてもらう。
 釣って楽しく、食べて美味しい。
 ネネイを喜ばす為の、一挙両得なプランである。

「イカ釣りですかい! 粋な楽しみですなぁ! それですと――」

 店主が丁寧に説明してくれる。
 俺は礼を言い、一〇〇〇万ゴールドをプレゼントした。
 前回と同様に、名目は『寄付』である。

「ユートさんには頭が上がりませんやい!」
「こちらこそ、おかげでネネイの笑顔を毎日拝めているよ」
「美味しいイカさんをありがとーなの!」

 次に俺達が向かったのは釣具屋だ。
 釣り竿をはじめとした、釣りの道具を売っている。
 ありがたいことに、入門セットが売られていた。
 これを買えば、必要な道具が一式揃う。

「イカ釣り用のセットは……うお、多いな」

 驚いたことに、入門セットは複数あった。
 中に入っている物は、どれも共通している。
 釣り竿、撒き餌、バケツ、小さな枡の四種。
 性能ごとに価格が異なるようだ。
 価格は一〇〇〇から二〇〇万と幅広い。

「俺からすればどれも同じだな」
「同じなのー♪」

 俺は迷うことなく一番高い物を選んだ。
 サクッと四〇〇万を支払い、二人分を購入する。
 ついでに、イカ用の撒き餌が入った木箱も二箱購入。
 こちらは数千ゴールド。安すぎて覚えていない。
 二千だったか、三千だったか、おそらくそのくらいだ。

「行くぞネネイ、イカ釣りの時間だ!」
「イカさんの時間なの! ワクワクなの!」

 意気揚々と、俺達は街を出た。
 向かうのは、街の南にある漁場。
 ……の、やや東に位置する釣りスポットだ。

「到着なのっ」

 目的地にやってきた。
 石の道が海へ伸びていて、リアルの防波堤を彷彿させる。
 幸か不幸か、他に人は居なかった。
 石の道を歩き、奥の方へ腰を下ろす。

「よーし、始めるぞー」
「おーなの♪」

 エストラにおけるイカ釣りは、いたって単純だ。
 まず、イカ用の撒き餌を少しだけ、海に投げ入れる。
 そして、すぐさま釣り糸を垂らす。
 糸の先端には、針が付いている。
 あとは、餌を食べようとしたイカが、針をパックンするのを待つ。
 パックンしたら、ひょいっと釣り上げて、ウキウキハッピーエンドだ。

「まずは撒き餌だな」

 俺は入門セットの撒き餌を取り出した。
 木箱に入っていて、量は別売りで買った撒き餌と同じだ。
 つまり、別売りの品と全く同じものである。
 それを、付属の小さな枡ですくい、海へ撒く。
 自分の分とネネイの分で、計二回撒いた。

「あとは糸を垂らすだけらしい」
「分かったなの」

 二人して、水面に浮かぶ撒き餌に向かって糸を垂らす。
 どの程度垂らせばいいかは分からない。
 だから、適当に浮かせたり、沈めたりする。

「ワクワクなの、ワクワクなの」

 ネネイは、身体を左右に揺らしている。
 ニコニコと、嬉しさを全面に押し出していた。
 早くしないと、このニコニコがプンスカになってしまう。
 俺は、速やかにイカがやってくることを願った。

 しかし、残念ながら願いは届かなかった。
 二〇分が経過しても、イカは現れなかったのだ。
 見えるけど食いつかないならまだしも、そもそも見えない。
 本当にこの場所で合っているのかと不安になる。

「無反応だな」
「むむぅ、なの」

 ネネイの表情が険しくなりだした。
 分からなくもない。
 俺にしても、退屈感を抱き始めていた。
 仕方ない、『アレ』をやるか。
 俺は立ち上がり、釣り竿を地面に寝かせた。

「ネネイ、一度糸を戻すんだ」
「分かったなの、ショボンなの」

 ネネイは、残念そうに海から糸を引き上げる。
 その残念な顔が、これから最高の笑顔に変わるはず。

「奥義! ウルトラ撒き餌攻撃!」

 俺は撒き餌の入った木箱を持ち、海に向けてひっくり返した。
 枡を使わず、一箱分を一気に投入だ。
 枡を使っていれば、本来の二〇倍である。
 さらに、ネネイの撒き餌用の木箱も、オールイン!
 大量の撒き餌が、ヘドロのように浮いている。
 ネネイは「おおーなの!」と大興奮。

「もう一度釣り糸を垂らすぞ!」
「はいなの!」

 俺達は再び撒き餌に向かって糸を垂らす。
 この必殺奥義は、見事に奏功した。

「見ろネネイ、イカさんだ!」
「本当なの! イカさんなの!」

 垂らし始めてから一分足らずで、イカが食いついたのだ。
 大量のイカが水面までやってきて、餌を頬張っている。
 その数は、一〇……二〇……三〇を超えていた。
 まさに入れ食い状態だ!

「パクパクしているイカさんの口を狙うんだ!」
「分かったなの!」

 二人して、釣り竿を調整する。
 イカの口に針がかかるよう、上げたり下げたりを繰り返す。
 少しして、俺の針がイカの口に引っかかった。

「そいや!」

 手首をクイッとさせ、軽く釣り上げる。
 触腕に気を付けながら、針を外してバケツに入れた。
 これでまずは一匹。

「おとーさん、すごいなの!」
「ネネイもすぐにヒットするよ」
「頑張るなの、あっ、かかったなの!」

 言った傍から、ネネイにもイカがヒットした。
 ネネイは両手で竿を握り、必死に釣り上げようとする。
 しかし、なかなか上がらない。
 俺にとっては軽いイカも、ネネイには重いようだ。

「手伝うぞ、ネネイ」
「ありがとーなの、おとーさん」

 ネネイの後ろから、包み込むように竿を握った。
 竿を持つ手に力を込め、少しずつ上げていく。

「三つカウントしたら一気に上げるぞ!」
「はいなの!」
「いくぞー、三・二・一」
「えいなのっ」

 釣り竿を豪快に引き上げた。
 針にかかったイカが、俺達の頭上を舞う。

「やったぁ! イカさんが釣れたなのー!」
「凄いじゃないか、よくやったぞネネイ!」

 俺は、ネネイから竿を受け取った。
 両手がフリーになったネネイは、イカの口から針を外そうとする。

「触腕に気を付けろよー、張り付かれると痛いからな」
「分かったなの」

 ネネイの釣ったイカは、えらく元気が良かった。
 巧みに触腕を動かし、ひたすらに抵抗したのだ。
 それでも、最終的にはネネイが勝利した。
 触腕を避け、針を外したのだ。

「わーいなの!」
「あとはそれをバケツに入れたら完了だ」

 ネネイが満面な笑みで「はいなの♪」と言う。
 その時――イカが墨を吐きやがった!
 墨は回避を許さぬスピードで舞い、ネネイを捉えた。
 顔から服にかけて、墨によって真っ黒になる。
 綺麗な白のワンピースがオジャンだ。

「わわわなの!」

 突然の墨に驚き、ネネイはイカを上に放り投げた。
 俺は咄嗟に掴んだバケツで、イカをキャッチする。

「ネネイ、大丈夫か?」

 全身を真っ黒に染めたネネイを見る。
 ネネイの表情は、驚きのあまり無になっていた。
 怒っているのか、悲しんでいるのか、まるで分からない。
 数秒後、ネネイの表情に変化があった。

「黒くなっちゃったけど、イカさんを釣ったなの!」

 白い歯を見せ、ネネイはニィっと笑った。
 怒りでも悲しみでもなく、喜んでいたのだ。

 ネネイは、自分の釣ったイカが入っているバケツを両手で持った。
 顔を近づけ、「ネネイが釣ったなの♪」と微笑む。
 返事とばかりに、イカは再び墨を吐いた。
 ただでさえ黒く染まっているネネイが、余計に黒くなる。

 それでも、ネネイは嬉しそうに笑っていた。

 ◇

 日が暮れたので、イカ釣りを終えて帰路に就く。
 結局、俺達は計二〇匹のイカを釣り上げた。
 その内、持ち帰ったのは二匹。
 残りは海に帰した。
 そして、選ばれた二匹は――。

「自分で釣ると格別だな」
「美味しいなのぉ♪」

 めでたく串焼きとなった。
 ネネイに墨をぶっかけた奴も含まれている。
 真っ黒だったネネイだが、今では上から下まで綺麗になった。
 髪や顔は綺麗に洗い流し、服は新しいのに着替えたからだ。
 これまでと変わらない、綺麗な白のワンピース。

「今日もよく楽しんだな!」
「おとーさん、ネネイの為にありがとーなの」
「はっはっは、こちらこそありがとう」
「はいなのっ」

 家に到着する。
 扉を開け、サッと中へ入った。
 すぐさま階段を上がり、三階へ目指す。
 いつものように、二階はスルー……と、思いきや。

「な、なんだこりゃ!?」
「あ、ユート君! ネネイちゃん! おかえり!」
「キェェェェ!」

 二階には、アンズとゴブちゃんが居た。
 それに再結成されたゴブリンズも三〇体。
 前回と違い、ゴブちゃんを抜きにしての三〇体だ。
 しかし、衝撃だったのは、そこにアンズ達がいたことではない。

「えっへん! コーディネートしてみました!」

 アンズがドヤッと胸を張る。
 そう、全てのゴブリンが服を着ていたのだ!
 ゴブちゃんは、胸元に黒で『ゴブ』と書かれた白の子供服を着ている。
 下は紺色のサルエルパンツ。深くてダボダボの股下が特徴のズボンだ。
 ゴブリンズも同じ服装だが、色が違う。
 白で『ゴブ』と書かれた黒の子供服に、桃色のサルエルだ。

「そのゴブって文字の服は何なんだ」
「分からないけど、服屋で売っていたの! いい感じでしょ!」
「まさにゴブリンの為に作られたような服だな……」
「私もそう思った! だから全部買っちゃった!」

 アンズが嬉しそうに笑う。
 ネネイも「可愛いなの!」とにこやかだ。
 たしかに、悪くはない。
 ゴブリンの背丈は約一メートル。
 子供服がちょうど似合う大きさだ。

「街で過ごすわけだから、可愛らしくした方が街の人も馴染めるはず!」

 納得できなくもない理由を述べ、アンズがグイッと親指を立てる。
 その後ろで、ゴブちゃんとゴブリンズも同じポーズをとった。
 計三十二人が親指をグイッとしているのは、なんだか壮観だ。

「まぁ、いいんじゃないかな」
「でしょ! 新生ゴブリンズをよろしくぅ!」
「「「キェェェェェェ!」」」
「よろしくお願いしますなのー♪」

 かくして、可愛らしいゴブリン一味が仲間に加わった。
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